私（わたし）は愛媛（えひめ）県八幡浜（やわたはま）市で，温州みかんを始め，でこぽん・いよかんなど，かんきつ類の果物を栽培（さいばい）しています。畑は育てている品種ごとにいくつかの山に分かれていて，全て合わせると約7ヘクタール。これは，みかん農家としてはかなり広いほうで，東京ドーム5個分（こぶん）以上もの広さになります。中でも自宅（じたく）と保管（ほかん）倉庫の裏（うら）に広がるみかん畑は，標高300mの山の頂上（ちょうじょう）付近に位置しています。こうした環境（かんきょう）の中，一年を通して，実の成長に合わせた農作業を行っています。5月中旬（ちゅうじゅん）に木に花が咲（さ）いた頃（ころ）から枝（えだ）の消毒を始め，夏から秋にかけて実を間引きし，余計（よけい）な枝（えだ）を切り落とします。季節の変わり目ごとに肥料（ひりょう）を与（あた）え，冬に実が熟（じゅく）してきたら収穫（しゅうかく）を迎（むか）えます。普段（ふだん）は私（わたし）と両親の3人で働いていますが，この時期は本当に忙（いそが）しくなりますので，7～8人ほどのアルバイトさんを雇（やと）い，10人ほどで収穫（しゅうかく）作業を行います。

みかん栽培（さいばい）では，上手に自然と付き合っていくことが必要です。例えば，夏場に枝（えだ）の消毒をする際（さい），薬剤（やくざい）を避（さ）けるために全身に着る合羽が大変暑く，日が照り出す朝10時までに作業を終わらせないと，熱中症（しょう）で倒（たお）れてしまいます。また冬場の収穫（しゅうかく）は，雪が降（ふ）り出す前の時期に終わらせないと，せっかく一年かけて育てた実が傷（いた）んで，売り物にならなくなってしまいます。私（わたし）たちの農園では，こうした気候がもたらす苦労や被害（ひがい）を減（へ）らすために，様々（さまざま）な技術（ぎじゅつ）を取り入れています。最近では，雨で水分が多くなり過（す）ぎることを防（ふせ）ぐために木の根をシートで覆（おお）い，代わりに水や肥料（ひりょう）を自動で与（あた）えるマルチドリップ灌水（かんすい）という設備（せつび）を導入（どうにゅう）しました。この設備（せつび）はかんきつ類の栽培（さいばい）では最も新しいもので，実の甘（あま）みを増（ふ）やす効果（こうか）もあります。

みかん農家が最も忙（いそが）しくなるのは，収穫（しゅうかく）期の11月と12月です。この時期は毎朝5時50分に起きて，晴れていれば6時半に軽トラックで家を出発し，7時半にはアルバイトさんと共に畑のある山に到着（とうちゃく）します。畑に着いたら，木4～5本ごとに実を枝（えだ）からコンテナに移（うつ）していきます。1本の木から採（と）れるみかんはおよそ1000個（こ）弱。2人で作業をして10分から20分ほどの時間が掛（か）かります。私（わたし）の役割（やくわり）は，いっぱいになったコンテナを運ぶようにタイミングよく指示（しじ）を出すなど，アルバイトさんが無駄（むだ）なく働けるように全体の指揮（しき）を取ることです。16時半になったら山を出発して倉庫にみかんを持ち帰り，専用（せんよう）の機械で実の大きさを分けつつ，傷（きず）がついていて売り物にならないものを手で取り除（のぞ）きます。その後，20時までに農協にみかんを出荷し，ようやく一日が終わります。

同じ作業をするにしても，より早く，より楽になるようにこだわって仕事をしています。例えば，収穫（しゅうかく）の際（さい）に重いコンテナをなるべく人の手で運ばなくて済（す）むように，木を植える位置を工夫して，車が山の奥（おく）まで入るための小道を作っておきます。また，高い位置まで登り降（お）りして実を採（と）る手間を省くために，夏や秋に枝（えだ）を切る際（さい），木が低く育つような切り方を心がけています。ちなみに枝（えだ）の切り方には，美味しい実のなる切り方，収穫（しゅうかく）量を増（ふ）やす切り方，畑を歩きやすくする切り方など様々（さまざま）な方法があって，木を見れば農家さんごとの特徴（とくちょう）が見えてきます。私（わたし）が一番大切にしているのは，効率（こうりつ）の良さ。こうした工夫の積み重ねが，同じ時間働いても，より多くの量を収穫（しゅうかく）したり，より品質（ひんしつ）の良いものを収穫（しゅうかく）したりすることにつながっていくのだと思います。

私（わたし）が実家の農園を継（つ）ぐ前，冬に大雪が降（ふ）って，育てていたみかんの大部分が売り物にならなくなってしまった年がありました。収入（しゅうにゅう）は大きく減（へ）り，両親が大変苦労している様子を目の当たりにしました。このような経験（けいけん）もあり，無事に収穫（しゅうかく）を迎（むか）え，農協にみかんを出荷して代金を受け取った時には大きな喜びを感じます。商売に成功して立派（りっぱ）な家を建てることを，俗（ぞく）に「御殿（ごてん）を建てる」などと言いますが，私（わたし）も今以上に効率（こうりつ）的に作業を行い，収穫（しゅうかく）量を増（ふ）やして，いつかみかん御殿（ごてん）を建てたいです。こうした目標に向けて，冬に収穫（しゅうかく）するみかん以外に，一年の他の季節にも収入（しゅうにゅう）を得られる手段（しゅだん）が必要ではないかと考えています。そこで現在（げんざい）は，夏に収穫（しゅうかく）できるブルーベリーの栽培（さいばい）などに取り組んでいます。

小さい頃（ころ）は漠然（ばくぜん）とシェフなどの職業（しょくぎょう）に憧（あこが）れていましたが，高校生になって進路を考えるに当たり，実家のみかん農家を継（つ）ぐことを真剣（しんけん）に意識（いしき）し始めました。3年生になって，父親が農大を卒業していた影響（えいきょう）もあり，私（わたし）も愛媛（えひめ）県立農業大学校で学ぶことを決意。農大に進学すると，父親同士が農大の同級生という友人も多く，たくさんの仲間ができました。農大の卒業後，修行（しゅぎょう）のために農協に就職（しゅうしょく）して，3年間農家さんの指導員（しどういん）として働いた後，いよいよ実家に戻（もど）ってみかん農家を始めました。今では，地域（ちいき）組合の八幡浜（やわたはま）青年部で副会長を務（つと）めるに至（いた）っています。また，農大で共に学んだ仲間とは，「農業戦隊タガヤスンジャー」というチームを作り，栽培（さいばい）や販売（はんばい）の新しい取り組みを披露（ひろう）し合うなど，今でも刺激（しげき）を与（あた）え合う関係を続けています。

私（わたし）の通っていた小学校は，全校で児童が18名という小ささ。もちろん全員が友だちで，学年の隔（へだ）てなく遊びました。一番印象に残っているのは鬼（おに）ごっこです。鬼（おに）ごっこといっても，広い自然の中で遊ぶのですから，ほとんど隠（かく）れん坊（ぼう）のようなもの。いつ終わるともなく，日が暮（く）れるまで遊んでいました。そんな環境（かんきょう）で育ったせいか，来客があると「みかんあるから持っていって！」と言うような，人見知りはしない子どもでした。中学校に入ると，数学が好きになって成績（せいせき）が伸（の）びていきました。今，木を植える面積やスプリンクラーの配管を考える際（さい）などに，数学で学んだことが役立っているなと感じます。

農業にはたくさんの苦労もありますが，私（わたし）は夢（ゆめ）のある職業（しょくぎょう）だと感じています。なぜなら，効率（こうりつ）を上げ，収入（しゅうにゅう）を増（ふ）やす工夫はいくらでもできますし，自分が努力すれば努力しただけ，いつか結果になって返ってくるからです。もちろん，自然を相手にする仕事ですから，思うようにいかないこともあります。しかし今は，自然がもたらす被害（ひがい）を少なくする技術（ぎじゅつ）もたくさん発展（はってん）してきました。皆（みな）さんの中から，農業に魅力（みりょく）を感じ，積極的に挑戦（ちょうせん）してくれる方が現（あらわ）れてくれたらうれしいですね。