私わたしは，イラストレーターをしています。本や雑ざっ誌し，パンフレット，広告などに載のせるイラストを描かくのが私わたしの仕事です。本や雑ざっ誌しを発行する出しゅっ版ぱん社しゃや，広告やパンフレットをつくる広告代理店，デザイナーなどから依い頼らいを受けて，イラストを制せい作さくします。
イラストの多くは，挿さし絵えとして，文章だけでは伝えるのが難むずかしい内ない容ようを分かりやすく伝えたり，イラストが添そえられている文章への興きょう味みを引いたりする役やく割わりをします。そのため，イラストを描かくときには，文章を書くライターと一いっ緒しょに内ない容ようを分かりやすく伝えられるような方法を話し合いながら，どこにどんなイラストが必要かを決めていくことが多いです。
また，伝えたい内ない容ようをマンガにすることもあります。取材に行ってそこで見たことや感じたことをマンガにしてレポートしたり，ある人の経けい験けん談だんなどを聞いて，それをストーリーにしてマンガを描かいたりしています。マンガを読んだ人が，その場所の雰ふん囲い気きや話の細かな部分まで感じられるように描かくことを心がけています。

イラストの依い頼らいを受けたら，まず依い頼らい者しゃがどんなイラストをイメージしているのか，希望を聞いて絵のタッチや構こう図ずを決めていきます。表ひょう現げんしたいもののアイディアがまとまったら，“ラフ”と呼よばれる簡かん単たんなイラストを描かきます。描かいたラフを依い頼らいした人に見せて，イメージに合っているかを確かく認にんし，「もっとこうしてほしい」という要望を聞きながら，イラストを修しゅう正せいしていきます。イラストは，自分の描かきたいと思うものや個こ性せいを表ひょう現げんすることも必要ですが，依い頼らいした人が思おもい描えがくイメージにピッタリと合ったイラストにしていくことが，最も大切です。修しゅう正せいを繰くり返かえして，実じっ際さいに載のせるイラストの案が決まったら，色をつけて，でき上がったイラストを届とどけます。
イラストを載のせるものが雑ざっ誌しやパンフレットだと，その雑ざっ誌しやパンフレットの発行予定日に合わせて締しめ切きりが決められていて，締しめ切きり前はとても忙いそがしくなります。イラストの点数が多い書しょ籍せきの場合は，何か月もの時間をかけてたくさんのイラストを描かくこともあります。
イラストを描かくときは，タッチペンという，ペンの形をしたマウスを使っています。タブレットの上にタッチペンでイラストを描かいていくと，描かいたものがそのままパソコンの画面に映うつし出だされます。デジタル化が進んだため，今はすべてのイラストをパソコンで描かき，でき上がったものはデータとして，メールで送っています。

イラストを描かくときは，最初にイメージを膨ふくらませてアイディアを考える段だん階かいに，いちばん時間がかかります。特に，登場人物などの配置を決める構こう図ずは，イメージの伝わり方が決まる重要なものです。タイトルなどの文字が入る位置や，全体のバランスなどに配はい慮りょして，登場人物の誰だれを中心にするか，その周りに何を置くと分かりやすいかなどを決めていきます。マンガの場合は，骨ほね組ぐみとなるストーリーをどう展てん開かいさせていくかを考えます。
構こう図ずやストーリーが決まるまでは，真っ白な紙の前でずっと悩なやんだり，ご飯を食べるときやお風ふ呂ろに入っているときなど，何をしていてもアイディアを考えていたりします。急にひらめくこともあるので，アイディアが浮うかんだときには，すぐその場でメモを取るようにしています。ものをつくり出す人は誰だれでもそうだと思いますが，ゼロからアイディアを生み出すまでが，一番苦労する時間です。
しかしそうして悩なやんだ分，自分のイメージと構こう図ずがピッタリ一いっ致ちすると，勢いきおいがついてその後の作業はとてもスムーズに進みます。気持ちがのってくると，時には食事もとらず作業に没ぼっ頭とうしたり，夜よる遅おそくまで仕事を続けることもあります。

やはり，自分の描かいたものが本や雑ざっ誌しなどに載のっているのを見るときには，やりがいを感じます。イラストレーターとして初めてイラストが雑ざっ誌しに掲けい載さいされたときは，とてもうれしかったのを思い出します。特に，自分でも「よく描かけた」と思えるものができたときは，何度も見返して喜びを噛かみしめています。
それに加えて，最近では，私わたしのイラストを見てくれた人がどう感じたかということも知りたいと思うようになりました。もちろん，自分が手がけた本ができ上がったり，雑ざっ誌しに自分のイラストや名前が載のるだけでも十分うれしいのですが，そのイラストがどんなふうに見られたのか，読者の反はん応のうや声を聞けたときは，うれしさがさらに増まします。そうした読者の反はん響きょうは，本や雑ざっ誌しが売れた冊さっ数すうや重じゅう版はん（売れ行きがよく，さらにその本が多く印刷されること）の回数など，目に見える数字として知ることもできます。
読者の反はん響きょうがいいと，その結果として，一度イラストを依い頼らいしてくれた人から「今度も仕事をお願いしたい」と言ってもらったり，イラストを見た人から「ぜひすぎやまさんに描かいてもらいたい」と新たに依い頼らいを受けることもあります。そう思ってもらえることが，いちばんの喜びです。そのためにも，毎回，持てる力を最さい大だい限げんに発はっ揮きして，いいイラストが描かけるように努めています。

自分の描かいたイラストが刷り上がってくると，反省点もたくさんありますが，何度も見返したくなるときがあります。それは，私わたしがそのイラストを気に入っている証しょう拠こです。締しめ切きりまで何度もアイディアを練って，納なっ得とくできるまで力を尽つくしたイラストは，でき上がった後，何度も見返したくなる作品になります。そのため，イラストを描かくときには，いつも「自分がもう一回見たくなるものをつくりたい」と思って，仕事に向き合うようにしています。
時々，過か去こに自分が描かいた作品を見ていると，「このときはおもしろい作品を描かいていたな」と思うことがあります。今の方が上う手まく描かけてはいるのですが，昔描かいたものに「心から描かきたいと思うものを描かいている」という楽しさや，エネルギーを感じるときがあるんです。そういう作品を見ているときは，「過か去この自分に負けないように，いいものを描かかなければ」という気持ちが高まります。せっかく好きなことを仕事にしているのですから，描かき手ての楽しさが見る人に伝わるような作品を描かいていきたいと思います。

私わたしはデザインを学ぶ高校を出た後，印刷会社に就しゅう職しょくしました。そこでは，印刷機で原げん稿こうを刷るための版はん下したというものをつくっていたのですが，毎日印刷される紙面のデザインを見ているうちに，デザイナーになりたいと思うようになり，雑ざっ誌しを制せい作さくするデザイン事じ務む所しょに転てん職しょくしました。雑ざっ誌しの記事をデザインする仕事はとても楽しく，朝から晩ばんまで夢む中ちゅうになって働いていました。その後，雑ざっ誌し以外のものをデザインする経けい験けんを積むため，広告をつくるデザイン事じ務む所しょにも転てん職しょくし，いろいろなデザインを学びました。
しかし，私わたしはデザイナーとして働きながらも，ずっと心の中で「いつかはイラストを描かく仕事をしたい」という気持ちを持ち続けていました。そこで，旅行をしたり映えい画がを見たりした後，そのときの様子や感想をイラストとして描かくことにしました。今は，SNSなどインターネットを通じて自分の作品を発信することができますが，そのころはそうした方法がなかったため，描かいたイラストを積極的にいろいろな人に見てもらうようにしました。すると，それを見た人から「取材したことをイラストにして，レポートしてもらえないか」という依い頼らいが来たんです。そこから，イラストの仕事が増ふえていくようになりました。こうした経けい験けんから，夢ゆめを持ったら「やりたい！」と思う気持ちを持ち続けること，そして自分の思いをできるだけ多くの人に伝えることが大切だと感じています。

私わたしは子どものころから，絵を描かくのが大好きでした。先生や家族はいつも私わたしの絵をほめてくれました。その中で，何よりうれしかったのは，図工の先生が私わたしの絵を見て，「発想がおもしろいね」と言ってくれたことです。私わたしは時々，同じテーマを与あたえられても他の子とはまったく違ちがう絵を描かくことがありました。自分でもそれを見て「私わたしの絵はおかしいのかな」と不安になっていましたが，先生に「他と違ちがっていてもいい」と認みとめてもらえたことで，とても自信がついたのを覚えています。
こうしたこともあり，私わたしはずっと絵を描かく仕事に就つきたいと思っていたのですが，今の道へ進んだきっかけは中学校３年生で進路を決めるときでした。美び術じゅつの成せい績せきがよかった私わたしに，先生がデザイン科のある高校を勧すすめてくれたのです。それまで私わたしは，絵を描かくことを専せん門もん的てきに学べる道があるということをまったく知らなかったので，先生の助言で選せん択たく肢しが広がり，背せ中なかを押おされた気持ちになりました。その後，私わたしが進学したデザイン科には，絵がとても上う手まい子や，将しょう来らいデザインの仕事に就つきたいという目的を持っている子が集まっていて，多くの刺し激げきを受けることができました。私わたしの得意なことを応おう援えんし，伸のばしてくれた先生たちに，とても感かん謝しゃしています。

私わたしが絵の仕事をしたいと思い，デザイン科のある高校やデザイン事じ務む所しょへと進んだように，みなさんも夢ゆめを持ったら，できるだけその夢ゆめに近い場所にいた方がいいと思います。同じ目標や興きょう味みを持った人が周りにいる環かん境きょうからは，刺し激げきを受けるだけでなく，たくさんの情じょう報ほうも得ることができ，ネットワークも広がっていきます。
絵を描かくのを職しょく業ぎょうにしたい人に伝えたいのは，自分が描かきたいものを表ひょう現げんする技ぎ術じゅつは学校や職しょく場ばで身に付けることができますが，描かきたいものを自分の中で生み出すためには，自分からさまざまなことに興きょう味みを持つことが大切だということです。私わたしも本を読んでいるうちに，その物語に合った挿さし絵えが描かきたくなり，イメージがどんどん膨ふくらむこともあります。本やアニメ，マンガなど直ちょく接せつイラストに関わることだけでなく，映えい画がやスポーツ，周りの人など，多くのことに関心を持ち，たくさんのことを知ることで，自分の中の引き出しを増ふやしてほしいと思います。
今は，インターネットをはじめ，自分の作品を発表する場がたくさんあります。私わたしも自分の作品を人に見せたことで，仕事につなげることができました。絵や創そう作さくを仕事にしたい人がいたら，自分が描かいたものや，つくったものは，どんどんいろいろな人に見せた方がいいと思います。