私わたしは、神奈川県の綾あや瀬せ市し役やく所しょの職しょく員いんとして、「危き機き管理課」という部ぶ署しょで働いています。危き機き管理課の仕事は、さまざまな「危き機き事じ象しょう」から市民の生命や身体、財ざい産さんを守ることです。「危き機き事じ象しょう」には、地じ震しんや風水害といった自然災さい害がいやテロなどのほか、感かん染せん症しょうによる事じ態たいも含ふくまれます。そして、危き機き管理課には、大きく分けると「防ぼう災さい」「国民保ほ護ご」「防ぼう犯はん」という三つの仕事があります。
まず「防ぼう災さい」の仕事では、災さい害がいが起こっても市民が困こまらないように、いろいろな準じゅん備びをします。水や食べ物、毛もう布ふなど、必要なものを備び蓄ちくしたり、いざ災さい害がいが迫せまったら、多くの人に情じょう報ほうが伝わるように、防ぼう災さい無線やメールサービスなどを使って状じょう況きょうをお知らせしたりします。実じっ際さいに災さい害がいが起こったとき、避ひ難なん所じょを設せっ置ちするのも私わたしたちの仕事です。地じ震しんや大雨などの自然災さい害がいが起こったらどういう行動を取らなければいけないのか、普ふ段だんからどう備そなえておくべきか、など、小学校や中学校に行ってお話をすることもあります。また、2020年からは新しん型がたコロナウイルス感かん染せん症しょうへの対たい策さくも私わたしたちの仕事となっており、各学校や施し設せつの感かん染せん対たい策さくが適てき切せつか確かく認にんしたり、消しょう毒どく液えきを配はい布ふ・設せっ置ちしたりもしています。
次に「国民保ほ護ご」とは、武ぶ力りょく攻こう撃げきや大だい規き模ぼテロなどから市民を守るという仕事で、こちらもそういう事じ態たいが起こった場合の対たい処しょ法ほうを考え、準じゅん備びすることが普ふ段だんの仕事になります。
「防ぼう犯はん」は、市民に防ぼう犯はんに関する情じょう報ほうをお伝えするのが主な仕事です。近年は特とく殊しゅ詐さ欺ぎなどに関することをお伝えすることが多いですね。

私わたしは綾あや瀬せ市し役やく所しょが2021年の4月から導どう入にゅうした「コアタイムなしの完全フレックス制せい」を利用して勤きん務むしています。フレックス制せい度どとは、一定の期間についてあらかじめ定められた合計労働時間があり、その範はん囲い内ないであれば、日々の始業・終業時じ刻こくや働く時間を、働く人が自由に決めることができるという制せい度どのことです。綾あや瀬せ市し役やく所しょの場合は、「必ずいなければいけない時間」である「コアタイム」がないことで、より柔じゅう軟なんな働き方が可か能のうになっています。こうした形の完全フレックス制せい度どを導どう入にゅうしている自治体は全国的にも珍めずらしく、県内では綾あや瀬せ市しが初めての導どう入にゅうでした。
私わたしは、標ひょう準じゅんの勤きん務む時間が8時30分出しゅっ勤きん、17時退たい勤きんのところ、7時30分出しゅっ勤きん、16時退たい勤きんという形で、時間を前まえ倒だおしにして働いています。子育てと仕事を両立するためです。今、小学校1年生と4歳さいの子どもを育てており、妻つまも働いている共働きの状じょう態たいです。
出しゅっ勤きん時間の関係で、子どもたちを保ほ育いく園えんへ送るのは妻つまが担たん当とうして、私わたしは、保ほ育いく園えんへ下の子どもを迎むかえに行ったり、学校から帰ってきた子どもの面めん倒どうを見たり、夕食を作って食べさせたりといった夕方以い降こうの育児を担たん当とうしています。この制せい度どが導どう入にゅうされるまでは、時短勤きん務むという形で勤きん務む時間を短くし、私わたしがお迎むかえに行っていたのですが、この制せい度どが始まったことで、他の人と同じ長さの時間、働くことができ、かつ子どもたちにも規き則そく正ただしい生活を送らせることができるようになりました。

私わたしは出しゅっ勤きん時間を早くするという形でフレックス制せい度どを利用していますが、綾あや瀬せ市しの制せい度どは4週間を1単位として自由に勤きん務む時間を決めることができるので、たとえば4週間の中で忙いそがしい週は勤きん務む時間を長くし、忙いそがしくない週にお休みを土日の2日だけでなく1日追加して、週休３日にする、という使い方もできます。お子さんの習い事の送そう迎げいや、家族の通院の付つき添そいのために勤きん務む時間を調整するという使い方をしている人も多いようです。
私わたしの仕事では、いつ危き機き事じ象しょうが起きるかはわかりません。実じっ際さいにこの制せい度どを利用して勤きん務むしてみてわかったのですが、他の人がいない朝早い時間に勤きん務むすることで、閉へい庁ちょうしている時間に何かが起こっていた場合にも備そなえができ、開かい庁ちょうと同時に対たい応おうをスタートできるというメリットもありました。そのため、周しゅう囲いの人からもこの働き方に関しては前向きに受け止めてもらっています。
また、今の働き方を選せん択たくしていることで、自分の子どもとコミュニケーションを取る時間はしっかり取れている実感があります。子どものちょっとした成長にも気づくことができるのは、今の働き方のおかげですね。

この仕事で大変なことは、365日24時間、危き機き事じ象しょうに対たい応おうできるよう気を張はっていなくてはいけないことです。たとえば、夜中でも警けい報ほうが発表されると、市民に防ぼう災さい無線などでお知らせしなくてはいけないので、気き象しょう状じょう況きょうが悪化しそうだとあらかじめわかっているときには、職しょく場ばや自じ宅たくで待機しなければいけません。また、新しん型がたコロナウイルスの流行が始まってからは、ワクチン接せっ種しゅの段だん取どりや手配といった仕事も加わりました。今はそれぞれの部ぶ署しょで対たい応おうすべき役やく割わりが明めい確かくになってきたので、だいぶ負ふ担たんは減へってきましたが、やはり流行の最初のころは、忙いそがしい時期が多かったです。
そんな中でも、やりがいはたくさん感じられます。たとえば先日も居きょ宅たく介かい護ごのサービスを提てい供きょうしている施し設せつのみなさんに「地じ震しんや台風など災さい害がいが起こったときにはどう行動すればいいか」「何を備そなえておくべきか」といった、防ぼう災さいについてのお話をしてきたのですが、終わった後に「何をすればいいのかわかった」「他の人にも教えてあげようと思った」という言葉をもらいました。なるべくたくさんの人に災さい害がいについての知ち識しきが共有され、意い識しきが高まれば、実じっ際さいに災さい害がいが起こったときに救すくわれる命が増ふえるはずです。ですから、そうした言葉をもらうと、大切な仕事をしているのだなと実感しますね。

「地方公こう務む員いんであることのプライド」を大切にしています。「市役所の仕事だから、決められたことしかできないのでは？」と言う人もいますが、私わたしは市民に近いところで働く地方公こう務む員いんだからこそ、できることがあると思っています。
たとえば災さい害がい対たい応おうにしても、一いっ般ぱん的てきに、地じ震しんが起こったときは「車で逃にげるのは危き険けん」だと言われています。車しゃ中ちゅう泊はくはプライバシーを守れる反面、エコノミークラス症しょう候こう群ぐんなどの危き険けん性せいもあります。そのため避さけたほうがいいというのは2016年の熊本地じ震しん以い降こう、防ぼう災さい面めんでは基き本ほん的てきな考え方になっています。しかし、綾あや瀬せ市しに暮くらす市民のほとんどは、普ふ段だん、自家用車を利用して生活しています。また、新しん型がたコロナウイルスの流行下では、避ひ難なん所じょでの感かん染せん拡かく大だいという新たな問題も発生します。そのため、車しゃ中ちゅう泊はくの危き険けん性せいをきちんと把は握あくした上で、たとえば弾だん性せいストッキングなど、エコノミークラス症しょう候こう群ぐんを予よ防ぼうするためのグッズをきちんと準じゅん備びしたり、予よ防ぼうするための知ち識しきを身につけたりしておけば、車しゃ中ちゅう泊はくも安全確かく保ほのための大事な手しゅ段だんの一つになるはずです。そう考え、市民の方々に正しい知ち識しきを伝える取り組みを行っています。こういうことは、実じっ際さいにその場所に住み、生活の実じつ情じょうを知っている立場だからこそできる対たい策さくではないでしょうか。
災さい害がいによる被ひ害がいを防ふせぐために一番大切なのは、「きちんと準じゅん備びをしておくこと」です。そのために、市民のみなさんに身近な私わたしたちだからこそ伝えられることは多いのではと思っています。

子どものころに海外で暮くらしていた時期が長かったこともあり、最初は外交官になりたいと思っていました。外交官になるための試験は難むずかしく、残念ながら外交官になるための試験には合ごう格かくできなかったのですが、その先の選せん択たく肢しを自分で考えた際さい、「物やサービスを売る」よりは「人の暮くらしを支ささえる」仕事を選びたい、と思い、地方公こう務む員いんになることを決めました。綾あや瀬せ市しは人口が約8万4千人と、神奈川県内でも小さい市です。ここだったら自分がやりがいを持って働けるのでは、と思って志し望ぼうして採さい用ようされ、働くことになりました。また、自然豊ゆたかなデンマークで幼よう少しょう期きを過すごした経けい験けんから、自然が豊ゆたかな場所で暮くらしたいという思いもありましたね。

親の仕事の関係で、5歳さいから10歳さいまでデンマークで暮くらしていました。日本人学校ではなく、現げん地ちの子どもが通う学校に通っていたのですが、友達も多く、楽しく過すごすことができました。勉強も、当時はクラスメイトにデンマーク語を教えてあげることもあったくらいにはできた記き憶おくがあります。その後、日本に帰国して小学校に通い出したのですが、こちらでも周りの人たちがとても優やさしく、突とつ然ぜん環かん境きょうが変わったにもかかわらず、あまり苦労をした記き憶おくがないんですね。このときの経けい験けんから、人間はどんな国の人であってもきちんと話せばわかりあえるし、嫌いやな人もいれば好きだなと思える人もいる、と、そういうふうに思うようになった気がします。
スポーツも勉強も得とく意いなほうでしたが、高校時代は合唱部でピアノ伴ばん奏そうを担たん当とうしていました。最近、子育てが少し落ち着いてきたこともあり、また趣しゅ味みでピアノを弾ひきはじめました。これが個こ人じん的てきには一番、楽しい時間です。

みなさんには、なるべくいろいろな大人の人と話をしてみてほしい、と思います。私わたしの場合は父親が高校の教員で、母親は専せん業ぎょう主しゅ婦ふだったので、身近に知っている職しょく業ぎょうはどうしても学校教育に関わる人に限かぎられていました。もちろん、自分が選んだ仕事には満足していますし、毎日も充じゅう実じつしているのですが、若わかいうちにもっといろいろな職しょく業ぎょうの、いろいろな人たちと話をしておけばよかったなと思っています。みなさんは部活のOBの先せん輩ぱいだったり、お父さんやお母さんの友達だったり、ぜひ、なるべくいろいろな人と話をしてみてください。その中でさまざまな職しょく業ぎょうを知るのもいいのではないかなと思います。
また、中学生くらいになると、何が良くて何が悪いかという価か値ち判はん断だんの基き準じゅんが、自分の中にそれなりにできてきているのではないかと思います。その基き準じゅんは、自分のそれまでの経けい験けんを積み重ねて作り上げたものだとは思いますが、今の基き準じゅんが絶ぜっ対たいだとは思わないでほしいです。もしかしたら年月を経へてさまざまな経けい験けんをする中で、その基き準じゅんが変わる瞬しゅん間かんが訪おとずれるかもしれません。自分としては「正しいことを教わった」「間ま違ちがっていない」と思っていても、それが絶ぜっ対たいの基き準じゅんだとは決して思わないで、人の話に耳を傾かたむけながら、関わり合いの中で成長してほしいなと思います。