私わたしは東京都足あ立だち区くにある「株かぶ式しき会がい社しゃ 長なが野の運うん輸ゆ」という運送会社の社長をしています。私わたしの会社の仕事は，いろいろな荷物を運ぶことです。うちで扱あつかう荷物では，洗せん剤ざいや歯みがきなどを製せい造ぞうしている大手生活用品メーカーの製せい品ひんがもっとも多く，会社の仕事の４割わりを占しめています。私わたしたちの会社では，おもに，首しゅ都と圏けんにある，このメーカーの３つの物流拠きょ点てんから，関東や甲こう信しん越えつの指定された問屋に荷物を運んでいます。
工場で作られた製せい品ひんは，いったんメーカーの物流拠きょ点てんに集められてから，各地の問屋に必要な量だけ運ばれます。そしてそれぞれの問屋から，スーパーやドラッグストアなどの小売店に運ばれていき，みなさんの手に届とどきます。この中で，物流拠きょ点てんから問屋へ，製せい品ひんをトラックで運ぶのが私わたしたちの仕事です。会社のトラックは13台あり，このほか，協力会社に頼たのんで運んでもらう荷物もあります。
メーカー側からは，「どの荷物をどこに届とどけるか」の指し示じが来ます。そうしたら，どのトラックにどの荷物をどれだけ載のせて，どんなルートで届とどけるかを，うちの会社の手配担たん当とう者しゃが決めるんです。うちでは甲こう信しん越えつまでを担たん当とうしているので，広いエリアにどうやって荷物を届とどけるか，車の大きさや道路の混こみ具合，それぞれのドライバーの能のう力りょくなどの要よう素そをすべて把は握あくして荷物を振ふり分わけていくのは，ベテランの手配担たん当とう者しゃの仕事です。
あとはトラックドライバーの出番です。荷物を積み，時間に間に合うように，また荷物を傷きずつけることがないように，安全でていねいなハンドルさばきでお届とどけ先さきに向かいます。

私わたしは，朝７時30分に出社します。そのころには，ドライバーはすでに物流拠きょ点てんに向かって出発しています。私わたしは会社に来ると，最初にその日の経けい済ざい紙しとスポーツ新聞に目を通します。経けい済ざいに関することは，仕事で他の企き業ぎょうの人たちと話すときの重要な話題になりますし，スポーツ紙も会話のネタになります。
それから，前日分のドライバーの日にっ報ぽうの整理をします。13人いるトラックのドライバーたちが，一日の行動を記録したものが“日にっ報ぽう”です。どの物流拠きょ点てんからどの問屋まで，何の荷物を何なん個こ運んだか，何キロ走って高速道路料金はいくらかかったか，といった，すべてのデータを３時間以上かけて整理します。トラックが走ることで燃ねん料りょう代だいや高速代などの経けい費ひがかかりますが，これを荷物を運んで得られる収しゅう入にゅうと合わせて分ぶん析せきしなければ，運送会社の経けい営えいは成り立ちません。データ管理は会社にとって，とても大切な作業です。
午後の私わたしの仕事はその日によってまちまちです。お客さんに新しい提てい案あんをしたり，ときにはお客さんと，トラブルの解かい決けつのためにどうすればいいかの打ち合わせをしたりすることもあります。そのほか，会社の経けい理り事じ務むの作業も私わたしの重要な仕事です。

運ぶ製せい品ひんは段だんボール箱に入っていますが，その段だんボールがへこんだり傷きずがついたりしたら，中身の製せい品ひんは何ともなくとも，問屋さんから「持って帰ってほしい」と言われてしまいます。とても気をつかうところです。確たしかに，問屋が小売店に届とどけたときに，へこんだ箱を持っていったら，いい顔はされませんよね。「これ，中身は大だい丈じょう夫ぶかい」と言われてしまうので，問屋も最初からそういう荷物は受け取らないのです。だから私わたしたち運送業者は，段だんボールも傷いたまないように，慎しん重ちょうに運ばなければいけません。
また，納のう品ひん先でうちのトラックが停とまって出ていったあとに，オイルが一いっ滴てきでもたれていたとします。食品を扱あつかっている問屋などでは衛えい生せいに敏びん感かんなため，これが大問題になって，「車両管理はどうなっているんだ」と言われてしまいます。こうしたこともあるので，私わたしの会社では，月に１回，ドライバー全員を集めて，事じ故こやトラブルの事例を紹しょう介かいし，仕事上の情じょう報ほうを共有して，問題が起こらないように努力しています。

長なが野の運うん輸ゆは，家庭的な会社で働きやすいと社員からは言われます。転てん職しょくの多いこの業界ですが，うちの会社のドライバーは平へい均きん13〜14年と長く勤つとめてくれていて，定てい着ちゃく率りつがいいのが自じ慢まんです。ドライバーが社長に言いたいことを言える雰ふん囲い気きもあります。
ドライバーには常つねに笑え顔がおで接せっするようにしています。ときには早く届とどけたい荷物もありますが，「急げ」とドライバーをあせらせるようなことは言いません。トラックが出発したら，あとはドライバー任まかせですから，落ち着いて自分のペースで運転できるようにするのが一番です。
帰ってきたドライバーにはなるべく声をかけて，要望や報ほう告こくがあればしっかり聞きますし，問題があれば，お客さんとも打ち合わせてきちんと対たい応おうをします。ドライバーに少しでもストレスがたまらないように，みんなで笑え顔がおで迎むかえて，翌よく日じつまた元気に運転してもらいたいんです。
私わたしが以前いた運送会社は3000人規き模ぼの大きな会社でしたが，今の会社は18人です。小さな会社ですが，一人一人の顔が見えるので，今のほうが面おも白しろいと私わたしは思います。

私わたしは高校を卒業して，最初は大手の建けん設せつ会社に入社しました。私わたしは土木部門だったので地方の工事現げん場ばを転々とする生活で，１か月も家に帰らない日々が続きました。その後，運送会社に入って，15年間，内ない勤きんの事じ務む職しょくの仕事をしました。あるとき，仕事で付き合いのあった長なが野の運うん輸ゆの先代社長から誘さそわれて，今の会社に入社し，もう20年になります。
2010年に，私わたしは5代目の社長になりました。経けい営えいのことは何もわからなかったのですが，経けい理りのことから勉強を始めました。経けい営えいのことも全部独どく学がくです。本を読んだり，インターネットで調べたりしながら勉強をし，「社長は何をすればいいのか」ばかり考えて，頭はいっぱいでした。今では経けい営えいのこともやっとわかってきて，それほど困こまることはなくなりましたが，最初の３年は苦労しましたね。
今は，「会社をきちんと続ける」ことを大事にしています。大きくはならなくとも，きちんと会社が続いて従じゅう業ぎょう員いんの人たちが働き続けられるようにしたいと思いながら，この会社を経けい営えいしています。

若わかいみなさんは，やりたいことになんでもチャレンジしてください。可か能のう性せいを信じて自分の夢ゆめをどんどん広げていってほしいと思います。
現げん代だいはデジタルの時代で，会社もIT企き業ぎょうが人気です。パソコンの前に座すわってアプリやゲームを作る仕事もいいのですが，触さわれるモノを作ったり，運んだりする仕事も，とても面おも白しろい仕事だと私わたしは考えています。興きょう味みがあれば，ぜひ，形あるモノを作ることの大切さを感じられる仕事を目指してみてください。
また，本はたくさん読むといいと思います。私わたしは子ども時代に勉強があまり好きではなくて，本はあまり読んでいませんでした。社長になってから勉強するために本をたくさん読むようになりましたが，子どものころからもっと本を読んでおけばよかったなと，今になって思います。本を読めば，行ったことがない世界にも行けるし，会えない人にも会うことができます。本を読めば，世界が広がるはずです。