私わたしは、東京都荒あら川かわ区くにある「株かぶ式しき会がい社しゃPRESENTs（プレゼンツ）」という会社の社長を務つとめています。当社はお菓か子しの企き画かく、製せい造ぞう、販はん売ばいを行う会社で、「をかし楽らく市いち」というブランドを展てん開かいし、自分たちで考案し、作ったお菓か子しをお客さまにお届とどけするのがメインの事業です。社員は３名で、ほかにパートで働いている人たちもいます。現げん在ざい、自社のお菓か子し製せい造ぞう工場前にある店てん舗ぽのほか、JR日暮里にっぽり駅えき構こう内ないの店てん舗ぽでお菓か子しを販はん売ばいしています。また、百貨店のフェアやイベントへの出店なども行い、商品の知名度向上にも取り組んできました。
ただし、私わたしたちが一番成なし遂とげたいことは、単にお菓か子しを作って売ることだけではありません。お菓か子しを通じて、多くの人を幸せにできるような仕組みや仕し掛かけを創つくり出だすことが、私わたしたちの最終目的です。たとえば、メッセージ入りのパッケージや、メッセージカードが差さし込こめるようなパッケージなど、贈ぞう答とう用を意い識しきしたパッケージデザインにもこだわっています。お客さまがお菓か子しを通じて自分の気持ちを伝えられるような商品企き画かくを行っている点が、「をかし楽市」の特とく徴ちょうです。
お客さまにもその点は評ひょう価かいただいています。自分で食べるお菓か子しとしてはもちろん、年末年始の挨あい拶さつ時や、バレンタインデーやホワイトデー、会社での異い動どうの挨あい拶さつ時に渡わたすお菓か子しとして選んでいただけることが多くあります。これまで、いろいろな種類のメッセージ入りパッケージを作ってきたこともあり、お客さまがお菓か子しを添そえて自分の気持ちを伝えるタイミングがだんだんとわかってきたところです。これからもお菓か子し作りを通じて、お客さまが誰だれかに気持ちを伝える際さいのお手伝いができればいいなと思っています。

お菓か子しの製せい造ぞう・販はん売ばいにとどまらないお菓か子しブランドを目指すことになった私わたしですが、そこに至いたるまでにはいろいろなことがありました。
私わたしは最初、広こう告こく会社でグラフィックデザイナーとして働いていました。そこでは、誰だれもが知っているような大だい企き業ぎょうの商品を宣せん伝でんする広こう告こくやポスターを作るなど、いろいろな経けい験けんを積みました。デザインを仕事にすることが私わたしの夢ゆめでもあったので、もちろん楽しくやりがいもありましたが、次し第だいに一つの商品を宣せん伝でんするだけでなく、もっと企き業ぎょうに寄より添そって、一から企き業ぎょうや商品のイメージを作り上げる、ブランド作りのお手伝いがしたいと思うようになったんです。それで、広こう告こく会社を辞やめて、デザイナーとして独どく立りつすることに決めました。
会社を立ち上げた当初は、私わたし自身が食べたり飲んだりすることが好きだったので、飲食関係の企き業ぎょうのブランド作りに携たずさわりたいと思っていました。とはいえ、何も実じっ績せきがなければ仕事の依い頼らいも来ないだろうということで、まずは自分でサンプルとなるお菓か子しブランドを作って、「私わたしたちはこんなブランドが作れますよ」というアピールをすることにしたんです。ところが、実じっ際さいにゼロからブランドを作ってみると思ったよりも大変で、特に、一からブランドを立ち上げようとしているようなスタートアップ企き業ぎょう（＝今までにない新しいビジネスモデルを生み出し成長する企き業ぎょう）では、とても外の会社に仕事を依い頼らいする金きん銭せん的てきな余よ裕ゆうはないだろうなということがわかりました。つまり、スタートアップ企き業ぎょうのブランド作りをお手伝いするだけでは、仕事の依い頼らいがなく、会社を続けていくことは難むずかしいかもしれない。会社を続けるためには、何か新しいことを考えなければいけません。それなら、サンプルとして作ったブランドを自分たちで運うん営えいしていく方ほう針しんに切きり替かえようと思い、たどり着いたのが今の「をかし楽市」というお菓か子しのブランドなんです。

何の知ち識しきもないところからお菓か子しのブランドを立ち上げたので、最初のころはお菓か子しの作り方はもちろん、売るための知ち識しきなどを身につけるのに悪あく戦せん苦く闘とうの日々でした。当社のメイン商品は「あられ」なのですが、一いっ緒しょに会社を立ち上げた社員と2人でいろいろな味つけを試ためしながら「この味とこの味を組み合わせたらおいしいかも」と試し行こう錯さく誤ごを繰くり返かえしたことを今でも覚えています。お菓か子し作りも、当初は私わたししかできなかったのですが、今は一いっ緒しょにやってくれる従じゅう業ぎょう員いんも増ふえ、ときには私わたしが作ることもありますが、基き本ほん的てきには任まかせられるようになってきました。
小さい会社なので、社長といえども経けい営えいだけに集中するわけにはいきません。新しいお菓か子しの企き画かくや味の決定は、私わたしが担たん当とうしています。たとえば、当社のメイン商品は「あられ」だとお伝えしましたが、夏場の暑い時期にはもう少し冷たくさっぱりとしたお菓か子しが食べたくなりますよね。ブランドを運うん営えいしていくうえでは、夏場向けのラインナップがないことが弱い部分でもあったので、今年（2023年）は、水ようかんを取り入れることにしてみました。ただの水ようかんを売るだけではオリジナリティがなくなってしまうので、「をかし楽市」のブランドに当てはめるとどういう形になるんだろうと考えるところからスタートし、結果として、「水ようかんの上にあられをかけて食べる」形の商品を発売することができました。
そのほかに、商品パッケージのデザインや食材・資し材ざいの仕入れ先との連れん絡らく・調整、商品を販はん売ばいするウェブサイトの運うん営えい・注文対たい応おうも私わたし以外のスタッフと協力しながら担たん当とうしています。商品を販はん売ばいするウェブサイトはコロナ禍かを機に始めたところなので、まだまだわからないことばかりで、こうしたサイトの運うん営えいに役立つセミナーを受じゅ講こうし、勉強することも私わたしの仕事の一つです。また最近は、SNSの運うん営えいにも力を入れていて、商品のPR画が像ぞうを作成したり、店てん舗ぽ情じょう報ほうを発信したりと、プロモーション活動も行っています。さらに、給料の計算やスタッフの勤きん務む時間の確かく認にんといった経けい理り・労ろう務むの仕事から、社内の設せつ備びにトラブルがあったときに修しゅう理り対たい応おうをする総そう務むの仕事まで何役もこなしています。みなさんが想そう像ぞうするような大だい企き業ぎょうの社長とは、だいぶイメージが違ちがうかもしれませんね。

仕事をする中で難むずかしいと感じているのは、「正せい解かいがわからない」ということです。これは、もしかしたらどの仕事にも言えることかもしれません。今、自分が取り組んでいることが、本当にお客さまのためになっているのか、本当に自分が求めるものに100%つながっているのか、というのは常つねに悩なやんでいます。
社長という立場でいうと、自分がくじけてしまうと、会社がくじけてしまうところが一番大変です。もちろん私わたしも人間なので、落おち込こむこともあれば弱音を吐はくこともあります。ですが、本当の意味でのギブアップは絶ぜっ対たいにできない。その責せき任にんの重さは日々感じています。
一方で、自分で作ったお菓か子しを、お客さまが目の前で買ってくださる喜よろこびは何物にも代えがたいと感じています。「おいしかったから、また買いに来たよ」というお客さまの言葉を聞くと、すべての苦労も吹ふき飛とぶほどです。自分のやっていることが正せい解かいなのかわからないという話をしましたが、自分が悩なやみながら世に送り出したものをお客さまが受け入れてくれて、それを周りの人に勧すすめてくれて、どんどん伝わって、広がっていくのを見ると、自分は間ま違ちがっていなかったんだと安心するとともに、すごくありがたみを感じます。仕事によっては、実じっ際さいに商品を手にとってくれるお客さまの反はん応のうを見られない場合もあるかと思いますが、私わたしの場合は、お客さまと直ちょく接せつコミュニケーションができる仕事がしたかったこともありますし、自分が作ったものをそのまま直ちょく接せつお客さまが手に取ってくれるサービスを作り上げたかったので、その成果を実感できることが何よりのやりがいです。

私わたしが仕事をするうえで一番大切にしているのは、自分たちにしかできないことを常つねに考え続けることです。世の中にはたくさん成功している会社があって、そのやり方を参考にすれば、ある程てい度ど近道になるとは思います。ですが、まったく同じことをするだけでは、当然その会社以上の成功をすることはありませんよね。
自分一人だけで考えていても限げん界かいがあるので、なるべく誰だれかに話を聞いてもらうようにもしています。というのも、相手と対話していると、自分が考えている以上のことを引き出してもらえる気がするんです。また、結けっ構こういいアイデアを話していても、自分では気づけていないこともあります。そんなとき、自分以外の誰だれかに「今の話すごくいいね」と指し摘てきしてもらえると、そこから新たな商品企き画かくにつながることもあります。これは、一いっ緒しょに仕事をしてくれる仲間がいることの価か値ちの一つかなと思っています。
そして、自分たちにしかできないことを考え、創つくり出だすときに、果たして自分たちが楽しいのか、ということも意い識しきするようにしています。仕事は楽なことばかりではないので、やっぱり自分たちが楽しくないとどうしても続かないんです。ただし、自分たちの楽しさだけが先行してしまって、お客さまのことを置き去りにしてしまってもよくありません。お客さまにも楽しさを提てい供きょうできて、かつ自分たちも楽しいという、そのバランスをうまく保たもちながら取り組むようにしています。

私わたしは子どものころ、何かを一から考えて作り出すことが好きで、学校の授じゅ業ぎょうでも図工が一番好きでした。そんな大好きだった図工の授じゅ業ぎょうで、一つ記き憶おくに残っていることがあります。小学校2年生のころに写生会があり、学校の飼し育いく室しつにいるニワトリやウサギを描かく機会がありました。私わたしはウサギを描かくことに決め、白いウサギだったので、白い絵の具で描かき、結けっ構こううまく描かけたなと満足していたんです。そんな中、同じクラスだった女の子がチャボ（ニワトリの一種）を描かいていました。私わたしにはどうしても茶色にしか見えなかったのですが、その子はオレンジ色の絵の具を使って描かいていて、先生がそれを見たときに、「素す晴ばらしい」と褒ほめていたんです。その言葉を聞いて、私わたしも白い絵の具で描かいていたウサギの右半分をオレンジ色で塗ぬって先生に見せたら、まったく褒ほめてもらえませんでした。誰だれかの真ま似ねをしても成功しない、自分にしかできないことを考えないといけないということは、実はそのときに学んだのかもしれません。

会社を立ち上げてから10年が過すぎましたが、コロナ禍かで、世の中の状じょう況きょうがある日突とつ然ぜんひっくり返ってしまうことを経けい験けんしました。それでなくても、今はものすごいスピードで世の中が変わり続ける時代です。昨日までやっていたことをそのまま続けているだけではだめなのだということを身に染しみて実感しています。
今までの10年は、「をかし楽市」というブランドを作り、そこでお菓か子しを売ってきました。人を喜よろこばせたり、人の気持ちを伝えるお手伝いをしたりすることを目標に突つき進すすんできましたが、実じっ績せきもついてきて、自分たちの目指す方向は間ま違ちがっていなかったのだと認にん識しきすることができました。次の10年を考えると、日本人の人口は減げん少しょうしていく、つまりお菓か子しを買ってくださる日本人の数はどんどん減へっていってしまいます。そうなったときに、これからの新しい日本の形でもあると思いますが、外国の方をターゲットにした何か新しいことを考えていく必要があるのではないかと考えています。また、国内のお客さまに対しても、「お菓か子し作りを通して気持ちを伝えるお手伝いをする」からもう一歩進んで、お菓か子しを通して、お客さまに何か新しい体験をしてもらえるようなサービスを考え始めているところです。ですが、何年経たっても、お客さまと直ちょく接せつ触ふれ合あうという部分は変わらずにいきたいですね。

みなさんの中には、10年先、20年先を見み据すえて行動できる人もいらっしゃると思います。もし既すでに将しょう来らいやりたいことが決まっているのであれば、ぜひそのまま突つき進すすんでほしいと思っています。ですが、私わたしもそうだったように、将しょう来らい何になりたいのか、まだわからない人もいるはずです。それでも全然焦あせる必要はありません。
大人になった今、一つだけお伝えしたいのは、いろいろなものにアンテナを張はって、体験して、自分の中に蓄ちく積せきしておいてほしいということです。少しでも興きょう味みがあることは、とにかく広く見ておいてください。「この職しょく業ぎょうに就つきたいから、これは必要ない」と思わずに、その時点で身につけられる知ち恵えや技ぎ術じゅつは何でも吸きゅう収しゅうしておくといいと思います。今の時代、気になることがあれば調べられる手しゅ段だんが多くあるので、そういったものをフル活用して調べてみてほしいです。身につけて無む駄だだったと思ったことは一つもありません。いつかは、どの仕事に就つくのか、決けつ断だんを迫せまられるときがやってくると思います。そのときに、いろいろな経けい験けんを持っておくと、選せん択たく肢しや考え方の幅はばが広がるはずですよ。