私わたしは鎌かま倉くら時代から続く「博はか多た織おり」という織おり物ものの、手て織おりの帯を作っています。この仕事を選んだきっかけは、あるとき、博はか多た織おりの学校の説明会があり、その説明会の中で「博はか多た織おりの伝でん統とう工芸を継けい承しょうするだけでなく、『伝でん統とう』に縛しばられない自由な発想で、世界に羽ばたける博はか多た織おりの作家や職しょく人にん、また博はか多た織おりの魅み力りょく開発と価か値ち創そう造ぞうを担になう、次世代の人材を育成する」という言葉を目にして、思い切って飛とび込こみました。私わたしは昔から自分の思いを人に伝えることが苦手な性せい格かくで、言葉では伝えきれない思いをどう伝えるか、「言葉の代わりになるもの」をずっと探さがしていました。そして、それが一生の仕事になるなら幸せだなと思っていました。そんなときに「博はか多た織おり」と出会って、これだと思いました。

博はか多た織おりの特とく徴ちょうは、たくさんの細い経たて糸いとに、細い絹きぬ糸いとを何本も合わせた太い緯よこ糸いとを強く打うち込こみながら織おっていくところにあります。厚あつ手でで張はりのある丈じょう夫ぶな帯は締しめ心ごこ地ちも良く、着き崩くずれしにくいと言われています。また、「絹きぬ鳴なり」と呼よばれる絹きぬの擦こすれる音も博はか多た織おりの特とく徴ちょうの一つで、帯を締しめるときに「ククッ、ククッ」「キュッ、キュッ」という心ここ地ち良い音が出ます。
私わたしが織おる帯は、経たて糸いとだけで色いろ柄がらを表ひょう現げんする博はか多た織おり伝でん統とうの技ぎ法ほうを使って織おる手て織おりの帯です。使う糸はとても細い絹きぬの糸で、約8000本の経たて糸いとに太い緯よこ糸いとを通して、「トン、ドンドンドンッ！」（「打ち返し三つ打ち」と言います）と何度も強く打うち込こみながら、しっかりと織おっていくので、織おり上がった帯は厚あつ地じで張はりがありとても丈じょう夫ぶです。そして、丈じょう夫ぶさに加えて、どこかしっとりと手になじむ優やさしさがあるのが手て織おりの帯の良いところです。使えば使うほど身体になじんで締しめ心ごこ地ちの良い帯になっていきます。

私わたしが使っている絹きぬ糸いとは、お蚕かいこさんが吐はく糸から作られています。博はか多た帯おびは「お蚕かいこさんの命」でできているようなものです。だから、どんな残り糸も無む駄だにすることなく、最後まで大事に使っています。例えば、短い糸は集めて拭ふき掃そう除じに使ったり、長い糸は簡かん単たんなひもを作って普ふ段だんの仕事に使ったりしています。ほかにも、作業で使う道具類も大切に使うようにしています。
織おり物ものの仕事は一人でやる仕事のように思えるかもしれませんが、一人でできる仕事ではありません。お蚕かいこさんを育てる人、お蚕かいこさんの食べる桑くわを育てる人、繭まゆから糸にする人と、絹きぬ糸いとだけでも、私わたしのところに来るまでにいろいろな人の手を渡わたってきています。その手間や苦労を考えると、「どんな作業も手間を惜おしまず、一つ一つ丁てい寧ねいに心を込こめてやっていかないと」と思うんです。また、いろいろな人の手を借りているだけではなく、人に使ってもらう、締しめてもらう帯だからこそ、とにかく丁てい寧ねいに作業することを心がけています。

帯を織おるというのは、自分が思い描えがいたものを3か月、4か月かけて形にしていくという作業です。しかし、どんなにしっかりと事前に図面を描かいていても、織おってみないとわからないことが多く、いざ織おってみると思っていた通りにならない、ということはしょっちゅうあります。帯を織おるのは本当に難むずかしいなと思います。
そうして、長い時間をかけて織おり上げた帯は、我わが子も同然です。どんな帯でもかわいいですし、そんな帯をお客さまが喜よろこんで締しめてくださる、そんなときは、やっぱり心から「作ってよかったな」と思います。

これを読んでいる方たちには、「好きなこと」を見つけてほしいと思います。好きなことを見つけるのは大変なことですが、一つでもやりたいことが見つかったら、それを諦あきらめずにずっと続けてほしいです。もしかしたらそれは、すぐには役に立たないことかもしれません。でも、いつかは自分の力になるし、何かのときの支ささえにもなる。そして、自信にもつながると思います。
あともう一つは、「勉強」です。大人になると「もう一度勉強したい」と思うことがすごく増ふえます。でも、勉強したいと思ったときには、勉強する時間がないんです。そう思うと若わかいうちの時間って、すごく貴き重ちょうです。だからこそ、ぜひ勉強は頑がん張ばってほしいと思います。やって損そんをすることはないし、後こう悔かいすることはないですから。