わたしは25歳さいのころ，事じ故こで右足を切せつ断だんしました。「まさか，自分にこんなことが起こるなんて」と，途と方ほうに暮くれました。周囲に右足を失ったことを説明することもできませんでした。「足が無くなっちゃったんだよ」と言ったあと，続く言葉がありませんでした。どんどん塞ふさぎこんでいってしまい，入院中は家族だけと面会するようにして，携けい帯たい電話も解かい約やくし，友人たちと連れん絡らくを取ることもありませんでした。

ある日，病室で偶ぐう然ぜんお笑い番組を見ていました。そのとき，廊ろう下かに聞こえるくらい大きな声で笑うことができたのです。「わたしは，まだ笑うことができる」と気づきました。そして，右足を失ってからの自分を振ふり返かえって，「もうこれ以上，悲ひ劇げきのヒロインを演えんじるのはやめよう」と心に誓ちかったのです。そして「自分らしく生きる方法を探さがせばいいじゃないか」と，深く考えることをやめました。その日から後ろを振ふり返かえってばかりいた気持ちがどんどん前向きになり，これからの自分のことを考え始めました。

自分らしい生き方を探さがすために，まずは同じような境きよう遇ぐうの人が集まる場所に行ってみようと思いました。わたしと同じように，義ぎ足そくを使っている友達がほしいと思い，義ぎ足そくを作っている臼うす井い二ふ美み男おさんの紹しよう介かいで義ぎ足そくユーザーを中心としたスポーツクラブ「ヘルスエンジェルス※」の存そん在ざいを知り，その活動に参加することにしたのです。 参加して気づいたことは，同じ義ぎ足そくの人でも暗い人が全くいませんでした。みんな明るくて，キラキラと輝かがやいて見えたのです。参加する前は「走るなんてできない」などと消極的だったのですが，活動の中で「わたしもあんな風に走れるのかな」「明るく楽しく走れるのかな」と期待はどんどん大きくなり，また勇気をもらうことができたのです。

ヘルスエンジェルスの活動で勇気をもらったわたしは，「本ほん格かく的てきに走りたい」という気持ちが強くなっていきました。しかし，それまで陸上競きよう技ぎの経けい験けんがなかったため，たくさんの練習が必要で，義ぎ足そくを履はいて走れるようになるまで，1年はかかりました。そして，ようやく競きよう技ぎ会かいに出場できるまでになったのです。 初めて競きよう技ぎ会かいに出たときは，緊きん張ちようというより，自分がどれくらい走れるのか，走りきることのができるのか，自分のこれまでの練習成果を試ためすときが来たと，わくわくしていましたね。無事100mを走り終えたとき，達成感とともに，これは自分の力だけで走り切った100mではないのだと感じました。ここまで支ささえてくれた人，命を救ってくれた病院の先生，両親，義ぎ足そくを作ってくれた人，友人。たくさんの人への感かん謝しやの気持ちがこみ上げてきたことを，今でも鮮せん明めいに覚えています。

競きよう技ぎに出る前は，義ぎ足そくを履はいていると「義ぎ足そくで歩いて大変だね」とか，「かわいそうだね」「つらいね」といった言葉をたくさんの人からいただきました。しかし，競きよう技ぎ会かいに参加しているうちに「応おう援えんしているよ」「頑がん張ばってね」という，応おう援えんの言葉をもらうことが多くなりました。同どう情じようよりも陸上の選手としてしっかり見てくれている。そういった応おう援えんの言葉が，わたしにとっては大きな支ささえになり，走り続けるためのパワーとなります。

障しようがい者しやスポーツの最さい高こう峰ほうであるパラリンピックに出場することは，もちろん競きよう技ぎ者しやにとって大きな目標です。しかし，ただ出場を目指すだけではなく，わたしは世界の一流選手たちと戦って，メダルを取りたいという気持ちが強いです。そのためには，精せい神しんを強くしたり，体をもっとたくましくしたりする必要があると感じています。ですので，そうした舞ぶ台たいに立てるよう日々練習に励はげんでいます。足を失う前には，何気ない日にち常じように目標を設せつ定ていして過すごすようなことがなったのですが，今では，大きな目標に向かい，毎日をどう過すごしていくかという意い識しきを持つようになりました。

長い人生の中で，みなさんも思おもい悩なやむことや，苦しむことがあるかもしれません。しかしそれは，全くおかしいことではありません。そういうときは，一度立ち止まり，その先自分がどう行動するか，考えてみましょう。そのうえで勇気を持って次の一歩を踏ふみ出だし，困こん難なんを乗のり越こえていく力を身につけてほしいです。
わたしの目標はまだまだ高いところにありますが，一いつ生しよう懸けん命めい練習を続けて，みなさんの前で走りを見てもらえるように頑がん張ばります。応おう援えんよろしくお願いします！