私わたしが勤つとめている「ヴイストン株かぶ式しき会がい社しゃ」は、シンプルに言ってしまうと「ロボットを作っている会社」です。ロボットと言っても幅はば広ひろく、例えば人とコミュニケーションをとることを主な目的とした「コミュニケーションロボット」も手がけますし、ロボットを使った研究をしている大学の研究室や企き業ぎょうの研究開発部門の方とか、そういった方たち向けにロボットのベースを提てい供きょうしたりもしています。また、お客さまから「こういうロボットが欲ほしいです」というオーダーがきたらそれに基もとづいてロボットを作ることもあります。最近は小中学校でもプログラミング教育が必ひっ修しゅうに入りましたので、先生方に活用していただけるような教材も手がけています。

ヴイストン株かぶ式しき会がい社しゃは自社開発の領りょう域いきが広く、それぞれの分野でロボットに使うモーター1個こから、実じっ際さいにそれを使って2足歩行するロボットまで、部品作成、デザイン、電子基き板ばんの設せっ計けいなど、全部含ふくめて社内でまかなえる体たい制せいになっているのが強みです。
ロボットをいくつかの要よう素そに分ぶん解かいすると、モーターや腕うでの形けい状じょう構こう造ぞうなどのメカの部分、電子基き板ばんの部分、そしてそれらを実じっ際さいに動かすためのソフトウェア、という３つに分類できます。私わたしはその中でも、ロボットを動かすためのソフトウェアを担たん当とうしています。
ヴイストン株かぶ式しき会がい社しゃは事業規き模ぼが小さい会社なので、社員は14人です。その中でも開発部隊は7人です。そのために、仕事の範はん囲いは広く、単たん純じゅんにプログラムするだけではなく、全体の製せい品ひん企き画かくや、実じっ際さいにお客さまの要望を聞く仕事も行っています。

開発しているロボットの中には、高こう齢れい者しゃ施し設せつで使われるコミュニケーションロボットもあります。高こう齢れい者しゃ施し設せつでは利用者の方が時間を持もて余あましていることが多く、そのときにはコミュニケーションロボットの出番です。コミュニケーションロボットの中には赤ちゃん型がたのロボットもあり、ちょっとほったらかされているとだんだん機き嫌げんが悪くなり、泣いたりぐずったりする音声が流れるんですね。でもこれを「ヨシヨシ」と構かまってあげると、機き嫌げんが良くなって笑い声が流れます。
介かい護ごの現げん場ばで必要なのは「どう扱あつかわれても壊こわれない」ということです。施し設せつ利用者の方がロボットを使おうとしたときに介かい護ご士しの方がずっと見ていないといけなかったりすると、結局、現げん場ばが大変になってしまいます。でもこのロボットだったら自由に使ってもらっても危き険けんはないので、介かい護ご者しゃの負ふ担たん軽けい減げんにもなり、施し設せつ利用者の方の精せい神しん的てきなケアにもなります。このロボットは、今、実じっ証しょう実験を進めているものですが、最近は、このような「人を癒いやす」、「心をサポートする」ロボットのニーズも増ふえています。

一日の仕事の流れは、時期によってやることはバラバラです。メールでお客さまからのお問い合わせが来ることが多いので、大体、朝は問い合わせのメールや提てい携けい先さきの企き業ぎょうの方とやり取りをすることが多いです。日中のメイン業ぎょう務むはロボットの開発になりますが、これも日によってやっていることは違ちがいます。パソコンに向かってプログラムしている時間もあれば、ロボットを動かす日もあります。やはりロボットは動かしてみないとうまくいったかどうかわからないうえに、1回動いたから大だい丈じょう夫ぶということはありません。ちょっと違ちがう場所に持っていって動かしたら全然ダメで、なぜか時間を置くと動く、ということもよくあるので、時間や場所を変えて繰くり返かえし試ためしながら、ロボットがきちんと動くか、プログラムの検けん証しょう作業を繰くり返かえします。

今の仕事に就ついたのは、偶ぐう然ぜんの要よう素そが大きいです。小学校の低学年のころは動物や植物など生せい物ぶつ系けいのほうに興きょう味みがあったのですが、ある日、大阪の日本橋という電気街にロボットの専せん門もん店てんができたんですね。2005年ごろだったと思います。そこへたまたま父親に連れて行かれたのですが、そこで「ロボカップジュニアという大会があるので出てみないか」と誘さそわれたんです。「ロボカップジュニア」は、19歳さい以下の子どもたちを対たい象しょうとしたロボットコンテストなのですが、誘さそわれたので出場してみたところ、スルスルとその年の世界大会まで行けてしまいました。そうすると、大会をきっかけに友達が全国にたくさんできて、毎年その大会に出るようになりました。すっかりロボカップとロボット作りにはまってしまい、大学も理工学部の機械科に進み、ずっとロボットを作り続けて今に至いたります。

仕事をするうえで一番大切にしているのは、「お客さまにとって一番使いやすく、お客さまに価か値ちを提てい供きょうできるものを」という部分です。ロボットについて、日々いろいろなご相談をいただくのですが、例えば、お客さまが大学の先生であればロボットのことをよくわかっていますし、話もスムーズです。しかし、最近はロボットの活用分野が幅はば広ひろくなっているので、「全然ロボットのことはわからないけれどやってみたい」というお客さまも多くなっています。でもそうすると理想と現げん実じつの差というのが大きいこともあります。そういうときは「お客さまが求めているのはこういうことだと思いますが、でもそれは大変ですよ、うまくいかないですよ」というようなことは、ちゃんとお話しさせていただきます。そしてできるだけ、そのお客さまが最終的に一番価か値ちを感じていただけるような形に持っていく、ということを心がけています。

ヴイストン株かぶ式しき会がい社しゃではロボットを作る場合に、基き本ほん的てきには社内で完結できる体たい制せいになっています。しかし、プロジェクトによっては他の企き業ぎょうにも入ってもらい、複ふく数すうの企き業ぎょうで１体のロボットを作るというケースもあります。そういったときにはシステムが複ふく雑ざつになり、場合によっては自分が全く経けい験けんのないシステムを組み入れ、組み合わせて使えるようにしなければいけない、という状じょう況きょうもあります。そういう場合は、技ぎ術じゅつ的てきなことよりも、他の企き業ぎょうとの調整の部分で苦労する、というところが実は多いです。
また、ロボットに関する技ぎ術じゅつは日々新しいものが出てきている領りょう域いきで、特に最近は人工知ち能のうも絡からみ、毎日、常じょう識しきが入いれ替かわっているような状じょう況きょうです。研究者の方たちはそういった技ぎ術じゅつを研究して発表してひと区切り、というような状じょう況きょうですが、私わたしたちはそれを実じっ際さいに製せい品ひんに落おとし込こむ作業が必要になる。いつまでも新しいことをどんどん勉強して学んでいかないとついていけないのですが、でもわからないことだらけなんですね。それが大変です。

今、これを読んでいる人の中でロボット作りに興きょう味みを持っている人がいたら、ロボットという分野でも、そうでない分野でも、幅はば広ひろい領りょう域いきのものに触ふれてほしいなと思います。仮かりにロボットというジャンルの中だけでも、さまざまな方向に深ふか掘ぼりすることができます。今はインターネットで調べたらたくさんの情じょう報ほうが簡かん単たんに手に入る時代ですので、世の中にどんなものがあるんだろう、ということをたくさん知ることは、将しょう来らいに向けて強みになっていくんじゃないかなと思います。
ロボットというものはおそらく、みなさんが思う以上に幅はば広ひろく使われています。見た目もバラバラですし、目的や領りょう域いき、分野によって使われている技ぎ術じゅつや思想も全く違ちがってくるものなんですね。一見関係ないようなものとも結びついていて、例えば「ロボットと哲てつ学がく」という研究をされている大学の先生もいます。実じっ際さいに生きている細さい胞ぼうを使ったロボット、いわゆる「生体部品」という分野の研究も進んでいます。人工知ち能のうやロボットが小説や映えい画がの題材にもなっています。こんな時代だからこそ、世の中にどんなものがあるかを広くたくさん知ってほしいなと思います。