私わたしは、東京―名な古ご屋や―大阪間を結ぶ日本の交通の大だい動どう脈みゃく、東海道新しん幹かん線せんを運うん営えいする会社であるJR東海で、土木担たん当とうとして勤きん務むしています。駅や橋、トンネル、線路などをつくる仕事です。
現げん在ざい、私わたしは、新たに開通予定のリニア中央新しん幹かん線せんの停てい車しゃ駅えきである神奈川県駅（仮か称しょう。以下同じ）と駅に隣りん接せつするトンネルをつくる工事の責せき任にん者しゃとして、構こう造ぞう物ぶつの設せっ計けいをしたり、工事を進めるための計画を立てたり、進行の管理をしたりしています。この工事は、2027年の完成を目指して進めています。
リニア中央新しん幹かん線せんは、今ある東海道新しん幹かん線せんとは違ちがうルートで東京―名な古ご屋や―大阪間を結びます。なぜこれが必要かというと、老ろう朽きゅう化かに伴ともなう修しゅう繕ぜんや大だい災さい害がいによって、東海道新しん幹かん線せんが使えなくなってしまうリスクがあるからです。東海道新しん幹かん線せんは開業から半はん世せい紀き以上経たっていて、将しょう来らい的てきに大だい規き模ぼな修しゅう繕ぜんが必要となった場合、新しん幹かん線せんを止めて工事をする可か能のう性せいもあります。また大おお地じ震しんの発生などで設せつ備びが壊こわれて新しん幹かん線せんが走れなくなると、移い動どうできない方が大おお勢ぜい、出てきてしまいます。リニア中央新しん幹かん線せんはそうしたときの備そなえとして、大だい動どう脈みゃく輸ゆ送そうをバックアップする役やく割わりを果たします。
また、超ちょう電でん導どう磁じ石しゃくの力を利用して、浮ふ上じょうしながら超ちょう高こう速そくで走るリニア中央新しん幹かん線せんは、時速285キロメートルが最高速度の東海道新しん幹かん線せんよりずっと速く、時速500キロメートルで走ります。東京―名な古ご屋や間を最速40分、東京―大阪間を最速67分で結ぶ予定です。走行圏けん内で生活する約6,600万人の人々が1時間ちょっとで都市間を移い動どうできるようになるため、人の行き来が増ふえて、経けい済ざいがより活発になることが期待されます。

駅やトンネルなどの構こう造ぞう物ぶつをつくる工事には、「計画」「設せっ計けい」「構こう築ちく」という3つの手順が必要です。
最初は「計画」です。安全に、効こう率りつよく工事をするための方法やスケジュールを考えます。工事予定の土地の地ち質しつや地下水位などの自然環かん境きょうや、すでにある道路や駅、水道、電気などのインフラ設せつ備びとの距きょ離りなど、周辺の状じょう況きょうをふまえて、計画を立てます。神奈川県駅の建けん設せつ予定地は10ヘクタールにおよぶ神奈川県立相原高等学校の跡あと地ちを中心に行っていますが、人や車の通りも建物も多い橋本駅前（神奈川県相模さがみ原はら市し）にあるため、地下に駅をつくることになりました。深さ約30ｍの地下に、全長約680ｍ、幅はば約50ｍの駅ができます。
工事スペースを確かく保ほするために、すでにある設せつ備びの場所を見直すこともあります。今回の建けん設せつ予定地には、もともと電力を送る鉄てっ塔とうが複ふく数すう、立っていましたが、工事を安全に進めるためには電線のルートを移い動どうしてもらう必要がありました。そこで電力会がい社しゃや土地を管理する自治体と数年かけてじっくりと話し合って、鉄てっ塔とうの位置を変へん更こうしてもらいました。このように、自治体やインフラの管理者、周辺にお住まいの方々など、さまざまな関係者との話し合いを重ねていき、ご協力いただきながら、工事の時期や場所などの計画を調整します。
続いて「設せっ計けい」です。工事スペースなどの条じょう件けんが決まると、構こう造ぞう物ぶつの設せっ計けいが決まっていきます。鉄道の場合は、トンネルや橋だけでなく電気や信号、線路、駅えき舎しゃなどの設せつ備びも必要です。建物の構こう造ぞうだけでなく、電気や機械の設せつ備びの位置はこれで大だい丈じょう夫ぶなのか、旅りょ客かくが実じっ際さいにご利用されるときの動線はどうなるのかなどを検けん証しょうしながら、決めていきます。
そして構こう造ぞうや施せ工こう方法の方ほう向こう性せいが決まると、いよいよ「構こう築ちく」にあたる、工事に入ります。リニア中央新しん幹かん線せんの工事は大だい規き模ぼで長期になることから、周辺地ち域いきの方々にはご不便をおかけしてしまいます。そのため工事の安あん全ぜん性せい、環かん境きょうへの配はい慮りょ、地ち域いきとの連れん携けいは何より大切に考えて進めています。

リニア中央新しん幹かん線せんの計画はこれまでにないほど大だい規き模ぼなプロジェクトなので、さまざまな課題にぶつかります。普ふ通つう、地下に駅をつくる場合、地下水が侵しん入にゅうしたり周りの地じ盤ばんが崩くずれたりするのを防ふせぐため、地面を深く掘くっ削さくする前に、鋼こう材ざい等で壁かべを地中につくります。これを「土ど留どめ」といいます。しかし神奈川県駅は面積がとても広く、深いため、土ど留どめを構こう築ちくする作業だけでも膨ぼう大だいな時間がかかるうえ、リニア中央新しん幹かん線せんの建けん設せつ工事が各所で同時に行われており、土ど留どめを構こう築ちくする作業に必要な重機の数も足りませんでした。
そこで私わたしたちはこの土地の地ち質しつや地下水位、高校跡あと地ちの広い工事ヤードに注目し、掘くっ削さく方法を考え直しました。建けん設せつ予定地の一帯は、地下水が深いところを流れていますし、表ひょう層そうに堆たい積せきしている関東ローム層そう（長い年月で火か山ざん灰ばいが粘ねばり強づよくなった地ち層そう）はとても固くて安定しています。そのため土ど留どめを使わずに直ちょく接せつ、表ひょう層そう部分を掘ほって、その下の砂されき層そう（砂すなや小石が多い地ち層そう）にだけ土ど留どめをつくることで、十分に安あん全ぜん性せいが確かく保ほできると判はん断だんしました。こうすることで、掘くっ削さくをスピーディーに行えますし、高校跡あと地ちとそれ以外で土ど留どめの構こう築ちく時期がずれることで、必要な重機の数も少なくすることができました。
また駅ホームの設せっ計けいでも大きな課題がありました。通つう常じょうの設せっ計けいをすると、ホームを支ささえる柱がだいぶ太くなり、旅りょ客かくが移い動どうするスペースが狭せまくなることが分かったのです。そこでみんなで知ち恵えを出し合ったところ、車両が通つう過かする際さいの風ふう圧あつからホームを守るための壁かべ（ホーム壁へき）を厚あつくすれば、柱の役やく割わりを兼かねることができて、柱をなくすことができ、その分、移い動どうのためのスペースができる、という案が出ました。でもそうすると配線などほかの設せつ備びにも影えい響きょうが出るため、できればやり方を変えたくないという意見も出てきます。そこからホーム壁へきを厚あつくした場合の課題を一つずつ確かく認にんし、どうすれば解かい決けつするのか議ぎ論ろんを重ねて、最終的に、ホーム壁へきを厚あつくする構こう造ぞうに変へん更こうすることになりました。全員が納なっ得とくするところまで議ぎ論ろんをするのは体力がいることですが、みんなと協力して課題がクリアできたときは大きな達成感があります。

私わたしがこの仕事に魅み力りょくを感じるのは、鉄道は多くの方にご利用いただくものだからです。中でもリニア中央新しん幹かん線せんは3大都市をつなぎ、日本を活かっ性せい化かするための重要なプロジェクトだと感じているので、そうしたプロジェクトに関われていることに誇ほこりを持っています。一方で、神奈川県駅の工事は長期間にわたりますし、大だい規き模ぼに地面を掘くっ削さくすることから、地ち域いき住民の方からご心配の声をいただくことも多く、そうした声にお応こたえできるよう、説明会や、現げん場ばの見学会、イベント等の、地ち域いきとの連れん携けいを強化する取り組みをたびたび行っています。そういう機会に「開通を楽しみにしている」という声をいただくと、世の中から必要とされていることをやっていると感じますし、もっと頑がん張ばろうという気持ちになります。先日、ご高こう齢れいの方から「工事が進んでいるのが見えて、将しょう来らいここにリニア中央新しん幹かん線せんの駅ができたらどんな街になるのか想そう像ぞうするだけで楽しい」という声もいただきました。鉄道の駅はその土地にずっと根ざすものなので、地ち域いきの方と一いっ緒しょに育てていくことがとても大切です。地ち域いきの方に受け入れていただいていることを感じたとき、この仕事のやりがいを強く感じます。

リニア中央新しん幹かん線せんの建けん設せつに携たずさわることは大変やりがいがある反面、「自分がやっていることは正しいんだ」と視し野やが狭せまくなってしまうと、周りに気が配れず、失敗してしまう危き険けんもあります。こう思うようになったのは、以前、所しょ属ぞくしていた広こう報ほう部ぶの仕事での失敗がきっかけです。広こう報ほう部ぶではマスコミ各社に対して会社の事業についてお知らせしますが、その伝え方が一方的になっていたせいでお叱しかりを受けたことがありました。それから反省して、自分の視し野やをもっと広げるためにいろいろな方と話したり、情じょう報ほうに触ふれたりして、第三者の立場で客観的に物事をとらえることを意い識しきするようになりました。工事を進める中でも、自分の考えをまとめる際さいには部下にも上司にも役員（会社の偉えらい人）にも意見を聞きにいきますし、社内だけでなく違ちがう職しょく業ぎょうの方からも率そっ直ちょくな意見をもらうようにしています。
また、リニア中央新しん幹かん線せんの仕事では、経けい験けんしたことのない課題にぶつかることが多いので、常じょう識しきや慣かん例れいにとらわれずに挑ちょう戦せんすることが大事です。挑ちょう戦せんする中でおかしいところは修しゅう正せいし、どういうものがみなさんに受け入れられるのかを徹てっ底てい的てきに考え、ほかの人との会話を重ねながら、理り解かいしてもらえるように努めています。

私わたしの父は大工の棟とう梁りょうで、小さいころからよく父について建けん設せつ現げん場ばで手伝いをしたり、図面を描かいて木材の余あまりで遊具を作ったりして遊んでいました。だから将しょう来らい、大工のようにものをつくる仕事をしたいという気持ちがずっとありました。それからいろいろと勉強するうちに、「世の中の役に立つものをつくりたい」という思いが増まし、社会インフラをつくる計画や設せっ計けいなどの仕事を目指すようになりました。就しゅう職しょく活動では、鉄道会がい社しゃのほかに電力やガス、道路、空港などのインフラ企き業ぎょうへの就しゅう職しょくも考えましたが、リニア中央新しん幹かん線せんの計画の話を聞いたときにぜひ関わりたいと思い、JR東海への就しゅう職しょくを決めました。当時はまだリニア新しん幹かん線せんをつくることは決まっていなかったので、夢ゆめだったプロジェクトにこうしていま関われていることは感かん慨がい深ぶかいですね。

子どものころ、大工だった父はいろいろなものをつくってくれました。カブトムシとクワガタを飼し育いくする大きな箱がほしいとお願いしたら、子ども数人が入れるくらいの大きな小屋をつくってくれ、裏うら山やまの倒とう木ぼくを小屋の中心に立ててくれたりもしました。その後、うれしくて弟と毎日虫とりに行って、結局100匹ぴき以上飼かう羽目になり、世話ができずに親に叱しかられ、カブトムシ・クワガタを売ることまで考えたものの、それは失敗に終わりましたが……。
とにかく何でもつくってくれる父親が近くにいたので、大体のものは自分でつくれる、直せるという考えが身につきました。でも自分には少しやりすぎるところがあり、失敗もたくさんしました。高校生のときには好きだったバイクの機械部分をいじったら動かなくなってしまったこともありますし、もっと小さいころには、裏うら山やまに穴あなを掘ほったら出てこられなくなって、父に助けてもらったこともあります。でもそんな経けい験けんも、関東ローム層そうの斜しゃ面めんに穴あなを掘ほると意外に崩くずれないことも分かったりしたので、失敗の経けい験けんはいまの仕事にも生きているのだと思います。

いま建けん設せつ中の神奈川県駅は2027年の完成を目指しています。リニア中央新しん幹かん線せんが開通すれば、人々の行き来がもっと便利になり、今までより広い範はん囲いで交流が活発になるので、仕事の拠きょ点てんや余よ暇かの過すごし方かたなど、ライフスタイルが大きく変わります。みなさんが大きくなったときに、私わたしたちがつくったものを使ってもらうことで、よりよい世の中が実じつ現げんすることにつながればと、期待しています。将しょう来らい、一いっ緒しょにリニア中央新しん幹かん線せんの建けん設せつを担になってくれる人、そしてリニアの技ぎ術じゅつを世界に広げてくれる人が出てきたら、それはうれしいですね。
子どものときに経けい験けんしたことや考えたこと、身につけたことは、将しょう来らい大人になって何かをやるときの土台になります。人に迷めい惑わくをかけるのはよくないことですが、失敗をしてもいいので、興きょう味みがあること、挑ちょう戦せんできることにはどんどん挑ちょう戦せんしてみてください。そうして得えたいろいろな経けい験けんから新しいことを創そう造ぞうし、明るい未来を切り開いていってほしいと思います。