私（わたし）の勤（つと）めている会社では，毎日約1万パックの漬物（つけもの）を製造（せいぞう）して，関東地方のスーパーマーケットやコンビニエンスストアに出荷しています。白菜やキュウリ，キャベツ，茄子（なす），大根，カブの浅漬（づ）けなど，全部で約30種類の漬物（つけもの）を作っています。浅漬（づ）けを作るには，市場で仕入れてきた野菜を一晩（ひとばん）塩漬（づ）けにして，次の日によく洗（あら）い，調味液（えき）と一緒（いっしょ）に機械で袋（ふくろ）に詰（つ）めます。袋（ふくろ）詰（づ）めされた野菜は，トラックで運ばれている間に調味液（えき）の味が染（し）み込（こ）み，翌日（よくじつ）スーパーに到着（とうちゃく）して売り場に並（なら）ぶ頃（ころ）には美味しい浅漬（づ）けになっているというわけです。この流れの中で，私（わたし）は，原料となる野菜を仕入れる仕事，工場で働くパートの方々（かたがた）を率（ひき）いて漬物（つけもの）を製造（せいぞう）する仕事，そして新しい商品を考える仕事をしています。

毎日の仕事は，朝4時に起きて，トラックで卸売（おろしうり）市場に向かうことから始まります。市場に着くと，前日に注文しておいた野菜を受け取り，また，鮮度（せんど）と値段（ねだん）を見極めながらさらに野菜を買い付けます。例えば長茄子（なす）であれば，皮の光り具合を見て鮮度（せんど）を判断（はんだん）し，値段（ねだん）を交渉（こうしょう）します。値段（ねだん）が安い時に多く仕入れたい一方で，新鮮（しんせん）なうちに使い切らないといけないので，適切（てきせつ）な仕入れ量を考えなければいけません。平均（へいきん）すると，毎日約60ケース，トラックの荷台がいっぱいになるくらいの量を仕入れています。朝6時頃（じごろ）に工場に着いて，仕入れた野菜を大きな樽（たる）に入れ，樽（たる）の上に重しを載（の）せて塩漬（づ）けにします。それから，前日塩漬（づ）けにしていた野菜を樽（たる）から出して水で洗（あら）い，今日出荷分の商品を袋（ふくろ）詰（づ）めする準備（じゅんび）を始めます。

朝8時にパートの方々（かたがた）が出勤（しゅっきん）してくると，いよいよ漬物（つけもの）の袋（ふくろ）詰（づ）めが始まります。樽（たる）から出した野菜を切る人，切った野菜を1袋（ふくろ）分の重さに量る人，量った野菜を機械に入れて袋（ふくろ）詰（づ）めする人，袋（ふくろ）詰（づ）めした商品の荷造（にづく）りをする人などに分かれ，出荷時間に間に合うように1分間に37個（こ）という早さで製造（せいぞう）していきます。私（わたし）は袋（ふくろ）詰（づ）めの機械を操作（そうさ）すると同時に，手が空いてしまう人が出ないよう，それぞれの仕事の役割（やくわり）を指示（しじ）します。効率（こうりつ）よく美味しい漬物（つけもの）を作るには全員が協力することが大切なので，皆（みな）が気持ち良く働ける雰囲気（ふんいき）づくりにも気を配っています。こうして15時頃（じごろ）に製造（せいぞう）を終え，その後もう一度市場に向かい，朝運びきれなかった野菜を市場から工場に運んで1日の仕事が終わります。

私（わたし）たちが製造（せいぞう）した漬物（つけもの）を食べてくださった方から，商品に対してお褒（ほ）めの言葉を頂（いただ）くことが何より嬉（うれ）しいですね。お客様から「美味しかったよ！」と会社にお電話を頂（いただ）いた時は，パートの方全員と喜びを分かち合いました。それからもう1つ，これは仕事が休みの日に，私（わたし）がスーパーに買い物に行った時のことでした。漬物（つけもの）売り場を見ていると，売り場に来られたお客様が，並（なら）んでいる商品の中から迷（まよ）いもせず私（わたし）の会社の商品を手に取って行かれたのです。きっと以前に商品を買って，美味しかったのでもう1度買いに来てくださったんでしょうね。本当に嬉（うれ）しかったです。

漬物（つけもの）の調味液（えき）には，強いこだわりを持って仕事をしています。どういった材料をどのくらい入れて調味液（えき）を作るのか。それが漬物（つけもの）の味を決め，どれだけ多くの方に美味しいとおっしゃって頂（いただ）けるかを左右します。調味液（えき）の味は一度決めたら終わりではなく，出荷先のスーパーやコンビニの買い付け担当（たんとう）の方から「もっと丸みのある味にしてほしい」などの要望を頂（いただ）いて，日々（ひび）改善（かいぜん）しています。また，新しい商品を考えることもあります。今取り組んでいるのは，タマネギの漬物（つけもの）。何度も試作を重ね，味を微妙（びみょう）に変えた候補（こうほ）を幾（いく）つか作ったり，パートの方々（かたがた）に試食して頂（いただ）いたりもしました。そして最後は，「この味にしよう」と自分の舌（した）を信じて決めなくてはいけないのです。

小学生の時は少年野球チームに入り，試合や練習に夢中（むちゅう）で取り組んでいました。ポジションはピッチャーで，県大会にも出場するなど，地元では負けなしの強さでした。一方で，ペン習字や水泳・英会話と，たくさんの習い事をしていました。忙（いそが）しい毎日でしたが，仕事をする上ではやはり教養は必要になりますし，今では多くの習い事をさせてくれた両親に感謝（かんしゃ）しています。また当時は，家でも学校でもたくさんイタズラをしていたので，よく両親や学校の先生に怒（おこ）られていたことを覚えています。私（わたし）は4人兄弟の末っ子ですが，きっと私（わたし）が一番手の掛（か）かる子どもだったに違（ちが）いありませんね(笑)。

中学校・高校でも野球を続け，プロ選手を夢見（ゆめみ）ていましたが，高校の途中（とちゅう）で引退（いんたい）を決意。高校を卒業した後，将来（しょうらい）の進路を決めあぐねていたので，今私（わたし）が働いている会社でもある，父が創業（そうぎょう）した漬物（つけもの）製造（せいぞう）会社で1年間アルバイトをしました。その後，そのまま社員として会社に入ろうと決めたところ，先に会社で働いていた兄から，他の漬物（つけもの）製造（せいぞう）会社で修行（しゅぎょう）することを勧（すす）められました。実はこの修行（しゅぎょう）で，私（わたし）は仕事や社会の厳（きび）しさを学びました。父の創業（そうぎょう）した会社とは違（ちが）い，見ず知らずの人ばかりの修行（しゅぎょう）先では，困（こま）っても誰（だれ）も助けてくれません。そんな中で苦労をしながら，次第に，分からないことを積極的に教わりに行くなど，自ら積極的に行動するようになりました。その後，この会社に戻（もど）ってからもずっと懸命（けんめい）に働いてきたので，今では兄も，私（わたし）を「弟」としてだけでなく「仕事仲間」としても見てくれていると思います。

皆（みな）さんには，一生懸命（いっしょうけんめい）何かに取り組む力を身に付けてほしいと思います。勉強をして色々（いろいろ）な知識（ちしき）を学ぶことはもちろん大切です。しかし，将来（しょうらい）仕事をする時，目の前のことから逃（に）げない，根性（こんじょう）を持ってやり抜（ぬ）くということができなければ，せっかく知識（ちしき）があっても十分に活かすことができません。例えば部活に入り，仲間と一緒（いっしょ）に目標に向かって頑張（がんば）ることは，とても良い経験（けいけん）になると思います。大人になった時「あの時こうしておけば良かった」と悔（く）いが残らないように，今と言う時間を大切に過（す）ごしてください。努力を惜（お）しまず頑張（がんば）れば，結果はいつか必ずついてくると思いますよ。