私わたしは映えい画が監かん督とく、舞ぶ台たい演えん出しゅつ家か、プロデューサー など幅はば広ひろい仕事をしています。仕事内ない容ようをひとことで言うと、「楽しいことを考え、それをかたちにしてお客さまに伝えること」です。その方法は、映えい画が、舞ぶ台たい、イベントなどさまざまです。今後は、地方の博物館などをもっと楽しくできるような、地ち域いきを元気にする演えん出しゅつもやってみたいと考えており、表ひょう現げん方法にこだわらず作品づくりをしたいと考えています。
私わたしの仕事は、文化祭の企き画かくづくりに近いかもしれません。みなさんの中にも「今年はクラスで何をやろうか」と、お化け屋や敷しきや演えん劇げきなどの企き画かくを考えたことがある人もいるのではないでしょうか。私わたしは、人を楽しませるための企き画かくを考えて実じつ現げんすることが好きなので、この仕事を続けています。
大学時代にPlanet Kidsという留りゅう学がく生せいの映えい画が製せい作さくサークルをスタートさせ、帰国後、約12年前にPlanet Kids Entertainment（プラネット キッズ エンターテインメント）という会社を設せつ立りつしました。代表取とり締しまり役やくも務つとめています。最初は私わたし1人の会社でしたが、6年前ころから規き模ぼの大きな舞ぶ台たいを手て掛がけるようになったため、1人では対たい応おうが難むずかしくなり、社員も採さい用ようし始めました。現げん在ざいは6人の社員がいます。また、映えい画がでは撮さつ影えいや編へん集しゅう部門、舞ぶ台たいでは照明や音おん響きょう担たん当とうなど、全体で70人から時には100人を超こえるほどの外部スタッフと取引があり、協力しながらエンターテインメント作品をつくっています。

仕事は、出しゅっ版ぱん社しゃや広こう告こく代だい理り店てんから「こういうイベントを実じっ施ししたい」と依い頼らいされることもあれば、自分たちから企き画かく提てい案あんすることもあります。どちらの場合も私わたしが企き画かくを立てるところから始まることが多いです。
例えば、今手て掛がけている「逃とう走そう中　THE STAGE」という舞ぶ台たいの場合は、私わたしたちから企き画かく提てい案あんして実じつ現げんしたものですが、「逃とう走そう中　THE STAGE」ではまず、著ちょ作さく権けん（作品を使用する権けん利り）を持っているテレビ局と交こう渉しょうし、舞ぶ台たい化かして公こう演えんする権けん利りを取しゅ得とくしました。舞ぶ台たいの場合は、開かい演えんの1年前には劇げき場じょうを確かく保ほしておく必要があるため、公こう演えん内ない容ようが決まっていなくても先に劇げき場じょうを予約しておきます。そして脚きゃく本ほん（セリフや動きが記き載さいされた映えい画がや舞ぶ台たいの設せっ計けい図ず的役やく割わりを担になうもの）は、3か月前には完成させます。脚きゃく本ほん家かに依い頼らいすることもありますが、今回は私わたしが書きました。そこから美び術じゅつなどの専せん門もん部隊との打ち合わせを開始します。出しゅつ演えんする役者を決めて、稽けい古こを開始するのは1か月前ごろからです。その後、役者に演えん技ぎ指し導どうをしながら稽けい古こを重ね、公こう演えん本番に向けて準じゅん備びを進めていきます。
また、映えい画が監かん督とくとしては、全体の指し揮きをとり、役者やスタッフに指し示じを出すのが主な仕事です。例えば撮さつ影えい現げん場ばでは、まず動きやセリフを確かく認にんする「段だん取どり」という工こう程ていで、役者と話をしながらどう演えんじてもらうかを決めます。それが決まったら役者はメイクをしたり、気持ちをつくったりする準じゅん備びに入ります。その間に私わたしはカメラマンとどの角度から撮とるかを決めたり、照明技ぎ師しと光の入れ方を決めたりして準じゅん備びを整えます。役者のメイクなどが完かん了りょうしたら「ヨーイ、スタート！」と、本番の撮さつ影えいが始まる流れです。

映えい画が監かん督とくや舞ぶ台たい演えん出しゅつ家か、プロデューサーの仕事には、それぞれの役やく割わりに違ちがいがあります。
映えい画が監かん督とくは、作品の方ほう向こう性せいを決めることが重要な役やく割わりです。「こんな映えい像ぞうが撮とりたい」「この場面ではハラハラさせたい」といった狙ねらいを役者やスタッフに伝え、思った通りに撮とれているか確かく認にんします。方ほう向こう性せいを示しめすためには、自分の中に明めい確かくなビジョンが見えている必要があります。目的は何なのか、この映えい画がを作って何をしたいのか、お客さまにどう伝えたいかをしっかり考えることを大切にしています。
舞ぶ台たい演えん出しゅつ家かは、企き画かくをどう舞ぶ台たいにするのかを考えることが主な役やく割わりです。例えば「逃とう走そう中」のような鬼おにごっこゲームを、どう演えん劇げきに落おとし込こむのかを考えます。演えん出しゅつプラン（計画）を立てて、役者を決めるためのオーデションをしたり、美び術じゅつ、照明、音おん響きょうについて各スタッフと話し合ったりして具体的に決めていきます。
プロデューサーの役やく割わりは、企き画かくを考え、お金を集め、その企き画かくを実じつ現げんさせるためのチームを組み、お客さまに届とどけることです。そして企き画かくを実じつ現げんすることで利り益えきを出すこともプロデューサーの役やく割わりになります。また、トラブルが起こったときに対たい応おう策さくを考え、判はん断だんする責せき任にんも負います。
映えい画が監かん督とく、あるいは舞ぶ台たい演えん出しゅつとプロデューサーの仕事を兼けん任にんする人は日本では少ないのですが、海外ではよく見られるスタイルです。兼けん任にんすると仕事量が多くなるため、時間的には忙いそがしくなります。しかし、プロデューサーもやることで予算配分なども自分でコントロールできるので、私わたしは両方の仕事を兼けん任にんすることが多いです。

仕事の中で一番大変なことは、トラブル対たい応おうです。舞ぶ台たいや映えい画がの製せい作さく中に誰だれかがけがをしたり、体調を崩くずしたりしたときに、「続けるか、中止するか」の判はん断だんをしなければなりません。コロナ禍かになり、その判はん断だんをするための明めい確かくな基き準じゅんが示しめされていないこともあるので、特に難むずかしくなったと感じています。役者やスタッフ、お客さまの安全が第一であることは当然ですが、中止すれば、数百万円、時には数千万円の損そん害がいが出てしまいます。さらに「逃とう走そう中　THE STAGE」のように他社から作品を借りて上じょう映えいしている場合は、作品自体のイメージを守る必要があります。安全と収しゅう益えき、作品イメージの3つのバランスを考えながら判はん断だんするのには、苦労しています。
また、演えん劇げきでは70人、映えい画がでも30～40人ぐらいのスタッフが動くので、何かしら問題が起きます。何かが足りなかったり、伝達ミスが起きていたりするのです。そういったトラブルは、コミュニケーション不足が原げん因いんで起きることが多いと思います。そのため、5分10分でも時間を作り、しっかりコミュニケーションを取ることを心がけています。それから、スムーズに仕事を進めるためには、日ひ頃ごろから丁てい寧ねいで親しみを感じられる対たい応おうをすることも大切です。特にメールでのコミュニケーションの場合は、冷たく感じられてしまうこともあるので、堅かたい感じのビジネスメールではなく、親しみやすい文章で送るようにスタッフにも指し導どうしています。

私わたしが仕事の中でやりがいを感じる瞬しゅん間かんは、お客さまに観みてもらい、観みた人の心に伝わったことが感じられたときです。劇げき場じょうで感動して泣いたり、驚おどろいたり、笑ったりしている人を見たときに、やってよかったと思います。いつも人の心に何かを届とどけたいと思いながら作品をつくっています。
「逃とう走そう中　THE STAGE」は、子どもたちに、常つねにスピード感とハラハラ感を持って観みてもらうことを意い識しきして脚きゃく本ほんを書きました。本作で特に考えたのは、「演えん劇げきを初めて観みる子もいる」ということです。初めての舞ぶ台たいがつまらなければ、演えん劇げきが嫌きらいになってしまいます。観み終わってからまねして遊んでいる子どもたちを見たときは、楽しんでもらえたことが伝わってきて、本当にうれしかったです。
それから、インターネット上で「この舞ぶ台たいがあるから仕事を頑がん張ばれる」というコメントを見かけることがよくあります。そういうコメントを見たときに、その作品のファンが、心から楽しみに待ってくれていることを感じます。みなさんも夏休みのお出かけの日などをカレンダーに書かき込こんで、あと何日と心待ちにすることがあるのではないでしょうか。演えん劇げきや映えい画がなどで日にち常じょうから抜ぬけ出だして、非ひ日にち常じょうに行くことでまた日にち常じょうの中で頑がん張ばれる。私わたしたちの仕事は、そういった日にち常じょうを輝かがやかせるための楽しみをつくる仕事だと考えています。

私わたしが映えい像ぞうを撮とり始めたのは、父がゴルフの景品でビデオカメラをもらってきたことがきっかけでした。当時、私わたしは小学4年生でしたが、父はビデオカメラに興きょう味みがなかったので、もらうことができたのです。私わたしはもともと映えい像ぞうを撮とることに興きょう味みがありましたが、高こう額がくなビデオカメラを入手することは無理だとあきらめていました。そのため、ビデオカメラをもらえると大おお喜よろこびして、友達を集めてすぐに撮さつ影えいを始めました。初めて撮とった作品は、異い世せ界かいに行くファンタジー系けいのストーリーだったと思います。実じっ際さいにやってみると楽しくて、映えい画が監かん督とくになることが夢ゆめになりました。
そのころ、たまたま落ちていた映えい画が雑ざっ誌しの付録を発見し、そこに載のっていた有名な映えい画が監かん督とくの経けい歴れきをすべて暗記しました。出身大学を見ると、南カリフォルニア大学やニューヨーク大学が多かったので、「留りゅう学がくして同じ大学で映えい画がの勉強をする」と決めたのです。しかし、英語が苦手だったので、まずは海外の語学学校に入学しました。次に日本の短大にあたるコミュニティーカレッジに入学します。そこから大学に編へん入にゅうできる制せい度どがあったので、編へん入にゅう試験を受けて、ついに南カリフォルニア大学の映えい画が学部に入学しました。大学では、有名監かん督とくのスティーヴン・スピルバーグやロバート・ゼメキスが講こう義ぎをしてくれたのをよく覚えています。また、キャンパスで「スター・ウォーズ」などの映えい画が音楽で知られるジョン・ウィリアムズが学生オーケストラの指し揮きをしていたこともありました。その光景を見たときは、とても感動しましたね。
留りゅう学がく中も大学に通いながら自主映えい画がを撮とり続けていました。そのころは製せい作さく費ひがなかったため、一番苦労したかもしれません。大学の食しょく堂どうで、自分で作ったカレーライスを売ったりしながら、資し金きんを集めていました。そして帰国前になると、日本のいろんな映えい像ぞうプロダクションや有名プロデューサーに作品を送りました。日本で仕事をするために営えい業ぎょうをしたのです。そこから映えい画がの製せい作さく過か程ていを撮とるメイキングの仕事をもらい、フリーで仕事をするようになりました。完成作品を見せて自分を売うり込こみながら少しずつ仕事の幅はばを広げ、現げん在ざいのようにさまざまな仕事をするようになりました。

幼よう稚ち園えんのころはヒーローショーや演えん劇げきなどに連れて行ってもらい、家でまねして遊んでいるような子どもでした。小学校の高学年になると、放課後は友達と一いっ緒しょに映えい像ぞうを撮とって遊ぶようになります。そのころから勉強や運動は苦手で、映えい像ぞうを撮とることが大好きでした。中学や高校になると、テスト前は「終わったらまた映えい像ぞうが撮とれる」と思って勉強をしていました。また、文化祭で、自分が撮とった映えい像ぞう作品を上じょう映えいするようになります。内ない容ようは、ホラー系けいやSF映えい画がの「ターミネーター」のようなストーリーなど、当時流行していたドラマや映えい画がの影えい響きょうを受けたものが多かったです。文化祭の前は、徹てつ夜やで編へん集しゅうをして、翌よく日じつの午前中は学校を休んでしまうこともあったのですが、親からも特に注意はされませんでした。小学生のころから「映えい画が監かん督とくになる」と言っていたので、「映えい画が作りのためならしょうがない」と思っていたのかもしれません。文化祭で上じょう映えいした作品は、当然のことながら厳きびしい意見ももらうこともあり悔くやしい思いをたくさんしました。また大学時代は有名プロデューサーにメールで酷こく評ひょうを頂いただいたこともあり、空港のトイレで泣いたのを覚えています。それでもずっと続けているのは、映えい像ぞうを撮とることが本当に好きだからだと思います。

私わたしがみなさんに伝えたいのは、「やりたいことがあったら、今すぐにやってみたほうがいい」ということです。例えば、将しょう来らいユーチューバーになりたいと思っているのなら、将しょう来らいではなく、今すぐにやってみればいいと思います。
私わたしも映えい画がを撮とりたいと思ったときに、すぐに撮とり始めました。やってみると、楽しいことや悔くやしいことがたくさん出てきます。そして、「今度はこうしよう」と、出てきた課題を次の作品に生かすことができるようになっていきます。「やってみること」の一番の効こう果かは、現げん実じつ感が出て、次の景色が見えてくることです。実じっ際さいにやってみて、社会に向けて公表するというのは褒ほめられるだけではなく、酷こく評ひょうもされるということです。そのつらさは実じっ際さいに体験してみないと分かりません。やりたいことがあれば、すぐに動いてみて、厳きびしい現げん実じつを受け入れ、それでも続ける覚かく悟ごをすぐにでも持つことが大切です。
大人になるほど失敗することが怖こわくなり、挑ちょう戦せんしにくくなってしまうので、みなさんには若わかいうちにぜひ、失敗や成功の体験をたくさんしてほしいと思っています。