私わたしは東京家か政せい大学の准じゅん教きょう授じゅで，大学内の「ヒューマンライフ支し援えんセンター」，通つう称しょう「Hulip（ヒューリップ）」というところに所しょ属ぞくしています。ヒューマンライフ支し援えんセンターは，地ち域いき社会と大学を結ぶ窓まど口ぐちとして，2002年10月に設せつ立りつされました。
東京家か政せい大学には栄養学，児童学，服ふく飾しょく学，心理学や環かん境きょう，福ふく祉し，看かん護ごについて学べる学部があり，人の生活に関わる学びが集まっており，女子教育に長い歴史を持っています。時代とともに，例えば「栄養について知りたい，相談したい」「商品開発に協力してほしい」「子育てについて悩なやみ相談ができる場所が欲ほしい」といったような，人間生活にまつわるニーズが高まり，地ち域いきの方々から「東京家か政せい大学に協力してもらえないか」という声を多くいただくようになりました。大学としては「地ち域いきに開かれた大学でありたい」という理想はあったんですが，そういった声をとりまとめる窓まど口ぐちがなかったんですね。そこでこのヒューマンライフ支し援えんセンターが設せつ立りつされた，というわけです。私わたしは設せつ立りつ時からのメンバーで，企き業ぎょうとコラボレーションしたメニューコンテストや「アスリート麺めん」といった商品の開発，子育てサロン事業など，センターで行うさまざまなプロジェクトに関わってきました。今も，10以上の進行中のプロジェクトに関わっています。

私わたしは大学の教員として，スポーツ栄養学や食育などの授じゅ業ぎょうを受け持っていますが，デスクはヒューマンライフ支し援えんセンターにあり，ここでいろいろな業ぎょう務むをこなしています。
ヒューマンライフ支し援えんセンターのモットーは，「地ち域いきのニーズに学生の学びで応こたえる」というものです。ですから，例えば何か「東京家か政せい大学の学生に解かい決けつ，協力をしてほしい」という企き業ぎょうや団だん体たいからの要望があれば，学生と一いっ緒しょに取り組んでいくことになります。これらのプロジェクトがうまく進むよう，取りまとめていくのが私わたしの仕事です。このため，日々の仕事は多た岐きにわたっており，企き業ぎょうなど外部の方との打ち合わせや会議，プロジェクトに関する説明会を企き画かくしたり，また研究活動や講こう演えん依い頼らいを受けたりと，あちこち動き回っていることが多いです。
ヒューマンライフ支し援えんセンターは大学のさまざまな学部・学科の学生と関わる部ぶ署しょでもあります。プロジェクトや活動の多くは学生が自主的に参加申もうし込こみをするものなのですが，学生たちには活動を通して成長をしてもらえるよう「活動記録ノート」というのをつけてもらっています。この「活動記録ノート」をもとに面談をしたり，ときには学生たちから学習や進路についての悩なやみや相談を受けることもあります。

現げん在ざい，ヒューマンライフ支し援えんセンターではさまざまなプロジェクトを進めています。例えば，農林水産省が推すい進しんする「農業女子プロジェクト」には2018年から参加しています。この「農業女子プロジェクト」は女じょ性せい農業者の知ち恵えと企き業ぎょうや教育機関の技ぎ術じゅつ・アイデアなどを結びつけて，新たな商品やサービスを生み出したり，女じょ性せい農業者を増ふやしていくことを目的としたプロジェクトです。私わたしたちの場合，例えば学生に農業体験をしてもらうほか，大学の地元である東京都北区では，区内の小学校と連れん携けいした食農教育や，プロジェクト参画企き業ぎょうの城じょう北ほく信用金庫さんが開かい催さいする，農業女子を対象とした経けい営えい支し援えんセミナーに学生が参加するなど，積極的に活動しています。学生たちが食育や自身のキャリアを考える中で，農業の現げん場ばやそこで働く人の声を実じっ際さいに見聞きすることができるのは，とてもいい経けい験けんになります。
また，「子育て支し援えんの場をもうけてほしい」という，地ち域いきからの要望があり，大学の中に「森のサロン」という“子育て支し援えん広場”を開かい設せつしています。0歳さい児から3歳さい児までが対象で，曜日ごとに対象の年ねん齢れいを分けて開かい催さいされるのですが，子どもたちは学生が手作りしたおもちゃで遊んだり，読み聞かせなどのイベントに参加することができ，お母さんたちは育児の悩なやみ相談をしたり，ホッと一息つくことができる，そんな場所です。お母さんと子どもたちに対たい応おうするのは学生ボランティアたちです。家か政せい学がく部ぶの児童学科や人文学部の教育福ふく祉し学科など，子どもに関わる学科で学ぶ学生たちには，学んだことを生かす実じっ践せんの場となりますし，お母さんたちからも「大学というちゃんとした場所だから，安心して参加できる」と好こう評ひょうです。

2018年6月からは「アスリート麺めん」という，アスリートの栄養補ほ給きゅうをサポートする商品の開発を手がけています。東京都北区にある玉たま川がわ食品株かぶ式しき会社という乾かん麺めんの製せい造ぞう・販はん売ばいを行っている会社さんと，栄養学を学んでいる学生とともに進めているプロジェクトで，およそ50〜60人ほどの学生が関わっています。
もともと，アスリートが激はげしいトレーニングによってエネルギー，栄養不足に陥おちいることが多いのは，解かい決けつしなくてはいけない課題だと思っていました。でも，トレーニングをした後は疲つかれていて，なかなか食べ物が喉のどを通りません。それならツルッとしている麺めんなら食べやすいのではと，スポーツの現げん場ばでの経けい験けんから思いついたんです。麺めんにはさまざまな野菜や栄えい養よう素そを練ねり込こむ予定で，学生たちに「どんな栄えい養よう素そを入れたらいいか」「どんな麺めんが適てきしているのか」などアイデアを出してもらい，いろいろと試し行こう錯さく誤ごを繰くり返かえしている最中です。
例えば練ねり込こむ野菜なども，「農業女子プロジェクト」で関わった農家さんたちが作ったものを利用するなど，これまでの取り組みがいろいろと繋つながってきているんですね。そこはすごくやりがいを感じますし，この麺めんが完成すれば，アスリートだけでなく，栄養不足に悩なやむさまざまな人の役に立つのではと思っています。このアスリート麺めんは，2019年夏の商品化を目指しています。

私わたしは栄養学が専せん門もんなのですが，これまで，障しょうがい者しゃスポーツの栄養面におけるサポートにも取り組んできました。最初に関わることになったのは1995年のことで，たまたま雑ざっ誌しを見て，車いすの陸上チームがボランティアを募ぼ集しゅうしていることを知りました。当時はスポーツ栄養学というものが注目されてきた時期で，私わたしも中学校・高校と軟なん式しきテニスをしていたこともあり，スポーツ栄養学に興きょう味みがありました。問い合わせると「管理栄養士としてサポートする」という形でのボランティアでもOKとのことだったので，参加することにしました。
しかしいざ関わりだして驚おどろいたのは，当時は障しょうがい者しゃスポーツに関する研究データや基き準じゅんがまったくなかったということです。しかも障しょうがいを持つ方は人によってそれぞれ身体の状じょう況きょうが違ちがうので，健けん常じょう者しゃで使用する栄養学の基き準じゅんが当てはまらないんです。そこで，選手の方と話し合いながら手て探さぐりでサポートを始めていきました。
1996年に開かい催さいされたアトランタパラリンピックで，サポートしていた選手がいい結果を出してくれ，障しょうがい者しゃスポーツの栄養サポートの必ひつ要よう性せいも認みとめられていきました。1998年の長野パラリンピックでは，サポートしていたアイススレッジスピードレースの選手が金メダルを獲かく得とくしました。また，2000年のシドニーパラリンピックには，車いす陸上の栄養コーチとして帯同しました。その後，2008年の北ペ京キンパラリンピック，2012年のロンドンパラリンピックには日本選せん手しゅ団だん本部役員として帯同し，選手のサポートを行いました。

ヒューマンライフ支し援えんセンターで多くの学生たちと関わっていると，やはり学生たちが悩なやんでいる姿すがたもいろいろと目にします。しかし，学びの中で彼かの女じょたちが自分の目標を見つけ，変化していく姿すがたを見ると，私わたしもすごく喜びを感じますね。ヒューマンライフ支し援えんセンターのプロジェクトで大切にしているのは，企き業ぎょうも学生も“お互たがいに得るものがある”結果となること。例えば商品開発にしても，学生たちはこれまでできなかったような経けい験けんができますし，企き業ぎょうのほうは学生たちの柔じゅう軟なんなアイデアを得ることができます。関わってくれる企き業ぎょうの方たちは，「学生の意見だから」といって下に見るようなことはありません。学生たちのどんな意見でも「そんな発想があるんですね」と尊そん重ちょうしてくれます。この「自分の意見が認みとめられる」というのは，学生にとってとても重要なことで，本当に顔がパッと輝かがやくんですよ。
私わたし自身は，「仕事は楽しくやる」というのをモットーにしています。ヒューマンライフ支し援えんセンターには学生だけでなく，さまざまな人が訪おとずれます。いろいろな人と接せっし，人々の支し援えんをする立場ですが，支し援えんをしながら実は関わる人たちからパワーをいただいているんです。プロジェクトに関わる人みんなが笑え顔がおで，いいエネルギーが循じゅん環かんする空気づくりを心がけています。

私わたしが栄養学を学ぶことにしたのは，自分自身が「食」に救われた経けい験けんがあるからです。私わたしはもともと，東京家か政せい大学附ふ属ぞく女子高校の出身です。でも実は，受験のときは第一志し望ぼうではありませんでした。行きたかった高校には落ちてしまい，不本意な思いを抱かかえながら進学することとなり，しかも自じ宅たくからは遠いので，親元を離はなれ，一人で下宿をしなくてはいけなかったんです。毎日泣いているような状じょう況きょうだったんですが，そこで私わたしを救ってくれたのが，下宿先のおばさんが作ってくれた食事でした。高校生で一人暮ぐらしをしている私わたしを心配し，食事の面めん倒どうを見てくださったんですが，この食事が本当においしかったんです。あまりのおいしさについ食べすぎて，かなり太ってしまったほどでした。でもそこで，食事は人を元気にすることができるということ，食事の大切さについて実感することができました。そこで，大学進学時には，栄養学を学ぶことにしたんです。

いつも学生にも言っているのは「いろんな人の話を聞きなさい」ということです。多くの人と会って話す中で，「人間力」が磨みがかれていくと思います。世代を問わず，いろいろな人の意見を聞き，自分の意見を話すことができる環かん境きょうをぜひ積極的に作っていってください。実じっ際さい，ヒューマンライフ支し援えんセンターの活動の中で，学生たちが自分の意見を生き生きと言う姿すがたを見ると，その大切さを実感します。
また，状じょう況きょうに合わせて臨りん機き応おう変へんに対たい応おうすることができる“しなやかさ”も大切だと思っています。私わたし自身，高校受験では挫ざ折せつも味わいましたが，その後に「やりたいこと」を見つけることができました。みなさんにも，ぜひ，さまざまなことに挑ちょう戦せんしてもらいたいです。