マンションや高いビルが急に白や灰色(はいいろ)や水色のネットで覆(おお)われるのを見たことがありませんか？そのネットの中では，壁(かべ)の修理(しゅうり)をしたり，ペンキを塗り替(ぬりか)えたり…といった改修(かいしゅう)工事が行われています。でも高いビルの外側の壁(かべ)をどうやって修理(しゅうり)するのでしょう？実は，ビルやマンションの壁(かべ)を修理(しゅうり)するための“足場”を作るのが，僕(ぼく)たち足場施工(せこう)の仕事なのです。どんな工事でも，立つところがなければ何もできません。だから，工事の一番初めに現場(げんば)に入って足場を作り，全ての工事が終わった後に足場をはずして一番後に現場(げんば)を出て行くのです。人の手が届(とど)かないような高い場所での工事には必ず僕(ぼく)たちの仕事が必要なんですよ。

足場は，全く何もない状態(じょうたい)から組み立て始め，１階が終わったらその足場の上に乗って，２階の足場を作る･･･というように，自分の作ったものの上に順々(じゅんじゅん)に組み立てていきます。階ごとに骨組(ほねぐ)みと足場をボルトでしっかり留(と)め，すべての足場が組み上がってから最後にネットを張(は)って紐(ひも)で縛(しば)ることで，ようやくその建物の改修(かいしゅう)工事が始められるようになるんですよ。僕(ぼく)は今の会社の中で「職長(しょくちょう)」という地位をまかされています。現場(げんば)でどうやって足場を組み立てればよいかを最初に計画して，そのように仕事を進めていくのが職長(しょくちょう)なんです。この最初の計画で，足場を組み立てて解体(かいたい)するまでのスピードが決まります。初めに組み立てる骨組(ほねぐ)みがずれていると，途中(とちゅう)から足場がはまりにくくなったりして，その後の全ての工程(こうてい)が遅(おく)れてしまうんですよ！自分で全てを決めて，そしてうまくいったときの達成感は最高ですね。

この仕事は自分の腕前(うでまえ)が全てです。高い場所の足場を組み立てる時は，上で二人が待っていて，地上でクレーン車を動かしている人に大声で指示(しじ)を出し，上で待っている人が足場の部品を受け取ってはめる，という作業があるのですが，この作業は良く見てうまく指示(しじ)を出さないとうまく受け取れません。この指示(しじ)を出して受け取る作業は普通(ふつう)二人一組で行うのですが，僕(ぼく)は一人でできるようになりました。この仕事にはセンスも必要なので，実はこれ，けっこう自慢(じまん)なのです（笑）。自分の腕(うで)を上げるのに何よりも必要なのは，他の人に負けたくない，という気持ちだと思うんです。若(わか)い仲間に負けないように，常(つね)に腕(うで)を磨(みが)こうと思っています。この前は高所作業車という車の免許(めんきょ)を取りました。高所作業車を運転することができると，やれることがさらに増(ふ)えるんですね。自分の力だからこそできる！ということをこれからも増(ふ)やしていきたいですね。

僕(ぼく)は朝５時半に起きて，６時半には会社に集合して現場(げんば)へ向かい，夕方５時まで力仕事が続きます。そして外の仕事であるため，夏や冬の寒さは本当にきついです。体力的につらいことはありますね。その上とても高い場所で仕事をするため，命の危険(きけん)も伴(ともな)います。僕(ぼく)もベルトがポールにひっかかってしまい，そのポールを軸(じく)にして宙(ちゅう)をくるっと回ってしまったことがあります。回っている間は体が足場の外に出ていたんですよ（笑）。あのときの足場は１０ｍ以上の高さだったので…もしベルトが切れて落ちていたら大変なことになっていたと思います。最後は，自分の身は自分で守るしかありませんので，身の安全には十分に気を付けて仕事をしています。

僕(ぼく)は職長(しょくちょう)ですので，身の安全だけでなく周囲の安全にもかなり神経(しんけい)を使います。高い場所での仕事なので，特に「物を落とさない」というのは，十分に気をつけないといけないことです。道具一つでも，高いところから落ちたら凶器(きょうき)になり，落ちた下に人がいたら，命に関わる事故(じこ)になりますので，仲間にも何度も注意をするように呼(よ)びかけます。また人が住んでいる建物の工事をしているので，建物や周りの物を汚(よご)さないように気をつけたり，住んでいる人が気づかないような危険(きけん)を事前に発見する，ということも常(つね)に意識(いしき)しています。

僕(ぼく)は山口県で山に囲まれて育ちました。小さい頃(ころ)はいつも野山を走り回ってまし，夏は川でも遊んでいました。テレビがない家だったので，自然が遊び道具だったんですね。台風が来て，ひどい暴風雨(ぼうふうう)の時も走り回っていました（笑）。友達と一緒(いっしょ)に暗くなるまで遊んでいて，毎日が本当に楽しかったなあって思います。山に囲まれて育ったせいか，今でも山を見ると心が落ち着きます。日ごろの疲(つか)れやストレスが一気に癒(いや)されます。時間ができたら，山に旅行へ行きたいですね。

僕(ぼく)は１５歳(さい)の頃(ころ)から１８歳(さい)まで，暴走(ぼうそう)族に入っていた時期がありました。勉強もしていなかったし，そんな過去(かこ)もあったので，どんな仕事に就(つ)くことができるのか悩(なや)んでいました。東京に先輩(せんぱい)と出てきて何をしようか困(こま)っていた時に，僕(ぼく)を雇(やと)って一人前の職人(しょくにん)に育ててくれたのが，今の社長だったんです。その恩(おん)はずっと僕(ぼく)の心の中にあります。だから「会社の1年間の売り上げを1億円にして，社長に家を買わせてあげたい」というのが僕(ぼく)の目標です。今の若(わか)い仲間は，すぐに給料の良い所に転職(てんしょく)してしまったりするけれど，育ててもらった恩(おん)を返してからにするべきだと僕(ぼく)は思っています。

皆(みな)さん勉強は嫌(きら)いですか？僕(ぼく)は勉強が大嫌(きら)いでした（笑）。でも大人になって思うのは，勉強っていうのは何をするにも最低限(さいていげん)必要なんですね。勉強をして高校，大学，と進んでいくことで，仕事に就(つ)くときの選択肢(せんたくし)を増(ふ)やすことができるんです。これは強く言っておきたいことですね。そして勉強というのは，学校の授業(じゅぎょう)だけではありません。周りの人の話や生き方から学ぶのも勉強です。僕(ぼく)の親は非常(ひじょう)にしっかりした人だったんです。今思えば，子どもの頃(ころ)に親に言われたことの殆(ほとん)どの事が正しいことだったと言えます。ただ，その時の自分にはそれが分かっていませんでした。悪いことをして迷惑(めいわく)をかけてしまった時期もあったけど，今の自分が真面目に働けているのは親に恵(めぐ)まれていたからだと思っています。本当に，親に感謝(かんしゃ)ですね。