私わたしは、JR東海リニア開発本部山梨実験センターに所しょ属ぞくし、山梨リニア実験線の土木分野を担たん当とうしています。山梨リニア実験線での走行試験は1997年に先行区間18.4キロメートルで開始し、その後の延えん伸しん更こう新しん工事を経へて2013年には総そう延えん長ちょう42.8キロメートルが完成し、日々、リニア中央新しん幹かん線せんの開業に向け、超ちょう電でん導どうリニアの走行試験が行われています。
リニア中央新しん幹かん線せんにはレールはなく、側面にコイルの入った「ガイドウェイ」が敷しかれます。ガイドウェイやガイドウェイにかかるトンネル、橋きょう梁りょう（「橋」の専せん門もん的てきな呼よび名な）などの工事・メンテナンスが土木分野の担たん当とうになり、ガイドウェイ、トンネル、橋きょう梁りょうの3つのチームに分かれて各構こう造ぞう物ぶつを担たん当とうしています。
その中で私わたしが担たん当とうしているのは、橋きょう梁りょうなどの構こう造ぞう物ぶつのメンテナンスです。コンクリートの傷きずなど、構こう造ぞう物ぶつの状じょう態たいが最初の状じょう態たいから劣れっ化かしてしまうことを「変へん状じょう」といいますが、構こう造ぞう物ぶつの維い持じ管理のために、こうした変へん状じょうがないかを検けん査さし、もし変へん状じょうがあった場合には修しゅう繕ぜん計画を立て、修しゅう繕ぜん工事を行う、というのが私わたしの主な仕事です。

橋きょう梁りょうの検けん査さや修しゅう繕ぜん工事だけでなく、検けん査さや工事を進めるにあたって使いにくい設せつ備びなどがあれば、より良いものを提てい案あんして、作業環かん境きょうを改かい善ぜんするという仕事も担たん当とうしています。たとえば、検けん査さや工事のために、ガイドウェイの側そく壁へきに登ることもありますし、山梨リニア実験線は山間部にあるので、山の斜しゃ面めんに登ることもよくあるのですが、そうした作業をする人がケガをしないよう、階かい段だんやはしごを取り付けたりしています。
そのほかに、土木作業と工事用車両の運行を全体的に統とう制せいする「指令業ぎょう務む」も担たん当とうしています。「土木作業を今から始めて問題ないか」「今、ガイドウェイの中に工事車両が入って問題ないか」などを、いろいろな部門と確かく認にん・調整する仕事で、1日につき3、4人で交代しながら担たん当とうしています。確かく認にんや調整がしっかり行えていないと、リニア車両と工事車両がぶつかる、工事車両と作業員がぶつかるなど、大きな事じ故こにつながってしまう可か能のう性せいもあります。安全を守る責せき任にん重大な仕事なので、指令業ぎょう務むを担たん当とうする日は、いつも以上に気を引ひき締しめて業ぎょう務むにあたっています。

橋きょう梁りょうの土木工事は、室内で行う業ぎょう務むと外の現げん場ばに出向いて行う業ぎょう務むの2つに分けられます。室内で業ぎょう務むをする場合は、工事の内ない容ようを指し示じするための書類である「示し方ほう書しょ」を作成したり、会議を行ったりしています。会議では、ガイドウェイ、橋きょう梁りょう、トンネルのチーム全員が集まり、それぞれの検けん査さ結果を共有し、その結果をもとに、今後の修しゅう繕ぜん工事の方ほう針しんやスケジュールなどを話し合って決めています。
外の現げん場ばに出向くのは、建けん造ぞう物ぶつの検けん査さや修しゅう繕ぜん工事を行うときです。自分たちの目で見て、建けん造ぞう物ぶつに変へん状じょうがないかを確かく認にんする「目もく視し検けん査さ」のほか、コンクリートを検けん査さするときには、ハンマーのような道具を使ってコンコンとコンクリートを叩たたき、音の違ちがいで変へん状じょうを見つける「打だ音おん検けん査さ」という検けん査さも取り入れています。超ちょう電でん導どうリニアのガイドウェイは、新しん幹かん線せんや在ざい来らい線せんが走る金きん属ぞくのレールとは違ちがい、大部分がコンクリートでつくられているため、検けん査さの基き準じゅんや見るポイントも、新しん幹かん線せんや在ざい来らい線せんとは全く違ちがいます。
実じっ際さいの検けん査さや工事の作業は外部の施せ工こう業者に発注して行ってもらっているのですが、最終的な責せき任にんは私わたしたちの会社にあるため、私わたしたちも検けん査さや工事の現げん場ばに立ち会います。現げん場ばでの私わたしの役やく割わりは、示し方ほう書しょで指し示じした通りに作業が行われているかや、工事スケジュールに遅おくれが発生していないか、作業が安全に行われているかなどを確かく認にんすることです。土木分野の知ち識しきをしっかり持っていないと、責せき任にんを持って検けん査さや工事完かん了りょうの最終判はん断だんを行えないため、日々の勉強が欠かせません。
私わたしは入社2年目で、今の職しょく場ばに配はい属ぞくされて約1年経たったところです。まだまだ経けい験けんが浅いこともあり、先せん輩ぱいに教えてもらいながら、いろいろな知ち識しきを学んでいる最中です。また、将しょう来らい的てきには「コンクリート診しん断だん士し」や「技ぎ術じゅつ士し」といった資し格かくを取る必要もあるので、仕事以外の時間にもできるだけ勉強しています。一方で、現げん場ばでの経けい験けんや勉強を重ねるにつれて、自分でも判はん断だんできる場面が増ふえていくため、日々、自分の成長を感じられることは、この仕事の魅み力りょくの一つです。

ところでみなさんは、鉄道施し設せつの検けん査さをしている場面を見たことがありますか？もしかしたら、見たことがない人もいるかもしれません。日中は線路の上を電車が走っていたり、多くの人が駅を利用したりしているため、みんなが寝ねている夜の間に作業をするケースが多いんです。私わたしの場合も同じで、朝から夕方まではガイドウェイの上をリニア車両が定期的に走っているため、長い時間を要する大きな検けん査さや工事は夜の間に行っています。
夜間の勤きん務むと日中の勤きん務むが入いり混まじることもあり、生活リズムを整えるのに苦労することもあります。また、季節や天候に関係なく、外での作業に行かなければなりません。現げん場ばではケガを防ふせぐため、分ぶ厚あつい防ぼう護ご服ふくを着て、ヘルメットをかぶる必要があるため、夏場は特に大変です。自分はもちろん、作業する人たち全員が熱ねっ中ちゅう症しょうにならないよう、細心の注意を払はらっています。逆ぎゃくに冬場には、雪が30センチ以上積もった中で作業をすることもあります。私わたしは北海道出身のため、寒さや雪には慣なれっこですが、慣なれていない社員や作業員さんの中には、苦労している人もいるかもしれません。
こうした中で仕事を続けていくためには、健康でいることが何よりも大切です。しっかりと寝ねて、ときには思いきり遊んで気持ちをリフレッシュしながら、体調管理には人一倍気をつけて、これからも頑がん張ばっていきたいと思っています。

体力的に大変なところはありますが、リニア中央新しん幹かん線せんという世界初のプロジェクトに携たずさわれていることは大きなモチベーションになっています。山梨リニア実験線の維い持じ管理が主な仕事ではありますが、リニア中央新しん幹かん線せんの開業後に実じっ際さいに導どう入にゅうする設せつ備びについての実じっ証しょう試験を行う際さいに、土木の立場から協力することもあります。実じっ際さいに私わたしも昨年（2022年）、防ぼう音おん壁へきの設せつ備び改良プロジェクトに携たずさわり、実用化に向けての課題を明めい確かくにできたことがありました。自分が携たずさわった実験結果が、実じっ際さいに開業した後の設せつ備びにも生かされるかと思うと、とてもうれしかったことを覚えています。
日々の仕事の中でやりがいを感じることもあります。たとえば、山梨リニア実験線内で使用している鍵かぎについて、場所によって施せ錠じょうに多くの時間を要することがありました。そこで、私わたし自身で予算や優ゆう先せん順位なども考こう慮りょしつつ、施せ錠じょう方法を見直しました。それが業ぎょう務むの効こう率りつ化かにつながったということで、社内の表ひょう彰しょう制せい度どで賞しょうに選ばれたんです。自分で課題を見つけ、改かい善ぜんに取り組んだ結果が認みとめられたことはもちろん、土木分野以外で働く人たちからも「ありがとう、便利になったよ」と声をかけてもらえたことが何よりもうれしかったです。今後も社員のみなさんの役に立つことを見つけていこうと思うきっかけになりました。

土木の仕事は一人ではなく、たくさんの人と協力して行う仕事です。協力会社の作業員の方に指し示じを出して、作業を行ってもらうことも多いので、みなさんに気持ちよく仕事をしてもらえるよう、挨あい拶さつをしっかりしたり、他た愛あいない話をしたりしながら、楽しい現げん場ばになるよう心がけています。すぐに誰だれとでも仲良くなれるのが私わたしの長所なので、コミュニケーションについて苦労することはほとんどありません。
そんな私わたしですが、実は子どものころは人見知りでした。今のように初対面の人とのコミュニケーションにも臆おくすることなく、多くの人と協力しながら仕事を進めていけるのは、小学校5年生から大学院を卒業するまで続けていた吹すい奏そう楽がくのおかげだと思っています。吹すい奏そう楽がくは、大人数で一いっ致ち団だん結けつして、一つの音楽をつくり上げていくものなので、協きょう調ちょう性せいが何よりも大事です。今の仕事も、自分のつくりたいものをしっかりと相手に伝え、相手の意見も尊そん重ちょうしながら、たくさんの人と協力して大きな構こう造ぞう物ぶつをつくり上げていきます。協きょう調ちょう性せいを身につけられたという点で、吹すい奏そう楽がくに一いっ生しょう懸けん命めい取り組んだ経けい験けんは、私わたしの財ざい産さんと言えると思います。

今はすっかり土木の魅み力りょくにはまっている私わたしですが、子どものころはゲーム制せい作さく者しゃになりたいと思っていました。中学校を卒業した後に工業高等専せん門もん学校に入学したのも、ゲーム制せい作さくについて学びたかったから、というのがきっかけでした。でも、実じっ際さいに入学してみたら、多くの人の生活基き盤ばんを支ささえている土木の面おも白しろさに気づき、どんどん勉強しているうちに、大学院まで行ってしまいました。
土木分野の魅み力りょくに気づいて以来、将しょう来らいも土木業界で働きたいとは考えていたものの、具体的にどんな会社に就しゅう職しょくしたいのかは決まっていませんでした。そんなとき、大学にJR東海の社員が説明に来てくれて、話を聞く機会がありました。JR東海は、日本の交通の大だい動どう脈みゃくである東海道新しん幹かん線せんを運うん営えいしています。その新しん幹かん線せんを、土木分野の技ぎ術じゅつ者しゃとして縁えんの下したから支ささえられる仕事にとても興きょう味みを持ち、より多くの人々の生活を守りたい、生活を豊ゆたかにしたいという思いから、JR東海に就しゅう職しょくすることに決めました。
就しゅう職しょく後はリニアプロジェクトに配はい属ぞくされ、開業前の現げん在ざいはまだ多くの人々の生活を支ささえているという実感がないというのが実のところです。ですが、今の取り組みが将しょう来らい的てきには多くの人の生活の豊ゆたかさにつながると思うと、胸むねが高まります。将しょう来らい、みなさんに超ちょう電でん導どうリニアに乗っていただいたとしても、時速500キロメートルのものすごいスピードで走るため、防ぼう音おん壁へきやトンネル、橋きょう梁りょうなどの土木設せつ備びをじっくりと見ることはできないかもしれませんが、「超ちょう電でん導どうリニアが走っているのは、土木分野の技ぎ術じゅつと人が支ささえているからなんだ」と、少しでも想そう像ぞうしてもらえたらうれしいです。

私わたしは大学院を卒業する直前まで、自分が何をやりたいのかわかりませんでした。ですからみなさんも、やりたいことがわからなくても焦あせらず、自分が楽しいと思う分野や自分が得とく意いだと思う分野を見つけて、突つき進すすんでみてほしいです。それが結果として将しょう来らいの仕事につながらなくても、何かに全力で取り組み、努力した経けい験けんは決して無む駄だにはならないはずです。
そのうえで、みなさんの中に、土木分野に興きょう味みを持ってくれる人が少しでも増ふえたらうれしいです。特に、土木分野で働く女じょ性せいはまだまだ少ない現げん状じょうがあります。実は、山梨実験センターの土木分野に女じょ性せいが入ったのも、私わたしが初めてでした。体力的にも筋きん力りょく的にも、男だん性せいにかなわないこともありますが、女じょ性せいだからこそ気づける視し点てんもあるはずです。超ちょう電でん導どうリニアに限かぎらず、土木分野全体でもっと女じょ性せい活かつ躍やくの場を広げていきたいと思っていますし、私わたし自身も女じょ性せいがより働きやすい環かん境きょうを目指して、日々、提てい案あんや改かい善ぜんに取り組んでいるところです。将しょう来らい、一いっ緒しょに土木分野を盛もり上あげていってくれる仲間を心からお待ちしています。