みなさんは、「子ども食しょく堂どう」をご存ぞんじですか？子ども食しょく堂どうとは、子どもが一人でも行くことのできる、無料または低てい額がくの食しょく堂どうのことをいいます。子ども食しょく堂どうは、保ほ護ご者しゃが家におらず子どもだけで食事をとらなくてはならないときや、家で十分な食事がとれないとき、友達とわいわい食事がしたいときにも来られる場所です。食しょく堂どうによって対たい象しょう者しゃの条じょう件けんや開かい催さい頻ひん度どは異ことなりますが、共通しているのは、子どもたちが食しょく堂どうに集まって、栄養バランスのよいご飯を地ち域いきの大人と一いっ緒しょに食べること。私わたしは、そんな子ども食しょく堂どうを運うん営えいする「一いっ般ぱん社しゃ団だん法ほう人じんCOCOROごはん」の代表理事を務つとめています。
COCOROごはんでは、毎週水曜日に東京都北区の滝たき野の川がわという地ち域いきで「滝たき野の川がわ子ども食しょく堂どう」を開いています。現げん在ざいの利用対たい象しょう者しゃは小学生から高校生で、毎回20人くらいの子どもたちが食しょく堂どうを利用しています。コロナ禍かの前は保ほ護ご者しゃの参加もできたので、60人くらいの人で賑にぎわっていました。子どもたちは、ご飯を食べながら友達と楽しくおしゃべりしたり、食前・食後に遊んだりと思い思いの時間を過すごしています。
そのほか、COCOROごはんでは子どもたちの学習サポートもしています。塾じゅくに通っていない子どもや、学習支し援えんが必要な子どもを対たい象しょうに、毎週「学習支し援えん室しつ」を開いています。高校受験を控ひかえた中学生には、定期試験前に10日間ほど集中的な学習支し援えんをする「COCORO自習室」も開かい催さいしています。子どもたちは講こう師しのサポートを受けながら、成せい績せきを上げる努力をしています。

私わたしは、子ども食しょく堂どうや学習支し援えん室しつを運うん営えいするためのさまざまな仕事をしています。主な仕事の一つが資し金きん集めです。私わたしたちの子ども食しょく堂どうや学習支し援えん室しつでは、利用者の子どもからお金は一いっ切さい受け取っていません。運うん営えいに必要なお金は、活動に賛さん同どうしてくださる人たちからの寄き付ふ金きんや行ぎょう政せい・財ざい団だん法ほう人じんの助成金などでまかなっているのです。子どもたちに配るジュースや料理の食材といった寄き付ふ品ひんをいただき、子ども食しょく堂どうで使うこともあります。
寄き付ふをいただくためには、まずは私わたしたちの活動を世の中の人たちに知ってもらう必要があるので、ホームページやSNSでの情じょう報ほう発信は欠かせません。助成金をもらうために申しん請せい書類を作ったり、お金をどのように使ったかという報ほう告こく書しょを作って提てい出しゅつもします。寄き付ふ金きんや寄き付ふ品ひんを受け取ったり、活動に必要な食材や調理器具の買い付けをしたりすることも日々の仕事です。

子ども食しょく堂どうや学習支し援えん室しつは、ご飯を食べたり勉強をしたりする以外に、子どもたちにとって「困こまったときにかけこめる場所」という役やく割わりも担になっています。そのため、子どもたちと話をすることも大切な仕事だと思っています。話をする中で、友達関係の悩なやみや、家での悩なやみなどの相談を受けることがあるのです。その一つ一つの悩なやみを聞きながら、一いっ緒しょに解かい決けつ策さくを考えます。
中には、家族以外の大人が間に入って問題解かい決けつをしなくてはならないようなこともあります。例えば親から暴ぼう力りょくを受けていたり、生活の世話をしてもらえなかったり、貧ひん困こんにより生活自体が苦しかったり、心身の健康を損そこなうような状じょう況きょうに陥おちいっていたり、学校と信しん頼らい関係が築きずけなかったりする場合もあります。
そういった深しん刻こくな相談を受けたときは、学校や児童相談所と協力しながら状じょう況きょうの改かい善ぜんに努めます。子どもの保ほ護ご者しゃと話をしたり、子どもを自じ宅たくで一時的に預あずかったりすることもあります。家庭が抱かかえる複ふく雑ざつな事じ情じょうに耳を傾かたむけながら話を前に進めたり、子どもを預あずかるために保ほ護ご者しゃや行ぎょう政せいと頻ひん繁ぱんに連れん絡らくを取り合ったりするのは簡かん単たんな仕事ではありません。でも、私わたしたちを頼たよってきてくれた子どもたちを守るために、できることに一つずつ取り組んでいるのです。

活動を続けていると、うれしいこともたくさん経けい験けんできます。例えば、見ず知らずの人が「ホームページを見ました」と電話やメールで寄き付ふを申し出てくれたり、企き業ぎょうの人が食しょく堂どうに必要な食器や電化製せい品ひんを寄き付ふしてくれたりすることがあります。寄き付ふは子ども食しょく堂どうや学習支し援えん室しつを運うん営えいする上でとても助かりますし、何より子どもたちのことを思って寄き付ふを申し出てくれるその気持ちがうれしいのです。つらい現げん実じつを目まの当あたりにして胸むねが苦しくなることもありますが、協力者が現あらわれると「世の中、捨すてたもんじゃないね！」なんて思えます。
子どもたちの成長を実感できることもこの仕事の醍だい醐ご味みの一つです。学習支し援えん室しつで勉強していた子が都立高校に合ごう格かくしたり大学に進学したりと結果が出たときは、スタッフみんなで喜よろこびます。小学6年生のときから子ども食しょく堂どうに来ていた子が大学に入学して、学習支し援えん室しつの講こう師しになってくれたときは、まるで恩おん返がえしをしてもらったようでうれしかったです。そして子どもやその保ほ護ご者しゃから、「ここに子ども食しょく堂どうがあって本当によかった」と言われるのは、この上ないご褒ほう美びです。私わたしたちの子ども食しょく堂どうが地ち域いきに溶とけこんで、みんなにとってほっとできる場所になっていると実感できると「続けていてよかったな」と思えます。

私わたしがこの仕事で大切にしていることは、いろいろな人との信しん頼らい関係です。何よりまず、子どもたちに私わたしたちを信しん頼らいできる大人として認みとめてもらい、困こまったときにSOSを出してもらえるような関かん係けい性せいを作る必要があります。そのためには普ふ段だんから子どもたちの話をしっかり聞いてコミュニケーションを取るように努めています。また、何かあったときに学校や行ぎょう政せいと協力し合えるよう、日ひ頃ごろから交流を図はかるようにしています。さまざまな人と信しん頼らい関係を築きずいておくことが、一人一人の子どもにとっての最さい善ぜんにつながるのです。
仕事をする上で大切にしているもう一つのことは、活動を継けい続ぞくすることです。私わたしたちの活動が地ち域いきから必要とされているということは、ないとみんなが困こまるということでもあります。COCOROごはんは15人のスタッフが中心となり運うん営えいしていますが、誰だれかが休む日でも活動できるよう、常つね日ひ頃ごろからの情じょう報ほう共有は欠かしません。子ども食しょく堂どうを開いた日に何があったか、保ほ護ご者しゃからどんな意見が寄よせられたか、助成団だん体たいの方などの訪ほう問もん者しゃがある日はどのように対たい応おうするかなど、スタッフみんなが運うん営えい状じょう況きょうを知っておくことで、何があっても対たい応おうできる体たい制せいを整えています。

私わたしは、20代のときに結けっ婚こんをして滝たき野の川がわに引ひっ越こしてきました。子どもが生まれてからは、地ち域いきをよくしようとさまざまな市民活動をやってきました。親子で生の舞ぶ台たいを鑑かん賞しょうしたり、外で思いっきり遊ぶ「子ども劇げき場じょう」という団だん体たいで運うん営えい委員長をしたり、女じょ性せいが社会で活かつ躍やくすることを後あと押おしする組そ織しきで30年近く運うん営えいメンバーを務つとめたり、子どもの小学校でPTAの会長をしたりもしてきました。そんなふうに地ち域いき貢こう献けんの仕事を続けていたところ、犯はん罪ざいや非ひ行こうに走った人の立ち直りを手助けする民間のボランティアである保ほ護ご司しに推すい薦せんされ、保ほ護ご司しの仕事をするようになったのです。
保ほ護ご司しは、犯はん罪ざいを起こしてしまった人が更こう生せいできるように、定期的に本人と会って生活の様子を聞き、困こまっていたら助言をするのが仕事です。関わった人が無事に更こう生せいすることもあれば、残念ながら再ふたたび犯はん罪ざいに手を染そめてしまう場合もあります。
犯はん罪ざいを起こした理由や背はい景けいはさまざまですが、中には子どものころに経けい済ざい的てき貧ひん困こん、 虐ぎゃく待たい、愛あい情じょう不足などを経けい験けんし、大人に不信感をもっていることが少なくありません。こうなる前に、地ち域いきの信しん頼らいできる大人に相談できたらいいのに、とよく思います。子ども食しょく堂どうを始めた背はい景けいには、そういう思いもありました。

私わたしは宮城県の出身です。小学生のころからはっきりと意見を言い、クラスにいじめられている子がいるといじめている子と取っ組み合いのけんかになってでも守るような正せい義ぎ感かんの強い子どもでした。理り不ふ尽じんな思いをしている人を見ているのが我が慢まんならなかったのです。
勉強はしっかりとしていた方ですが、外でドッジボールをして遊んだり読書をしたりすることも好きでした。親の勧すすめでピアノ、習字、日本舞ぶ踊ようといった習い事もしていました。ちょっと苦手に感じる習い事もありましたが、大人になった今、「どの習い事もやっておいてよかったな」と感じています。子どものころに積んだ知ち識しきや経けい験けんをベースに、趣しゅ味みとして劇げき場じょう通いを楽しんだり、バンドや鍵けん盤ばんハーモニカでアンサンブルを楽しんだりできているからです。毛筆で看かん板ばんや表ひょう示じ板ばんを作ることもできるんですよ。子どものころに習ったことが、大人になって技ぎ術じゅつを磨みがいて、心の安定や友達づくりに役立ったりしているのです。
上京して大学に進学してからは、社会で起きている出来事や事じ件けんを目まの当あたりにして思おもい悩なやむこともありました。生まれ育った境きょう遇ぐうが違ちがえば価か値ち観かんも考え方も違ちがう中で、お互たがいの主しゅ張ちょうにどう折り合いを付けるべきか……など、ずいぶんと考えたものです。そんな悩なやみの解かい決けつの糸口になったのが、一人で行った海外旅行でした。私わたしはガイドブックを片かた手てにリュックサックを背せ負おい、列車でロシアを横おう断だんしたり、ヨーロッパを鉄道旅行したりしました。旅先で、国こく籍せきも人種も民族も宗しゅう教きょうも異ことなるいろいろな人に出会う中で視し野やが広がり、「いろいろな人がいて、違ちがって当たり前。共通点をさがせばいい」と思えるようになったのです。大学卒業後は家業を手伝うために実家に戻もどって経けい理りなどを手伝い、結けっ婚こんを機に東京に戻もどり、市民活動に関わっていくようになりました。

子ども食しょく堂どうは全国各地にあり、社会貢こう献けん活動として主に地ち域いき住民の有ゆう志し、NPO法人などによって運うん営えいされています。私わたしも、市民活動をする中でできた地ち域いきの仲間に声をかけて、2016年11月に滝たき野の川がわ子ども食しょく堂どうを始めました。子ども食しょく堂どうを始めるにあたり、特別な資し格かくや届とどけ出では必要ありませんが、食しょく堂どうが安全に運用できるよう地ち域いきの保ほ健けん所じょにアドバイスをもらいに行くなどの事前準じゅん備びは必要です。そのほか、地ち域いきで何が必要とされているかを知っておくことや、長く続けるために若わかい世代のスタッフを増ふやしていく必要もあります。滝たき野の川がわ子ども食しょく堂どうには、学生ボランティアも参加してくれています。彼かれらは調理の補ほ助じょに加えて、子ども好きの優やさしい子ばかりなので、近い将しょう来らいのロールモデルになってくれています。
この記事を読んでいるみなさんには、学校や家だけではなく、それ以外の居い場ば所しょを見つけることをおすすめします。学校や家に居い心ごこ地ちの悪さを感じたら、気の合う仲間が集つどう場所にかけこめばいい。そこで気持ちを落ち着けたり、誰だれかに相談したりすると心がずいぶん楽になると思います。そんな居い場ば所しょになれるよう私わたしたちは頑がん張ばりますし、いつかみなさんが大人になったら私わたしたちの仲間になってくれるとうれしいです。