私わたしが勤つとめている「琉りゅう球きゅう銀行」は，県内で最も初めに創そう立りつされた歴史のある銀行です。みなさんは沖おき縄なわ県けんがアメリカの一部だったことを知っていますか。沖おき縄なわ県けんは第二次世界大戦の影えい響きょうで，1945年からの27年間，日本ではなくアメリカの管理下にありました。なので沖おき縄なわに住む人々は，それまでの日本の通貨“円”での暮くらしから“ドル”を使って生活をするルールになり，物の価か値ちや生活が大きく変わってしまいました。そんな沖おき縄なわの人々の暮くらしを守る「中央銀行」として，物ぶっ価かの安定と経けい済ざい発はっ展てんのために1948年　琉りゅう球きゅう銀行は設せつ立りつされました。中央銀行とは，国で使われる通貨を発行する権けん利りを持ち，国内の銀行の管理をする役やく割わりを持っています。中学生のみなさんが社会科公民で学ぶ，「日本銀行」は日本の中央銀行です。基き本ほん的てきにはひとつの国にひとつしか存そん在ざいしませんが，当時の沖おき縄なわは，日本でもアメリカでもない特別な地ち域いきでしたので，琉りゅう球きゅう銀行がその枠わく割わりを担になっていました。1972年，沖おき縄なわが日本に返へん還かんされたときに「地方銀行」として生まれ変わり，今では地ち域いきから親しまれ信しん頼らいされる銀行として，沖おき縄なわの皆みな様さまの暮くらしに貢こう献けんしています。

銀行の大きな役やく割わりの一つに，お客様からお金をお預あずかりし，必要としている方にお貸かしする「融ゆう資し」という仕事があります。私わたしの勤つとめている銀行も，お客様からお金を預あずけていただき融ゆう資しに活用しています。ただ，お預あずかりした全てのお金を融ゆう資しに利用できている訳わけではありません。そのため，一部のお金は日本政せい府ふや都道府県などの地方公共団だん体たい，または海外の政せい府ふが発行する債さい券けんや企き業ぎょうが発行する株かぶ式しき，投とう資し信しん託たくといった「有ゆう価か証しょう券けん」と呼よばれる金きん融ゆう商品を，専せん門もんに扱あつかっている金きん融ゆう市場（マーケット）で運用し，お客様からお預あずかりした大切なお金を増ふやすことに努めています。
私わたしの所しょ属ぞくする証しょう券けん国こく際さい部ぶは，その運用業ぎょう務むを行う部ぶ署しょです。取り引きを行うフロント業ぎょう務むとそれをサポートしているバック業ぎょう務むと呼よばれる仕事があり，私わたしはバック業ぎょう務むを担たん当とうしています。朝は7時に出しゅっ勤きん。ヨーロッパやアメリカのマーケットがどのように動いたか情じょう報ほう収しゅう集しゅうし，その後，8時からフロント担たん当とう者しゃや上司とのミーティングで報ほう告こくします。8時半過すぎには，営えい業ぎょう店てんの行員向けに情じょう報ほうを発信しています。私わたしたちの証しょう券けん国こく際さい部ぶのスタッフはお客様と直ちょく接せつ会う機会はほとんどありませんが，営えい業ぎょう店てんの行員がお客様のためにスムーズにやり取りできるようサポートしています。私わたしの担たん当とうするバック業ぎょう務むは，フロント担たん当とう者しゃの指し示じに従したがいデータ入力や入金確かく認にんといった事じ務む処しょ理りを行います。基き本ほん5時までの勤きん務むですが，3時頃ころになるとヨーロッパの取り引きがスタートするため，海外で大きなニュースがある場合には残業をすることもあります。最近では英国のＥＵ離り脱だつや米大統領選のときは，マーケットも大きく動き非ひ常じょうに忙いそがしくなります。
私わたしたちの銀行には1300人以上の行員が働いていますが，フロント業ぎょう務むを担たん当とうしているのは4名のみで，バック業ぎょう務むは私わたしを含ふくめ3人で行っています。

子どもの頃ころはとにかく目立ちたがり屋で，人前に出るのが大好きでした。学芸会でも自分から主役に立りっ候こう補ほして，学校代表で意見発表会にも参加しました。中学校では生徒会の会長選挙に立りっ候こう補ほして，副会長に選ばれました。ボーイスカウトにも入ってましたよ。キャンプなどの野外活動はもちろん，リーダーも務つとめてメンバーを引いん率そつしていましたね。この頃ころから，率そっ先せんして人の役に立ちたいという気持ちが芽生え始めたと思います。
ですが，私わたしには友達がいなかったんです。クラスメイトや部活の仲間はいましたが，会話が合わないというか，打うち解とけられなくて，学校のどこにいても寂さびしい思いをしていました。私わたしが目立つことをしていた理由のひとつは，友達が欲ほしかったんだと思います。教室での寂さびしさを埋うめるために，生徒会活動に打うち込こんでいたというのが本音ですね。結局，中学校まで「友達」と呼よべる人には出会えませんでした。私わたしの思う友達は，“楽しく遊ぶ”だけの関係ではなく，“心のつながり”が感じられる関係です。ワクワクすることも大切だけれど，時には本音で互たがいの意見をぶつけ合ったり，時にはライバルになったり，でも絶ぜっ対たいに嫌きらいにならない，そんな「友達」が欲ほしいと思っていました。

高校生になってからは，放送部に所しょ属ぞくしました。放送部と聞くと，昼休みの校内放送とか楽しそうなクラブ活動というイメージがあると思いますが，私わたしたちは全国の高校生が競きそう放送コンクールを目指し，九州大会や全国大会に向けて番組制せい作さくやアナウンスの練習に明あけ暮くれていました。
朝6時から学校に行って放課後は夜8時くらいまで，土日も夏休みも部活一色の毎日でした。大会に出品する作品の長さは8分と決まっていましたので，その短い中に内ない容ようはもちろん，どんな構こう成せいにするのか，見ている人に分かりやすく伝えるために何を工く夫ふうすべきか考え，真しん剣けんに取り組みました。部員のさまざまな視し点てんを盛もり込こむことで面おも白しろい番組ができあがると信じつつも，もっと良い作品にしたい，もっと上手になりたいとの思いが強くなり過すぎて，時には激はげしく思いを戦わせることもありました。３年生で部長になったのですが，私わたしの気負いすぎたリーダーぶりに，後こう輩はいから“鬼おに部長”と陰かげでいわれるほど体たい育いく会かい系けいのノリでしたね。チーム全員の思いと努力が詰つまった作品が，全国大会で入賞したときに部員全員で大喜びしたのは，今でもいい思い出です。そのときの仲間は，私わたしのかけがえのない親友です。

放送部の経けい験けんからマスコミの仕事に興きょう味みを持ちました。個こ人じんでもアナウンスで入賞した経けい験けんもありましたので，将しょう来らいの夢ゆめは「アナウンサー」と決め，有名なアナウンサーが多く通ったという大学に進学し，マスコミ専せん攻こうで勉強をしました。マスコミ専せん攻こうのゼミは，選せん抜ばつ試験があるほどハードルが高く，中でもアナウンサーコースは少人数しか受けることができませんでした。マスコミとは，正しくは「マスコミュニケーション」といって，多くの人という意味の“マス”に対して，コミュニケーションするという意味です。“コミュニケーション”とは，言葉によって心や気持ちが通い合い，お互たがいが理り解かいできるようになることです。
しかし，次し第だいに「自分がやりたい仕事ではないかもしれない」と思うようになりました。アナウンサーは人に伝える魅み力りょく的てきな仕事だけれど，テレビやラジオの向こう側で聴きいてくださる人の顔が見えなくて，どう感じたのかが直ちょく接せつは分かりません。伝えることが重じゅう視しされて，一方通行の情じょう報ほう発信になってしまわないかと気になりました。そのとき，自分は双そう方ほう向こうのコミュニケーションが理想だと思っていて“伝える人”と“受け取る人”双そう方ほうの“人”との交流がしたい，それを実じつ現げんできる仕事としてマスコミに関わる職しょく業ぎょうを望んでいるのだと気づきました。
途と端たんにアナウンサーを目指していた気持ちが消えてしまい，自分の進路が見えなくなって不安でしたね。何よりも心苦しかったことは，両親にそのことを言えなかったことです。大学進学のときに「アナウンサーになるために是ぜ非ひこの大学に行きたい！」と頼たのみ込こんで説得し，東京の大学に行かせてもらった手前，両親に申もうし訳わけなかったですね。

アナウンサーの夢ゆめは消えましたが，ずっとそこに立ち止まってもいられません。次の目標を探さがしてみることにしました。社会にはどんな職しょく業ぎょうがあるのか，どんな仕事が自分に向いているのかヒントを見つけたくて，企き業ぎょう説明会にも積極的に参加しました。別に「就しゅう職しょくできればなんでもいいや」という気持ちではなかったですよ。やはり「人に関わりたい！」という思いは変わらなかったので，何を軸じくに“人”と関われるのかを知りたくて情じょう報ほうを集めていました。
その中で「お金」に関わる仕事に興きょう味みを持ちました。お金は“命の次に大切”といえます。人の暮くらしにはわずかであってもお金が欠かせません。衣食住はもちろんですが，赤ちゃんが生まれたり結けっ婚こんしたりなど家族が増ふえるとき，引ひっ越こしたり進学したりなど環かん境きょうが変わるときにもお金は必要です。そんなふうに誰だれかの人生に密みっ接せつに関わるお金を扱あつかう仕事である「銀行員」になることを決めました。
金きん融ゆう機関には「都市銀行」と言われる全国に支し店てんを持つ大きな銀行や「証しょう券けん会社」などがありますが，性せい別べつや年ねん齢れい層そうを問わずさまざまなお客様が来店される「地ち域いき銀行」を希望しました。その中でも，沖おき縄なわの歴史の転てん換かん期きを支ささえ，今でも地ち域いきに親しまれ信しん頼らいされる琉りゅう球きゅう銀行で，地ち域いきの方々の暮くらしに寄より添そっていきたいと思いました。

私わたしは入行して初めの数年間は支し店てん勤きん務むをしました。個こ人じんのお客様が多く，税ぜい金きんの払はらい込こみや入出金はもちろん，お母さんがお子様の口こう座ざ開かい設せつのために来店したり，車や家の購こう入にゅうや退たい職しょく金きんの相談をしたり，お客様の夢ゆめや人生設せっ計けいのお手伝いをさせていただきました。またお年玉を貯ためて窓まど口ぐちに預あずけに来てくれる子どもたちや，100円をコツコツ貯金箱に貯ためて嬉うれしそうに持ってくるおばあさんから大切なことを教わりました。それは夢ゆめや目標は，毎日の小さな努力と思いを乗せたお金が積み重なってかなえられるということです。人生の節目にもお金は必要になってきます。お金とは夢ゆめをかなえたり，暮くらしを豊ゆたかにしたりする応おう援えん団だんだと思います，私わたしが勤つとめる銀行には，一人ひとりの思いと小さなお金が集まってきます。一いっ生しょう懸けん命めいに働いたお金，年金，結けっ婚こんや出産祝いなど金きん額がくの大小に関係なく全てが大切です。だから，その大切なお金をしっかり守ることが銀行員の仕事だということをお客様の姿すがたを通して学びました。
今は証しょう券けん国こく際さい部ぶに配はい属ぞくされて，直ちょく接せつお客様とお会いする機会はありませんが，支し店てん時代にお世話になった方々のお顔を思い出しながら自分の仕事と向き合っています。夜10時になると世界のお金の動きがわかるニュースが毎日流れるのですが，お客様の損そん得とくに関わる大切な情じょう報ほうなので気になってしまい，寝ねていても遊んでいても，その時間だけは情じょう報ほうを確かく認にんします。
とはいえ，うまくできないことや時には先せん輩ぱいや仲間に迷めい惑わくをかけてしまうこともありますが，小さな努力を重ねて自分の成長につなげていくことが，お客様に対する責せき任にんだと思って毎日頑がん張ばっています。

私わたしは子どものころ，友達がいなくてクラスに溶とけ込こめなかったのですが，ボーイスカウトという学校以外の世界を持っていました。そこには自分より年下だったり，お父さんと同じくらいの人がいたり，自分とは違ちがう価か値ち観かんの人がいて多くのことを私わたしに教えてくれました。その人たちとの時間が楽しくて，ますます学校で浮ういてしまう存そん在ざいになっていたかもしれません。振ふり返かえってみると，そのときはただ寂さびしいという気持ちを紛まぎらわしていただけかもしれませんが，それが大人になった“今”の力になっています。あの頃ころ，世界を広げる挑ちょう戦せんをしていなかったら，望まない未来になっていたかもしれません。
もしあなたが，“今”いる場所や時間に居い心ごこ地ちの悪さを感じて，寂さびしく思っているとしたら，もう少しだけ目線を上げてみませんか。別の世界に自分の居い場ば所しょ，自分の理り解かい者しゃが必ずいます。学校はとても大切な場所であることに変わりありませんが，学校での学びやクラスのお友達だけが全てではありません。自分が安心できる場所や自分を輝かがやかせてくれる世界はたくさんあります。だから挑ちょう戦せんしよう！自分が動けば，世界は変わります。失敗を恐おそれずに駆かけ抜ぬけてください。未来には笑え顔がおのあなたが待っていますよ。