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岐阜県に関連のある仕事人
1931年 生まれ 出身地 岐阜県
那須なす 清一せいいち
子供の頃の夢:
クラブ活動(中学校):
仕事内容
アユ漁のためのもくぞうせんをつくる。
自己紹介
人にものをたのまれたらことわれないせいかくだと思います。7,8年前から,しゅりのぶつぞうをつくっています。時代,えんくうというのおぼうさんが,ぼくりのぶつぞうしょみんのためにたくさんりました。近所のぞうどうにもえんくうぶつまつられていて,きょうを持ちました。ったぶつぞうは人にあげています。

※このページに書いてある内容は取材日(2018年07月10日)時点のものです

アユ漁のためのもくぞうせんをつくる

アユ漁のための木造船をつくる

わたしなががわぞいに自分のふな(作業場)を持ち,そこでもくぞうの船をつくる船大工をしています。つくっているのは,アユ漁に使う船です。あみりょうの船や,ウミウという鳥をあやついの船,いを見物する20人乗りの大きな屋形船など,さまざまな船をつくってきました。これまでに,少なくみても600そうはつくったと思います。
最近は,たいきゅうせいがあり手入れも楽なFRP(せん強化プラスチック)の船もえています。FRP船にくらべるともくぞうせん寿じゅみょうは10~15年くらいと短く,かわくと板にすき間ができるので,使う前にきゅうすいさせなければいけないなど,手間もかかります。しかし,軽くてそうしやすく,木がしょうげききゅうしゅうしてあんていせいがよいことから,もくぞうせんを好む人もいます。また,型から大量生産するFRP船とはちがい,川のかんきょうなどに合わせてすんぽうや形をざいにつくれるのももくぞうせんのよさです。

小さな船なら1か月かからずにつくる

小さな船なら1か月かからずにつくる

注文はじんから受けることがほとんどです。アユ漁は5月末から10月ごろまで行われるので,昔はしんぞうの注文は正月ごろに受け,その年の,アユがとれる期間内にのうにゅうするのが決まりでした。小さい船なら,1か月足らずでつくれましたね。また,漁期の前にはしゅうの注文も多くなるので,4,5月はとくにいそがしい思いをしました。
昔は「川があるかぎり船大工の仕事はなくならない」といわれましたが,アユがとれなくなって,漁をする人も船の注文もりました。15年くらい前からは材料の丸太も手に入りにくくなったし,年も取ったし,のうにゅうげんかぎらないという注文だけを受けています。
けん内では,えいの船大工は2人だけになりました。もう1人はわたしのところで7年間しゅぎょうした,じょうはちまんの50代後半の人です。えい以外では,えいぞうせんじょがあって,数人の船大工がいます。市のしょくいんとして,いの船とい見物の観光船をつくっています。

コウヤマキの天然木が原材料

コウヤマキの天然木が原材料

今つくっているのは「よつのり」というアユのあみりょうの船です。船のすんぽうは底ではかりますが,この船は底の長さが3げん2しゃく(約6m),さいだいはばが2しゃく7すん(約81cm)です。船をあやつる人とあみをあつかう人の2人乗りで,エンジンはつけずにかいぎ,浅いところではたけ竿ざおあやつることもあります。
船の材料はすべて,コウヤマキというしんようじゅです。軽く,水に強く,やわらかくてあつかいやすい。ねばりがあるので曲げても折れにくい木です。かげで育ったもののほうが,材がやわらかくて船材向きです。コウヤマキは植林されないので数が少なく,いちに出たらなるべく買いますし,山仕事の業者には,ばっさいしたられんらくをくれるようたのんでいます。
丸太は長さ4mがひょうじゅんかくです。節やれのない,いい丸太なら,せんたんの直径20cmのもの4本,直径34cmのもの1本で,この船がつくれます。でも,木には節があるものなので,使えるのは半分くらいです。
丸太はせいざいしょで板にひいてもらい,最低3年は天日にさらしたあと,屋根の下でさらに数年間しっかりとかんそうさせます。なまがわきだとくるいが出て,みずれのげんいんになるんです。
材木を使う方向には決まりはありません。ただ,わたしは板のおもて(年輪の外側)を船の内側にしています。「ごろし」のこうていで,木のせいしつとしてうら(年輪の内側)にささくれが出るからです。船は内側が人目にふれるので,内側を美しく仕上げるんです。
かいも船大工がつくります。カシ,サクラ,ナラなど,かたい木が向いていますね。

板を反らせわんきょくさせて船を形づくる

板を反らせ湾曲させて船を形づくる

船づくりは,しき(船底)から始めます。よつのりだと,しきは7まいの板をはぎ合わせます。船は,底が平らだと水のていこうを受けて進めないんです。そこで,しきは前後を反らせます。(船の前方)はせんたんから5しゃく7すん(約171cm)のところから反らせて,せんたんが7すん5(約22.5cm)~8すん5(約25.5cm)上がるようにします。とも(船の後方)は,はしから3しゃく(約90cm)で反らせ,1すん(約3cm)ちょっと上がるようにします。反らせる起点の位置を「つりふじ」といいますが,ここにおもを置いて,板がれないように,少しずつジャッキで板のせんたんを上げて反らしていくんです。
はらげんそく,船の横の部分)は,2まいはらいた(下が「どうづけいた」,上が「まい」)でつくります。はらいたしきの形に合わせ,っかいぼうをあてがってわんきょくさせます。ともにはそれぞれ「たて板」をつけます。はらいたの上には「かいづる」という細い板をつけますが,の部分には,くちばしのようにした「うで」をつけます。ともはらいたまいをたて板より長くして,上に平板をわたしてあります。木材のあつみは,たて板だけは1すん2(約3.6cm)とややあつく,その他はすべて1すん(約3cm)です。

ぼうすいのためのふうじゅつ

防水のための工夫や技術

くぎで板をはぎ合わせるもくぞうせんづくりでもっともかんじんなのは,水がれないことです。板をぴったりみっちゃくさせるために,「すり合わせのこ」と「ごろし」というどくとくじゅつがあるんです。
「すり合わせのこ」は,まずあつさ1すん(約3cm)の板のせっちゃくめんにかんなをかけてなめらかにし,2まいの板をくっつけてかりめします。そして,2まいの板のせっちゃく部分にはしからはしまでのこぎりを通すんです。こうすると,2まいせっちゃくめんの細かなおうとつがっして,ぴったりと合うようになります。
次にかりめをはずし,それぞれの板のせっちゃくめんをげんのう(大きめの金づち)でたたいて軽くくぼませます。これが「ごろし」です。川に入れると,このくぼみが水をってぼうちょうし,2まいの板のすき間を完全にふさぐんです。手間のかかる作業ですが,きはできません。ごろしを終えたら,最近はたいすいせいせっちゃくざいがあるのでそれをり,2まいの板を合わせて,最後にふなくぎめます。
また,しきどうづけいたのすき間には,コウヤマキの皮のせんからつくる「はだなわ」をちこんでぼうすいします。はだなわは,買った丸太からよさそうな皮を選んで,自分でつくっています。

いちばんむずかしいのはくぎ

いちばん難しいのは釘打ち

じゅつてきにいちばんむずかしいのは,くぎの打ち方ですね。しきの7まいの板,はらいたの2まいの板は,あつさ1すん(約3cm)の板の中に,太さ6~8mm,長さ13~15cmのくぎを水平にちこんで板をはぎ合わせますが,くぎの入り具合は目には見えないのでさぐりなんです。角度が悪いと板にひびが入り,みずれのげんいんになります。1そうの船に500本以上のくぎを打ちますが,1本1本,しんちょうに作業をしています。
くぎを打つときは,まず手がかりのあなをあけ,きりの一種の「もじ」でくぎを打つあなります。「もじ」には「もじぶり」という木のをつけ,さいづちで「もじ」の頭をたたきながらもむ(回転させる)ことで,あなの角度を調整します。ここが要で,たたごたえや音もたよりに,「もじ」をもみこんでいくんです。
「もじ」につけたりと手のかんしょくで,ちょうどいい長さのあなれたとはんだんしたら,「もじ」をいてくぎを打ちます。ちゅうからくぎの頭は板の中にもぐってしまうので,「くぎしめ」(くぎた細長い鉄のぼう)をくぎの頭に当て,おくまでしっかりと打ちこみます。
くぎを打ちながら板をさわってみて,板にわずかながりを感じるようだと,くぎあなが曲がっているしょうです。また「もじ」が板の中で折れてしまうこともあります。こういうときは,となりに別のあなをあけ直します。まあ,めったにはないことですが。
くぎを「やじろべえ」のように指に乗せると,重心の位置がわかりますよね。この重心が板の合わせ目のところにくるように打つのがうでです。こうすると,くぎのききがいいんです。

川や使う人に合わせて船をつくる

川や使う人に合わせて船をつくる

船の形は,使う川の場所のかんきょう,乗る人の体つきに合わせて,使い勝手がいいようにふうします。お客さんの話もよく聞いて,どう使いたいのかかいした上でつくっています。船の注文を受けたら,使う川の様子や流れの速さに合わせて,さきの反りやしきはばなどをふうします。
同じ川でも,上流と中流,下流では流れの速さがちがうので,どこで漁をするのかで船の形はちがいますし,流れのゆるやかな中・下流では船のすんぽうは大きくなります。わたしは父の手伝いで中学生のころから他の川の船もつくってきましたが,なががわがわでも船の形はだいぶちがいます。
川の様子とお客さんの使い方をよく考え,つねに安定がよくて漁をしやすい船をつくることを心がけてきました。もちろん水がれず,じょうで長持ちするじゅつたしかさがぜんていです。「最低5年はびくともせずに使えるとしょうします」と自分でも言ってきましたし,それがわたしの船の信用でもあります。

いっそういっそう,すべてちがうところがおもしろ

一艘一艘,すべて違うところが面白い

この仕事のやりがいといえば,やはり船主さんに「軽くて安定がよくて,いい船だね」と満足してもらえることです。また,新しいお客さんからの注文もうれしいですね。自分の船のひょうばんがいいということですから。このねんれいで仕事を続けているのも,注文があるからです。
じつは14年前に台風でなががわはんらんして,ふなも道具も板も流されて,船大工をやめようと思ったんです。ところがお客さんたちが「やめてもらってはこまる」とべんとうかたづけに来てくれました。それにはげまされて,ふなを少し高い場所に建て直して仕事を続けることにしました。必要とされているということは,本当にありがたいことです。
船というものは,じっさいに川に入れて漁をしてみるまで,ひょうがわからないものなんです。また,同じようにつくってもいっそうずつすべてちがう。次はこうしよう,こんなふうはどうかという研究は一生のもので,そこがまたおもしろさというかりょくでもあるんだと思います。

父をしょうに10年で一人前に

父を師匠に10年で一人前に

わたししょうは,父です。父は14さいせきの船大工に入りし,しゅぎょうとおれいぼうこうを終え,28さいどくりつしました。わたしは5人きょうだいのいちばん上です。中学生のころから父の仕事を手伝い,高校卒業と同時に父に入りする形でこの道に入りました。
父の教え方はきびしくはなかったですね。じゅつほんと要をていねいに教えてくれました。初めて自分ひとりで船を仕上げたのは,30さいのころです。10年でやっと一人前ですが,何ごともひととおり身につけるには,最低でも10年はかかるものではないでしょうか。
わたしは10さいの夏から,父といっしょほんかくてきにアユ漁も始めました。わたしが船頭,父があみをあつかう役です。うちは船大工だけではくらしが立たず,アユ漁は大事な副業だったんです。
アユのあみりょうは「かわ」といって,日がれてから川に出ます。漁をするのはふちで,まず川を横切るようにあみります。あみったら上流にぎ上がり,かがり火でアユをおどしてあみいこむんです。子ども時代からアユ漁をしたおかげで,漁のときの船の使い方やバランスが体にしみこみ,船大工の仕事にとても役立ちました。むしろそのけいけんがなければ,お客さんの注文の意図をくむことも,注文以上のふうもできなかったと思います。
わたしなががわの川辺で川とともに生きてきましたが,3年前に近所のわかものが父親といっしょにアユ漁をするというので,漁のけんと漁具一式をゆずりました。今,その親子の船をつくっています。昔とちがって遊びではあっても,アユ漁のでんとうが伝えられるのはうれしいことですね。

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今でいうSF小説です。子どものころ,町の貸本屋さんからこの作家の本を次々と借りてきて,夢中で読みました。科学が下敷きになっているので,空想の物語でも現実味が感じられるところにひかれたのだと思います。

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取材・原稿作成:大浦 佳代/協力:公益財団法人 日本財団,NPO法人 共存の森ネットワーク