私（わたし）は，川崎（かわさき）市の南部市場で，冷凍（れいとう）のエビやイカを扱（あつか）う，仲卸（おろし）の会社を経営（けいえい）しています。仲卸（おろし）とは，全国から市場に集められた食材を仕入れて，街中の飲食店やスーパーに販売（はんばい）するお店のことです。つまり私（わたし）のお店は，皆（みな）さんが飲食店で注文する，エビフライやイカのお寿司（すし）などの具材を販売（はんばい）しているというわけです。また私（わたし）は，市場で仕入れた食材を使って，自分でも飲食店を３店開いています。私（わたし）は，仲卸（おろし）と飲食店とを経営（けいえい）する社長として，合わせて２０名ほどの社員をまとめる役割（やくわり）を担（にな）っています。

市場が始まる時間はとても早く，毎朝５時頃（じごろ）に起きて６時にはお店に到着（とうちゃく）し，９時頃（じごろ）までお店に来られたお客様に冷凍（れいとう）食品を販売（はんばい）します。お客様は，川崎（かわさき）や都内・横浜（よこはま）の飲食店の方が多いです。その後は，市場の近くに出店したそば屋に出向き，午後２時頃（じごろ）まで仕込（しこ）みや調理・接客（せっきゃく）をします。それが終わると，車で銀行を回って，前日に売り上げたお金を入金したり，仕入れにかかったお金を振（ふ）り込（こ）んだりします。市場の仲卸（おろし）の店に帰ってきたら，売れて残りが少なくなった商品を，市場の中にある卸（おろし）の店に内線電話で注文します。その後，午後６時頃（じごろ）まで売上伝票などの事務（じむ）書類を作成します。伝票とは，何を・どのくらい・いくらで・誰（だれ）に売ったかを記録するための書類で，一日に記入する伝票の枚数（まいすう）は２００枚（まい）以上にもなります。夕方以降（いこう）は，都内に出店した別の飲食店に出向き，夜１２時まで調理場で皿洗（さらあら）いをしながら，社員や店の様子を確認（かくにん）します。自宅（じたく）に帰るのは夜２時頃（じごろ）なので，毎日寝（ね）る暇（ひま）もないほど忙（いそが）しいですね。

毎日たくさんの仕事がありますが，少しでも時間が空いた時は，いつも社員のこと・お金のことを考えています。社員にはできるだけ気持ちよく働いて欲（ほ）しいので，社員の仕事は上手くいっているか・やる気を出しているかだけでなく，家族との仲は良いか・家族は会社をどう思っているかといったことまで気にしています。また，会社を倒産（とうさん）させずに大きくしていくには，お金を貯めたり，借りたりしなくてはなりません。将来（しょうらい），どのようなお店を新しく出店したいのか，そのためにはいくらお金が必要なのか。お客様から頂（いただ）いた売上から，仕入れにかかったお金や税金（ぜいきん）を引いて，残ったお金を貯めていくと，いつ必要なお金が揃（そろ）うのかを考えています。このように，社員のこと・お金のことを常（つね）に考え続けるのが，社長としての役割（やくわり）だと思っています。

仕事をしていて達成感を感じるのは，売上を伸（の）ばすために考えた新しい試みが，見事に成功した時ですね。例えば昨年は，年輩（ねんぱい）の方向けに，お正月に合わせた豪華（ごうか）詰（つ）め合わせセットの販売（はんばい）を計画しました。年輩（ねんぱい）の方は暦（こよみ）を大事になさいますから，お正月に立派（りっぱ）なお祝いの食事を求めているだろうと考えたのです。また，年輩（ねんぱい）の方はインターネットを使えない方もたくさんいらっしゃるので，あえてウェブサイトではなくファックスで申し込（こ）みを受け付けることにしました。結果はなんと予想の５倍以上の大ヒット。ひっきりなしに問い合わせや申し込（こ）みの電話がかかってきたのです。「やった，これはすごいぞ！」と盛（も）り上がりました。

商売とは，物とその価値（かち）に等しいお金を交換（こうかん）することですから，本来は売る人と買う人の立場は対等であるはずです。しかし今の世の中は，昔に比（くら）べて不景気で，物が売りにくいことから，買う人の立場の方がやや強くなっているように感じます。ですが，何でもかんでもお客様の言うことをきくのでは，物を売る人が充実（じゅうじつ）した気持ちで働くことはできません。だからと言って，お客様を大切にしなければ，物を売ることはできません。そこで私（わたし）は，お客様に文句（もんく）を言わせないだけの品質（ひんしつ）・値段（ねだん）の商品を提供（ていきょう）することを目指しています。プロの商売人として，ただ安いだけの商品を売るのではなく，お客様の方から「ぜひ買いたい」と言って頂（いただ）けるような，価値（かち）のある商品を提供（ていきょう）していきたいですね。

飲食店を開くと決めたのは，大学生の時です。大学では建築（けんちく）について勉強していたのですが，就職（しゅうしょく）活動をする時に，小さい頃（ころ），フグ屋の社長をしていたおじさんが親戚（しんせき）にいて，憧（あこが）れていたのを思い出したのです。飲食店を開くなら板前さんを雇（やと）う必要があり，食材の仕入れに詳（くわ）しければ板前さんをまとめていけると考え，築地（つきじ）市場の卸（おろし）の会社に就職（しゅうしょく）を決めました。卸（おろし）の仕事は，市場に食材を集めてくること。築地（つきじ）は日本最大の市場で，全国の港を巡（めぐ）って仕入れを学ぶことができ，また，せり人として，何十人もの買い手の前でせりを開催（かいさい）するなど，大変勉強になりました。築地（つきじ）で６年働いた後，まだ飲食店を開く自信がなかったので，飲食店と直接（ちょくせつ）商売をしている仲卸（おろし）のお店を出して，飲食店の考え方を学ぶことにしました。それが現在（げんざい）の川崎（かわさき）のお店で，それから５年経（た）ってようやく飲食店をオープンすることができました。仲卸（おろし）のお店を始めてから今年で１８年になりますが，まだまだ会社を大きくしていきたいですし，苦労は絶（た）えません。

私（わたし）は川崎（かわさき）市に生まれ，ずっと地元で育ってきました。子どもの頃（ころ）はガキ大将（だいしょう）で，野球ばかりしていたことを覚えています。小学校３年生の頃（ころ）から町内会の野球チームに入り，野球仲間と近所の公園や空き地で遊んでいました。運動が好きで，得意な科目は体育。苦手な科目は音楽でした。中学校では柔道（じゅうどう）部に入り，厳（きび）しい上下関係の中で部活漬（づ）けの日々（ひび）を送りました。

皆（みな）さんには，諦（あきら）めずに続けることを努力できる人になってほしいです。勉強でも部活でも，そして商売でも，苦しい時・投げ出したい時がたくさん出てきます。必ずしも全ての努力が報（むく）われるではありませんが，それでも何とか踏（ふ）ん張（ば）ってみてください。諦（あきら）めずに続けていれば，きっと見えない何かがついてきます。そして時には，助けてくれる人も出てくるはずです。また，スポーツや学校生活を通じて，団体（だんたい）の中での振（ふ）る舞（ま）い方を学んでほしいです。私（わたし）は社会に出て働く時に，柔道（じゅうどう）部で学んだ上下関係の厳（きび）しさがとても役に立ちました。そして同じ団体（だんたい）で共に頑張（がんば）った友人は，将来（しょうらい）も助け合える良い仲間になると思います。