私（わたし）の勤（つと）めている会社は，ジュースやゼリー，それからお惣菜（そうざい）など，様々（さまざま）な飲料・食品を開発し，工場で製造（せいぞう）してスーパーなどに出荷しています。商品開発部には10名の社員がおり，私（わたし）はその一員として，果実ジュースやスープ，それからカートカン飲料などの開発を担当（たんとう）していて，新しい原材料を探（さが）す，試作品を作って味を確（たし）かめるといった仕事をしています。

毎朝9時30分に会社の研究室に着き，午前中は，打ち合わせをしたり，果実ジュースの製造（せいぞう）に使う果汁（かじゅう）の味や見た目を検査（けんさ）したりします。午後になると，新しい飲料の開発に取り組みます。新しい飲料を開発するには，まず人気の出そうな商品を予測（よそく）し，完成した商品を売る営業（えいぎょう）部とも相談しながら，開発する飲料の種類や味を決めます。開発する飲料が決まったら，試作品作りを重ねて使用する原料や混（ま）ぜる割合（わりあい）を考え，最後に原材料の安全性（せい）などの品質（ひんしつ）を検査（けんさ）して完成です。1つの商品を開発するまでに，平均（へいきん）で約1年もの時間がかかります。

新商品を開発する時，研究室で自分の手を使って作るのは簡単（かんたん）でも，工場の機械で同じ物を作るのは難（むずか）しいということがあります。例えば，研究室で考えたゼリーの粒（つぶ）入りの飲料を，工場の機械で作ってみたところ，作っている途中（とちゅう）で機械の間にゼリーが挟（はさ）まり，完成した時にはゼリーが崩（くず）れて無くなってしまったことがありました。研究室で作る試作品の量は一度に牛乳（ぎゅうにゅう）パック1本分くらいですが，商品として売り出すためには，工場の機械を使って，一度に6000本程度（ていど）を作らなければなりません。ですから，試作品を作る段階（だんかい）から工場の担当者（たんとうしゃ）とも相談し，原材料を変えたり，機械の設備（せつび）を改善（かいぜん）したりして，何とか美味しい味を実現（じつげん）する方法を考えています。

研究室で自分が試作した飲料を，いよいよ工場の機械で作ってみるという時が一番わくわくします。問題なく作れるように，工場の担当者（たんとうしゃ）や商品開発部のメンバーで事前に一番良い作り方を相談しますが，それでもやはり上手くいかないことがでてきます。原料が上手く混（ま）ざらなかったり，飲料にとろみが出すぎて機械の中を流れなかったり，他にも予想もしなかったことが起きることもありますが，問題の原因（げんいん）を調べ，みんなで一生懸命（いっしょうけんめい）頑張（がんば）って解決（かいけつ）できた時は，諦（あきら）めずにやって良かったと思います。そうした苦労を経（へ）て発売した商品に対して，お客様から「美味しい」と言って頂（いただ）いた時はとても嬉（うれ）しいですね。

仕事をする上で大切にしていることは，相手の立場に立って考えるということです。お客様によろこんでいただくことが第一ですが，その他にも一緒（いっしょ）に仕事をする仲間とのコミュニケーションも大切にしています。1つの商品を作って販売（はんばい）するまでには，多くの人が関わっています。中身を考える人や容器（ようき）の表示（ひょうじ）を確認（かくにん）する人，原料を集める人，それから工場で実際（じっさい）に作る人，製品（せいひん）を検査（けんさ）する人，売り方を考える人など，みんなベストを尽（つ）くして自分の仕事をしていますが，立場が違（ちが）えば考え方も違（ちが）い，意見も異（こと）なります。例えば，先ほどお話しした，試作品が工場の機械では上手く作れないという問題でも，私（わたし）は商品開発担当（たんとう）として飲料の味を優先（ゆうせん）した作り方を考えますが，機械の知識（ちしき）をたくさん持っている工場の担当者（たんとうしゃ）の意見をよく聞くことで新しい考え方ができるようになり，問題が解決（かいけつ）できることもあります。

小学生の頃（ころ），理科の時間に顕微鏡（けんびきょう）で見たミジンコがとても印象に残っています。眼（め）ではよく見えない生き物を顕微鏡（けんびきょう）で見ることができて感動しました。振（ふ）り返ってみれば，その時の感動が今の自分の始まりだったような気がします。その後，微生物（びせいぶつ）に興味（きょうみ）を持ち，大学では食中毒細菌（さいきん）や食品の安全性（せい）について勉強をしました。感動する出来事というのは，人生の道を決めるきっかけになるのかもしれません。

就職（しゅうしょく）活動をする際（さい），大学での勉強に関わりの深かった食品関係の仕事に興味（きょうみ）を持ちました。実際（じっさい）に食品工場を見学して，普段（ふだん）目にする商品が大きな設備（せつび）で大量に作られる様子を見たり，研究開発をしている人から話しを聞いたりして，ますますこの仕事への思いを強くしました。こうして今の会社に就職（しゅうしょく）し，主に飲料の開発を担当（たんとう）することになったのです。元々（もともと）ジュースやお茶などの新商品は必ず買うほど飲料が好きだったので，今度は自分が開発をする立場になり，毎日がとても楽しいです。皆（みな）さんが食品会社で開発の仕事に関わりたいという場合には，大学で農学系（けい）・理学系（りがくけい）の勉強をすることが近道かもしれません。

職場（しょくば）の周りには田んぼがたくさんあり，仕事でお米の製品（せいひん）も担当（たんとう）するようになってから，もうすぐ収穫（しゅうかく）だなとか，今年は猛暑（もうしょ）だったがお米は問題なくできたかなとか，農作物の出来が気になるようになりました。立場が変わると色々（いろいろ）なものが見えるようになり，気が付くことがたくさんあります。そして，それに携（たずさ）わっている人の気持ちにも思いを馳（は）せるようになります。皆（みな）さんも，毎日の生活の中で「これは何だろう？」と疑問（ぎもん）を持ってみてください。きっと新しい発見や感動に出会うことがあると思います。そしてもしかすると，それが将来（しょうらい）の自分の仕事を決めるきっかけになるかもしれませんよ。