私わたしは，岡おか山やま県けん真ま庭にわ市にある「銘めい建けん工業」という会社に所しょ属ぞくし，「ＣＬＴ」という新しい建けん築ちく材料を作る工場で，工場長をしています。「ＣＬＴ」は“Cross Laminated Timber”の略りゃくで，何なん枚まいもの木の板を，木の繊せん維いの方向が「縦たて・横」と順番になるように重ね，張はり合あわせて作る大きなパネルのことです。バランスゲームの「ジェンガ」のように，「縦たて・横」に木を積み重ねて作ります。いま，とても注目されている技ぎ術じゅつなんです。
ＣＬＴはもともと，ヨーロッパで広まった建けん築ちく材料で，日本でＣＬＴが使われはじめたのは，最近のことです。ＣＬＴの特とく徴ちょうは，木材にも関わらず，コンクリートと同じくらい，壊こわれにくいこと。たとえば，スギの木は，何も加工しなければ，あまり強い木材ではありません。でも，スギを加工してＣＬＴにすれば，高こう層そうのビルも建てられるくらい，強度が上がるんです。実じっ際さいに，既すでに海外ではＣＬＴとＲＣ（鉄てっ筋きんコンクリート造）と集しゅう成せい材ざいで18階建てのビルも建てられています。また，みなさんには，「木材は燃もえやすい」というイメージがあるかもしれません。でも，何なん枚まいもの板を重ねて作るＣＬＴは，とても厚あつくて，燃もえにくいんですよ。
地じ震しんにも，火事にも強いので，ＣＬＴはとても安全です。さらに，材料は木なので，建物の中に熱を通しにくく，熱を逃にがしにくいんです。そのため，ＣＬＴで作った建物の中では，夏も冬も，快かい適てきに過すごせます。

ＣＬＴを作るには，まず材料の木の板を「乾かん燥そう」させ，次に板を「加工」して板を組み合わせ，板と板をくっつける「圧あっ締てい」を行います。
まず，製せい材ざいされた木材を乾かん燥そう機きで乾かん燥そうさせます。乾かん燥そうさせた板は，かんながけをして形を整え，品ひん質しつに応おうじて，「ＣＬＴの表面に使えるきれいな木材」や「表面には使えないが，中身には使える木材」などに仕分けをします。次に，板どうしを繋つなぎ合あわせて，１本の長い板に加工します。長くなった板を，もう一度かんながけをして形を整え，長い板と短い板にカットします。
続いて圧あっ締ていです。木の繊せん維いの方向が「縦たて・横」と順番になるように，交こう互ごに，何重にも重ねあわせていきます。重ねあわせる板には，接せっ着ちゃく剤ざいをつけて，プレス機で１時間ほど押おしつけて，固定します。最後に，接せっ着ちゃく剤ざいが完全に乾かわくまで，丸1日養よう生じょうさせると，ＣＬＴができあがります。
完成したＣＬＴを，お客さまの注文に合わせて加工するのも，私わたしたちの仕事です。たとえば，「窓まどを取りつける部分を，くり抜ぬいておいてほしい」という注文があったとします。その場合，まずは機械で図面に合わせて形をくり抜ぬき，仕上げの細かい部分の加工と調整は，職しょく人にんさんがやります。そうやって，注文に合わせてＣＬＴを加工して，出しゅっ荷かするんです。

私わたしが工場長をしている工場では，私わたしを含ふくめて，約30名の従じゅう業ぎょう員いんが働いています。その全員を取りまとめるのが，私わたしの仕事です。
私わたしの一日の仕事は，その日に作るＣＬＴの生産量を決めることから始まります。前の日までの生産量をみて，毎日，予定を修しゅう正せいしていきます。生産量を決めたら，工場長として，工場の中がいつも安全であるように，管理するのが大切な仕事です。作業現げん場ばに顔を出して，機械が問題なく動いているかどうかを点てん検けんします。また，働いている従じゅう業ぎょう員いんの体調に問題はないか，なども確かく認にんします。
さらに，工場見学や，お客さんの対たい応おうなども，工場長の仕事です。今年（2017年）だけでも，8月までに2000人以上の方が，工場に足を運んでくれました。ＣＬＴはこれから発はっ展てんしていく技ぎ術じゅつです。ＣＬＴを普ふ及きゅうさせるために，多くの方にＣＬＴを知ってもらうことが，いま一番大事な仕事ですね。

昨年，2016年に，日本の法ほう律りつで，一いっ般ぱん的てきな建けん築ちく材料としてＣＬＴを使用することが認みとめられました。私わたしがいま工場長をしているＣＬＴ工場ができたのも，2016年。ＣＬＴも，私わたしたちの工場も，ようやくスタートラインに立ったばかりです。ＣＬＴは，これから世の中に広まっていく，新しい製せい品ひんであり技ぎ術じゅつです。今後，よりムダのない製せい造ぞう方法の開発やコストの削さく減げんなど，クリアしなければいけない技ぎ術じゅつ的てきな課題がまだたくさんあります。
国産ＣＬＴの使用を広めるためには，林業全体で協力していくことが必要だと思っています。今の日本の山には，使用されずに余あまっているスギがたくさんあります。そうしたスギをＣＬＴに加工して，どんどん有ゆう効こう活用していく。そうすれば林業全体に仕事が増ふえて，日本の林業も元気になります。余あまっているスギの木を伐ばっ採さいすれば，山には新しい木が植林できて，整せい備びされずに荒あれていた山の環かん境きょうも整えることもできます。つまり，環かん境きょうの面でもプラスになるんです。

ＣＬＴは，もともと，ヨーロッパで開発された技ぎ術じゅつです。私わたしたちがＣＬＴを作るようになるまで，日本でＣＬＴを作っている会社は，ひとつもありませんでした。ＣＬＴの作り方もわからなかったですし，ＣＬＴを使うための法ほう律りつもなかったんです。ですからヨーロッパに何度も行って，勉強に勉強を重ねてきました。
大変ではありますが，私わたしにとっては，そうした「誰だれも挑ちょう戦せんしたことがない仕事」を担たん当とうしていることが，とても楽しいです。いまは，ようやく，日本でＣＬＴを使用するための法ほう律りつもできて，ＣＬＴの実用のための準じゅん備びが整ったところです。私わたしたちの工場の機械も，国内に前例がないので特別に注文して作ったものだったり，新しいことばかりです。でも，自分たちが製せい造ぞうした新しい製せい品ひんが，これから世の中にどんどん広まっていくことを想そう像ぞうすると，とてもワクワクするので，がんばれるんです。

この仕事で絶ぜっ対たいにやってはいけないことは，「間ま違ちがい」をしてしまうことです。製せい造ぞうする品ひん質しつ・規き格かくの間ま違ちがいは，絶ぜっ対たいにあってはいけないし，ＣＬＴの加工を間ま違ちがえるわけにもいきません。なにより，私わたしたちが扱あつかっているのは，鉄などとは違ちがって，木という生き物です。同じ人間が二人といないように，同じ木は二つとないんです。そのため，木材を使えば，まったく一いっ緒しょの製せい品ひんを作ることは，絶ぜっ対たいにできないんです。そうした繊せん細さいな材料を使っていても，安定した品ひん質しつのものを提てい供きょうできるように，いつも気を引ひき締しめています。
特に，建物を作るためには，たくさんの人が関わりますし，お金も時間もかかるものです。普ふ通つうの人にとっては，家を買うのは，一生に一回の，とても大きな買い物になりますよね。そうした大切な買い物のために，私わたしたちの製せい品ひんが使われていくんです。だから，絶ぜっ対たいに，提てい供きょうする製せい品ひんに，間ま違ちがいがあってはいけません。

私わたしのうちは，山を持っていました。だから幼おさないころから山で遊んでいて，山や木が大好きでした。それで，将しょう来らいは木材に関われるような仕事をしたいと考えていたんです。
高校は，工業高校に通っていたので，林業に関することを学ぶことはできませんでした。また，当時は林業専せん門もんの大学や学部・学科が少なかったこともあって，大学に進学することはせず，就しゅう職しょくすることを決めました。私わたしは地元が大好きで，地元の企き業ぎょうに就しゅう職しょくしたかったのですが，タイミングよく，職しょく員いんを募ぼ集しゅうしていた今の会社を見つけて，就しゅう職しょくすることができました。大学などに通わなかった分，高校を卒業してから，この会社で働いた数年間は，本当に「学んでいる」という感覚でしたね。いろいろ学ばせてくれた会社には感かん謝しゃしています。

少年時代は活発で，わんぱくな子どもでした。夏休みは，ほとんど山や川で遊んでいました。川で魚を捕とったり，クワガタを捕とったり，山菜やキノコを採とって食べたり，そんなことばかりしていましたね。よく，夜になっても家に帰らなくて，親が山に入ってきて探さがしにきたりもしました。いつもズボンは泥どろまみれで，本当に，絵に描かいたような「田舎いなかの少年」でしたね。いまになって考えれば，そういった幼おさないころの体験が，この仕事に生きていると思います。山や木材が，大好きになりましたから。
山は素す直なおなので，人間が手入れをしないと，すぐにダメになってしまいます。山を育てれば育てるほど，山の生せい態たい系けいも豊ゆたかになる。本当に奥おくが深いんです。もちろん，そういったことに気づいたのは，大人になってからです。しかし，幼おさないころの体験があったからこそ，そういった山の奥おく深ぶかさを，より強く，実感できたのだと思います。

自然と触ふれ合あって，山と触ふれ合あって，木材と触ふれ合あってもらえれば，木材というのは，本当にいろいろなことに使えるのだと，気づけます。燃もやせば燃ねん料りょうになりますし，加工すれば建物や家具になるんです。
みなさんに言いたいのは，みなさんも木材みたいに，何にでもなれるんだということです。みなさんの身のまわりには，チャンスがいっぱい転がっています。そういった，山ほどあるチャンスを，自分でつかみ取って，切り開いていってほしい。自分の未来は自分で作れるんです。
そのために，失敗してもいいから，チャンスがあれば，まずはやってみてください。恥はずかしがったり，遠えん慮りょしたりしないで，自分がパッと前に出てやってみる。そうすれば，「あ，意外と楽しかったな」「案外うまくいったな」と思えるようになります。そうやっていけば，新しい楽しいことが，いくらでも見つかるはずですよ。