私（わたし）は千葉県松戸市（ちばけんまつどし）にある聖徳大学（せいとくだいがく）で，「音楽（おんがく）の先生」を目指（めざ）す学生を指導（しどう）しています。授業（じゅぎょう）は週（しゅう）6～8コマ程度（ていど）ですが，授業時間以外（じゅぎょうじかんいがい）に学生の個別指導（こべつしどう）を行（おこな）います。例（たと）えば，教育実習（きょういくじっしゅう）（学生が中学校や高校（こうこう）で授業（じゅぎょう）を実際（じっさい）にする）に行（い）く学生の指導案（しどうあん）（授業（じゅぎょう）の計画（けいかく））を見ます。また，音楽（おんがく）の先生になるためには「弾（ひ）き歌（うた）い」といって，ピアノを弾（ひ）きながら歌（うた）う実技試験（じつぎしけん）があるのですが，その対策（たいさく）もします。あるいは，「初見演奏（しょけんえんそう）」といって，初（はじ）めて見た楽譜（がくふ）で演奏（えんそう）をする実技試験（じつぎしけん）の対策（たいさく）なども，学生からの要望（ようぼう）があれば行（おこな）います。
大学での仕事（しごと）の合間（あいま）を縫（ぬ）って，合唱曲（がっしょうきょく）の作詞（さくし），作曲（さっきょく）をしています。長（なが）さにもよりますが，1曲（きょく）1，2時間（じかん）あれば書（か）けてしまうのですが，構想（こうそう）を浮（う）かべてから書（か）き始（はじ）めるまでにはそれ相応（そうおう）の時間（じかん）を要（よう）することもあります。今年（ことし）は大学の新入生（しんにゅうせい）に向（む）けて「たいせつに・・・」という短（みじか）い合唱曲（がっしょうきょく）を作（つく）り，授業（じゅぎょう）で一緒（いっしょ）に歌（うた）いました。

大学の授業（じゅぎょう）がある日は，8時（じ）30分（ふん）ごろには出勤（しゅっきん）し，授業（じゅぎょう）の準備（じゅんび）をして，90分（ぷん）の授業（じゅぎょう）をします。こちらが知識（ちしき）を伝（つた）えるだけではなく，学生が深（ふか）く考（かんが）えられるような授業（じゅぎょう）をしています。「リアクションペーパー」に，授業（じゅぎょう）で考（かんが）えたことや気づいたこと，疑問点（ぎもんてん）などを書（か）いてもらうことも欠（か）かせません。人数（にんずう）が多（おお）い授業（じゅぎょう）でも，一人ひとりの個性（こせい）やさまざまな意見（いけん）を引（ひ）き出せるよう，心（こころ）がけています。
私（わたし）の勤務（きんむ）する大学は小中高（しょうちゅうこう）と同様（どうよう）に担任制（たんにんせい）があり，一昨年（おととし）は40数名（すうめい）の学生たちの担任（たんにん）として卒業生（そつぎょうせい）を送（おく）り出しました。学生は積極的（せっきょくてき）に，さまざまなことを相談（そうだん）しにきてくれます。そうして指導（しどう）した学生が，音楽（おんがく）の先生になって教（おし）えている姿（すがた）を見るのは，とても嬉（うれ）しいことです。「音楽（おんがく）を通（つう）じて社会（しゃかい）に貢献（こうけん）する」という同（おな）じ思（おも）いを持（も）った教育者（きょういくしゃ）が増（ふ）えることもまた，嬉（うれ）しいことです。教師（きょうし）は私（わたし）にとって天職（てんしょく）であり，人を育（そだ）てることの喜（よろこ）びはとても大きいです。
一方（いっぽう），いろいろなことが重（かさ）なって大変（たいへん）なときもあります。授業（じゅぎょう），研究（けんきゅう），学生の募集（ぼしゅう）など大学内（だいがくない）でのさまざまな仕事（しごと）が重（かさ）なり，身動（みうご）きがとれないと感（かん）じてしまうこともあり，そういった苦労（くろう）が時（とき）に心悩（こころなや）ませることがあります。

以前（いぜん），私（わたし）は中学校で教（おし）えていました。卒業（そつぎょう）の時期（じき）には卒業生（そつぎょうせい）に作詞（さくし）してもらい，その詞（し）に曲（きょく）をつけ，毎年（まいとし）プレゼントしていました。その曲（きょく）はレコーディングも行（おこな）い，CDにすることもありました。学校生活（がっこうせいかつ）にはいろいろな場面（ばめん）がありますが，別（わか）れの時期（じき）がやはり，詞（し）や曲（きょく）が最（もっと）も多（おお）く生まれるのではないかと感（かん）じます。そこで中学生の想（おも）いを感（かん）じ取（と）り，一つの合唱曲（がっしょうきょく）にまとめ，歌（うた）い継（つ）いでいく伝統（でんとう）が作（つく）れたことは，とても良（い）い思（おも）い出です。
そして，作詞作曲（さくしさっきょく）する上で私（わたし）が最（もっと）も重要（じゅうよう）だと考（かんが）えていることは，「伝（つた）えたいメッセージは何（なに）か考（かんが）えること」です。感謝（かんしゃ）の気持（きも）ち，友情（ゆうじょう）の大切（たいせつ）さ，そういったものを音に乗（の）せてどう伝（つた）えるか考（かんが）えることが作曲（さっきょく）する上でとても大切だと考（かんが）えています。メッセージが一番（いちばん）よく伝（つた）えられるように曲（きょく）や詞（し）をあれこれ考（かんが）えて，一曲（いっきょく）に仕上（しあ）げます。詞（し）が先にできることもあれば，曲（きょく）が先にできることもあります。詞（し）と曲（きょく）を行（い）き来（き）するように作（つく）っていくうちに，迷（まよ）いがでてくることもあります。そういうときは「これで決（き）まり」と決（き）めてしまうこともあれば，じっくり寝（ね）かせて，あらためて聞（き）き返（かえ）してみることもあります。その結果（けっか），大きく変（か）えてしまうこともあります。

24歳（さい）のころでした。地域（ちいき）のボランティアサークルに参加（さんか）し，障（しょう）がいのある人たちとかかわっていました。当時（とうじ）すでに音楽（おんがく）の教師（きょうし）をしていて，合奏用（がっそうよう）の楽器（がっき）が一式届（いっしきとど）いたとき，楽器演奏（がっきえんそう）を指導（しどう）してほしいと頼（たの）まれました。だんだんレパートリーも増（ふ）え，区（く）の発表会（はっぴょうかい）に出ることになりました。発表会（はっぴょうかい）に出るにあたって，「サークルのテーマソングがほしい」と言（い）われ，急遽（きゅうきょ）1曲（きょく）つくることになりました。ぽっぽというサークル名でしたから，「ぽっぽのバラード」という曲名（きょくめい）にしました。
その後（ご），学校の音楽（おんがく）の授業（じゅぎょう）で歌（うた）うようになりました。生徒（せいと）からは「良（よ）い曲（きょく）ですね」と評判（ひょうばん）がよかったです。学校外（がっこうがい）で授業研究会（じゅぎょうけんきゅうかい）があったのですが，そこで発声練習（はっせいれんしゅう）に歌（うた）ったところ，有名（ゆうめい）な合唱（がっしょう）の先生から「この曲（きょく）は誰（だれ）の曲（きょく）ですか」と声（こえ）をかけられました。「良（よ）い曲（きょく）だから，ぜひ混声三部（こんせいさんぶ）の合唱曲（がっしょうきょく）にしてください」と頼（たの）まれ，編曲（へんきょく）しました。そこから，この曲（きょく）は「マイバラード」として，またたく間（ま）に広（ひろ）がっていきました。
今（いま）では，映画（えいが）やドラマなどでも歌（うた）ってもらっています。私（わたし）の作曲家（さっきょくか）としての原点（げんてん）とも言（い）える1曲（きょく）です。

最近（さいきん）は校歌（こうか）の作曲（さっきょく）を頼（たの）まれることが多（おお）く，20曲（きょく）ほど作（つく）りました。群馬県（ぐんまけん）や鹿児島県（かごしまけん），千葉県（ちばけん），茨城県（いばらきけん），東京都（とうきょうと）などいろいろな学校の校歌（こうか）を作（つく）りました。その学校を象徴（しょうちょう）し，今後何十年（こんごなんじゅうねん）にわたって歌（うた）い継（つ）がれる曲（きょく）ですから，プレッシャーは大きいですが，大変光栄（たいへんこうえい）なことです。依頼（いらい）を受（う）けると，実際（じっさい）にその学校や地域（ちいき）に足を運（はこ）び，人や街（まち）の様子（ようす）をよく観察（かんさつ）し，曲（きょく）のイメージを膨（ふく）らませます。また，学校の子どもたちから，校歌（こうか）にどんな言葉（ことば）やフレーズが入っていたら良（よ）いかを集約（しゅうやく）し，作詞（さくし）の材料（ざいりょう）にします。
校歌（こうか）のほかにも，地域（ちいき）のための合唱曲（がっしょうきょく）を作（つく）って欲しいという依頼（いらい）も受（う）けます。どの合唱曲（がっしょうきょく）を作（つく）る時（とき）にも心（こころ）がけているのですが，歌（うた）いやすさと親（した）しみやすさが，私（わたし）の作（つく）る曲（きょく）の共通点（きょうつうてん）です。老若男女（ろうにゃくなんにょ），障（しょう）がいの有無（うむ）に関係（かんけい）なく，どんな人でも気軽（きがる）に口ずさめる曲（きょく）を作（つく）りたいと思（おも）っています。そして，「今（いま）までよりもっと良（い）い曲（きょく）ができる」と，向上心（こうじょうしん）は忘（わす）れません。「もういいや」と満足（まんぞく）することはないので，こういう気持（きも）ちが次（つぎ）の1曲（きょく）を作（つく）る大きなエネルギーになります。

音楽（おんがく）が好（す）きでしたので，音楽（おんがく）と関（かか）わることができる仕事（しごと），特（とく）に，目の前（まえ）にいる人と音楽（おんがく）を通（つう）じた「感動（かんどう）を共有（きょうゆう）」できる仕事（しごと）。そして，「お金」よりも「やりがい」を追求（ついきゅう）したい。こういった視点（してん）で仕事（しごと）を選（えら）ぼうと思（おも）っていました。中学ではブラスバンド部（ぶ）に入って，クラリネットやギター，バイオリンなどいろいろな楽器（がっき）に挑戦（ちょうせん）しました。中でもバイオリンには熱中（ねっちゅう）しました。テレビ番組（ばんぐみ）のオーディションを受（う）けて合格（ごうかく）し，番組（ばんぐみ）に出演していた時期（じき）もありました。一流（いちりゅう）の音楽家（おんがくか）を目の当（あ）たりにして，目の前（まえ）で本物（ほんもの）の音楽（おんがく）を聴（き）くことができ，このとき「この先も音楽（おんがく）とずっと関（かか）わりたい」と強（つよ）く思（おも）うようになりました。
そこで一念発起（いちねんほっき）して，高校（こうこう）のとき，家（いえ）にピアノを買（か）ってもらいました。特定（とくてい）の楽器（がっき）を専攻（せんこう）するのではなく，「和声（わせい）」（音楽（おんがく）のルール）などを勉強（べんきょう）して，作曲（さっきょく）の専攻（せんこう）ができる大学に入ることに決（き）め，入学できました。大学ではオーケストラに入り，バイオリンを弾（ひ）いていました。機会（きかい）は少（すく）ないですが，今（いま）でもオーケストラに加（く）わり，人の前（まえ）で演奏（えんそう）することもあります。

東京（とうきょう）の下町で育（そだ）ち，やんちゃで好奇心旺盛（こうきしんおうせい）な子どもでした。野球（やきゅう），缶蹴（かんけ）り，かくれんぼなどをして，友達（ともだち）とよく外（そと）で遊（あそ）んでいました。蔵前国技館（くらまえこくぎかん）も近（ちか）かったので，相撲（すもう）を見に行（い）くこともよくありましたね。小学生のころに父（ちち）を亡（な）くしていたので，「うちの家族（かぞく）はこの先どうなるのだろう」と不安（ふあん）だった時期（じき）もありました。
今思（いまおも）い返（かえ）すと，子どものころから作曲（さっきょく）のようなことはしていたと思（おも）います。飼っていた鳥（とり）が死（し）んでしまったとき，リコーダーで「ピーコちゃんの歌（うた）」を作（つく）ったのが最初（さいしょ）だったと思（おも）います。中学生のころ，人前（ひとまえ）で披露（ひろう）しませんでしたが，ギターで「ボルケーノ」という曲（きょく）も作（つく）った記憶（きおく）があります。私（わたし）にとって音楽（おんがく）は，いつも近（ちか）くにあって，空気みたいな存在（そんざい）だったのかなと思（おも）います。

みなさんは無限（むげん）の可能性（かのうせい）を持（も）っていますし，不可能（ふかのう）なことはないと信（しん）じて何事（なにごと）にも挑戦（ちょうせん）してみてください。そして，夢（ゆめ）を持（も）った人は，その夢（ゆめ）をお友達（ともだち）や親御（おやご）さん，先生，周（まわ）りの人に語（かた）ってみましょう。夢（ゆめ）は，語（かた）ることで実現（じつげん）に一歩近（いっぽちか）づくものです。遠（とお）く思（おも）える目標（もくひょう）や夢（ゆめ）も，それを言葉（ことば）で語（かた）ってみることが，実現（じつげん）への最初（さいしょ）の一歩（いっぽ）となりますよ。