私わたしは東京女子医科大学看かん護ご専せん門もん学校で看かん護ご教員をしています。看かん護ご師しとして働いたのちに看かん護ご学校教員の資し格かくを取得し，教える立場になりました。私わたしが教員をしている専せん門もん学校は，看かん護ご師し資し格かくを取得し看かん護ご師しを職しょく業ぎょうとすることをめざす女じょ性せいが通う学校です。卒業生の9割わりは東京女子医科大学の附ふ属ぞく病院に看かん護ご師しとして就しゅう職しょくしますが，助じょ産さん師しや保ほ健けん師しの資し格かくを取得するために，卒業後，4年制せい大学に編へん入にゅうする学生や，助じょ産さん師し専せん攻こう科かの1年コースに進学する学生もいます。1学年は大体80～90名，全3学年で今は全274名の学生を15名の専せん任にん教員と非ひ常じょう勤きん講こう師し約100名で教えています。看かん護ご師しになるためには4年制せい大学の看かん護ご学部を出るか，3年制せいの看かん護ご専せん門もん学校を出るかの二つの方法がありますが，大学では4年で学ぶことを，看かん護ご専せん門もん学校では3年間で学ばなくてはいけないので，カリキュラムの密みつ度どはとても濃こくなります。
「基き礎そ看かん護ご学がく」や「精せい神しん看かん護ご学がく」といった授じゅ業ぎょう科目を学生に座ざ学がくで教えたり，校内の実習室で患かん者じゃさんとの接せっし方かたや，具体的な技ぎ術じゅつなどを指し導どうしていきます。また，「臨りん地ち実習」といい，臨りん床しょう，つまり病院での実じっ際さいの医い療りょうの場に学生を連れていって，臨りん床しょう看かん護ごを教えることもあります。授じゅ業ぎょう以外にも，学生からの質しつ問もんに答えたり，悩なやみの相談にのることも多いです。また，今は副教務主しゅ任にんという立場なので，学校の運うん営えい面めんを考えることも大きな仕事の一つですね。

学校の始業は9時なので，大体8時30分くらいには出しゅっ勤きんして講こう義ぎの準じゅん備びをします。私わたしは役やく割わりとしてカリキュラム調整を担たん当とうしていますので，自分の授じゅ業ぎょうの準じゅん備びだけでなく，他の教員と講こう師しや学生たちがスムーズに授じゅ業ぎょうを始めることができるか，その準じゅん備びを確かく認にんして整えるのも私わたしの役目です。授じゅ業ぎょう時間は授じゅ業ぎょうをし，午後4時20分に授じゅ業ぎょうが終わってからは，その日の授じゅ業ぎょうの確かく認にんと次の日の準じゅん備びなどを行います。6時までは学内の実習室で学生が自じ己こ学習をしているので，質しつ問もんを受け付けることもあります。
授じゅ業ぎょう時間や学生への対たい応おうをする時間の合間をぬって，授じゅ業ぎょうのための教材研究もおこないます。時代の変化により，看かん護ご師し資し格かくに必要な勉強内ない容ようやカリキュラムが変わることもありますし，なるべく学生にとって良い授じゅ業ぎょうができるよう，教材研究は常つねに欠かせません。
一年間で最も忙いそがしくなるのは，1月から3月ごろでしょうか。3年生が受験する国家試験が2月にあり，試験前には，全員合ごう格かくさせるという目標に向け，教員全員が一丸となっています。また1年生と2年生にも，その学年で取るべき科目の単位を無事に取ることができるよう，学習の支し援えんも必要です。
また，学生が実習に行く前，特に現げん場ばに慣なれていない1年生や2年生の実習前も忙いそがしくなりますね。実習前には学生が何かと不安を抱いだきがちなので，その不安をチャレンジする気持ちに変えていけるように励はげましていくのも，私わたしたち教員の役やく割わりです。

看かん護ごを学んでいく中で，学生はいろいろな悩なやみを抱かかえます。「自分が看かん護ご師しに向いているかどうか」という悩なやみはもちろん，「なかなか成せい績せきが伸のびない」という悩なやみだったり，進学や就しゅう職しょくに関する悩なやみ，そして「人との関わりがうまくいかない」という悩なやみもあります。その“関わり”は，友だち同士のこともあるし，臨りん床しょう実習での患かん者じゃさんとの向き合い方だったり，本当にさまざまです。
例えば，「自分は人が好きでうまく話ができると思ったけど，いざ実習に出たら患かん者じゃさんとうまく話ができなかった」と落ちこんで帰ってくる学生がいました。彼かの女じょには「困こまってもいいし悩なやんでもいい，『自分はできる』っていうプレッシャーをかけなくていいんだよ」ということを話していきましたが，学生自身が悩なやみの原げん因いんに気づく方法や，気づくまでにかかる時間は人それぞれです。そのため，なるべく「こうだよ」と言いきるのではなく，その人が一歩先に進むまで付き合うように心がけています。

私わたしから見ると，第一線で働いている現げん場ばの看かん護ご師しはすごく輝かがやいて見えるんですね。学生が実習に出た時に，そんな現げん場ばの看かん護ご師したちと一いっ緒しょに一人の患かん者じゃさんのことを一いっ生しょう懸けん命めい考え，一いっ緒しょに看かん護ごができるよう，送り出すのが私わたしたち教員の役目です。
学生たちは最初「自分は何もできない」と思っています。しかし実習を通じて患かん者じゃさんに感かん謝しゃをされ，そのことに感動する，そういう体験を通して彼かの女じょらは一歩一歩，看かん護ご師しに近づくし，そのときの経けい験けんはおそらく，長く看かん護ご師しを続けるための原動力にもなります。彼かの女じょたちのそんな姿すがたを見ると，「よかったな」と心から思えますね。
学生や看かん護ご師しをめざす人たちにもよく話すんですが，看かん護ご師しは「一生働ける仕事」です。ですから，結けっ婚こんしても出産しても，なるべく長く働いてほしいんですね。年ねん齢れいとともに，自分や家族をとりまく環かん境きょうは変化することがあるかもしれません。でもたとえば出産したり，高こう齢れいの家族のケアをしたりという自分の経けい験けんがあったとしたら，そういうことが必ず現げん場ばで生きる仕事です。そのためにも，私わたし自身が長く仕事を続けて，学生たちにお手本となる姿すがたを見せていかないといけないな，とも思っています。

看かん護ご師しという職しょく業ぎょうをめざす学校だからこそ，「倫りん理り観かん」を大切にしています。看かん護ご師しは人の生命と尊そん厳げんを尊そん重ちょうし，どんな人にも平等に看かん護ごし，患かん者じゃさんとの信しん頼らい関係を築きずいていかなくてはいけません。こういった「看かん護ごの倫りん理り」は，看かん護ご師しという仕事を続けていく上で絶ぜっ対たいに欠かせないものです。だからこそ，私わたしは教員という立場ではありますが，同じ看かん護ご師しという職しょく業ぎょうの仲間として，自分自身も「看かん護ごの倫りん理り」をしっかりと持ち，見本になるようにしていかなくてはと思っています。
また，「学生と私わたしは対等でありたい」と常つねに思っています。学生のいい所はちゃんとほめて，改かい善ぜんすべき点は指し摘てきする。時には，授じゅ業ぎょうがうまく行かなかったり，感かん情じょうの行いき違ちがいが起こってしまったりと，私わたしたち教員の側が失敗してしまうこともあります。そういったときにはちゃんと学生たちに「自分たちのここが悪かった」と示しめし「こういうふうに改かい善ぜんしようと思っている」と説明することを心がけています。学生にはあえて厳きびしい言葉を投げかけることもありますが，それだけではなく，フォローをどうするかにも気を配っていて，先せん輩ぱいや後こう輩はいの教員にフォローをお願いすることもありますね。
大事なのは，学生を孤こ独どくにさせないということ。成長するためには，孤こ独どくは必要なこともありますが，必ず誰だれかが手を差しのべることができる環かん境きょうを作るように心がけています。

中学・高校とバレーボール部だったんですが，ひどい突つき指ゆびをして病院に行ったことがあります。そのとき，そこで働いている看かん護ご師しさんがすごく輝かがやいて見えたんですね。それで進路を考えたとき，なりたい職しょく業ぎょうとして「看かん護ご師し」が浮うかんだんです。
高校卒業後に看かん護ご学校に進み，卒業後は附ふ属ぞくの病院で9年間，看かん護ご師しとして働きました。その病院では就しゅう職しょく3年目から「臨りん床しょう指し導どう者しゃ」として学生に指し導どうする立場となるんですが，臨りん床しょう指し導どう自体は好きだったんです。すると母校にたまたま教員の欠員が出て，当時の看かん護ご部長に教員の道を勧すすめられ，看かん護ご大学校の教員養成課か程ていに進むことになりました。看かん護ご師しとして現げん場ばで働くことへの未練もなくはなかったのですが， 30歳さいの時に母校の教員になりました。
いざ教員になってわかったのは，臨りん床しょう指し導どう者しゃと教員は立場が全然，違ちがうということです。臨りん床しょう指し導どう者しゃは学生を「いずれ一いっ緒しょに働く相手」と認にん識しきしているし，学生たちもそのつもりで現げん場ばに来ています。でも教員の場合は実習へ送り出す立場であって，病院で学生を受けいれる立場とは違ちがったんです。最初のころは「なんで同じように教えても，学生に届とどかないんだろう」とかなり悩なやみました。
でも教員を続けていく中で，学生が受け持ち患かん者じゃさんのことを一いっ生しょう懸けん命めい考えて看かん護ごする場面を目にしたり，患かん者じゃさんの笑え顔がおをみて，看かん護ご教員としての喜びを感じるようになりました。看かん護ご教員という仕事は，「患かん者じゃさんだけでなく，一人の若わか者ものがだんだんと一人の看かん護ご師しに成長してゆくのを助けることができる仕事」だな，と気づいたんです。
そこから“教育”や“人を育てること”の面おも白しろさを感じるようになりましたが，日々悩なやむことも多く，教育学をより深く学びたいと考え，通信の大学で学士をとり，大学院の教育学専せん攻こうで学びました。仕事で学生に授じゅ業ぎょうを行いながら自分のプライベートな時間を使って学ぶ側に立つという生活は，充じゅう実じつしながらも苦労する日々でした。あの時のことを思うと，家族の協力がなかったら乗のり越こえることはできなかったな，と思いますし，本当に感かん謝しゃしています。

小学生のときは，引っこみ思案な子どもでしたが，中学生になってバレーボール部に入ってからは，明るくといいますか，少し元気になりましたね。チームプレーを行う中で，言葉にしないと伝わらないこと，話さないとわかりあえないことがある，というのがわかっていったからだと思います。これは今の仕事の中でも，生かされていると思います。
高校生になったら，だんだんと自分の意見を持つようにもなりました。大きく変わったのは，看かん護ご学校に入ってからでしょうか。さまざまな場所から来ている人たち，これまでに会ったことがないような人たちと出会うなかで「世の中にはいろんな価か値ち観かんを持った人がいるんだ」と気づくことができました。それは私わたしにとって，すごく刺し激げき的てきな体験だったんです。世界は広いし，ある意味，発想は自由だということを知ることができました。その経けい験けんは看かん護ご師しになって患かん者じゃさんと接せっするうえでも，今，看かん護ご教員として学生と接せっするうえでも役に立っています。

私わたしがみなさんに伝えたいことは，答えは一つではないし，いろんな世界がある，ということ。まずはいろんな人と関わって，たくさんの人と話をしてほしいな，と思います。この人とはうまくいかないなと思う人でも初めから否ひ定ていしないで，まずは相手のことをよく観察して見てみようとしてください。そうすると自分が予想だにしなかったことが見えてくるかもしれません。人に限かぎらず，ものごとに関しても，先入観をもたず，なるべくいろんなことを経けい験けんしてほしいですね。
また，もしこれを読んでいる人の中に看かん護ご師しをめざす人がいたら，看かん護ご師しは一生続けられる仕事だということを知っておいてください。勤きん務むする病院や科によってさまざまな働き方ができますし，「海外で看かん護ご師しとして働きたい」という夢ゆめを持つ人もいます。そういうとき，私わたしたち教員も「じゃあ○○科と○○科を経けい験けんしておくといいかもしれないね」などと進路についてアドバイスをしたり，一いっ緒しょに考えていきます。
もちろん，看かん護ご師しは生命に関わる仕事ですから，時として辛つらい経けい験けんをすることもあります。受け持ち患かん者じゃさんが順調に回かい復ふくしないケースや，自分が考えた看かん護ごがうまくいかないこともあります。それでも，看かん護ご師しという職しょく業ぎょうは，患かん者じゃさんや仲間との関わりから得るものが多く，やりがいの大きな仕事です。