私わたしは，マンションや商業施し設せつなどの建けん設せつ時に，立体駐ちゅう車しゃ場じょうを販はん売ばいして納おさめる「道みち商しょう事じ株かぶ式しき会がい社しゃ」の社長を務つとめています。道商事は，1987年に私わたしの父が設せつ立りつした会社で，本社は東とう京きょう都と文ぶん京きょう区くにあります。立体駐ちゅう車しゃ場じょうは，駐ちゅう車しゃ場じょうを2段だん，3段だんと立体的に重ねて，狭せまいスペースでもたくさんの車を駐ちゅう車しゃできるようにしたものです。
立体駐ちゅう車しゃ場じょうにはさまざまな形，機き能のうのものがありますが，大きくは2種類に分けられます。一つは，平面の駐ちゅう車しゃ場じょうと同じように，利用する人が目的の階まで自分で車を運転して駐ちゅう車しゃする「自走式」の駐ちゅう車しゃ場じょう。もう一つが，エレベーターのように，人が駐ちゅう車しゃ装そう置ちを操そう作さして車の入庫や出庫を行う「機械式」の駐ちゅう車しゃ場じょうです。私わたしたちの会社では，主に株かぶ式しき会がい社しゃIHIというメーカーの機械式駐ちゅう車しゃ場じょう設せつ備びを販はん売ばいしていますが，自走式の立体駐ちゅう車しゃ場じょうや自動車用のエレベーターなどを取とり扱あつかうこともあります。
私わたしたちの会社では，ただ立体駐ちゅう車しゃ場じょう設せつ備びを売るだけではなく，新しく建てられるマンションや施し設せつの条じょう件けんに合わせて，どの形の立体駐ちゅう車しゃ場じょうが合っているのか，どのように設せつ備びを取り付けたらよいか，などを建物の設せっ計けい担たん当とう者しゃと考えるほか，立体駐ちゅう車しゃ場じょうの納のう入にゅう工事の進行管理もします。私わたしは社長なので，そういった現げん場ばの仕事をしながら，会社全体の受注管理や売上管理，社員の仕事の状じょう況きょうの確かく認にんといった，会社の運うん営えいに関わる仕事もしています。

私わたしたちのお客さまはマンションや施し設せつを建てる建けん設せつ会社です。例えば新しいマンションを建てる場合，建物本体を施せ工こうする建けん設せつ会社のほかに，コンクリートを作る業者や，エレベーターを造つくる業者，電気設せつ備びや空調設せつ備びを担たん当とうする業者など，いくつもの専せん門もん業者が関わります。その中で立体駐ちゅう車しゃ場じょうを専せん門もんに担たん当とうするのが当社です。
マンションや施し設せつを建てるにあたっては，その建物の大きさに対して必要な駐ちゅう車しゃ場じょうの収しゅう容よう台数が法ほう律りつで決められています。30台置ける駐ちゅう車しゃ場じょうを造つくらないといけない建物なのに，平面だと5台分しかスペースが取れない，という場合は，立体化しなくてはいけません。そうなると，私わたしたちの出番です。立地なども考えながら，どのタイプの立体駐ちゅう車しゃ場じょうにするかなどを，建物本体の設せっ計けい担たん当とう者しゃと話し合い，提てい案あんします。建けん設せつプロジェクトの内ない容ようによっては，私わたしたちと同じような仕事をしている他の会社がそれぞれに提てい案あんをしていることもあります。その場合は，当社の案が採さい用ようされれば，受注が決まります。
設せっ計けい図ずが固まると，立体駐ちゅう車しゃ場じょうの納のう入にゅう工事自体は外部の職しょく人にんさんに依い頼らいして行いますが，工事が予定通りに進んでいるかの管理や，アクシデントがあったときの調整は私わたしたちの担たん当とうです。販はん売ばいした立体駐ちゅう車しゃ場じょうがきちんと予定通り造つくられるのを見み届とどけ，お客さまに引ひき渡わたすまでが仕事です。100台の車が置けるような大きな駐ちゅう車しゃ場じょうの場合は，設せっ計けいの相談から納のう入にゅうを終えるまでに約2年かかることもあります。5台，10台規き模ぼの小さなものであれば半年くらい。工事中，特に工事の開始直後と完成間ま際ぎわには何度も現げん場ばに足を運びます。

これまでの仕事で印いん象しょうに残っているのは，2009年にオープンした茨いばら城き県けん守もり谷や市しの守もり谷や駅前にある商業施し設せつ，「アワーズもりや」に立体駐ちゅう車しゃ場じょうを造つくったときのことです。200台以上が駐ちゅう車しゃできる自走式の立体駐ちゅう車しゃ場じょうで，数億円規き模ぼの大きな仕事でした。しかし，普ふ段だん取とり扱あつかうことの多い機械式と比くらべると，自走式に関するノウハウが当時は当社にあまりなく，建けん設せつ会社の指し導どうをたくさん受けて勉強をさせてもらいながら，何とか納おさめることができました。
自走式の場合は，建けん設せつ現げん場ばの地面の基き礎そを造つくる作業にも関わっていく必要があり，土木分野の知ち識しきが必要になります。機械式の場合は，地面の部分がすでにできあがっている状じょう態たいで立体駐ちゅう車しゃ場じょうの工事をするので，どちらかというと建けん築ちく分野の知ち識しきが求められます。これが自走式だと，立体であっても1フロアの面積が広く，建物の重さを支ささえるために地面に杭くいを打つなど，目には見えない基き礎その部分をしっかり造つくることも仕事の中に含ふくまれます。慣なれない作業がたくさんあるため，打ち合わせをどう進めたらよいかも手て探さぐりでしたし，普ふ段だん関わらない職しょく人にんさんや関係会社との話し合いや調整にも苦労しました。
また，この仕事では工事期間が長かったこともあり，約5か月間，現げん場ばに道商事の社員が，管理者として常じょう駐ちゅうしました。私わたしたちの仕事は現げん場ばありきですし，常つねに周りへの目配りや気配りが大切だと考えて取り組んでいます。でも，折々で足を運ぶという形ではなく，危き険けん作業を行うところを含ふくめ，毎日の現げん場ばの様子を見続けた経けい験けんは，道商事という会社にとっても，いい経けい験けんになりました。

機械式の立体駐ちゅう車しゃ場じょうには常つねに新しい技ぎ術じゅつが取り入れられ，進化しています。そういった新しん製せい品ひんの説明会や，メーカーによる研けん修しゅう会かいに参加して学ぶのも大切な仕事です。例えば今まで，シャッターの開あけ閉しめや駐ちゅう車しゃスペースの呼よび出だしなどを，パネルのボタンで人が操そう作さする方法が一いっ般ぱん的てきでした。ところが最近は，操そう作さ用の機械にあらかじめ登録したICカードをかざすだけで，自動的に契けい約やく中の駐ちゅう車しゃスペースを呼よび出だしてくれるタイプの製せい品ひんができています。
また50台以上も置けるような大おお型がたマンションの立体駐ちゅう車しゃ場じょうで出入口が一つしかないと，出しゅっ勤きん時や休日などの入出庫が重なる時間帯には，他の人の操そう作さを列になって待たなくてはいけません。それは利用者にとってストレスですよね。そこで，スマートフォンから出庫の予約ができるシステムを組くみ込こんだ立体駐ちゅう車しゃ場じょうが登場しています。あらかじめ，専せん用ようのアプリで出庫希望時間を登録しておけば，その時間に駐ちゅう車しゃ場じょうの入口に行くと，自分の車が用意されているのです。最近ではそういったものがどんどんスタンダードになりつつあります。
建物の設せっ計けいをする人はもちろん設せっ計けいのプロですが，立体駐ちゅう車しゃ場じょうの専せん門もん家かというわけではありません。技ぎ術じゅつ的てきに複ふく雑ざつな部分の話が必要になればメーカーの技ぎ術じゅつ者しゃに相談をするものの，概がい要ようや基き本ほん的てきな構こう造ぞう，新しん製せい品ひんの情じょう報ほうなどは，われわれがきちんと説明できなくてはいけません。だから，常つねに勉強は欠かせないのです。

この仕事でやりがいを感じるのは，やはりお客さまから感かん謝しゃされたり，「道商事にお願いしてよかった。またよろしくお願いします」などと言ってもらえたりしたときです。特に大きなプロジェクトにおいて，これまでの成果を認みとめられ，名指しで仕事をいただけたときはとてもうれしいですね。指名をいただけるのは，私わたし一人だけの力ではなく，社員が日々，地道に学びや誠せい実じつな対たい応おうを重ねてきたことが実を結んだ証あかしですから。
また，難なん易い度どの高いプロジェクトを受注できたときにもやりがいを感じます。１年前，駐ちゅう車しゃ場じょうを造つくるスペースの関係で，非ひ常じょうに難むずかしい提てい案あんをする機会がありました。立体駐ちゅう車しゃ場じょう設せつ備びはいくつかのメーカーが造つくっていて，それぞれ寸すん法ぽうや出庫にかかる時間などが異ことなります。その中で当社が扱あつかっているIHI運うん搬ぱん機き械かい株かぶ式しき会がい社しゃの製せい品ひんは，対たい象しょうのプロジェクトで予定されている駐ちゅう車しゃ場じょうスペースに対して少し寸すん法ぽうが大きかったのです。といっても50mm，100mm単位の話ですが，標ひょう準じゅんのものでは駐ちゅう車しゃ場じょうスペース内に収おさまらないため，メーカーの技ぎ術じゅつ者しゃや施せ工こう主ぬしである建けん築ちく会社を交えて，どうすれば収おさめられるかを何度も相談しました。調整するのは大変でしたが，何とか解かい決けつ法ほうを見つけ出して，受注することができました。多くの関係者の協力があって最終的に仕事を受けられたのは，とてもうれしかったですね。

私わたしは大学卒業後に知り合いが経けい営えいする金きん融ゆう関係の会社に就しゅう職しょくし，26歳さいのときに道商事に入社しました。その一年くらい前から父の会社で働くことは考え始めていましたが，家族と仕事で関わると家でも会社でもずっと同じ相手と顔を合わせることになり，うまく距きょ離りが取れなくてケンカになるのではないか，という不安がありました。ところが，実じっ際さいに入社してみると特に大きな衝しょう突とつはなく，スムーズになじむことができました。おそらく一度違ちがう仕事を経けい験けんして，社会人としてワンステップを踏ふめていたことがプラスに働いたのではないかと思います。
とはいえ，全く畑はたけ違ちがいの仕事からの転てん職しょくだったので，入社後は自分で製せい品ひんや設せっ計けいについて，かなり勉強をしました。知ち識しきに基もとづいた説せっ得とく力りょくのある提てい案あんをして採さい用ようされるために，今でも日々，試し行こう錯さく誤ごしています。
多くの人と関わり調整をする仕事の中で，常つねに頭にあるのは「情なさけは人のためならず」という考えです。こちらがきちんと相手に気持ちを向けて接せっしていれば，もちろん相手のためにもなりますし，結果的に，自分にとってよいリアクションが返ってきます。まずは社員，お客さま，関係会社など，関わる人たちを大切にすることが大事です。また，長いスパンの仕事をする中では，つらいこともあれば，「ラッキー」と言えるような出来事が起こるときもあります。ただ，どちらにしてもそれは一時期だけのことで，時間が経たてば逆ぎゃくの状じょう況きょうになるかもしれない。だから，いいことでも喜よろこびすぎず，悪いことにも落ちこみすぎないようにしよう。いつもそう思って自分を戒いましめています。

小学生のころはとてもおっとりした性せい格かくで，クラスの中で目立つ子とも，おとなしい子とも関係なく仲よくなれました。放課後はベーゴマや，スーパーカー消しゴムでよく遊び，高学年になるとプロレスにはまり，自分でプロレスの漫まん画がを描かいたりもしていました。中学校では，朝から晩ばんまでほぼ毎日，部活でやっていた軟なん式しき野球に熱中し，足あ立だち区くの大会で準じゅん優ゆう勝しょうしたこともあります。私わたしの通っていた中学は荒あら川かわの近くにあったため，ベースやバットを乗せたリヤカーを引いていき，土手でもよく練習をしました。だから今でも休日になると，つい荒あら川かわに行きたくなってしまうのかもしれません。
読者のみなさんには，今はまだ，将しょう来らい，何になりたいかが分からない人も多いと思います。また，やりたいと思っても，状じょう況きょうが許ゆるさず，できないこともあるでしょう。けれど，やりたいことがすぐできなかったとしても「今はエネルギーを溜ためる時期」なのだと考え，いろいろなことに興きょう味みを持つことを止めないでください。また，失敗したり落ちこんだりすることがあっても，ずっとつらい状じょう況きょうばかりが続くことはありません。「やりたい」という意い志しをもって，いろいろなことに取り組むのは素す晴ばらしいことですから，自分を信じてどんどんチャレンジしてみてほしいです。