私わたしはソースの製せい造ぞうと販はん売ばいを行う「トキハソース株かぶ式しき会社」で働いています。東とう京きょう都と北きた区く滝たき野の川がわに本社と工場があり，創そう業ぎょうは大正12年，東とう京きょうで一番古いソースメーカーです。トキハソースでは，揚あげ物ものにかけるソースや焼きそばソースなどを自社工場で製せい造ぞうしており，中でも生野菜を酵こう素そで分ぶん解かいし，熱を加えずに作る「生ソース」は大人気商品です。商品は百貨店やスーパーなどで取とり扱あつかっていただいたり，自社で運うん営えいするオンラインショップで一いっ般ぱんの方向けに販はん売ばいしたりしています。
私わたしは本社の「品ひん質しつ管理部1課」に所しょ属ぞくしています。工場はもうひとつ，埼さい玉たま県けん志し木き市しにもあり，そこには「品ひん質しつ管理部2課」があります。会社の社員数は26名で，品ひん質しつ管理部のメンバーはそのうち1課に2名，2課に2名の計4名です。
品ひん質しつ管理部の主な仕事は，理化学検けん査さと微び生せい物ぶつ検けん査さです。簡かん単たんに言うと「ソースの品ひん質しつを検けん査さする仕事」です。できあがったソースの成分に何か問題はないか，悪い微び生せい物ぶつが発生していないかといったことを調べ，そのソースを出しゅっ荷かしてもよいかどうかを判はん断だんします。
また，取り引き先の企き業ぎょうさまに提てい出しゅつする「規き格かく書しょ」の作成も重要な仕事です。これは，企き業ぎょうさまに安心して商品を取とり扱あつかっていただくために，商品の成分数すう値ちや製せい造ぞう工こう程てい，検けん査さ体たい制せいなどの情じょう報ほうをとりまとめた資し料りょうです。新しん規きの取り引きに関する問い合わせをいただいたときに「規き格かく書しょ」を提てい出しゅつしたり，既すでにお付き合いのある企き業ぎょうさまにも，食関連の法ほう律りつの改かい訂ていに合わせて規き格かく書しょの内ない容ようを更こう新しんし，再さい提てい出しゅつしたりします。
近年は，食の安あん全ぜん性せいへの関心が高まっています。トキハソースでも安全・安心な商品を提てい供きょうするために，食品の安全を守るための国こく際さい規き格かくである「ISO22000」を2018年に取しゅ得とくしました。品ひん質しつ管理部では，ISO22000の基き準じゅんに従したがって作られた，社内の“ルールブック”にのっとって，各部署でルールが守られているかどうか，定期的なチェックも行っています。工場の現げん場ばから，「こうしたほうがいい」というような声があったら，そうした意見もどんどん取り入れて，ルール自体の見直しも行います。

理化学検けん査さでは，ソースの糖とう度ど，塩分濃のう度ど，酸さん度ど, 比ひ重じゅう，粘ねん性せいのほか，アルカリ性せいや酸さん性せいを表すpHの値あたいなどを調べます。糖とう度ど計などの専せん用ようの測そく定てい器きを使う検けん査さもありますが，みなさんが理科の実験で使うような，ビーカーやメスシリンダーなどの道具を使って行う検けん査さもあります。
製せい造ぞう部ぶでソースができあがると，品ひん質しつ管理部に検けん査さ用ようのサンプルソースが届とどけられます。私わたしは，ソースと薬品を混まぜて色の変化を見たり，薬品をたらしたときに何なん滴てきで数すう値ちが変わったのかを見たりして，ソースが成分表通りの数すう値ちになっているかを確たしかめます。さらに官かん能のう検けん査さといって，実じっ際さいになめたときの味やにおいなどに問題がないかも確かく認にんします。また，微び生せい物ぶつ検けん査さも行い，ソースの微び生せい物ぶつの数をチェックします。これは，ソースの製せい造ぞう時や充じゅう填てん時に誤あやまった管理によって菌きんが繁はん殖しょくしていないかを確かく認にんする，重要な検けん査さとなります。そして，全ての検けん査さで問題がなければ「出しゅっ荷かOK」の判はん断だんをします。
私わたしの仕事は朝8時30分から始まります。会社全体のミーティングが終わったら，午前中は検けん査さを行うことが多いです。午後は検けん査さしたデータ結果をまとめたり，工場の現げん場ばで使用しているISO関連の書類を確かく認にんしたりと事じ務む的てきな作業を進めます。17時30分が定時なので，ほとんどの日はその時間に帰ります。しかし，検けん査さ数が多かったり，複ふく数すうの企き業ぎょうさまへの規き格かく書しょの提てい出しゅつ期き限げんが重なったりするときには，残業をすることもあります。

私わたしは以前，製せい造ぞう部ぶに所しょ属ぞくしていましたが，2019年に品ひん質しつ管理部に異い動どうになりました。それまでに理化学検けん査さの経けい験けんはありませんでしたが，大学で食品関連の勉強をしていたので，ある程てい度どの基き礎そ知ち識しきはありました。しかし，異い動どうしてからしばらくの間は，検けん査さを実じっ際さいに担たん当とうすることはなく，毎日，いくつものサンプルを使って練習を繰くり返かえし，上司に確かく認にんしてもらうという日々を送っていました。
トキハソースには，「生ソース」だけで濃のう厚こう・中ちゅう濃のう・ウスターの3種類の味があります。さらに「特選」という味わい深いウスターソースや，焼きそばソース，とんかつソースなどもあります。この種類の豊ほう富ふさが，検けん査さの初心者にとっては壁かべになります。ソースによって，見るべき色の変化や，正しい検けん査さ数すう値ちがそれぞれ異ことなるからです。練習期間は，上司に結果を提てい出しゅつするものの，「薬品を入れすぎている」「色の変化をきちんと見られていない」などと指し摘てきをもらい，何度も何度もやり直しをする日々でした。

品ひん質しつ管理部に異い動どうになってから2か月が経たったある日，ようやく連続で正しい結果に近い数すう値ちを出すことができました。そして，上司に「次回から本番の検けん査さをしても大だい丈じょう夫ぶだね」と言ってもらえ，ついに検けん査さを担たん当とうすることになりました。晴れて「本番の検けん査さをしていい」と決まったときは，うれしい気持ちでいっぱいでした。しかし,「商品の出しゅっ荷かが自分の判はん断だんによって決まる」という責せき任にんがあると考えたとき,うれしさとは反対に緊きん張ちょうや不安がこみ上げてきたのを今でも覚えています。
現げん在ざいは，検けん査さを担たん当とうするようになって1年以上が経たち，経けい験けんも積んできたので，自分の検けん査さ技ぎ術じゅつに自信をもてるようになりました。ソースごとに違ちがう色の変化がはっきりと見えたときや，検けん査さ数すう値ちがしっかり出たときは，妙みょうに気持ちがいいんですよね。しかし，慣なれてきたからといって気をゆるめてはいけません。商品の成分数すう値ちについて検けん査さごとにブレがあると，品ひん質しつにバラつきが出て，お客さまからの信用をなくしてしまいます。私わたしは検けん査さの感覚を保たもつために，サンプルのソースを使って，練習をするようにしています。常つねに緊きん張ちょうをともなう仕事ですが，それだけに責せき任にんとやりがいを感じられる仕事です。

仕事をするうえで，自分の意見をもち，それを他の社員にしっかり伝えることを大切にしています。人数が少ない会社なので，みんなで意見を交かわしながら会社を成長させていく必要があると考えているからです。以前，上司が作成した書類に気になる点があり，「こうしたほうがいいのではないでしょうか」と，自分なりの意見を伝えたことがありました。また，ファイルの管理の仕方に効こう率りつの悪さを感じたときに，改かい善ぜん方法を提てい案あんしたこともありました。提てい案あんが認みとめられて，実じっ際さいに「やってみていいよ」となったことも，何度もあります。
自分の意見が間ま違ちがっているかどうかは，あまり気にしません。「それは違ちがうよ」と指し摘てきされたらその意見を受け入れて，どこが間ま違ちがっているのかをよく考えて話を進めます。一方通行にならないように，常つねに意見交こう換かんをするように心がけています。
トキハソースには，上司も部下も関係なく発言しやすい雰ふん囲い気きがありますし，意見を受け入れてくれる土ど壌じょうもあります。とても働きやすい会社だと感じています。

私わたしは大学で食品について学びました。栄養学の研究室に所しょ属ぞくし，食に関するさまざまな知ち識しきを身につけました。ですから，働くにあたって食品業界を選んだのは自然な流れでした。
就しゅう職しょく活動中に初めてトキハソースを訪おとずれたときは，驚おどろきの連続でした。食品の製せい造ぞうのイメージは，工場に機械がたくさんあって，商品がベルトコンベアで流れていて，人は機械を管理するためにいるものだと思っていました。しかし，トキハソースでは，人の手だけでソースの原料をタンクに入れて，混まぜて，容よう器きに詰つめて……。そんな工こう程ていを見て「ここまで手作りをする会社があるんだ！」とびっくりしました。しかも，一いっ般ぱん向けの商品だけでなく，業ぎょう務む用ようのソースまでも作っています。それまでは大手の食品メーカーしか知らなかったのですが，「自分たちの食生活を支ささえている会社には，こういうところもあるんだ」「小さな会社でもこれだけの幅はば広ひろい商品展てん開かいをして，がんばっているんだ」と，深く感かん銘めいを受けました。
さらに，ソースの味にも驚おどろきました。自じ宅たくでは，大手企き業ぎょうの商品しか使ったことがなかったのですが，トキハソースのソースを初めて口にしたときは「まったく違ちがう！」と思いました。同じソースでもこんなにも違ちがうものかと，食に対する意い識しきが大きく変わった瞬しゅん間かんでした。このような経けい験けんから，「この会社で挑ちょう戦せんしてみたい」という気持ちが強くなりました。

子どものころは，野球少年でした。小学2年生から軟なん式しき野球を始めて，3年生くらいのときにはプロ野球選手になりたいと思っていました。当時，読よみ売うりジャイアンツにいた江え藤とう智あきら選手に憧あこがれていて，毎日，テレビの野球中ちゅう継けいに夢む中ちゅうになっていました。中学3年生のときにはキャプテンを務つとめました。みんなをまとめるのがとても大変で，辛つらいと思うこともたくさんありました。高校生のときは毎日遅おそくまで練習に励はげんでいました。実力のある子がいる中，がむしゃらに頑がん張ばりました。時には監かん督とくからの厳きびしい指し導どうもありました。このときの練習の辛つらさを考えると，仕事上で何か壁かべにぶつかったとしても，「あの日々を乗のり越こえたのだから，これくらいなら大だい丈じょう夫ぶ」と思えることが多いですね。精せい神しん的てきにとても鍛きたえられたと感じています。
それから，お笑い芸人さんが大好きな子どもでもありました。私わたしは人を笑わせることがあまり得とく意いなほうではなかったので，人に笑え顔がおを届とどけられるお笑い芸人さんはすごいなと尊そん敬けいしていました。今でも変わらず大好きでテレビやDVDを見たり，最近では芸人さんのエッセイ本や自じ叙じょ伝でんを読んだりしています。

みなさんには，いろいろなことに興きょう味みをもって，行動してほしいと思います。少しでも気になることが見つかったら，一歩，足を踏ふみ入いれてほしいのです。そうすると，楽しい，苦しい，悔くやしいなど，たくさんのことを感じるはずです。その瞬しゅん間かんでしか味わえないことも山ほどあると思います。そうした経けい験けんをした先に，本当にやりたいことが見つかるきっかけがあるかもしれません。たとえ途と中ちゅうで挫ざ折せつしてしまったとしても，それが知ち識しきとして残って，その後に役立つこともたくさんあると思います。
私わたしの場合も，野球を始めたり，お笑い芸人さんを好きになったりしたのは，小さな興きょう味みを抱いだいたことがきっかけでした。私わたしはプロ野球選手にはなれなかったのですが，そうした興きょう味みが将しょう来らいの仕事につながっていったり，自分に元気を与あたえてくれる趣しゅ味みになっていったりすると思います。何事に対しても「なにそれ？」と簡かん単たんに終わらせずに，「それってなに？」と考えることから始めてみてほしいですね。