私わたしは「三谷商事」という会社の「情じょう報ほうシステム部」の部長で，部門全体の責せき任にん者しゃです。私わたしたちの部ぶ署しょではコンピューターのシステムやネットワークを作ったり，ソフトウェアを開発しています。そして，それがうまく運用できるようにお手伝いをします。お客さまは主に官かん公こう庁ちょうや企き業ぎょう，病院など。また，多くの小学校や中学校にもIT機器やネットワークを導どう入にゅうしています。IT業界は日々進化していますし，要望もお客さまによって本当にさまざまで，それぞれに合った提てい案あんをしています。
仕事ではまず，営えい業ぎょうの担たん当とう者しゃがお客さまのところへうかがい，聞いてきた内ない容ようをシステムエンジニア（SE）に伝え，使いやすいシステムを作ったり，トラブルの対たい応おうにあたります。営えい業ぎょうとSEは常つねに協力しながら，お客さまの仕事の内ない容ようまで細かく分ぶん析せきし，どうしたら問題を解かい決けつできるか，より作業がしやすくなるかを一いっ生しょう懸けん命めい考えます。メーカーでも同じことをやっていますが，うちの会社はモノを仲ちゅう介かいする商社なので，自分の会社の商品に限げん定ていされることなく，お客さまの要望に最も合う商品や方法を自由に選べるというのが強みです。

私わたしは30年ほど会社に勤つとめていて，今は事業部長として約300人の部下たちを管理・指し導どうしています。若わかいころは営えい業ぎょうマンとしていろいろな会社に出かけては，コンピューターを売ったり，情じょう報ほうシステムの仕組みを提てい供きょうしたりしていました。営えい業ぎょうで直ちょく接せつお客さまに説明する時は，自分ひとりが頑がん張ばればいいし，その後も担たん当とうのSEと一いっ緒しょに考えていけば何とかなります。しかし今は，社員一人一人と話したり説明したりすることはできません。私わたしがしなければならないのは，社員たちがそれぞれ仕事をしやすいような仕組みを作ること。自分が直ちょく接せつ動かなくても会社全体の仕事がうまく回るよう，かじ取りをする役目です。社内のシステム作りはもちろん，頑がん張ばろうと思えるよう雰ふん囲い気きを盛もり上あげたり，社員が迷まよっているようだったらアドバイスをして，方ほう向こう性せいを一いっ緒しょに考えます。

みなさんは，「部長とか社長とか管かん理り職しょくになると，自分が直ちょく接せつ，細かな仕事をしなくてもいいから楽そうだな」なんて思っていませんか？ でも正直，自分でやる方がよっぽど楽です。部下とはいえ，大おお勢ぜいの“他人”を動かすのですから，なかなか思い通りにはいきません。若わか手ての社員たちが何を考えているかを探さぐり，自分の考えを知ってもらうために，普ふ段だんからできるだけ社員たちの動きを見て，励はげましたり褒ほめたりなどの声かけをするようにしています。
私わたしは東京の支し店てんと福ふく井いを行ったり来たりしており，また夜はお付き合いや接せっ待たいでお酒を飲むことも多く，なかなか職しょく場ばの自分の机つくえでゆっくりできる時間はありません。でも，そうした中から最近の情じょう報ほうを仕入れたり，面おも白しろい人と知り合ったりできて，そこから新しい仕事の話が生まれることもあります。それを会社に持ち帰り，情じょう報ほうとして部下たちに伝え，事業に結び付けることも私わたしの大切な仕事です。

営えい業ぎょうの現げん場ばにいる時も，管かん理り職しょくになった今も，目標を設せっ定ていし，それに向かって頑がん張ばって達成するのが楽しいんです。その楽しさは，目標が難むずかしければ難むずかしいほど大きくなります。うまくいくためにどうしたらよいかを，いつも考えていますね。寝ねていて夢ゆめの中で「これだ！」とアイデアが浮うかんで，すぐに起きてメモを取ったり，トイレで考かんがえ込こんでなかなか出てこられなかったりということもしょっちゅうです。
若わかいころはとにかく毎日お客さまのところへ足を運んで，誠せい心しん誠せい意い，対たい応おうしていました。また，新人時代は先せん輩ぱいにお酒を飲みに連れて行ってもらって，そこで仕事のことを深く教わったり，社外にもいろんな仲間を作るようにしていましたね。仕事も一いっ生しょう懸けん命めいやり，そして会社の外でも一いっ生しょう懸けん命めい遊び，人脈を作っていたことが，その後，いろいろな場面で役に立ちました。
ITの業界はどんどん進化し，できることも広がっています。要望以上のものが出来て，お褒ほめの言葉をいただいた時は嬉うれしいです。今は，取引先の方に部下を褒ほめられた時が，自分が褒ほめられる以上に嬉うれしいですけどね。

私わたしが勤つとめる三谷商事は，商社です。商社は「何かが欲ほしい人」と「何かを売りたい人」を結び付けるのが仕事です。取とり扱あつかう商品はさまざまで，三谷商事でもセメントや生コンクリート，ガソリンなども取とり扱あつかっています。会社は，安く仕入れて高く売れると利り益えきが多くなります。でも，みんなと同じように動いていても売り上げは伸のばせないので，いつも情じょう報ほう収しゅう集しゅうのアンテナを張はっているわけです。
自分の仕事をやっているだけでは，入る情じょう報ほうは限かぎられています。だからこそ，積極的に外の人と交流することが大切だと思います。私わたしは退たい社しゃ後に趣しゅ味みのスポーツをしたり，多くの人と話したりしました。そこから，人々の考えを知ることが多かったです。世の中は常つねに変化していて，昨日までと同じことをしていてはいつの間にか時代遅おくれになって，商品を買ってもらえなくなります。“風を読む”とも言うんですが，今，世の中でどういうことが求められているのかをキャッチすることは，どんな仕事でも大切です。そのためには，常じょう識しきにとらわれない感かん性せいが必要。「考えが固まらないように」と，自分自身に言い聞かせています。

東京の大学を卒業して実家のある福ふく井いに戻もどる時，本当はテレビ業界に興きょう味みがありました。ちょうど三谷商事がケーブルテレビの事業を始めたと聞き，「これは面おも白しろそうだ」と思って入社しました。でも，ケーブルテレビの会社は，本体の商社とは別の関連子会社だったんです。とんだあわて者ですね。
三谷商事はコンピューター時代の到とう来らいを見み越こして，早くから情じょう報ほうの分野に力を入れていて，私わたしはそこに配はい属ぞくされました。当時の私わたしは情じょう報ほう産業という分野が何をするのかもよくわからず，まったく知ち識しきがありませんでした。ですから，入ってから勉強して，知ち識しきを身につけました。今はIT系けいの仕事をしたいという人は，最初から高校や大学，専せん門もん学校で学んできて，それなりに知ち識しきも豊ほう富ふですね。でも，何より大切なのは，目の前の仕事を楽しんでやることです。ほとんどのことは，一いっ生しょう懸けん命めいやっていると自然に楽しくなってくるんですよ。

子どものころは東京に住んでいました。昔からこだわりが強いというか，「これ！」と思ったら何が何でも手に入れたいという子どもで，合体ロボのおもちゃが欲ほしいときは，3つのパーツを1人では買ってもらえないから，弟と妹をその気にさせて兄弟3人で親におねだりしたり。欲ほしいものがどうすれば手に入るかを，とことん考えるんです。この「目標を定めてそれに向けてあらゆる手を尽つくす」というのは，仕事にもつながっているかもしれません。
子どものころから1人でいるのが平気なタイプで，人のことは気にならない性せい格かくでした。 どちらかというと，仲のいい，決まった友達とよく遊んでいましたね。6年生の時，母の実家がある福ふく井いに転校しても，すぐにみんなと仲良くなれましたよ。中学校は，バスケットボール部。高校では，ギターをやってバンドを組んだり，手て当あたり次し第だいに本を読んだり。やっぱりいつもの仲間とつるんでいるより，好きなことを1人でやっている方が好きだったですね。

私わたしは世代も上ですので，私わたしが経けい験けんしたことが皆みなさんの時代にそのまま当てはまることはないと思います。でも，ただひとつ思うことは，専せん門もん的てきな知ち識しきを深めることも大切だけど，広い知ち識しきを持つことはもっと大切だということです。人生はどこでどう変わるかわからないからです。私わたし自身も目指した業界とは少し違ちがう世界で働くことになりましたが，それまでやってきたことや身につけた知ち識しきは，その後，いろんな場面で役に立ちました。
まずは目の前のことに全力投球することですね。勉強だけではなくて，興きょう味みをもったこと，例えば運動でも趣しゅ味みでもいい。その仕事に進まなくても，一いっ生しょう懸けん命めいやった経けい験けんとそれで味わった達成感というのは，どんな仕事をすることになっても，自分を支ささえてくれると思います。目標達成の手しゅ段だんはひとつではありません。ありきたりのやり方にとらわれず，いろんな方法を考えてみることも大切です。