私わたしは東とう京きょう都と北きた区くにある松しょう栄えい建たて物ものという会社の社長をしています。松しょう栄えい建たて物ものは，土地を買って，建てたマンションなどの部屋を貸かす不動産業と，学がく習しゅう塾じゅくの経けい営えいという２つの事業を行っている会社です。私わたしは社長として会社の経けい営えいを取りしきるほか，経けい営えいしている塾じゅくの塾じゅく長ちょうとしても働いています。
私わたしが経けい営えいする塾じゅくは２つあり，１つは塾じゅく長ちょうを雇やとって運うん営えいをお願いしています。私わたしが塾じゅく長ちょうを務つとめているほうの「アクロス個こ別べつ指し導どう学がく院いん」という塾じゅくは，生徒２人に対して１人の先生が授じゅ業ぎょうを行う個こ別べつ指し導どう型の塾じゅくです。こちらの塾じゅくには小学生，中学生，高校生合わせて約65名の生徒が通っていて，一人ひとりの学力に合わせた授じゅ業ぎょうを受けています。
アクロス個こ別べつ指し導どう学がく院いんの特とく徴ちょうは，120分の授じゅ業ぎょう時間の中に「トライタイム」という自じ己こ学習の時間を40分，設もうけていることです。いくら塾じゅくに通っていても，ただ授じゅ業ぎょうを聞いているだけでは学力は身につきませんよね。このトライタイムには，生徒が授じゅ業ぎょうで習った範はん囲いの問題を自分で解とき，採さい点てんをして，間ま違ちがえたところの復ふく習しゅうをすることで，授じゅ業ぎょう内ない容ようの定着を目指します。自分で考える時間を設もうけることで，「自分がどこをわかっていないのか」に生徒自身が気づけるようになりますし，教える側もそれを踏ふまえて，生徒が苦手なポイントに絞しぼった授じゅ業ぎょうを行うことができます。

アクロス個こ別べつ指し導どう学がく院いんで，私わたしは中学生と高校生の授じゅ業ぎょうを担たん当とうしています。教えている科目は国語，数学，理科，社会，英語の主要５教科です。塾じゅくを始めたころは数学と英語だけを教えていましたが，塾じゅくの仕事を続けるうちに他の教科も教えるようになりました。
もう１つの重要な仕事が，「生徒たちにその日，何を教えるのか」を決めるカリキュラム作りです。私わたしとカリキュラム作成担たん当とうの先生とで，模も擬ぎテストや学力テストなどの結果をもとに各生徒の学力や苦手分野を分ぶん析せきし，それぞれの学力に合わせた問題集を用意したり，授じゅ業ぎょうの進め方を考えたりしています。
一いっ般ぱん的てきな個こ別べつ指し導どう型の塾じゅくでは，各生徒に担たん当とうの先生がつき，授じゅ業ぎょうはその先生が作成したカリキュラムで進められます。しかし，アクロス個こ別べつ指し導どう学がく院いんでは，毎回違ちがう先生が授じゅ業ぎょうを行い，授じゅ業ぎょうは私わたしとカリキュラム作成担たん当とうの先生が作成したカリキュラムにもとづいて進めるというシステムを採さい用ようしています。このシステムを取り入れたのは，毎回同じ先生が授じゅ業ぎょうをすることによって，生徒と先生との間の緊きん張ちょう感がなくなってしまうことを避さけるためです。このほか，それぞれの先生に，教えることに専せん念ねんしてもらいたいという狙ねらいもあります。

カリキュラムを作る際さいに重じゅう視ししているのは，「その生徒にとって一番よい教え方は何か」ということです。勉強が苦手な生徒の場合，１つの文章，１つの単語まで，細かく計画を立てて教えていかないと，なかなか覚えてくれません。そのために先生が直ちょく接せつ教えるのがいいのか，タブレットのようなデジタル教材を使うのがよいのかなど，使う教材もよく考えながらカリキュラムを作っています。
ときには，私わたしたちが作るカリキュラムが生徒の役に立たないものになってしまう場合もあります。例えば，学校のテスト範はん囲いに合わせてカリキュラムを組んでいたのに，急にテスト範はん囲いが変へん更こうになってしまったとき。もし変へん更こうになったことが私わたしたちに伝わってこなければ，テスト範はん囲いから外れたところを教えることになってしまい，時間が無む駄だになってしまいます。また，「この子はこのレベルの問題なら解とけるはずだ」と問題を用意したものの，実じっ際さいはそのレベルの問題を解とくことが難むずかしかった，という場合もあります。
こうしたトラブルを回かい避ひするため，私わたしは授じゅ業ぎょうを行う先生とこまめにコミュニケーションを取り，生徒の授じゅ業ぎょう中の様子を細かく伝えてもらい，カリキュラムが生徒に合っているか，確かく認にんするようにしています。時間も労力もかかる大変な仕事ですが，その分，生徒の成せい績せきが伸のびたときには喜びもひとしおです。

生徒の成せい績せきを伸のばすために重要なのは，その子のタイプをきちんと見み抜ぬくことです。勉強が苦手な子であれば，内ない容ようを細かく教えてあげる必要がありますが，勉強が好きで自分で問題に取り組んでいけるような子の場合，先生が１から100まで教えてしまうと，かえって勉強の邪じゃ魔まになってしまいます。生徒の個こ性せいは一人ひとり異ことなるため，それぞれのタイプを見み極きわめて教え方を考える必要があります。
塾じゅくでの授じゅ業ぎょうの内ない容ようを充じゅう実じつさせるだけではなく，家庭での学習環かん境きょうも大切です。私わたしは生徒の保ほ護ご者しゃとの面談も担たん当とうしているのですが，よく「どうすれば家でも勉強するようになりますか」という相談を受けます。しかし，よくよく聞いてみると，保ほ護ご者しゃが見ているテレビを子どもも一いっ緒しょになって見てしまっているとか，勉強に集中できる環かん境きょうが家にない場合も多いんです。生徒が塾じゅくに来る時間は週に数時間ですから，家で過すごす時間のほうが圧あっ倒とう的てきに多いですよね。その時間を有ゆう効こうに使ってもらうためには，保ほ護ご者しゃの方の協力が欠かせないんです。そのため，「子どもに勉強をさせるためには，テレビをつけっぱなしにしないようにしてみましょう」など，保ほ護ご者しゃの方にもアドバイスをするようにしています。

私わたしは昔から人にものを教えるのが好きで，今からおよそ15年前に塾じゅくの経けい営えいを始めました。この仕事で特にやりがいを感じるのは，生徒が勉強の楽しさに気づいてくれたときです。生徒と接せっする中で思うのは，やればできるのに勉強しない子が非ひ常じょうに多いということです。そういう子たちは「このままじゃ卒業できない」とか「志し望ぼう校こうに合ごう格かくできない」といったように，必要に迫せまられないとなかなか勉強をし始めないんです。でも，そういう子が勉強をしだすと「勉強って結けっ構こう，楽しいんだ」と気づいてくれることもあります。そういう瞬しゅん間かんを目にしたときは，教えることの喜びを感じます。
また，ときどき，家庭の事じ情じょうや成せい績せきから高校進学が難むずかしそうな生徒に出会うことがあります。そういう子には，その子に合った私し立りつの高校を紹しょう介かいするなどして，「何とか高校だけは卒業しましょう」と保ほ護ご者しゃの方にも説得をしています。過か去こには，私わたしが紹しょう介かいした高校に入学してから，自分がやりたいことを見つけて，勉強をして大学へ進学したという子もいました。私わたしの提てい案あんから生徒の将しょう来らいが広がったという知らせを聞いたときはうれしいですし，非ひ常じょうにやりがいを感じます。

教育にあたって理念はもちろん大切ですが，会社を経けい営えいしていくためにはお金を稼かせぐ方法も考えなければいけません。お金を稼かせがなければ生活ができませんし，生活できなければ人にものを教えることはできませんよね。では，何にお金を払はらってもらえるのかというと，質しつのいいサービスなんです。私わたしは，塾じゅくで儲もうけたものを生徒たちに全て返すという気持ちで仕事をしています。塾じゅくの経けい営えいで理想的なのは「勉強を教えて生徒たちの成せい績せきが上がる」，「塾じゅくの評ひょう判ばんが上がる」，「生徒の数が増ふえ塾じゅくにお金が入る」，「儲もうけたお金を使ってさらによい授じゅ業ぎょうを提てい供きょうしていく」というサイクルで授じゅ業ぎょうを行うことです。むやみに教えるのではなく，本当に生徒のためを思って授じゅ業ぎょうを計画することで，結果として利り益えきにも結び付いていくと考えています。
育った環かん境きょうや性せい格かくによって，それぞれの生徒の考え方は違ちがいます。「多様な考え方に臨りん機き応おう変へんに対たい応おうしていく」と言葉で言うのは簡かん単たんですが，大人はどうしても自分の考えを子どもに押おし付つけがちになってしまうのも事実です。生徒と一いっ緒しょになって悩なやみ，学んで，勉強していくことで，生徒とともに私わたしも成長できると思っています。

実は私わたしは，松しょう栄えい建たて物ものの社長になる前は土木技ぎ術じゅつ者しゃとして海外で働いていて，リビア，アルジェリア，フィリピンで石油プラントや橋を造つくっていました。
昔からものづくりが好きで，小学生のときの将しょう来らいの夢ゆめはロボット技ぎ術じゅつ者しゃでした。その後，高校に進学して，土木技ぎ術じゅつ者しゃになりたいと思うようになりました。ものづくりへの興きょう味みが，昭和という時代に求められる，橋とか道路に移うつってきたのです。
土木技ぎ術じゅつ者しゃになるためには，ある程てい度どの学力を身につけて大学を卒業しないといけません。それがわかってから，負けん気だけは強かったので，勉強に真しん剣けんに取り組むようになりました。

「土木技ぎ術じゅつ者しゃになりたい」「橋や道路を造つくってみたい」という「夢ゆめ」が私わたしを引ひっ張ぱってくれました。この夢ゆめがなかったら，数学も英語も，真しん剣けんに勉強することはなかったと思います。
今の塾じゅくの仕事にも，土木技ぎ術じゅつ者しゃになろうと猛もう勉べん強きょうした経けい験けんが生きています。あの当時，もし受験をあきらめていたら，私わたしの人生はまるで違ちがうものになっていたと思います。ですから，みなさんも自分のやりたいこと，なりたいものをあきらめないでください。努力というのは誰だれも見ていないところでするものです。当然，とても苦しいものですが，努力を積み重ね，誠せい実じつに生きていれば，必ず運命の女め神がみはほほえんでくれます。途と中ちゅうで投げ出してしまった人には，誰だれも手を貸かしてくれません。女め神がみも人間も。どうか最後までベストを尽つくして，自分の夢ゆめをかなえてほしいと思います。私わたしの経けい験けんが参考になれば幸いです。