私わたしは今、「日本財ざい団だん」という公こう益えき財ざい団だん法ほう人じんでインターンとして働いています。日本財ざい団だんは、よりよい社会づくりを目指し、子どもたちへの支し援えんをはじめ、さまざまな公こう益えき・福ふく祉し事業や国こく際さい協力事業などを行っている公こう益えき財ざい団だん法ほう人じんです。
「インターン（インターンシップ）」とは、正式にその職しょく業ぎょうに就しゅう職しょくするのではなく、職しょく業ぎょう体験としてその仕事に関わる働き方です。私わたしは、以前は「横よこ浜はまビー・コルセアーズ」というB.LEAGUE（Bリーグ）所しょ属ぞくのプロバスケットボールチームで選手として活動していましたが、2021年6月に引いん退たいし、その後、2021年の7月末から、インターンとして日本財ざい団だんで勤きん務むしています。
具体的な勤きん務む内ない容ようとしては、主に日本財ざい団だんの「HEROs（ヒーローズ）」という、アスリートの社会貢こう献けん活動を応おう援えんするプロジェクトに関わっています。これは、プロアスリートとして活かつ躍やくしている人たちが子どもたちへの指し導どうや、地ち域いきのための活動といった社会貢こう献けん活動をする、そのためのサポートをしていくプロジェクトです。これまで、プロジェクトを運うん営えいする側には、実じっ際さいにアスリートとして活動してきた経けい歴れきを持つスタッフはいませんでした。でも、私わたしは元アスリートですから、「アスリートがどう思っているのか」という視し点てんを持つことができます。プロジェクトに関わってくれるアスリートの方々とプロジェクト運うん営えい側との橋はし渡わたし的な役やく割わりができればという思いで関わっています。

私わたしは大学4年生のときに、プロバスケットボールリーグであるBリーグの「富山グラウジーズ」に入にゅう団だんし、その後、「横よこ浜はまビー・コルセアーズ」に移い籍せきしました。戦力外通つう告こくを受け、引いん退たいしたときは26歳さいでした。まだ他のチームでプロとして活動する道は残っていたかもしれませんが、Bリーグの成長スピードが速く自分の力不足を感じたこと、また、引いん退たいするなら自分の地元のチームでもあり、愛着のあるビー・コルセアーズで引いん退たいをしようと思ったということもあり、現げん役えき引いん退たいを決めました。
そこで問題になるのが、引いん退たいしたあとの自分のキャリア、いわゆる「セカンドキャリア（※第二の人生における職しょく業ぎょう。特にプロスポーツ選手について使われる場合が多い）」をどうするか。これについては、実は現げん役えき時代からいろいろと考えてはいて、中学・高校の保ほ健けん体育科の教員免めん許きょを取しゅ得とくしたり、パーソナルトレーナーの資し格かくを取しゅ得とくしたりしていました。しかし、いざ引いん退たいを決けつ断だんしてみると、「このあと何をしたらいいかわからない」という気持ちになってしまったのです。それまでいろいろ準じゅん備びしていたはずなのに、どれもやりたくない。困こまりました。
そんな中で、アスリートを対たい象しょうとしたキャリアデザインのプログラムを受じゅ講こうするのをきっかけに、日本財ざい団だんの方と知り合うことになりました。そして自分の気持ちを正直に伝えたところ、日本財ざい団だんの「HEROs」でインターンをすることを提てい案あんしてくれたのです。私わたしとしても、まずは自分自身の視し野やを広げたいと思っていたところだったので、さまざまな企き業ぎょうやアスリートと出会える仕事はぴったりだと感じ、働くことにしたのです。

平日の月曜日から金曜日まで、朝9時から夕方5時までが勤きん務む時間です。具体的には、今後のプロジェクトに関わる会議に参加したり、事じ務む作業をしたりしています。今は新しん型がたコロナウィルスの流行下ということもあり、出しゅっ勤きんせずにリモートワークで作業をすることも多いです。
また、現げん在ざい「HEROs」のサイト内で「翼つばさがゆく~スポーツの力を探さぐる~」という連れん載さいを持たせてもらっています。これはさまざまな分野への転身を果たした元アスリートにインタビューしていく企き画かくで、元アスリートたちが何を考え、選せん択たくし、歩みを進めているのかを紹しょう介かいしていくという内ない容ようです。さまざまなセカンドキャリアを選んだ元アスリートの方々に話を聞きながら、私わたし自身のセカンドキャリアについても考えていくことができるので、とてもありがたいなと思っています。自分も同じアスリートだったので、話しながら共感できるところもたくさんありますが、それだけに、「アスリート目線」のみになって、一いっ般ぱんの方に伝わりづらいインタビュー記事にはなってしまわないよう、気をつけています。
この連れん載さいに関しては、登場いただく元アスリートの人選から取材の申もうし込こみ、取材のセッティング、原げん稿こう執しっ筆ぴつまで、すべて自分で行っています。アスリート時代は、むしろインタビューを受ける側だったので、今になって、「インタビューする側はこうなんだな」ということがわかってきました。アスリート時代に受けたインタビューを思い出して、「ああいう言い方じゃないほうがよかったな」などと思うこともありますね。

生活は、プロバスケットボール選手だったときとはガラリと変わりました。パソコンを使った事じ務む作業や取材の調整、原げん稿こうを書くことなど、ほとんどが、「それまでやったことがないこと」だったので、大変なことも多々あります。でもこれはチャンスだと思いますし、学べることばかりなので、つらいとか、辞やめてしまいたい、などとは思ったことがないですね。あと、やってみると意外とデスクワークが苦にならないのは、自分にとっても発見でした。
やりがいはたくさんあります。まず「HEROs」での活動を通して、本当に幅はば広ひろいアスリートの方々と出会うことができたこと。社会貢こう献けんに対して熱意があったり、明めい確かくなビジョンを持っていたりするアスリートに出会えるのはとても刺し激げきになりますし、うれしいです。また、社会課題に取り組むアスリートや団だん体たいを表ひょう彰しょうするイベントを開かい催さいしたときには、自分のかつての仲間たちも多く来てくれました。中には「来年はあの壇だん上じょうに立てるようになりたい」という目標を語ってくれた友達もいて、「この仕事をやっていてよかった」と心から思いました。

プロバスケットボール選手だったころ、アスリートとしてさまざまなイベントに参加してきました。でも、今の仕事に関わるまで、「社会貢こう献けん」ということをきちんと理り解かいしていなかったような気がします。
「社会貢こう献けん」という言葉に対して「きれいごと」のようなイメージも持っていましたし、ボランティアでなければいけない、社会貢こう献けん活動をお金と結びつけてはいけない、と、何となく思っていました。実は最初に日本財ざい団だんの方と面接でお話ししたとき、そうしたイメージを正直に伝えたんです。そこで返ってきたのは「そうじゃないんだよ」という答えでした。「やったことに対して対たい価かをもらっていいし、それで応おう援えんしてくれる人が増ふえたら、最終的には全部自分に返ってくる」という話をしてくれたんです。その話で目からうろこが落ちるような気持ちになり、「ここでインターンをしてみよう」と思えましたし、自分が現げん役えき時代のときにそういう考え方を知っておきたかったなとも思いました。
だからこそ、今、私わたしが関わっている「HEROs」の活動は多くのアスリートに知ってほしいと思っています。日本ではまだ「社会貢こう献けん活動」自体に目が向いていなかったり、興きょう味みは持っていても「自分なんか……」とためらってしまうアスリートが多かったりするのですが、実は「プロ」が教えられることというのはとても大きいんです。競きょう技ぎ自体について多くのことを伝えられるのはもちろん、イベントなどでの発信を通じて、たくさんの人たちに、新たに社会課題について興きょう味みを持ってもらうこともできるかもしれない。もっと自信を持って社会貢こう献けん活動をするアスリートが増ふえてほしいなと、今の仕事を始めてから強く思うようになりました。

今、インターンとして働きながら大切にしているのは、まず「自分を満たす」、つまり、きちんと自分が満足できるような活動をするということです。そして、「自分に嘘うそをつかない」ということです。
私わたしが関わっている「HEROs」は「社会貢こう献けん活動ができる人材の育成」を目指す活動です。そのため、自分たちの活動が社会課題に対してきちんと取り組めているか、貢こう献けんできているかというのは、常つねに考えなければいけないと思っています。だからこそ、活動の中で自分が疑ぎ問もんや違い和わ感かんを持ったことが少しでも出てきたら、そのままにせず、確かく認にんしたり、まわりの人と相談したりするようにしています。とてもありがたいことに、今の職しょく場ばでは、たとえ相手が上司でも、「何を言っても大だい丈じょう夫ぶ」な空気を作っていただいているので、腹はらを割わって話し合い、意見をぶつけることができます。ときにはぶつかり合うこともありますが、納なっ得とくがいくまできちんと話ができる今の環かん境きょうは、とてもありがたいです。
インターンとしての活動は、2022年の3月で終しゅう了りょうします。その後に何をするかはまだ正式には言えないのですが、自分の中では「どういうことをしたいのか、どういう働き方をしたいのか」はだんだんと明めい確かくになってきました。引いん退たいしたときとはまた違ちがう景色が見えてきていて、今、とてもワクワクしています。

小学校からバスケットボールを始め、そこからずっとバスケットボール漬づけの生活でした。チームの中では常つねにリーダー的な存そん在ざいだったのですが、実は先生やコーチと生徒との間をうまくつなぐ「ハブ」のような存そん在ざいだったと思います。それはプロバスケットボール選手になっても同じで、やはり選手と運うん営えいスタッフの間をつなぐポジションだったのではと、後から考えると、そう思いますね。
高校時代もバスケットボールの強きょう豪ごう校こうにいましたが、バスケットボールしかやっていなかったというわけではなく、それ以外の学校生活も充じゅう実じつしていました。特に勉強に関しては、いつもがんばっていたので、成せい績せきはよかったです。これは今、イベントなどで若わかい人たちに会うたびに言っているのですが、プロアスリートを目指すとしても、勉強は必ずしておいたほうがいいです。なぜなら、自分の将しょう来らいの選せん択たく肢しを減へらさないことにつながるからです。
私わたしは高校卒業後は筑つく波ば大学に進学しましたが、そこで教員免めん許きょも取ることができましたし、大学生のときには筋きん肉にくの研究を行っていました。この大学での経けい験けんは、とても自分にとっては大きかったと思いますし、アスリートとしてのセカンドキャリアの選せん択たく肢しも広げてくれたのではないかと思っています。

今、あなたが何か一いっ生しょう懸けん命めいやっていることがあったとしたら、一度、立ち止まって、それが「本当にやりたいことなのか」「どうしてそれをやっているのか」というところをもう一度考えてみてください。たくさん選せん択たく肢しがある中で自分が選んだことならいいのですが、まわりの人や親から勧すすめられて、とか、親や先生にやらされて、ということだったら、ちょっと見直したほうがいいかもしれません。今、一いっ生しょう懸けん命めいやっていることはもちろん大切だけど、今、見えている世界がすべてではないんです。
こういうことを言うのは、自分の経けい験けんからです。「背せが高いから」「バスケに向いているから」と言われて、いろいろな代表にも選ばれて、常つねに「他人から評ひょう価かされる状じょう態たい」でバスケットボールを続けてきました。でもそうやって続ける中で、バスケットボールが本当に好きなのか、楽しめているかということが、自分ではわからなくなっていたんです。引いん退たいしてわかったことは、自分はバスケットボールを、自分自身が本当にやりたいからではなく、まわりに評ひょう価かされるから続けていたんだな、ということでした。
私わたしは、これからの人生では、「他人から評ひょう価かされること」ではなく、「自分で自分自身を評ひょう価かできること」をやっていこうと思います。みなさんもぜひ、今やっていることが「自分が本当にやりたいこと」かどうか、一度考えてみてください。
また、もしも今、「一いっ生しょう懸けん命めいになれること」が見つかっていないようだったら、「今までと違ちがうこと」をしてみるのはどうでしょうか。見える景色が変わるかもしれません。私わたし自身も、大人になってから、それまでやったことがなかったサーフィンを体験したことで、人生観が大きく変わるほどの衝しょう撃げきを受けました。「新しいこと」は、たとえば「いつもと違ちがう友達と遊んでみる」みたいな、小さなことでもいいと思うんです。私わたしも今「新しいこと」に挑ちょう戦せんしている真っ最中ですし、みなさんもぜひチャレンジしてみてください。