箱はこ根ね丸まる山やま物ぶっ産さんは、明治初期から続く箱はこ根ね寄よせ木ぎ細ざい工くの製せい造ぞう・販はん売ばいを行う会社です。祖そ父ふ、父の跡あとを継つぎ、現げん在ざいは私わたしが代表取とり締しまり役やくを務つとめています。細工を請うけ負おってくれている職しょく人にんが４名ほどいるほか、10名の従じゅう業ぎょう員いんがいます。神奈川県の元もと箱はこ根ね、芦あしノ湖このほとりに本店があり、向かいには当社が運うん営えいする「箱根からくり美び術じゅつ館かん」もあります。ここでは、箱根寄よせ木ぎ細ざい工くを見て、触ふれて、作って、学ぶことができます。
箱根寄よせ木ぎ細ざい工くとは、木材を使って幾き何か学がく模も様ようを作る技ぎ術じゅつのことで、江え戸ど時代から続く伝でん統とう工芸技ぎ術じゅつです。材料としては、カシやケヤキ、クルミなどをはじめとして数十種類の樹じゅ木もくを使っており、樹じゅ木もくの種類によって異ことなる色味や風合いを生かして、色の濃のう淡たんを表ひょう現げんします。同じ木でも一本一本、色が変わってくるため、都つ度ど、職しょく人にんがいいものを選んで模も様ようを作ります。作る模も様ようは「麻あさの葉は模も様よう」や「市いち松まつ模も様よう」などの日本の伝でん統とう的てきな柄がらで、それらで小箱や小物などを装そう飾しょくします。使用する木材は、静岡県や岐阜県など日本全国から取とり寄よせており、種類によっては、外国から仕入れることもあります。

箱根寄よせ木ぎ細ざい工くを作るにあたっては、まず、色味や風合いが異ことなる木材を組み合わせて接せっ着ちゃく剤ざいで貼はり合あわせ、模も様ようを作り出します。こうやってたくさんの木材を寄よせ集あつめるので「寄よせ木ぎ」です。貼はり合あわせた状じょう態たいのものを「種板（たねいた）」と呼よびます。ここからは2種類の加工方法があります。
１つは「ヅク」という技ぎ法ほうです。種板の表面を特とく殊しゅなカンナで薄うすく削けずることで、模も様ようの入った薄うすいシートを作ります。例えると、金きん太た郎ろう飴あめの作り方と同じ原理です。小箱などは、木材で作ったベースの表面に、こうしたシートを貼はって装そう飾しょくします。
もう１つの技ぎ法ほうは「無む垢く」といい、種板自体を厚あつめに削けずったり曲げたりして、製せい品ひんの形に整えます。コースターやイヤリングなどの小物類は、無む垢くの技ぎ法ほうを使うことが多いです。
当社では製せい品ひんを、店てん舗ぽだけではなくインターネットでも販はん売ばいしていますが、インターネット販はん売ばいの場合は、サイトに掲けい載さいしている見本製せい品ひんと実じっ際さいにお届とどけする製せい品ひんができるだけ同じ色味になるよう気を付けています。同じ種類の樹じゅ木もくでも、一本一本、色味が少しずつ違ちがうからです。店てん舗ぽでは手に取って購こう入にゅうする製せい品ひんを選べるので、色味の違ちがいも味や個こ性せいになりますが、インターネット販はん売ばいの場合はそうはいきません。そのため製せい品ひんを作るときには、同じ色合いの木をどのくらい用意できるのか、というところも踏ふまえて製せい造ぞう数すうを決めます。自然のものを材料としている製せい品ひんならではの気を付けるべきポイントです。

箱根寄よせ木ぎ細ざい工くの代表的な作品が「秘ひ密みつ箱ばこ」です。秘ひ密みつ箱ばことは、決められた順番どおりにふたや側面の仕し掛かけを動かさないと開けることができない小箱のことです。当社で作っている秘ひ密みつ箱ばこは開けるまでに回数の少ないもので4回、多いものは72回、仕し掛かけをスライドさせる必要があり、回数が多くなるにつれて開けるのが難むずかしくなっていきます。昔は旅人が携けい帯たいする枕まくらとしても秘ひ密みつ箱ばこが使われていて、簡かん単たんには開けられないため、貴き重ちょう品ひん入れとして活かつ躍やくしていました。
秘ひ密みつ箱ばこと並ならんで当社の主力製せい品ひんとなっているのが、仕し掛かけを動かすと開けることができる「からくり箱」です。例えば箱の表面に三つ葉のクローバーがあり、もう1つ葉っぱをはめて四つ葉のクローバーにすると箱が開く、といった仕し掛かけです。
大体、１年に3、4種類の秘ひ密みつ箱ばこやからくり箱の試作品を作っていて、そのうちの1つくらいが、実じっ際さいに製せい品ひん化かに至いたります。小箱の要よう素そとなる仕し掛かけやデザインについては常つねにいろいろなアイデアをためていて、それらを組み合わせて1つの製せい品ひんにしていくような流れです。アイデアは自分たちの頭で考えるだけではなく、お客さまから頂いただいたリクエストがきっかけになることもあります。過か去こには、お客さまの声をもとに、A4サイズの紙が入る小箱や紙し幣へいが入る小箱を作ったこともあります。

私わたしのメインの仕事は、店てん舗ぽでの実じつ演えん販はん売ばいを通して箱根寄よせ木ぎ細ざい工くの魅み力りょくを発信していくことです。実は箱根寄よせ木ぎ細ざい工くの実じつ演えん販はん売ばいは、1970年代に当社が日本で初めて行いました。実じつ演えん販はん売ばいでは、集まってくれたお客さまを前に、箱根寄よせ木ぎ細ざい工くを作りながら歴れき史しや道具の話などをします。話す内ない容ようや時間はお客さまのリクエストに応おうじて、自由にアレンジしています。また、天気が悪いと店の近くから出る遊ゆう覧らん船せんやロープウェイが止まってしまうことがあるので、そういうときには観光客の方々を中に招まねき入いれ、雨宿りついでに箱根寄よせ木ぎ細ざい工くで一いっ緒しょに遊んでいただくのです。「開けてごらん」などと言いながら秘ひ密みつ箱ばこを渡わたすと、みなさん楽しそうに触さわってくれます。実じつ演えん販はん売ばいを通して、普ふ段だん関わることのないさまざまな方とコミュニケーションをとることができるのは、仕事のモチベーションアップにもつながっています。
ほかにも、広こう告こくを出す場所の検けん討とうや、製せい品ひんの売れ行きに影えい響きょうしそうな情じょう報ほう収しゅう集しゅうといったマーケティング活動、「箱根からくり美び術じゅつ館かん」の運うん営えい、インターネットで購こう入にゅういただいた製せい品ひんの発送作業なども行っています。

実じつ演えん販はん売ばいは6割わりがインバウンド（訪ほう日にち外国人観光客）のお客さまを相手にしているのですが、大体、通つう訳やくガイドの方と一いっ緒しょにいらっしゃるので、その場で通つう訳やくしていただくことで対たい応おうしています。インバウンドの中でも、特に多いのがヨーロッパ圏けんの方々です。木工技ぎ術じゅつはヨーロッパにもありますが、箱根寄よせ木ぎ細ざい工くの繊せん細さいな模も様ようや模も様ように込こめられた意味、仕し掛かけを解といた先に収しゅう納のうがあるという秘ひ密みつ箱ばこの仕組みは新しん鮮せんなようで、いつも大きなリアクションをいただきます。
箱根の店てん舗ぽで製せい品ひんをご購こう入にゅういただいたお客さまの中には、帰国してからインターネットで追加注文をしてくださる方もいます。箱根寄よせ木ぎ細ざい工くの魅み力りょくがしっかり伝わり、気に入ってくださったんだなと、とてもうれしくなります。
実は昨年のクリスマスに、突とつ然ぜん、海外から荷物が届とどきました。「返品かな……」と思いながら箱を開けてみたところ、中には木で作られた箱根丸山物産の本店のミニチュアが入っていました。以前、アメリカから来て製せい品ひんを購こう入にゅうしてくださったお客さまが箱根丸山物産のファンになり、手作りして送ってくださったのです。何かの職しょく人にんというわけでもないのにそこまでしてくれて、本当に感かん激げきしました。後日、またお店に遊びに来てくれたときには、記念に写真も撮とりました。
箱根丸山物産の本店には、インバウンドのお客さまが年間2万人以上いらっしゃるので、これからも箱根寄よせ木ぎ細ざい工くの魅み力りょくをグローバルに発信していき、一人でも多くの人にファンになってもらえたらいいなと思います。

インバウンドのお客さまを含ふくめ、より多くの人に箱根寄よせ木ぎ細ざい工くに興きょう味みを持ってもらうためには、これまでにない方向からアプローチする必要があると思っています。そのため、これまでさまざまな新しい挑ちょう戦せんをしてきました。
例えば、箱根寄よせ木ぎ細ざい工くの技ぎ術じゅつは各社とも社しゃ外がい秘ひにする風ふう潮ちょうがあったのですが、技ぎ術じゅつを知れば興きょう味みを持っていただくきっかけになるのではないかと考え、代表取とり締しまり役やくに就しゅう任にんした2021年に、インターネットで作り方を公開しました。2024年3月には当社が運うん営えいする「箱根からくり美び術じゅつ館かん」のリニューアルも行いました。プロジェクションマッピングの技ぎ術じゅつを使い、職しょく人にんの技ぎ法ほうを体感できる体たい験けん型がたの作品を上じょう映えいしています。
今や当たり前となったインターネット販はん売ばいも、箱根寄よせ木ぎ細ざい工くの業界の中では当社がいち早く始めました。父を含ふくめ、反対意見も多く出ましたが、箱根寄よせ木ぎ細ざい工くを広めたいという思いで、なんとか説せっ得とくしました。インターネット販はん売ばいをするにあたり、当初から気を付けているのが、単なるお金とモノのやり取りにならないようにすることです。複ふく数すう個こ買っていただいたお客さまにはできるだけ手書きのお手紙を添そえるなどして、「人が作ったものであること」「地ち域いきの思いや誇ほこりがあること」を伝える努力をしています。

月に2、3件けん、ご自身の所有する秘ひ密みつ箱ばこを持って来店されるお客さまがいらっしゃいます。その多くが「祖そ父ふ母ぼや両親から秘ひ密みつ箱ばこを受うけ継ついだものの、開けられなくて困こまっている」という相談です。箱根で買ったという情じょう報ほうしかなく、箱根丸山物産の製せい品ひんかどうかはわからない場合でも、製せい造ぞうする中で培つちかってきた知見をもとに目の前の秘ひ密みつ箱ばこに向き合います。ふたが逆さかさになっている、木がそってしまっている、力を入れすぎて部品がとれてしまっている、といった原げん因いんがわかり、無事に開けられたとき、「ありがとう」という言葉をいただくとうれしくなります。
木は何十年も生き続け、所有者の思いとともにあり続けます。中に入っているのは髪かみ留どめやお金、ビー玉などさまざまですが、どんなものでも数十年前にそれを入れた人の思いを感じられるでしょう。動作確かく認にんは売り上げに直結する作業ではないものの、思いをつなぐことでお客さまに感動を与あたえたいと考えています。

私わたしが通っていた小学校は、山の上にありました。その自然豊ゆたかな立地から、放課後にはあけびを取ったり、魚を釣つったりして過すごしました。ときには芦あしノ湖こにある流木を拾って帰り、のこぎりで切って工作することもありました。また、当時は家業を継つぐのが当たり前という時代だったので、毎日お手伝いをしながら「いつかは自分も箱根丸山物産を継つぐのだろう」と感じていました。
自分には箱根寄よせ木ぎ細ざい工くを広める使命があると考えるようになったのは、大学生のときです。大阪にある美び術じゅつ大学に通っていて、同級生には染せん色しょくや窯かま元もとなど、さまざまな伝でん統とう工芸の跡あと取とりがいました。同級生たちと話をする中で初めて痛つう感かんしたのが、箱根寄よせ木ぎ細ざい工くが、箱根以外の地ち域いきの人には全く知られていないということでした。「なにこれ？」と言われて愕がく然ぜんとするとともに、箱根寄よせ木ぎ細ざい工くの知名度を高め、ブランド化しなくてはならないと決心しました。
大学を卒業した後は、まずは自分が社会でどれだけ活かつ躍やくできるのかを知るために、物流会社に入社しました。数年後、母が体調を崩くずしたのをきっかけに家に戻もどると、秘ひ密みつ箱ばこの検けん品ぴんや父の実じつ演えん販はん売ばいへの同席、営えい業ぎょうなどを経けい験けんしたのち、代表取とり締しまり役やくに就しゅう任にんしました。

箱根寄よせ木ぎ細ざい工くをはじめ、木工製せい品ひんは時間がたつにつれて飴あめ色いろに変わっていきます。いわゆる経けい年ねん変化というものです。これを汚よごれではなく、美しいと感じられる感かん性せいを持ってもらえるとうれしいです。また、愛着を持って使い続けることができるものを、自らセレクトできる目を持ってほしいです。今はモノがあふれているので、たとえ壊こわれてしまったとしても簡かん単たんに買かい替かえることができるでしょう。しかし愛着のあるモノを集めれば、大切に使い続ける気持ちが高まり、自然とモノの寿じゅ命みょうが延のびていきます。すると身の回りがよいモノであふれていくはずです。それはきっと豊ゆたかな人生を送ることにもつながっていくと思います。今後も実じつ演えん販はん売ばいなどを通して、一人でも多くの人にこの思いを伝えていきたいです。
加えてみなさんにお伝えしたいのが、行動する大切さです。自分の信念を貫つらぬいて行動すれば、少しずつ夢ゆめの実じつ現げんに近づいていくはずです。何かやりたいことや好きなことがあるのであれば、それをないがしろにせず、積極的にチャレンジしてみてください。

＜秘ひ密みつ箱（72回）の開け方＞