公認(こうにん)会計士は，「会計の専門(せんもん)知識(ちしき)を持った専門家(せんもんか)」として，会社の「会計監査(かんさ)」という仕事を行います。「会計」とは，会社がお金を支払(しはら)ったり，受け取ったりしている行為(こうい)を，帳簿(ちょうぼ)（おこずかい帳のようなもの）に記録，計算することです。私(わたし)達の「会計を監査(かんさ)する」という仕事は，会社が発表する「どれぐらいたくさん売れているか，儲(もう)かっているか」といった情報(じょうほう)が本当に正しいかどうか，帳簿(ちょうぼ)にも正しくそれが書かれているか，法律(ほうりつ)に合ったものかどうかを確(たし)かめ，会社の“通知表”を作ることです。会社の情報(じょうほう)に間違(まちが)いがないかチェックする人がいなければ，「うちの会社は儲(もう)かっているんです」と嘘(うそ)の情報(じょうほう)を発表する会社があるかもしれません。ですから，私(わたし)達会計士がチームを組んで色々(いろいろ)な会社に行き，実際(じっさい)に働いている人に話を聞いたり，書類に間違(まちが)いがないかチェックしたりして，会社の情報(じょうほう)に嘘(うそ)がないかどうかを確(たし)かめ，「この会社の発表しているお金に関する情報(じょうほう)は正しいですよ」と保証(ほしょう)する仕事なんですよ。

朝7時，東京駅に集合し，同じチームの会計士3人と新幹線(しんかんせん)で京都に向かいます。京都のある会社の工場に到着(とうちゃく)すると，まず，この会社の工場長さんへインタビューを行い，会社の業務(ぎょうむ)としてやっていること，会社が今生産しているもの，働いている社員の人数，今，会社は儲(もう)かっているかどうかなど詳(くわ)しく話を聞いてメモをとります。そして，工場長さんの話を元に，今度は会社の売上額(がく)などの実際(じっさい)の数字がどのぐらいになのか，資料(しりょう)をたくさん見せてもらいながら，話どおりに記録されている数字が合っているかを確認(かくにん)します。その後は工場の視察(しさつ)です。工場長さんの話によると，今回，なんと100億円の新しい機械を購入(こうにゅう)したということで，私(わたし)達が確認(かくにん)した資料(しりょう)にも「100億円で買いました」と記録が載(の)っていました。では本当にその機械が工場の中にあって製品(せいひん)を作っているのか，それを見せてもらいながら，機械に関する説明を工場で働いている人に直接(ちょくせつ)聞きます。会社の人の話，資料(しりょう)の調査(ちょうさ)，機械などのチェックを元に「これは正しい情報(じょうほう)かどうか」を判断(はんだん)した上で，この会社の通信簿(つうしんぼ)をつけます。午後4時半に工場の調査(ちょうさ)を終了(しゅうりょう)し，ホテルに移動(いどう)します。会計士それぞれが今日の仕事のまとめを行い，明日は会社のどういうこところを調査(ちょうさ)するのかを話し合います。

仕事で大切にしていることは，嘘(うそ)は絶対(ぜったい)につかないこと，全ての人に対して公平でいることです。会社の人が「こうしたいんです。どうかお願いしますよ」と頼(たの)んでこられたとき，もしもそれが少しでも嘘(うそ)に関係していたり，誰(だれ)かに対して不公平になるようなことであれば，きっぱり断(ことわ)ります。そして，物事を正しい方向へ導(みちび)いていけるようにアドバイスを行います。誠意(せいい)を持って，誰(だれ)になんと言われようと正しいことを行い，社会の「信用」を保(たも)っていくということは，社会で一番重要なことなんですよ。ですから，会計士という仕事に就(つ)く人は，「嘘(うそ)はダメです！」とはっきり言える人でないといけません。

監査(かんさ)をしている時，「ここを直してください」と会社の人に説明しても，「大変だからやりたくありません」と嫌(いや)な顔をされることがあります。ですが，会社がもっと良くなるために「やっぱりここは直したほうがいいんです」と少々(しょうしょう)嫌(きら)われるのも覚悟(かくご)しても注意するのも会計士の仕事。時間がかかってもきっと分かってくれる，と信じてきちんと話をします。まずは苦い薬を飲んでもらい，その良さを分かってもらうような感じでしょうか。でも，最初は注意するのがしんどかったです。会計士になって間もない頃(ころ)，ある会社に対して「ダメです」と言わなくてはいけなくて，少し苦しくなってしまい眠(ねむ)れないことがありました。後になってその会社から「注意してくれてありがとう」と感謝(かんしゃ)され，ほっとしました。

会計士の面白いところは，２０代の若(わか)いうちからどんどん仕事を任(まか)されて，世の中にある色々(いろいろ)な会社の社長さんや経理(けいり)部の部長さんなど，ベテランの方とじかに色々(いろいろ)な話ができることです。また会社や工場の中に入って視察(しさつ)をしたり，頑張(がんば)って働いている人たちと触(ふ)れ合(あ)うので，会社の裏側(うらがわ)を見ることができて「会社ってすごい！」と思うことがたくさんあります。会社の人達にとっては，毎日同じ作業を繰(く)り返(かえ)しやっていると感じるかもしれませんが，会計士の立場から会社を見せてもらうと，そういった皆(みな)さんの日々(ひび)の努力によって，徐々(じょじょ)に会社がいい方向に進んでどんどん大きくなっていく様子を感じることができるんです。だから，「会社は生きている！」と思いますね。

大学生の時に，社会に色々(いろいろ)な仕事があるんだということを知って，その中で「会計士」という仕事を発見し，魅力(みりょく)を感じました。そして，大学４年生の時に会計士の専門(せんもん)学校に通い始めたのが仕事を始めるきっかけです。大学生になるまでどんな仕事に就(つ)きたいか，あまり考えたことはありませんでしたが，幼(おさな)い頃(ころ)から計算や数学が得意だったので，会計士を目指したのは，そういった自分の得意なことも関係していると思います。会計士になるには，だいたいの人が専門(せんもん)学校で2年間ぐらい勉強してから試験を受けます。試験の科目は，会社の会計に関する計算問題，会社の法律(ほうりつ)，経済学(けいざいがく)などがあり，論文(ろんぶん)の試験もあります。専門(せんもん)学校では，法律(ほうりつ)の内容(ないよう)を覚えたり，算数と国語の力をつけて常(つね)に筋道(すじみち)を立てて考える訓練を行いました。試験の合格率(ごうかくりつ)は７パーセントぐらいで毎年100人のうち7,8人しか受からないという難(むずか)しい試験でした。この試験に合格(ごうかく)した後，3年間の仕事の経験(けいけん)を経(へ)てもう一段階(だんかい)上の試験を受けます。そして晴れて「公認(こうにん)会計士」になりました。

子どもの頃(ころ)は，外で遊んで思いっきり体を動かすことが好きで，友達と野球をしたり，プールで毎日泳いでいたことを覚えています。中学，高校の部活も一生懸命(いっしょうけんめい)にやってインターハイに出た経験(けいけん)もあり，今でも体力には自信がありますよ。部活を頑張(がんば)ることの他に，仲間と一緒(いっしょ)に生徒会の活動も積極的にやることで，ひとつのことに打(う)ち込(こ)む粘(ねば)り強(づよ)さやチームワークの力がついたのだと思います。勉強面では，算数が大好きだったので，学校が終わると公文に行って問題をたくさん解(と)いていました。

勉強ばっかりではダメ。勉強よりも体を鍛(きた)えることが先！だと私(わたし)は強く思うんです。だって，コツコツと勉強を続けるにも体力が必要だし，仕事をバリバリ楽しくやっていくにも体力がなければどうにもならないからです。まずは，たくましい体を作ってください。それに，皆(みな)としっかり遊んで，たくさん話をしてコミュニケーション能力(のうりょく)を身につけないといい大人にはなれないんじゃないかな。人の話をよく聞いて，その人がいったい何を伝えたいのかをしっかり知る，これは大人になってもものすごく重要なことなんですよ。そして，自分でしっかり考えて自分の意見を持つこと。「何が正しくて，何が悪いのか，そしてそれはなぜなのか」ということを常(つね)に考える習慣(しゅうかん)をつけるといいと思います。