私わたしはJR東海で、電気技ぎ術じゅつ者しゃとして働いています。私わたしが所しょ属ぞくする「中央新しん幹かん線せん建けん設せつ部ぶ 電気工事部」では、現げん在ざい建けん設せつが進んでいるリニア中央新しん幹かん線せんの列車や駅に電気を供きょう給きゅうするための設せつ備びやシステム、列車の安全な運行を支ささえる設せつ備びなどについて、計画、設せっ計けいおよび施せ工こう監かん理りなど、幅はば広ひろい業ぎょう務むを行っています。
その中で私わたしが担たん当とうしているのは、リニア中央新しん幹かん線せんの中間駅の一つ「神奈川県駅」（仮か称しょう。以下同じ）のさまざまな設せつ備びに電気を届とどける仕事です。駅には、照明をはじめ、改札機、列車の発車時じ刻こくや行先を表ひょう示じする電光掲けい示じ板ばんなど、電気が必要な設せつ備びがたくさんあります。また、列車運行に必要な設せつ備びにも電気が欠かせません。こうした設せつ備び一つ一つに電気を届とどけるために、電力会社や行ぎょう政せい、社内の関係各所と協議を行いながら駅の計画を進めています。
鉄道の場合、電力会社から届とどいた電気を「配電所」という施し設せつでそれぞれの設せつ備びに適てきした電でん圧あつに変へん換かんし、ケーブルを使って電気を送っています。現げん在ざいは駅の設せっ計けいを進めている段だん階かいなので、「各設せつ備びにどれくらいの電気が必要なのか」を確かく認にんしながら、電でん圧あつを変へん換かんするための変へん圧あつ器きを何台設せっ置ちするかを決めたり、ケーブルの配線ルートを考えたりしています。

一口に「設せつ備びに電気を届とどける」といっても、考えなくてはならないことがたくさんあります。たとえば、電気の供きょう給きゅう元もととなる「配電所」を駅のどこに配置するか決めなくてはなりません。電気を送るケーブルが長くなればなるほど、電気の供きょう給きゅう先さきに届とどくまでに電でん圧あつが下がってしまいます。つまり、電気を届とどけたい設せつ備びの近くに配電所を設せっ置ちしてケーブルを短くする方が、電気を無む駄だなく供きょう給きゅうすることができるのです。
ケーブルを太くすれば電でん圧あつは下がりにくくなりますが、そうすると今度はコストが上がってしまいます。このように、どうすればもっとも合理的に電気を供きょう給きゅうすることができるのかを常つねに考えながら、電気設せつ備びの配置や配線の設せっ計けいをしています。
とりわけリニア中央新しん幹かん線せんの駅は、これまでの鉄道にはない、リニアならではの設せつ備びへの電気の供きょう給きゅうについても考えなくてはならないため、難むずかしさを感じています。代表的なものが「誘ゆう導どう集電設せつ備び」です。リニア中央新しん幹かん線せんの車両は走行時､地面から浮ういており、地上設せつ備びと接せっ触しょくしている部分がないため、車内の照明や空調などで使う電気をどこから供きょう給きゅうするかという課題がありました。新しん幹かん線せんや在ざい来らい線せんのパンタグラフのように地上設せつ備びと接せっする機器を通して電気を供きょう給きゅうすることができないのです。そこで採さい用ようされたのが、「誘ゆう導どう集電」という仕組みです。これは、置くだけでスマートフォンの充じゅう電でんができる充じゅう電でん器きと同じような原理で､地上に設せっ置ちされたコイルに電気を流すと、電でん磁じ誘ゆう導どう作用によりリニア車両の底に設せっ置ちされた集電コイルに電気が流れ､地上から車両側に電気を供きょう給きゅうすることができます。この「誘ゆう導どう集電」のための設せつ備びは、駅だけでなく全線に設せっ置ちされる予定です。
また、車両に乗のり降おりするための「乗じょう降こう装そう置ち」は、車両が到とう着ちゃくしたときにホームと車両ドアとの間を人が通行できるようにするための設せつ備びで、これもリニア中央新しん幹かん線せんならではのものです。飛行機に乗りこむときの通路のようなイメージですね。こうした前例のない設せつ備びに対しても、適てきした電でん圧あつで安定的かつ効こう率りつ的てきに電気を供きょう給きゅうするにはどうすればいいのか考えながら設せっ計けいしなくてはならないため、責せき任にん重大で緊きん張ちょう感がある仕事ではありますが、地ち域いきのみなさんに愛される駅にしたいという思いを胸むねに、開業に向けて業ぎょう務むに励はげんでいます。

業ぎょう務む内ない容ようは日によって変わりますが、ケーブルの配線ルートや配電所の場所を考えて図面を作成したり、社外の電力会社や行ぎょう政せいと協議したりと、幅はば広ひろい業ぎょう務むを行っています。また、神奈川県駅の建けん設せつ現げん場ばに足を運ぶこともあります。地下駅である神奈川県駅は現げん在ざい（2023年6月時点）、駅空間を地下に確かく保ほするため地面を広く深く掘ほり進すすめる土木工事の段だん階かいです。駅の建物の下に埋まい設せつしなければならない電気設せつ備びもあるため、土木の担たん当とう者しゃと調整しながら計画を進めています。
この仕事は社内の土木、機械、建けん築ちくの担たん当とう者しゃ、また社外では電力会社や行ぎょう政せいなど、社内外の多くの人と協議を重ねる必要があり、その調整に難むずかしさを感じることも多いです。たとえば「この部屋のこの位置にケーブルを通す穴あなを開けたい」という希望を土木、建けん築ちくの担たん当とう者しゃに伝えても、「建物の構こう造ぞう上、それはできない」と言われることもあります。そうすると、また位置を変えて設せっ計けいし直さなければなりません。つまり、配線ルートを一つ決めるだけでも、他分野の担たん当とう者しゃたちと議ぎ論ろんを重ねながら計画を立てる必要があるのです。そのため、関わる全ての担たん当とう者しゃが納なっ得とくできるような電気設せつ備びの計画、設せっ計けいをすることを心がけています。

仕事をする上で大切にしていることは、目的やビジョンを持ち、それを達成するために具体的な目標を立てることです。もちろん、目標を達成できなかったり、失敗したりすることもたくさんあります。ですが、そこで落ちこむのではなく、しっかりと反省した上で失敗をポジティブに捉とらえるようにしています。
現げん在ざい、担たん当とうしている神奈川県駅の仕事でも、自信を持って提てい案あんした計画に問題が発覚し、計画を練り直さなくてはならなくなったことがあります。そうした場合でも、自分が失敗から得えた知ち識しきや情じょう報ほうを、他の駅をつくっている担たん当とう者しゃに伝えることで、同じ失敗を繰くり返かえすことが防ふせげます。つまり、自分の失敗がほかの人の「財ざい産さん」になり、失敗を予よ防ぼうできるのです。自分の失敗を単なる失敗で終わらせないためにも、リニア中央新しん幹かん線せんの全駅の電気関係者と定期的に集まり、情じょう報ほう交こう換かんするようにしています。逆ぎゃくに、「こうしたらうまくいった」という成功例も積極的に発信しています。そうすることで、より良い駅づくりにつなげていくことができるはずです。将しょう来らい、「失敗があったからこそ前に進めた」と思えるように意い識しきしながら、日々の仕事に挑いどんでいます。

世の中には、電気が必要な設せつ備びがたくさんあります。たとえば、普ふ段だんみなさんが見ているテレビも、そこに電気を送る人たちがいなければ動きませんよね。電気がなければ、当然、電車も動きませんし、駅も真っ暗です。みなさんも停てい電でんを経けい験けんしたことがあると思いますが、そのとき「電気がなくて困こまったな」と感じたのではないでしょうか。普ふ段だんの生活の中で当たり前になっている電気を届とどける仕事は、社会や人々の暮くらしを支ささえる重要な役やく割わりを担になっているのだと実感しています。電気を通して人の役に立てるということは、この仕事の魅み力りょくだと思います。
過か去こに、静岡県湖こ西さい市にある「新しん所じょ原はら駅」の建たて替かえ工事を担たん当とうしたことがありました。この駅は構こう造ぞう上、南側から入ることができない駅でしたが、「南北どちらからでも入れるように自由通路を作りたい」という自治体からの要望を実じつ現げんするため工事が始まりました。
私わたしは、新駅舎の照明やケーブルの選定、そのルートの設せっ計けい、受配電設せつ備びの仕様検けん討とうを行い、工事に際さいしては、現げん場ばに立ち会って照明の位置を確かく認にんしたり、現げん場ば作業の安全管理を担になったりしました。
工事を始めてから2年半ほどかけて新駅舎が完成しました。完成時は異い動どうで担たん当とうを外れていたのですが、初めて担たん当とうした駅ということで思い入れも強く、オープンした際さいには始発電車に乗って現げん場ばに向かいました。早朝だったのですが、かつては行き来できなかった南北がつながり、便利になった駅を利用しているお客さまがたくさんいらっしゃいました。「便利になったね」とお客さまが話をしているのを見たときは胸むねが熱くなり、自分の携たずさわった仕事が地ち域いきの方々の生活に貢こう献けんしているのだと、強く実感することができました。
神奈川県駅の業ぎょう務むについても、将しょう来らい、駅を訪おとずれるみなさんに「便利になった」と感じてもらえるよう、全力で取り組んでいきたいと思います。

私わたしが電気技ぎ術じゅつ者しゃの道に進もうと決めたのは、15歳さいのころです。私わたしの父はDIYや工作が得とく意いで、そんな父の姿すがたを小さいころから見ていて、自分も「ものづくりに関わりたい」と思い、岐阜工業高等専せん門もん学校（高こう専せん）に進学しました。そこで電気の分野を専せん攻こうした理由は、人々の生活になくてはならない電気の仕事であれば、将しょう来らい活かつ躍やくできるフィールドが必ずあるのではないかと考えたからです。3年次で大学に編へん入にゅうし、そこでも電気やエネルギーを専せん門もん的てきに学びました。
就しゅう職しょく活動では、高こう専せん、大学で学んだ電気・エネルギーの知ち識しきで社会に貢こう献けんしたいという思いで、就しゅう職しょく先さきを探さがしていました。当初は、その知ち識しきを存ぞん分ぶんに生かすことができる電力会社に行こうとも考えていたのですが、さまざまな業界を調べていく中で、鉄道会社においても私わたしがやりたい電気の仕事をしていることがわかったのです。
数ある鉄道会社のなかでもJR東海を選んだ理由は、リニア中央新しん幹かん線せんという、未来をつくる事業にひかれたからです。私わたしが就しゅう職しょく活動をしていた2011年は、東日本大だい震しん災さいが発生し、世の中が不安に包まれている時期でした。だからこそ、自分の知ち識しきを生かして未来をつくる事業に携たずさわりたいと思い、入社を決意しました。
「鉄道会社に入社した」と周りの人に伝えると「電車を運転するの？」と聞かれることもありますが、JR東海では、私わたしのように電気の知ち識しきを持った人もたくさん活かつ躍やくしています。みなさんにはぜひ、電気の仕事にも興きょう味みを持ってもらえたらうれしいですね。

私わたしは岐阜県の田舎いなかで育ちました。小・中学生のころは、魚さかな釣つりをしたり、山の中でサバイバルゲームをしたりと、自然の中でたくさん遊びました。また、家から学校までの4キロの道を雨の日も雪の日も毎日歩いて通ったことで、子どものころからしっかり体力をつけることができたと思います。中学時代には、生徒会役員選挙に立りっ候こう補ほして生徒会長を務つとめたこともあります。やったことのないことにも一歩踏ふみこんでみようとする、チャレンジ精せい神しんが旺おう盛せいな子ども時代でしたね。
15歳さいで高こう専せんに入学を決めたことも、一つのチャレンジでした。高こう専せんは家から2時間以上離はなれているので、親元から離はなれて寮りょう生せい活かつをしなければいけませんでした。それまで小・中学生時代をともに過すごした同級生55人（ずっと変わらないメンバーでした）はみんな幼おさななじみのような関係でしたので、思い切って環かん境きょうを変えて、知り合いのいない場所で頑がん張ばってみようと考えたんです。
寮りょうは、4人で1部屋の生活でした。最初は共同生活に慣なれず苦労も多かったのですが、先せん輩ぱいから挨あい拶さつやマナーを厳きびしく指し導どうされ、人間的にも大きく成長することができたと思います。苦楽をともにした仲間たちとは、今でも連れん絡らくを取り合う仲です。高こう専せん時代には、そうした生しょう涯がいの友を得えるとともに、多くの経けい験けんを得えることができました。高こう専せんへの進学は、環かん境きょうを変えて思い切ってチャレンジすることの大切さを学ぶことのできた、私わたしにとって大切な思い出です。

みなさんには無む限げん大だいの可か能のう性せいがありますので、ぜひいろいろなことに興きょう味みを持ち、多くのことを経けい験けんしてほしいです。
たとえば「電柱」に興きょう味みを持ってみるとします。みなさんにとって電柱は、ただの風景の一部かもしれません。でも、「なぜ電柱があるんだろう」と不思議に思い調べてみると、家に電気が送られている仕組みを知ることができるはずです。もしかしたら、そこからまた新しい疑ぎ問もんが生まれ、「もっと詳くわしく調べてみよう！」という、次のアクションにつながるかもしれません。つまり、全く興きょう味みのなかったことでも、少し触ふれてみたら興きょう味み深ぶかかったり、そこから将しょう来らい、進みたいと思える道が見つかったりする可か能のう性せいがあるんです。だからこそ、いろいろな方面にアンテナを張はっておくことが大切だと感じています。
私わたしたちは、リニア中央新しん幹かん線せんの開業に向けてこれからも挑ちょう戦せんを続けていきます。「人々の暮くらしを豊ゆたかにする」というスケールの大きい挑ちょう戦せんにはなりますが、それだけにやりがいも大きいです。そして将しょう来らい、自分の関わった駅を中心に街が発はっ展てんし、日本の経けい済ざいや社会を支ささえる一いち翼よくを担になうことができたらいいなと思っています。