私わたしは、神奈川県の鎌かま倉くら市しにある長谷寺で、仏ほとけ様さまとみなさんの心をつなぐ僧そう侶りょとして働いています。長谷寺には、私わたしたちが今生きている現世（げんぜ）のご利り益やくを考えてくださる十じゅう一いち面めん観かん世ぜ音おん菩ぼ薩さつ（観音様）を中心に、阿あ弥み陀だ如にょ来らい、地じ蔵ぞう菩ぼ薩さつ、大だい黒こく天てん、弁べん才ざい天てんなどが祭られています。お寺に在ざい籍せきする僧そう侶りょは十数人おり、1日に4～5人の僧そう侶りょが勤きん務むしています。
お寺では、観音様の心を伝えるために法話（仏ぶっ教きょうの教えに基もとづいた話）をしたり、仏ぶっ教きょうの行事に取り組んだり、境けい内だいを案内したり、お守りのご利り益やくを説明したりします。家内安全や開運招しょう福ふくのための祈き願がん、各家の先せん祖ぞ供く養ようや、お地じ蔵ぞう様さまを建て水みず子こ（生まれ出ることができなかった幼おさない命）の供く養ようも行います。葬そう式しきなど法事の連れん絡らくを受けると、檀だん家か（寺にお墓はかのある家）のもとに出向いて亡なくなった方を弔とむらいます。
長谷寺は、40種類2500株かぶのアジサイや紅こう葉よう、鎌かま倉くらの海や街まち並なみが一望できる眺ちょう望ぼうで知られており、インバウンド（訪ほう日にち外国人観光客）のみなさんの対たい応おうにも力を入れています。現げん在ざい、外国人向けの旅行サイトで「鎌かま倉くらNo.1の名所」として紹しょう介かいされていることもあり、長谷寺を訪おとずれる外国の方が増ぞう加かしました。そのため境けい内だいを訪おとずれる外国の方に、英語で話しかけたり、ときには翻ほん訳やく機きを活用したりして、観音様やお守りなどの説明をすることもあります。
夜の特別拝はい観かんなどの行事にも力を入れており、鎌かま倉くら市しによる働きかけで、インバウンド客を意い識しきした夜の行事（ナイトテーブル）を期間限げん定ていで実じっ施ししています。ライトアップされた夜の境けい内だいや観かん音のん堂どうでのライブコンサート、鎌かま倉くらにあるイタリアンの名店の食事を特別に楽しむことができるイベントです。

朝は7時ごろに出しゅっ勤きんし、作さ務む衣え（寺での作業服）に着き替かえてから、境けい内だいの掃そう除じを始めます。午前8時の開門と同時にラジオの時じ報ほうに合わせ当番の僧そう侶りょが鐘かねをつきます。朝のお勤つとめ（朝ちょう課か勤ごん行ぎょう）の当番のときは、観音様の前でお経きょう（観かん音のん経きょう）を読み上げます。また大だい黒こく様さまの前でお経きょう（大だい黒こく天てん経きょう）を読むこともあります。その後、私わたしはお守り頒はん布ぷ所じょ（売場）に入ることが多く、お守りのご利り益やくや、観音様とお地じ蔵ぞう様さまのお守りの違ちがいなどを、お客さまに日本語や英語で説明します。水子供く養ようをしたいという方や、祈き願がんを希望する方の受け付けをすることもあります。
お寺には毎月、仏ぶっ教きょう行事があります。観音様の縁えん日にちである毎月18日には観かん音のん会え、先せん祖ぞなどを供く養ようする年２回の彼ひ岸がん会え、節分には豆まき、などたくさんの行事があります。そうした行事の準じゅん備びや実行、片かた付づけなどをすることも、私わたしたち僧そう侶りょの仕事です。
訪おとずれた外国の方に「Have a lovely day!（すてきな一日を！）」と英語で声をかけたり、境けい内だいを案内したりする機会も数多くあります。長谷寺は水子の供く養ようの寺としても知られており、地じ蔵ぞう堂どうには多くの水子地じ蔵ぞうが並ならんでいます。水子地じ蔵ぞうを建て弔とむらうという概がい念ねんのない外国の方に、自分の知っている簡かん単たんな英語を組み合わせて水子の考え方を説明することもあります。
普ふ段だんは17時、繁はん忙ぼう期きは17時半に帰りますが、残業がある日もあり、特別な仏ぶっ教きょう行事を行うときなどには午前3時ごろに出しゅっ仕しすることもあります。大みそか、元がん旦たんは多た忙ぼうで、除じょ夜や会えに続き、年が明けるとその年の国家安あん寧ねい、五ご穀こく豊ほう穣じょう、みなさんの除じょ災さい招しょう福ふくなどを願う修しゅ正しょう会え、約6000基きのロウソクに火を灯ともす万まん灯とう祈き願がん会えを行い、初日の出に合わせ鐘かねをつきます。

長谷寺を訪おとずれる外国の方々に積極的に英語で話しかけて、もっと私わたしらしくお役に立ちたいと考えています。しかし語ご彙い力が足りず、自分に表ひょう現げんできる幅はばが少ないことを、いつももどかしく感じます。普ふ段だんから私わたしはYouTubeなどを参考に、仕事で使えそうな英語表ひょう現げんをピックアップする努力を重ねています。使いたい表ひょう現げんをまとめて一いち覧らん表ひょうにし、携たずさえているのですが、使うべきときにとっさに自分の口から出てこないことがあり、そのときは自分にがっかりします。さまざまな英語表ひょう現げんを身につけて活用するのは難むずかしいと実感する瞬しゅん間かんです。
このような私わたしでも、外国の方が困こまっているときに、周りのスタッフから呼よばれることがあります。私わたしは多少なりとも外国の方の対たい応おうに慣なれており、相手が話す言葉ではなく、その表ひょう情じょうや身み振ぶり手て振ぶりから困こまりごとを認にん識しきすることが得とく意いです。しかし英語のリスニング力が足りず、何度話してもらっても内ない容ようを聞き取れないこともあります。そして困こまりごとに対して、英語を使いながら私わたしなりの解かい決けつ方法を提てい案あんしていますが、自分の伝えたいことが本当に正せい確かくに伝わっているのかがわかりません。その点でも歯がゆさを感じています。

観音様がみなさんを守ってくださっていることをお伝えできることや、僧そう侶りょとしてお伝えしたことをみなさんが本当にわかってくれたときの喜よろこびは格かく別べつです。
以前、信者さんとの会話の中で、信者さんのお母さんが認にん知ち症しょうを患わずらっており、日にち常じょう生活が大変であるという話を耳にしました。基き本ほん的てきには家の中で過すごしているという話だったので、危き険けんではない程てい度どに脳のうへ刺し激げきを与あたえるために、すでに見知っている自じ宅たくの庭に出てみたり、指先を使う訓練として折り紙を折ったりして過すごすのはいかがですか、という話をしました。「新しい刺し激げきは、きっとプラスになると思いますよ、けがはしないように気をつけてくださいね」と伝えたところ、いい効こう果かがあったようです。後日、その信者さんは涙なみだを流すほど感かん激げきしてお寺に来てくださって、お役に立ててよかったと心から思いました。お寺にはよく電話を通して、悩なやみごとのような問い合わせもきます。私わたしは相手との会話の中で、相手が困こまっていることを感じ取り、相手とは違ちがった視し点てんや発想で課題を解かい決けつするような思考が得とく意いだと思っています。少しでも人の助けになりたいので、電話の対たい応おうに困こまったときは私わたしに回してほしい、と周りの人に伝えています。

僧そう侶りょとして、仏ぶっ教きょうの精せい神しんでもある「自じ利り利り他た」と、「世のため、人のため、地球のため」を大切にしています。
「自利利他」とは、“自分を成せい熟じゅくさせ自ら幸せになるとともに他者を幸せにする”ことだと、私わたしなりに解かい釈しゃくしています。この精せい神しんは、信心深かった祖そ母ぼの影えい響きょうもあり、子ども時代から私わたしの心や行動の中心に一いっ貫かんして存そん在ざいしています。お守り頒はん布ぷの場（売場）で、お守りを買い求める外国の方にお守りの意味を英えい訳やくした紙を渡わたし始はじめたのも、「日本に来たご縁えんでお守りを求めた人に、より幸せになってもらいたい、ご利り益やくを理り解かいしたうえで大切にしてほしい」という気持ちからでした。
また、自分が法話をするときは「伝わらないと意味がない」というくらいの思いで、できるだけ平へい易いな言葉を使い、わかりやすく話します。また聞く人の年ねん齢れい層そうに合わせて興きょう味みを引く時事問題などを取り入れたり、みなさんの反はん応のう次し第だいで内ない容ようを変えたりすることもあります。そのように工く夫ふうすることで、仏ほとけ様さまとの距きょ離りも近づき、みなさんに他ひ人と事ごとではなく、自分のこととして伝わるように感じています。

学生時代から、物事をうまく伝えることが自分の得とく意い分野だと実感していたため、大学卒業後は、テレビ局で報ほう道どう番組を制せい作さくする仕事に就つきました。事じ件けんや事じ故こ、災さい害がいが起きると、発生直後に現げん場ばに向かい、亡なくなった方もいるだろうという場所に災さい害がい派は遣けんの自じ衛えい隊たいとともに入ることもありました。人の生死を間近で見るような仕事を数多くしてきたのです。
報ほう道どうの仕事を辞やめて東京から鎌かま倉くらに引ひっ越こしてきた後、人づてに長谷寺の広こう報ほう職しょくを紹しょう介かいされました。神様や仏ほとけ様さまに多くの祈いのりを捧ささげてきた助じょ産さん師しの祖そ母ぼの影えい響きょうを受けて、私わたしにはすでに信しん仰こうの道への下地が形成されていました。このお話が舞まい込こんだとき、観音様のご縁えんとお慈じ悲ひ（仏ほとけ様さまが人々の苦しみを取とり除のぞき、楽しみを与あたえる）をいただけるよい話であると感じ、お寺への転てん職しょくをかなえることができました。
報ほう道どうの仕事では、テレビを通して世の出来事を伝えてきましたが、お寺では、観音様のお言葉を相手に直ちょく接せつ伝えられて、その反はん応のうをダイレクトに聞くことができます。その直ちょく接せつの手ごたえこそ自分の欲ほっしているものだとも思いました。お寺で働くうちに“勉強して僧そう侶りょになったら、お伝えできることの幅はばが広がる”と感じたので、お寺の最高責せき任にん者しゃである住じゅう職しょくに申し出て、働きながら2年間修しゅ行ぎょうしました。座ざ学がくやお経きょうを唱える練習、24時間念ねん仏ぶつ（阿あ弥み陀だ如にょ来らいの前で、24時間念ねん仏ぶつを唱え続ける修しゅ行ぎょう）などの機会を経へて、得とく度ど受じゅ戒かい（出家して僧そうとなること）しました。

小学生のころは、いろいろなことに興きょう味みを持ち、物知りだったためか、“美み坂さか先生”と呼よばれていました。私わたしはグループのリーダー的な立ち位置で、遠くから友達が私わたしの家に自転車で集まって、缶かん蹴けりや馬乗り、ドッジボールなどを楽しんでいました。中学・高校時代は、海外の短波放送を夜中に聞くことや、アマチュア無線に夢む中ちゅうになり、高校ではバイクを乗り回すことに熱中しました。しかし大学生のとき、バイクの運転中に交通事じ故こにあって、命拾いをしたのです。もともとは考えてばかりで実行力が足りない性せい格かくだったのですが、事じ故こ後は命の大切さを実感するようになり、前向きな気持ちでいろいろなことに挑ちょう戦せんするようになりました。
現げん在ざい、僧そう侶りょとして観音様にお仕えしているのは、高校生時代までを一いっ緒しょに暮くらした祖そ母ぼの影えい響きょうが大きいと感じています。私わたしの地元で生まれた子どもは、みな助じょ産さん師しである祖そ母ぼに取り上げられたといっても過か言ごんではないほど、祖そ母ぼは有名でした。当時住んでいた自じ宅たくには産院が併へい設せつされており、祖そ母ぼは朝から晩ばんまで出産に立ち合う合間をぬって、毎日、神様や仏ほとけ様さまに手を合わせていました。その姿すがたを見ているうちに、自分も自然と神しん仏ぶつに手を合わせるような人間に成長しました。

一人一人、自分の得とく意いとすることが必ずあると思います。いろいろなことに挑ちょう戦せんして、その中で自分の強みを見つけて意い識しきし、どんどん伸のばす努力をしてもらいたいです。その努力は、人生において必ずプラスになります。自分の強みを生かして、人に何かをやってあげられることが自信になるし、みんなといるときの自分の役やく割わりを、おのずと認にん識しきしていけます。私わたしの場合は、小学校、中学校と放送委員会に入り、給食の時間に流行の音楽や情じょう報ほうを流すことを通じて、人にものを伝える力を自然と伸のばしていきました。
自分の強みは、人に負けないくらいの強みでなくても構かまいません。人はスーパーマンになる必要はなく、一から十まで全部できなくてもよいと思います。
でも、自分の強みを自覚することは大切です。若わかい人はみんな可か能のう性せいの宝ほう庫こです。今はさまざまな人にお世話になりながら、どんなことにも挑ちょう戦せんしてみてください。大人になったら、両親や、自分がお世話になった人や社会に対して、自分の強みを生かした恩おん返がえしができるような人になってくださいね。