私わたしは、「石いし川かわ金かな網あみ株かぶ式しき会がい社しゃ」という会社の代表取とり締しまり役やくを務つとめています。この会社は社名の通り、創そう業ぎょう以来ずっと金かな網あみの製せい造ぞうと販はん売ばいを行っている会社です。
みなさんは、「金かな網あみ」というとどんなものが思おもい浮うかぶでしょうか？実は、金かな網あみは、ありとあらゆる産業で使われています。例えば、台所に行けば、お餅もちや魚を焼く網あみや、茶こしやザルに使われています。建物を見ると、フェンスや鳥小屋などに使われていることが多いですね。
石川金かな網あみでは、時代とともに作るものは移うつり変かわり、例えば1970〜80年代には小こ型がたビデオカメラなどのマイク部分を包む「マイクネット」といわれるものや、ドライヤーの送風口に使われる網あみ、自動車に使う「オイルフィルター」などをたくさん作っていましたが、今、作っているものの約5〜６割わりは「プラスチック用押おし出だし機きのフィルター」です。
みなさんが普ふ段だん使用しているプラスチック製せい品ひんは、溶とかしたプラスチック原料を着色し、それを機械で押おし出だして作っています。また、ポリエステルなどの合成繊せん維いも、同じように原料を細く押おし出だすことで作られています。こういった作業を押おし出だし機きで行う際さい、溶とけた原料から不ふ純じゅん物ぶつや異い物ぶつを“濾こす”作業を行うのが、私わたしたちの作っているフィルターです。

プラスチック用押おし出だし機きのフィルターは、金かな網あみではありますがとても目が細かいものになり、一番、目が細かいものでは５ミクロンほどの大きさになります。１ミクロンが1ミリメートルの1/1000、髪かみの毛けの太さが約50〜100ミクロンと言えば、その大きさの想そう像ぞうがつくでしょうか。また、目が細かいだけではダメで、目の大きさが違ちがうものや、織おり方かたが違ちがう金かな網あみを何なん枚まいも重ねることで、いかに効こう率りつよく原料を綺き麗れいにできるか、そして目が詰つまらないで作業できるかということが変わってきます。お客さまの求める用よう途とや機械によりさまざまな方法があるので、お客さまの要望に合わせて試し行こう錯さく誤ごしながらフィルターを作っていきます。
プラスチック用押おし出だし機きは日本以外でも使われているため、お客さまにはいろいろな国の方がいらっしゃいます。中国やフィリピン、インドネシアなど、製せい造ぞう業ぎょうが盛さかんな東南アジアの方が多いです。
また、近年は、一度ペットボトルとして使われたものが原料としてリサイクルして使われることが多いのですが、その際さい、廃はい棄きされたペットボトルから不ふ純じゅん物ぶつをいかに取とり除のぞくかは、とても大事なポイントです。石川金かな網あみの作っているフィルターは、ペットボトルリサイクルの現げん場ばでも数多く活かつ躍やくしています。

私わたしたちの会社でも、時代に合わせて作る製せい品ひんが変化してきたわけですが、時代の流れを読んでニーズをくみ取り、対たい応おうしていくのは大変なことです。例えば「こういうものを作ってもらえないか」という依い頼らいが来たり、「これからはこういう技ぎ術じゅつや製せい品ひんが必要になるのではないか」と思って技ぎ術じゅつ開発に取り組んだりすることはよくありますが、それがすぐに完成するとは限かぎりません。何年もがんばって開発したものの、完成したときには時代の流れが変わっていて、もう必要とされない商品になってしまったり、適てき合ごうする機械のスペックが変わっていて使用できなかったり、といったこともありました。だからこそ、今後どういうものや技ぎ術じゅつが求められるのか、常つねに情じょう報ほうを得えて、日々考えていくことが大切だと思っています。
また、会社には、毎日さまざまな問い合わせが来ます。そういった問い合わせのほとんどが、「他の会社にも依い頼らいしたけれど難むずかしいと言われた。どうにかできないか」というものです。そういった依い頼らいが私わたしたちの技ぎ術じゅつで解かい決けつしたときはとてもうれしいですが、もちろん解かい決けつできないこともありますし、そういうときはとても悔くやしいです。それを防ふせぐためにもお互たがいに助け合える協力会社を増ふやし、なるべく解かい決けつできるように努力しています。

この仕事のやりがいは、何と言ってもお客さまに喜よろこばれることです。もちろん、褒ほめられるのは私わたしではなく当社の社員ではありますが、「石川金かな網あみさんのおかげで探さがしていたものが見つかった」「できなかったことができるようになった」といった、取引先の方々からの声を聞くのが一番うれしいですね。そういうことが積み重なっていくと、会社の売り上げが伸のび、利り益えきが増ふえ、社員のみなさんにも報ほう酬しゅうとして還かん元げんできます。そういう状じょう態たいを作ることができるのが、私わたし自身の喜よろこびです。
社員にはいつも、「相手の役に立ちたいなら、相手に喜よろこばれる人にならないとダメだよ」と伝えています。私わたしの思う「相手に喜よろこばれる人」というのは、「また会いたくなる人」です。「石川金かな網あみの商品を使ったらよかった、他の商品も使ってみたいな」「サービスもいいし営えい業ぎょうの人は一いっ生しょう懸けん命めいやってくれるし、納のう期きも守ってくれるし、これからも付き合っていきたいな」と思ってもらえるためにはどうしたらいいかを常つねに考えていれば、そのお客さまが望むことがわかってくると思います。このことを、私わたし自身も常つねに心がけています。

「お客さまの役に立ち、喜よろこんでもらえるような商品を作っていくこと」が会社の理念です。それを実じっ践せんできる会社にするためには、社長自らがこれに取り組んでいかなければいけないし、社員たちもお客さまに喜よろこんでもらえる存そん在ざいになってほしいです。だからこそ、よい製せい品ひんを作り、よいサービスを提てい供きょうするのはもちろんですが、加えて、私わたしは自分自身もできる範はん囲いで地ち域いき貢こう献けん活動などを行っていて、社員にも、そういった地ち域いきや社会のための活動、ボランティア活動などを意い識しきしてほしいと伝えています。そうした活動を通して「人の役に立つものとは何か」を考えられるようになれば、お客さまに役立つ商品への発想につながると思うからです。
こういったことを思うようになったのは、2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大だい震しん災さいで製せい造ぞう業ぎょうが大きく打だ撃げきを受けた経けい験けんからです。工場が止まれば機械も止まり、そうなると私わたしたちの作る製せい品ひんの需じゅ要ようもなくなります。もちろん、新しん製せい品ひんの開発も常つねに行ってはきましたが、それだけではダメだなと思いました。これまでのお客さまを大切にしながら、インターネットなどで私わたしたちを知って問い合わせてくれたお客さまをいかに喜よろこばせることができるか、それがこれから必要なことではないか、そう思ったからです。
2015年には“金かな網あみで折る折り紙”「おりあみ」を私わたしたちで開発、発売しました。これはたまたま、職しょく人にんが余あまった金かな網あみで折おり鶴づるなどを作っていたことから発想したものです。折り紙として使える金かな網あみというのはこれまでになく、多くの方に喜よろこんでいただけています。また石川金かな網あみの持つ「紙のように薄うすい金かな網あみを作る」技ぎ術じゅつを生かし、殺さっ菌きん効こう果かを持つ銅どうをフィルターとして入いれ込こんだマスクも開発しました。

石川金かな網あみの創そう業ぎょうは1922年で、私わたしで三代目になります。子どものころから会社や工場に親しんで育ち、私わたし自身もものづくりが好きだったことから、いつかは自分自身が会社を継つぐものだと思いながら育ちました。会社経けい営えいのために今後必要になるのではと思い、大学では法学部で経けい営えいに関する法ほう律りつなどを学び、卒業後は商社に就しゅう職しょくをしました。そこでは海外室という海外の貿ぼう易えきに関する部ぶ署しょに所しょ属ぞくすることになり、韓かん国こく、台たい湾わんなど海外との取引を担たん当とうしたのですが、かなりの激げき務むだったことと、１年ほどでそこの部ぶ署しょで学べることは大体学べたのではという実感もあり、退たい職しょくしました。その後、石川金かな網あみに改めて就しゅう職しょくし、父のもとで働いたあと、経けい営えいを引ひき継つぎました。もともと家業のことは把は握あくしていましたし、面おも白しろい仕事だなとは思っていたので、迷まよいはなかったです。
私わたし自身は法学部出身ですが、石川金かな網あみには、希望する部ぶ署しょに異い動どうできる制せい度どがあり、文ぶん系けい学部出身でも、未み経けい験けんでも製せい造ぞう部ぶに異い動どうすることや、製せい造ぞう部ぶから営えい業ぎょう部ぶに異い動どうすることなども可か能のうです。人間、どんなことが本当に向いているかわからないと思うので、いろいろと試ためしてもらって本当に合う仕事を見つけてもらえればと思い、こうしたシステムにしています。

子どものころから、何か「ものをつくる」のがとても好きでした。幼よう稚ち園えんのころから粘ねん土ど細工でたくさん遊んでいましたし、プラモデルを作るのも好きで、親はそういったことに関するおもちゃにはお金を惜おしまず、たくさん買ってくれました。それは今でも感かん謝しゃしています。忘わすれられないのは、中学校１年生のときにトランジスタラジオを作ったことでしょうか。電子工作が好きな友人に誘さそわれて秋あき葉は原ばらに行ったのですが、そこで自作ラジオのキットが販はん売ばいされていました。家には工具がたくさんありますし、試ためしに購こう入にゅうして作ってみたら、ちゃんと音が鳴り、聞けるラジオを作り上げることができたんです。それにはとても感動しましたし、ベッドの中で抱かかえて、毎まい晩ばん聞いていました。「ものをつくる」ことの喜よろこびは、その体験が原点になっているような気がします。

私わたしが社員たちによく話すことなのですが、どういう人が他人に喜よろこばれるか、役に立つか、ということを考えていくと、基き本ほん的てきには「熱意がある人」だと私わたしは思っています。パナソニックの創そう業ぎょう者しゃ・松まつ下した幸こう之の助すけは９歳さいで小学校を中ちゅう退たいし、丁でっ稚ち奉ぼう公こうからあの大会社をつくり上げましたが、彼かれはよく成功する条じょう件けんの第一に「熱意」を挙げていたそうです。私わたし自身もさまざまな若わか手て経けい営えい者しゃの話を聞きますが、やはり必要なのは学がく歴れきや環かん境きょう等ではなく、一番は「熱意」だと思っています。特に今は時代の流れもあり、会社もすぐに上場でき、熱意があれば成功できるような環かん境きょうになってきているように思います。
だからこそ、これを読んでいるみなさんは、熱意を持っていろいろなことに取り組んでください。もしも今つらい状じょう況きょうや、不本意な状じょう況きょうにあったとしても、熱意があれば状じょう況きょうを打開できると思います。人生に失敗はありません。でも中ちゅう途と半はん端ぱでは後こう悔かいが残る。そういった後こう悔かいを抱かかえないためにも、熱意を持ってください。