広告コミュニケーションの仕事で，TVのCM，グラフィック広告，Webサイトなどを制作（せいさく）するために，必要なメンバーをまとめてチームを作り，全体をディレクションします。僕（ぼく）はそこに建築（けんちく）的な要素（ようそ）を入れ，屋外でのイベントなど，街の中での人の動きや流れをつくる企画（きかく）を考え，どんなメディアに乗せてどうPRしていくかという所までやるんですよ。一般（いっぱん）のクリエーティブディレクターよりは，仕事の幅（はば）が広いです。世の中に広めるためには，あるときはTVのCMを使い，あるときはイベントや映画（えいが）を作り，ときにはロケットを飛ばすという企画（きかく）まで，依頼人（いらいにん）の条件（じょうけん）に合わせて一番効果（こうか）的な提案（ていあん）をするんです。広告のディレクターというよりは，ソリューションのディレクターと最近は言っています。ソリューションとは，解決（かいけつ）してあげるっていう意味です。

まず，依頼人（いらいにん）から，決まった費用の中でブランドイメージの向上や，商品を売る方法について依頼（いらい）を受けます。そこで社内外から，コピーライターやアートディレクター，デジタルプランナーなどを集め，プロジェクトチームを作ります。みんなで，映像（えいぞう）やコピー，イベントや映画（えいが）など，企画（きかく）のアイデアを徹底（てってい）的に出し合い，取りまとめて依頼人（いらいにん）にプレゼンテーションします。OKが出たら，僕（ぼく）らは“エグゼキューション”と言うんですけど，今までの企画（きかく）部隊は，実行部隊に変わり，その案を実際（じっさい）に作って，世の中へ広めるように一斉（いっせい）に動き出します。依頼人（いらいにん）の話を受けてから，プレゼンテーションまでに3週間，そこから映像（えいぞう）で2ヶ月，イベントでも2ヶ月ぐらいで一気に仕上げるものから，何年も掛（か）かるプロジェクトもあります。ルナ・ドリームプロジェクトもその一つですね。
会社には朝10時ぐらいに来て，打合せや企画（きかく）のアイデアを考えます。プレゼンも大事なので，その制作（せいさく）で夜中まで会社に残ることもあります。そしてエグゼキュージョンが始まると，ずっと現場（げんば）で，映像（えいぞう）ならばロケ先，イベントならば会場にいます。社員は13名ほどで，色々（いろいろ）なプロジェクトが10個（こ）ほど，同時に進行しているんです。

依頼人（いらいにん）から受ける仕事には，クリアしなくてはならない条件（じょうけん）が沢山（たくさん）あります。例えば，やりたいことが予算に収（おさ）まらないとか，商品のある部分だけを宣伝（せんでん）してほしいといったことです。そのために，見せ方を工夫したり，新しい手法を取り入れたり，最初の計画と違（ちが）って我慢（がまん）しなければならない所もあるのです。それから，なんと言ってもプレッシャーですかね。時間が限（かぎ）られている中で，最良のものを世の中に出さなきゃいけない。良いアイデアがすぐにポンと出てくればいいんですけど，出てこないと焦（あせ）ってくるじゃないですか。うんうん唸（うな）ってアイデアを生み出す苦しみは，とても大変ですよ。

これだ！というアイデアを思いついたときは，すごく嬉（うれ）しいですね。行くぞと決めて，依頼人（いらいにん）に説明して，そのアイデアが世の中に出たときに，みんなはどんな反応（はんのう）をしてくれるんだろうって，ワクワクしながら制作（せいさく）していくんですよ。そして，いよいよ世の中に出たときに，多くの人から「あれ見たよ！」と言ってくれたり，イベントでお客さんが絶叫（ぜっきょう）して感動していたり，涙（なみだ）を流したりする姿（すがた）を見た瞬間（しゅんかん）は，やって良かったという達成感で溢（あふ）れます。言葉では言い表せないくらい，その瞬間（しゅんかん）が最高ですね。

この仕事で大事なのは，好奇心（こうきしん）じゃないですかね。何にでも興味（きょうみ）を持っていた方が良いです。広告業界だから広告だけを見るわけではなく，いろいろな分野（ぶんや）へアンテナを広げて興味（きょうみ）を持ち，かじってみるということは必要だと思います。後は粘（ねば）り強（づよ）さですよね。僕（ぼく）もそうですが，好奇心（こうきしん）は飽（あ）きっぽさと紙一重というところがあって，いろいろと目移（めうつ）りして「もうこれはいいや」と思うこともあるんです。でも，これで行くぞと決めたときには，執念（しゅうねん）にも似た，ものすごい勢（いきお）いで突（つ）き進みます。そこは何があっても諦（あきら）めません。その両方を持っていることが大事ですね。

大学時代にデザイン事務（じむ）所のアルバイトで，建物やインテリアを使った広告の世界を知りました。建築（けんちく）では，大きな会社に入ると，一棟（ひとむね）を任（まか）してもらえるまでに10年，そして建物自体ができ上がるまでに，さらに数年かかります。その場合，自分が死ぬまでに，いくつの仕事に携（たずさ）わることができるかなと思ったんです。それに比（くら）べて広告は，2ヶ月に1つ，１年間に10や20も制作（せいさく）できますから，世の中に沢山（たくさん）出して，多くの人に見てもらう方が楽しいだろうなと思い，広告会社へ入社し，マスコミの制作（せいさく）で，コピーライターを10年ほどやりました。そして，その間に専門（せんもん）学校へ通い，一級建築士（けんちくし）の資格（しかく）を取得して，紙のCMよりも街の人の反応（はんのう）をダイレクトに感じたいと考えるようになり，屋外イベントやプロモーションを手掛（が）けるようになりました。そのような時期を10年ほど続け，3年前に独立（どくりつ）し，小数精鋭（せいえい）の会社を率（ひき）いるようになりました。

小学生のときは，本を読むのが好きでしたね。あとは，とにかく絵を描（か）いていました。友達と空き地で遊んでいましたが，家では絵を描（か）いていましたね。父がコピー用紙を山のように持って来てくれて，それにたくさん描（か）いていました。中学生ではバスケットボール部を真面目にやって，結構（けっこう）きつかったです。高校時代はバスケを辞めてしまいましたが，建築学科の大学受験にはデッサンがあったので，また絵を描（か）きはじめました。放課後に美術（びじゅつ）の先生の指導（しどう）を受けていたことは，今でもはっきりと覚えています。

子どものころにやっていて良かったなと思うのは，１日に何十枚（まい）も絵を描（か）いていたことです。自分の考えていることを即座（そくざ）に描（か）いて目で見ていたことは，今の仕事にもつながっています。建築（けんちく）のデザインをするときに，頭の中でイメージして，こういう風に見えるから，ここに窓（まど）があったら素敵（すてき）な眺（なが）めになるだろうな，と頭の中で想像（そうぞう）を広げたり，それを定着させたりすることもできます。自分の考えをまとめるときや，チームをまとめるときに，絵を描（か）くことがとても役に立っています。
それから，英語が得意ではないのに，一人で沢山（たくさん）の国々を旅したことは大きな経験（けいけん）でした。仕事でも一人で頑張（がんば）って，打開（だかい）しなきゃいけないときもあるんです。旅が自分を鍛（きた）えてくれましたから，いい経験（けいけん）ができたと思います。だから，皆（みな）さんも何か好きな事を見つけてください。音楽やアニメ，写真やサッカーだっていいです。大人になったら何の役に立つだろうなんて思わずに，今好きな事に打（う）ち込んでください。それがつながって，きっと将来（しょうらい）の仕事に結びつくかもしれません。そういう仕事ができる人は，幸せな人だろうなと思います。