私わたしは，長なが崎さき県けんの大おお島しまにある，大おお島しま造ぞう船せん所しょで働いています。大おお島しま造ぞう船せん所しょは，おもに「バルクキャリア（バルカー，ばら積み貨物船）」と呼よばれる大型貨物船を建けん造ぞうしている造ぞう船せん所じょです。
日本では，鉄で船を造つくる造ぞう船せん業ぎょうは明治時代に始まりました。日本は，1950年代半ばから90年代まで造ぞう船せん量りょうが世界一だった造ぞう船せん大たい国こくなんです（現げん在ざいは，中国や韓かん国こくに抜ぬかれて3位）。そんな歴史の中で，大おお島しま造ぞう船せん所しょは1973年に創そう立りつされた，比ひ較かく的てき，若わかい造ぞう船せん会社です。
私わたしのおもな仕事は，造ぞう船せんの「工こう程てい管理」です。船を造つくるには，鉄板のパーツを溶よう接せつでつなぎ合わせたり，船内に配管や電線を巡めぐらせたり，塗と装そうしたりと，数多くの工こう程ていが必要です。どの工こう程ていにどれくらいの時間と人をかければ効こう率りつ的てきに作業できるか計画を立て，工場の各かく部ぶ署しょで働く人の数や働く時間，作業の流れなどを調整するのが私わたしの仕事です。
大おお島しま造ぞう船せん所しょの工場では2000人以上の人が働き，1年間に約40隻せきの大型貨物船を造つくっています。1隻せきの船を造つくるには，約8か月かかります。造つくり始めの船から完成間近のものまで，工場の中では常つねに27隻せき前後の船の作業が並へい行こうして行われており，鉄板の溶よう接せつ，配管や塗と装そうなど，いくつもの作業部ぶ署しょに分かれています。船をスムーズに建けん造ぞうできるよう，私わたしはそれぞれの作業部ぶ署しょとコミュニケーションをとりながら，工場全体の作業の流れに目を配っています。
また，私わたしは工場全体の工こう程てい管理に加えて，設せつ備び投とう資しの予算を立てる仕事もしています。作業の効こう率りつ化かやコスト削さく減げんのために，工場の建物や機械類などの設せつ備びは定期的に新しくしたり，買かい替かえたりしますが，そのためにどこにどれくらいお金をかけるかを計画する仕事です。

年間約40隻せきという建けん造ぞう量りょうは，日本の造ぞう船せん会社ではトップクラスです。大おお島しま造ぞう船せん所しょには大きく2つの強みがあります。
1つ目は，「バルクキャリア（バルカー）」と呼よばれる大型貨物船を専せん門もんに造つくっていることです。バルクキャリアは「ばら積み貨物船」ともいい，鉄てっ鉱こう石せきなどの鉱こう石せき類るいや石炭，小麦などの穀こく物もつ，セメント，木材チップなどの梱こん包ぽうされていない貨物を，じかに船倉に入れて運ぶタイプの船です。大おお島しま造ぞう船せん所しょではバルクキャリアに特化することで，造つくる船のタイプを減へらしています。そうすると同じパターンの作業が多くなるため，効こう率りつ的てきに建けん造ぞうができるのです。「バルクの大おお島しま」として，世界でも定てい評ひょうがあります。
国こく際さい航路の貨物船には，いくつかのサイズの規き格かくがあります。たとえば「パナマックス」は，2016年に拡かく張ちょうされる前のパナマ運うん河がを通とおり抜ぬけられる最大サイズ，長さ900フィート（約274ｍ），幅はば106フィート（約32ｍ）に近いサイズの船です。大おお島しま造ぞう船せん所しょではパナマックスサイズを含ふくめ，いくつかの型のバルクキャリアを造つくっています。
大おお島しま造ぞう船せん所しょの2つ目の強みは，ドックが大きく，同時に作業できる船の数が多いことです。造ぞう船せん所じょでもっとも特とく徴ちょう的てきな施し設せつは，海につながったドックです。ドックは巨きょ大だいな水すい槽そうのような形で，水門とポンプの操そう作さで海水を出し入れできます。造ぞう船せんの最後の工こう程ていは，ドックを使わないとできません。大おお島しま造ぞう船せん所しょのドックは深さ13m，長さ535m，幅はば80mで，とくに横よこ幅はばが広いため，パナマックスサイズの船を縦たて横よこに2隻せきずつ並ならべて，同時に4隻せきの作業ができるんです。国内の他の造ぞう船せん所じょでは，同時に2隻せきまでしか作業できないところがほとんどです。こうしたことが，年間約40隻せきの建けん造ぞうを可か能のうにしています。

大型船の船体は鉄でできており，ブロック工法という方法で建けん造ぞうします。まず2000枚まいの鉄板を切せつ断だんして，5万個このパーツを作ります。それらを熱で曲げたり溶よう接せつしたりしながら，パーツを組み合わせてブロックを作っていきます。さらに，ブロックどうしを組み合わせて，だんだん大きなブロックにしていきます。
5万個このパーツが60個このブロックにまでなったら，次に，エンジンルームに燃ねん料りょうや水のパイプや電線などの設せつ備びを取りつけます。このように，船の中に装そう置ちや設せつ備びを取り付けることを「艤ぎ装そう」といいます。さらに船体の塗と装そうも行ったら，またブロックどうしを組み合わせ，最終的に18個この巨きょ大だいなブロックにします。
ここからはドックでの作業に移うつります。ドックには，最大1200トンの物を吊つり上あげられる巨きょ大だいなゴライアスクレーンが2基きあり，これで巨きょ大だいなブロックを吊つって移い動どうさせます。18個このブロックを溶よう接せつして，船の形に組み立てます。さらにエンジンやプロペラなどを設せっ置ちして甲こう板はんを張はり，操そう舵だ室しつや居きょ室しつの内ない装そうや設せつ備びを整え，貨物を積んだり揚あげたりするためのクレーンやコンベアを乗せます。ドック作業に入ってから約26日で，船として動く状じょう態たいになったらドックに注水して，船を水に浮うかべます。これを「進水」といいます。
進水したら，ドックの外の岸がん壁ぺきに船を出して，試運転や機械類の調整をし，最後に甲こう板はん上じょうの塗と装そうを仕上げます。これで船は完成です。船主や地元の住民の方々を招まねいて華はなやかな命めい名めい引ひき渡わたし式しき（船に命名し，船主に引ひき渡わたすセレモニー）を行ったら，その日のうちに出航です。約8か月をかけてでき上がった船は，大おお島しま造ぞう船せん所しょを離はなれて，世界の海へと旅立っていきます。

作業工こう程ていの計画は，あらかじめ決められている納のう期きから逆ぎゃく算さんして，各かく工こう程ていの作業日数と人員数を割わり振ふりします。しかし，貨物船の型によって工こう程ていはパターン化されているので，それほどむずかしい仕事ではありません。
むしろ気を配るのは，現げん場ばへの情じょう報ほうの伝え方です。貨物船の型はほぼパターン化されているとはいえ，注文によって船のサイズや居きょ室しつのデザインなど，設せっ計けいに多少の違ちがいがあります。設せっ計けいや営えい業ぎょう担たん当とうからその情じょう報ほうを受け取り，工場の現げん場ばに伝えるのは私わたしの仕事です。情じょう報ほうの橋はし渡わたし役ですね。現げん場ばとのコミュニケーションのとり方については，いつも考えています。
もちろん自分がミスをしないことも，いつも肝きもに銘めいじています。私わたしが作った作業計画にミスがあれば，現げん場ばに大きな迷めい惑わくをかけてしまいます。以前，設せっ計けいの先せん輩ぱい社員から「手で描かいた線は，何度でも描かき直せる」と，いわれたことがあります。つまり，計画段だん階かいなら何度でも作り直せるのだから，慎しん重ちょうすぎるぐらいに何度も見直してミスを防ふせぎなさい，という教えです。現げん場ばは工場内でもエアコンはなく，ドックなど屋外の作業もあります。溶よう接せつの火を使うので夏にはとても暑く，高所や大型機械が動く場所での作業には危き険けんもあります。そんな厳きびしい現げん場ばで働く人たちに迷めい惑わくをかけないよう，私わたしは徹てっ底ていしてミスを出さないよう，自分に厳きびしく仕事をしたいと思っています。

むずかしいのは，計画になかった変へん更こうが出た際さいの調整です。2000人以上が働く工場では，時折，ミスも発生しますし，船主から急な注文が入ることもあります。甲こう板はんを張はった後で，「大おお型がた洗せん濯たく機きを船室に入れたい」という船主の注文があり，通つう常じょうの出入り口から運びこめるサイズではなかったので，わざわざ甲こう板はんに穴あなを開けて洗せん濯たく機きを入れたこともありました。
このような場合，ミスや変へん更こうがあった部ぶ署しょの作業が増ふえるだけでなく，前後の部ぶ署しょにも影えい響きょうがおよびます。たとえば，ミスのあった部ぶ署しょの前の部ぶ署しょに部品を作り直してもらうことがあるし，後ろの部ぶ署しょでは作業がストップしてしまいます。私わたしは，納のう期きに間に合うよう工こう程ていの計画を立て直しますが，やり直しの作業や遅おくれを取とり戻もどすために，現げん場ばには休日と出しゅっ勤きん日びを入いれ替かえてもらうこともあります。そこで，影えい響きょうのある部ぶ署しょには，私わたしからていねいに状じょう況きょうを説明して，調整のお願いをします。その際さい，言葉の使い方にはとても気をつかいますね。現げん場ばの人たちに納なっ得とくしてもらえるよう，相手の気持ちになって誠せい実じつに話すことを心がけています。

造ぞう船せん所じょは，生産する製せい品ひんの数がとても少ないんです。たとえば自動車工場や電気製せい品ひんの工場だったら，年間に何万台も何十万台も生産するのでしょうが，大おお島しま造ぞう船せん所しょが造つくるのは年間たった40隻せきです。だからその分，1隻せき1隻せきの船への愛着が強く，思い出も多いんです。また，会社の仲間たちと「あの船にはあんな苦労があった」とか「あの時の工く夫ふうはうまくいった」などと，共通の話で盛もり上あがれるのも楽しいですね。
それから，多くの人の日にち常じょう生活を支ささえる仕事だという誇ほこりもあります。大型貨物船は一いっ般ぱんの人の目には触ふれにくいかもしれませんが，火力発電の燃ねん料りょうの石炭や，パンや麺めん類るいの原料になる小麦，紙パルプの原料になる木材チップなど，生活に欠かせないものを運んでいます。私わたしたちが造つくる貨物船は，大切な縁えんの下したの力持ちだという誇ほこりがあり，これが働く喜びにもなっています。

私わたしは長なが崎さき県けんの五ご島とう列れっ島とうの，福ふく江え島じまの出身です。父は漁りょう師しですが，息むす子こたちに「漁りょう師しになれ」とはいいませんでした。私わたしは機械いじりが好きだったこともあり，大学は工学部に進みました。就しゅう職しょく先さきは工こう業ぎょう系けいの会社を考えましたが，ジャンルにはこだわらず，実家に近い会社に就しゅう職しょくしようと思いました。長なが崎さき県けん内ないの会社を探さがしていると，長なが崎さき市しの三みつ菱びし重じゅう工こう長なが崎さき造ぞう船せん所じょに勤つとめている兄が，大おお島しま造ぞう船せん所しょのことを「バルクキャリア専せん門もんという個こ性せいがあって，建けん造ぞう隻せき数すうも伸のばしている元気な会社。工場が1か所だから転てん勤きんもなさそうだよ」と，教えてくれ，興きょう味みをひかれて入社試験を受け，入社することになりました。
最初に配はい属ぞくされたのは，「小こ組ぐみ」の工場でした。「小組」とは，5万個このパーツから4000個このブロックを組み立てる，船体の組み立ての最初の工こう程ていです。この工場の工こう程てい管理を担たん当とうしました。工場は暑いので汗あせをだらだらかき，現げん場ばの人たちと接せっしながら作業の様子をよく見て，現げん場ばの空気を体に叩たたきこみました。この経けい験けんが，今の工こう程てい管理の仕事の土台になっていると思います。

私わたしは島育ちなので，海も山も楽しい遊び場でした。きょうだいや友だちと一いっ緒しょに，面おも白しろいことを見つけては，遊びにしていたように思います。釣つりは小さいころからやっていて，10歳さいごろからは潜もぐって貝などをとるようになりました。母に「海に遊びに行ってくる」というと，「おかずをとってきてね」と，バケツを渡わたされたものです。
山やまの幸さちの思い出は，アケビの仲間のムベの実です。とても甘あまいんです。少し青いうちにとって，学校の砂すな場ばに何日か埋うめておくと，熟じゅくして美お味いしくなるんです。
外遊びだけでなく，ラジオの分ぶん解かいと組み立てや，プラモデルづくりにも夢む中ちゅうになりました。プラモデルはモーターつきの戦せん艦かん大和やまとなど船が好きで，完成したらお風ふ呂ろに浮うかべていましたね。今思うと，子どものころから船は好きだったのかもしれません。

みなさんには，いろんな人と会話をして，コミュニケーションの能のう力りょくをみがいてほしいと思います。どんなに頭がよくても，人とコミュニケーションがとれなければ，頭ず脳のうを生かすことはできません。学校の友だちだけでなく，なるべく幅はば広ひろい人たちと積極的に会話してみることで，コミュニケーションの能のう力りょくは育つと思います。
コミュニケーションをとるには，相手の気持ちになってみることが大事です。そのためには，相手の話を聞き，相手について知ることが欠かせません。私わたしも今の仕事で，現げん場ばの人に情じょう報ほうを伝えたり，日にっ程ていの調整をお願いしたりするときには，その部ぶ署しょの状じょう況きょうをよく見て相手の話を聞いた上で，こちらの話をするように心がけています。
私わたしは今でも，ひたすら会話の努力を重ねています。思ったことを伝えるのに，伝え方ひとつでうまくいくこともあれば，失敗することもあります。みなさんがどんな仕事をするにせよ，コミュニケーション能のう力りょくは必要です。今のうちからどんどん，コミュニケーションにチャレンジしてみてください。