私わたしは、東京都足あ立だち区で「株かぶ式しき会がい社しゃデュコル」という会社を経けい営えいしています。私わたしたちの会社には大きく「環かん境きょう設せつ備びに関する事業」と「遠心粉ふん末まつ製せい造ぞう装そう置ち事業」という２つの事業があります。
１つ目の「環かん境きょう設せつ備びに関する事業」は、工場やごみ処しょ理り場じょうなどに、空気を浄じょう化かする設せつ備びを設せっ置ちする仕事です。「大きな空気清せい浄じょう機きを設せっ置ちする仕事」というとイメージしやすいでしょうか。工場やごみ処しょ理り場じょうでは作業の中で、人の体に有害な粉ふん塵じんが出てしまったり、悪あく臭しゅうが出てしまったりすることがあります。そのままでは働いている人たちの健康が損そこなわれますし、工場や処しょ理り場じょうの周辺環かん境きょうも悪化してしまいます。そういった場合に空気をきれいにする装そう置ちを取り付け、安全で快かい適てきな労働環かん境きょうをつくるとともに、周辺の環かん境きょうも守るのが私わたしたちの役やく割わりです。
例えば、コンビニエンスストアで販はん売ばいするお弁べん当とうに炭火焼きの肉を入れたい、でも工場で炭火を使うと他の場所にも煙けむりや臭においが流れてしまい、お肉以外の食べ物に臭においがついてしまう……という相談を受けたことがあります。そこで私わたしたちは、炭火焼きの機械のところに、煙けむりや火ひの粉こを防ふせぐことができる設せつ備びを取り付けることをご提てい案あんしました。今では全国のそのコンビニエンスストアの工場で、私わたしたちが提てい供きょうした設せつ備びが活かつ躍やくしています。

もう１つの「遠心粉ふん末まつ製せい造ぞう装そう置ち事業」というのは、遠心力を使って非ひ常じょうに小さな金きん属ぞくの粉こなを作り出す機械を製せい造ぞう・販はん売ばいする事業です。私わたしたちが製せい造ぞう・販はん売ばいしている機械では、髪かみの毛けの細さよりももっと小さな金きん属ぞくの粉こなを作り出すことができます。この金きん属ぞくの粉こなは今、さまざまな最さい先せん端たん技ぎ術じゅつに欠かせないものになっています。
例えばスマートフォンをはじめ、私わたしたちが日にち常じょう的てきに使っている電子機器は小こ型がた化かが進んでいるので、配線の際さいに、金きん属ぞく同どう士しを接せっ着ちゃくしたり、電子部品を基き板ばんに固定したりするための「はんだ付け」も非ひ常じょうに細かな作業になります。そのため、「はんだ（スズと鉛なまりの合金）」をとても細かい粉こなにしたものを用いて「はんだ付け」を行い、精せい密みつな部品を作り出しているのです。
また、機械などの開発分野では「３Dプリンター」を使って金きん属ぞくの部品を作り、研究開発に生かすということが現げん在ざい、日にち常じょう的てきに行われています。これまでは、金きん属ぞくの部品を１つ作ろうと思うとそのために金かな型がたを作らねばならず、工こう程ていがいくつも必要でした。しかし３Dプリンターを使うと、パソコンと３Dプリンターだけで金きん属ぞく部品の試作品を作ることができます。この際さいに粉ふん末まつ状じょうにした金きん属ぞくの粉こなが必要になり、どんな金きん属ぞくのどんな大きさの粉こなを使うかが、仕上がりを左右することになります。そのため、大きな企き業ぎょうでは私わたしたちの販はん売ばいする遠心粉ふん末まつ製せい造ぞう装そう置ちを購こう入にゅうし、必要な金きん属ぞくの粉こなを自分たちで開発・生産しています。
日本ではこの遠心粉ふん末まつ製せい造ぞう装そう置ちを製せい造ぞう・販はん売ばいしているのは私わたしたちの会社だけで、他社ではできないことをしているのが自じ慢まんです。

環かん境きょう設せつ備びに関する事業は日本全国から問い合わせがあり、実じっ際さいに現げん場ばを見ないとどういう設せつ備びを入れれば解かい決けつするかがわからないので、私わたし自身は出しゅっ張ちょうで全国を飛び回っています。会社にいるのは月の半分くらいでしょうか。実じっ際さいに現げん場ばを見て大おお枠わくを決めてから、あとは社員に引ひき継つぐという形で仕事を進めています。
時代や法令の変化もあり、「労働者の働く環かん境きょうをよくしたい」という事業者からの要望が増ふえています。工場を新しく建てるときに相談を受けることもあれば、既すでに稼か働どうしている工場に新たに設せつ備びを導どう入にゅうするという場合もあるのですが、後者の場合はどうしても工場が稼か働どうしていないときに私わたしたちが作業をすることになります。そのため、年末年始や大おお型がた連休、お盆ぼんといった、他の人たちが休んでいる時期が繁はん忙ぼう期きになります。また、そうなると、とても暑いときか、とても寒いときの作業が多くなるので、それが大変なところです。
また、遠心粉ふん末まつ製せい造ぞう装そう置ち事業に関しては、機械の開発だけでなく、弊へい社しゃにある機械をお客さまに実じっ際さいに見ていただき、ご説明するのも私わたしの仕事です。最近では海外、特に中国や台たい湾わんなどからも、この機械が欲ほしいという要望が多く、国外から足を運んでくださる方々も多くなっています。

仕事で苦労していることは人手不足です。工業の分野はどうしても今の若わかい人たちには人気がなく、なり手が不足しています。その分、一人一人の負ふ担たんがどうしても増ふえてしまいます。そのため、なるべく社員みんなに快かい適てきに働いてもらうことができるよう、残業を減へらすなど、いろいろと工く夫ふうをしています。地方出しゅっ張ちょうが多いという点で苦労をすることもありますが、なかには出しゅっ張ちょう先さきでおいしいものを見つけることを楽しみにしている社員もいるようです。
苦労も多いですが、やりがいも大きな仕事です。特に環かん境きょう設せつ備びの改かい善ぜんに関する仕事は、基き本ほん的てきには「今、労働環かん境きょうが悪化して困こまっている」というお客さまが相手となります。私わたしたちのご提てい案あんで環かん境きょうが改かい善ぜんすることで、そこで働いている方にも、経けい営えい者しゃの方にも喜よろこんでいただけます。そういった喜よろこびの声を聞かせていただけるのが、何よりもうれしいです。また、私わたし自身がエンジニアでもありますから、他社が解かい決けつできなかった問題を私わたしたちの会社が解かい決けつできた、という場合にも、大きな喜よろこびを感じます。

会社として大切にしていることに、「技ぎ術じゅつでお客さまに貢こう献けんし、共に成長し合う」という理念があります。例えば、お客さまのところに伺うかがったときに、実は私わたしたちの設せつ備びを導どう入にゅうしなくても、工く夫ふう次し第だいで問題が解かい決けつできる場合があります。そういう場合には、無理に設せつ備びを売ろうとするのではなく、解かい決けつ方法をご提てい案あんするようにしています。なぜなら、そういったお客さまは、また何か困こまったことがあれば、次回も私わたしたちに相談してくれるからです。
私わたしたちの仕事では、お客さまに信しん頼らいしてもらうことがとても重要です。なぜなら、お客さまが信しん頼らいしてくれないと、本当に困こまっていることを話してもらえないことがあるからです。例えば粉ふん塵じんや悪あく臭しゅうが出てしまっている、汚お水すいが漏もれているなど、環かん境きょうが悪いという状じょう況きょうは、多くのお客さまにとって、あまり話したくないことです。しかし、現げん状じょうの問題点をきちんと話してもらわないと、私わたしたちも本当に必要な設せつ備びをご提てい案あんすることができません。よい設せつ備びを設せっ置ちして環かん境きょうを改かい善ぜんするためにも、お客さまにどれだけ最初から信しん頼らいしていただけるか、がカギになります。

大学卒業後は、大きな会社に所しょ属ぞくして、ペットボトルの材料になる樹じゅ脂しに関する研究をしていました。しかしバブルがはじけて不景気になり、私わたしのいた事業所がなくなってしまいました。その後、今の仕事にもつながる環かん境きょう設せつ備びの会社に転てん職しょくし、機械設せっ計けいのエンジニアになりました。今の会社で役に立っている知ち識しきは全てそこで学んだのですが、社長が代だい替がわりしたことをきっかけにいろいろと状じょう況きょうが変わったので、辞やめて自分で会社を立ち上げることにしました。最初の会社で、会社に所しょ属ぞくしていると、会社の決定でいろいろと振ふり回まわされてしまうことを実感したのも大きな理由です。前ぜん職しょくの会社で一いっ緒しょだった人たちを誘さそい、３人で立ち上げたのがデュコルです。
私わたし自身は大学で機械工学を学んだエンジニアですが、社員は全員が理り系けい出身というわけではありません。弊へい社しゃで設せっ計けいを担たん当とうしている社員にも、文ぶん系けい学部を卒業した後に「やはり機械が好きだから」という理由で就しゅう職しょくしてきた社員もいます。

小・中学生のころから車が大好きで、モーターショー（自動車の最新技ぎ術じゅつやデザインの見本市）に毎年、通うような子どもでした。漠ばく然ぜんと「車を作る人になりたい」という思いがあり、高校は工業大学の附ふ属ぞく高校に進学しました。勉強はあまり好きではなかったのですが、高校生のときに物理の先生が「何でもいいから自分で実験をしてレポートを出しなさい」という課題を出したことがありました。私わたしは、当時、通っていた学校のグラウンドの水はけが悪く、雨が降ふった後に水がひかないため運動会が何度も中止になっていたので、「なぜこのグラウンドはこんなに水はけが悪いんだろう」というのを調べることにしたんです。土を調べたり、「この土だと水が何分で流れるか」ということを実験したりしてレポートを提てい出しゅつしたところ、先生がとても褒ほめてくれ、「君は研究に向いている」と言ってくれました。この言葉とレポートでの体験がきっかけで、何か現げん象しょうを見て、どうやったら証しょう明めいできるか、ということを考えるのが好きなんだなと気がつき、研究者を目指すことにしました。

私わたしは、仕事は好きなことをした方がいいと思っています。何となくお金を稼かせぐためとか、生活のためと思って働くのは、結果的につらくなってしまう。もちろん、好きなことであってもつらいときはあると思いますが、それでも楽しんで仕事をしてほしいです。今、人工知ち能のうやAIといった技ぎ術じゅつがどんどん進化して、人間ができる仕事というのが、この先は少なくなってくると思います。しかし、その中でも「人間にしかできない仕事」は必ずあるはずなので、そういった仕事を、ぜひ楽しみながらやってもらえればと思っています。