私わたしは，北ほっ海かい道どうの旭あさひ山やま動物園で飼し育いくスタッフをしています。担たん当とう獣じゅう舎しゃの動物たちの餌えさやりや掃そう除じをおこないながら，様子を観察し，健康状じょう態たいを把は握あくして，飼し育いくするのが基き本ほん的てきな仕事です。動物園にはさまざまな獣じゅう舎しゃがあり，それぞれ担たん当とうスタッフが決まっています。担たん当とう者しゃがお休みのときには，代番が入ることになっています。私わたしの現げん在ざいの担たん当とうは，シンリンオオカミと北海道産動どう物ぶつ舎しゃ。それから，代番の担たん当とうがトナカイと小しょう獣じゅう舎しゃ。代番は半年ごとに変わります。北海道産動どう物ぶつ舎しゃにはキツネ，アライグマ，タヌキ，ウサギ，リス，モモンガ，テン，カラスなど，いろいろな動物がいるので，担たん当とう動物の数は多いほうです。
飼し育いくスタッフの仕事は，朝9時始業ですが，その前にオオカミの様子を見にいくのが私わたしの日課です。9時になると，まず10分ほど飼し育いくスタッフのミーティングがあり，その後は獣じゅう舎しゃに行って，動物たちの様子を観察しながら掃そう除じと餌えさやりをします。来園者の方々が動物たちの食事の様子を見学できる餌えさやりは，「もぐもぐタイム」と呼よばれる人気イベントです。
12時すぎからお昼休みをとった後，13時からはまた，掃そう除じと餌えさやりの続きをおこないます。15時30分になると，動物たちの収しゅう容ようと掃そう除じ，夕方の餌えさやりです。こうした流れのなかの空いた時間で，餌えさの補ほ充じゅう，獣じゅう医いや代番スタッフとの情じょう報ほう共有，事じ務む所しょでの健康カード（動物種ごとに記録するカルテのようなもの）記入といった仕事もおこないます。雪が降ふれば，担たん当とう獣じゅう舎しゃの除じょ雪せつもスタッフの仕事です。終業は17時30分です。
繁はん忙ぼう期きは特にありませんが，春と秋の休園期間には獣じゅう舎しゃのレイアウトを変えたり，動物たちを紹しょう介かいする手て描がき看かん板ばんを作り直したりと，通つう常じょうの開園期間中よりも作業が増ふえます。
動物のお世話が仕事ですから，臭くさい，汚きたないが嫌いやな人は動物園では働けません。動物が怪け我がをしたときなどは，動物をつかまえなくてはならない場合もあります。大きい動物であれば吹ふき矢やで麻ま酔すいをしますが，キツネやタヌキは手で捕つかまえます。捕つかまえる技ぎ術じゅつと度ど胸きょうも必要です。

私わたしの担たん当とうする北海道産動どう物ぶつ舎しゃは，北海道の動物たちがいる獣じゅう舎しゃです。このため，園内で餌えさを調達しています。来園者の方々も巻まき込こんでどんぐりを拾ってもらったり，園内の木の剪せん定ていで出た枝えだをもらってリスやモモンガのおやつにしたり，カボチャの種を洗あらってリスのおやつにしたりします。
とにかく，動物たちを飼し育いくするなかで，彼かれらが少しでも楽しくなることを考えているんです。野生のなかで食べているものをあげたいというのも，そのひとつ。剪せん定ていで出た枝えだはリスのために確かく保ほしたのですが，獣じゅう舎しゃに入れてみたら，ウサギもかじっていました。「こういうものも食べるんだ！」という発見になりました。
そういう発見があると，手て描がき看かん板ばんにまとめて獣じゅう舎しゃに掲けい示じしています。旭あさひ山やま動物園では，飼し育いくスタッフが各獣じゅう舎しゃに手て描がき看かん板ばんを掲けい示じして，プラスアルファの動物紹しょう介かいをおこなっているんです。色画用紙などに手て描がきで，絵や写真も自分で用意します。

手て描がき看かん板ばんの内ない容ようはすべて各獣じゅう舎しゃの担たん当とう者しゃに任まかされており，枚まい数すうにも決まりはありません。私わたし自身は，手て描がき看かん板ばんを通して，動物の身体の特とく徴ちょうを伝えたいと思っています。たとえば，北海道産動どう物ぶつ舎しゃのユキウサギは，夏と冬で毛の色が変わります。また，思った以上に足が長く，後ろ足が大きいんです。それは，ふかふかした雪の上を歩いても埋うもれないようにそうなっているんだよ，というような内ない容ようをまとめています。飼し育いくを通して見えてくる，担たん当とう動物たちの「ここがすごい」「こんなことするんだ！」「おもしろい！」ということを来園者に伝えていきたい。それによって来園者から「これまでこの動物には興きょう味みがなかったけれど，今日動物園で見てみて，かわいいと思った」「楽しかった，勉強になった」という反はん応のうをもらえると，すごくうれしいですね。
飼し育いくスタッフの仕事では「伝えること」が大事だと考えています。私わたしは旭あさひ山やま動物園の公式SNSも担たん当とうしているので，他のスタッフも写真や動画を撮とると私わたしに送ってくれるんです。園内の手て描がき看かん板ばんだけでなく，インターネットを通じて情じょう報ほう発信をおこなうことで，来られないけれど旭あさひ山やま動物園のことを気にしているという人たちにも動物たちのことを伝えていけたらいいなと思っています。人間はどうしても，自分たちを中心に環かん境きょうを考えがちですが，人間もいて，あちこちにいろいろな動物もいて，というのが本来は当たり前の環かん境きょうです。私わたしたちが情じょう報ほう発信することで，少しでも周りに目を向けてもらえたらうれしいです。
飼し育いくスタッフ歴20年というとベテランだと思われがちですが，新しい動物の担たん当とうになると，そのつど一から勉強になるし，動物たちの状じょう況きょうも日々変わっていくので，「これでいい」と思ってしまうことのないように心がけています。

小学生のころはペット不ふ可かのアパートに住んでいたので，学校からの帰り道，犬を外で飼かっている近所の家を，よくめぐっていました。中学生になると，家でウサギを飼かい始めました。動物は好きでしたが，就しゅう職しょくするまでに一いっ緒しょに暮くらしたのはウサギだけです。
動物園の飼し育いくスタッフになったのは偶ぐう然ぜんだったんです。高校卒業後，旭あさひ川かわ市しの職しょく員いん採さい用ようで現げん業ぎょう職しょくを受けました。現げん業ぎょう職しょくには学校の事じ務む補ほ助じょ員いんや学校給食の職しょく員いん，ごみ収しゅう集しゅうの仕事などがあり，私わたしは学校給食で希望を出していたんです。募ぼ集しゅう枠わくが一番多く，採さい用ようされやすいのではと考えたのが理由でした。動物園職しょく員いんの希望はまったく出していなかったので，旭あさひ山やま動物園に配はい属ぞくになったときには驚おどろきました。さらに，旭あさひ山やま動物園の女じょ性せい正せい職しょく員いんとしては初めての採さい用ようだったんです。当時はまだ，女じょ性せいは臨りん時じ職しょく員いんしかいなかった。以来20年間，旭あさひ山やま動物園に勤きん務むしています。
いま，将しょう来らいなりたい職しょく業ぎょうがある人とない人，いろいろいると思います。目標がある人はそれに向けてがんばればいいし，ない人は焦あせらなくてもいい。いまはまだ目標がなくても，きっと何かが見つかります。私わたし自身，動物園の飼し育いくスタッフになりたかったわけじゃないけれど，なってみたら，はまりました。たまたまポンと置かれた状じょう況きょうが，はまることもあるんです。だから，少しでも興きょう味みのあること，楽しいと思うことに積極的に取り組んでいけば，きっと将しょう来らいやりたいことにたどりつけるのではないでしょうか。