私わたしは，トヨタ自動車で「e-Palette（イー・パレット）」という，新しいモビリティ（※モビリティとは「移い動どうの手しゅ段だん」のこと）の開発責せき任にん者しゃをしています。 「e-Palette」は，自動運転の技ぎ術じゅつやクルマとモノがつながる通信の技ぎ術じゅつなど，最新の技ぎ術じゅつを組み合わせてつくる新しいモビリティです。

e-Paletteの開発には，設せっ計けい図ずを書く人，部品を組み立てる人，性せい能のうをチェックする人など，さまざまな役やく割わりを持った，多くの人たちが関わっています。私わたしはe-Palette開発チームのリーダーとして，“どういうクルマにするか”といった開発の方ほう向こう性せいを決めたり，全体のスケジュールや予算を調整したりしながら，大おお勢ぜいの仲間と一いっ緒しょに協力して開発を進め，みなさんに実じっ際さいに乗ってもらえようにするのが仕事です。

「e-Palette」は，センサーで周しゅう囲いを確かく認にんして自動で走り，必要な時に近くまで来てくれて，行きたいところに連れていってくれます。クルマを運転すること自体が困こん難なんな人，さまざまな理由で一人での移動が困難な人など，なんらかの理由で「行きたいのに行けない」と困こまっている人に，移い動どうの自由を届とどけることができます。
また，人以外のさまざまなモノを運ぶことができるので，「買い物に行く」のではなく「お店が近くにやってくる」というような活用も考えられます。

だれもが安心して移い動どうできる社会に必要な，新しいモビリティとして2020年代前半の実用化を目指しています。

私わたしは小さい頃ころからモノをつくることが好きで，モノをつくる仕事がしたいと思っていました。そして，モノをつくるなら大おお勢ぜいの人が愛着を持って自分のつくったモノを使って欲ほしい。そう考えて，クルマをつくる会社に就しゅう職しょくしました。
入社して最初の10年は，クルマのブレーキの開発を担たん当とうして，その後，アメリカのテストコースがある施し設せつでの開発を経けい験けんしました。日本に戻もどってきてからは，「走る・曲がる・止まる」というクルマの動き全体をチェックする仕事などもしていました。
その後，トヨタ自動車や自動車業界全体の将しょう来らいを考える部ぶ署しょに移うつり，現げん在ざいは「e-Palette」の開発をしています。

クルマを取とり巻まく環かん境きょうは大きく変化しています。自動運転のような新しい技ぎ術じゅつが次々と生まれ，インターネットとクルマもつながるようになりました。
これからは，これまでのように性せい能のうの良いクルマをつくるだけでなく，便利で快かい適てきな移い動どうと生活に，クルマをどう使っていくのかを提てい案あんしていく時代だと思っています。

「e-Palette」はこれまでのクルマとはまったく異ことなるコンセプトを持った新しいクルマです。そのため，開発のすべてがゼロからのスタートでした。 これまでのクルマ開発の多くは，今あるものを参考により良いものを生み出すというものでしたが，e-Paletteは，参考にすべきクルマも，「こうあるべきだ」という決まりごとも全くありません。

クルマ全体をどのような形にするべきか？　ドアはどのような形が良いのか？　運転するためにハンドルは必要か？　など，すべてをゼロから考えて決めていかなければなりませんでした。

これまでのクルマとは違ちがう，まったく新しいクルマをつくるという経けい験けんは，私わたしにとってもとても特別なものでした。誰だれも見たことが無いものをゼロからつくるということは，わからないことだらけで，何が正しいのか教えてくれる人もいません。
新しいことへの挑ちょう戦せんは不安がつきものです。しかし，不安に押おしつぶされるのではなく，自分を信じて，仲間と一いっ緒しょに目標に向かって頑がん張ばることは，やりがいもあり，充じゅう実じつもしています。

さまざまな部品を組み立てて，初めてe-Paletteを動かしたとき，関係者全員から「おおーっ！」という歓かん声せいがわいたんです。苦労を共にした仲間たちとそういう瞬しゅん間かんをむかえられたことに，とても感動しました。

今，世界ではSDGsという，より良い社会をつくるための目標に向かって，みんなが協力しています。
地球温おん暖だん化かや交通事じ故こなどの課題を解かい決けつして，だれもが安心して自由に移い動どうできるまちをつくるのが，これからのクルマ会社が目指すべき未来です。

クルマや移い動どうのあり方が進化することで，社会が大きく変わっていくはずです。ですから，これからも「こんなことがクルマでできたらいいな」ということにどんどんチャレンジしていきたいですね。これからのクルマや移い動どうがどうなれば，もっと社会がよくなるのか，みなさんにも一いっ緒しょに考えて欲しいと思っています。

働くことの大きな喜よろこびの一つは，仲間と一いっ緒しょに何かをつくり上げること，そして，「誰だれかが笑え顔がおになってくれたら，うれしい」「誰だれかの役に立ちたい」という気持ちです。

それは，仕事だけでなく，学校や家庭でも同じはずです。自分が興きょう味みのあることをするときに，「誰だれかのために」という気持ちをぜひ大切にしてみてください。そうすると，自分がやることに大きな意味を感じられるようになるでしょう。
毎日の生活の中で，これは「誰だれかを笑え顔がおにすることができるかな？」と，考えてみてもらえるとうれしいですね。