仕事人

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三重県に関連のある仕事人
1974年 生まれ 出身地 三重県
江﨑えざき 貴久きく
子供の頃の夢: なし
クラブ活動(中学校): バドミントン部
仕事内容
いきならではの自然と,自然とともに生きるらしに自分自身がりょくを感じ,それを旅人に伝える仕事です。それによって,世界の人々と地元の人々がほんの少しだけでも幸せになったり,いいことが起きたりすることを目指しています。
自己紹介
自然と、海と漁業,自然とおいしいものが好きです。えいも読書も好きで,感動するストーリーが好きです。と同じように自然いっぱいのいきに仕事でよく行きますが,地元の人の話を聞くのが楽しく,仕事とプライベートのさかいがよくわかりません。人生のせんたくせまられたときは,なんよりも「ワクワクするか」「みんながよろこぶか」をじゅんにしています。
出身高校

※このページに書いてある内容は取材日(2020年09月04日)時点のものです

自然や文化を楽しみながら学ぶ旅

自然や文化を楽しみながら学ぶ旅

わたしけんでエコツーリズムの会社「かいとうゆうみんくらぶ」をけいえいし,エコツアーのプログラム開発や,お客さんを案内するガイドの仕事をしています。エコツーリズムとは,観光せつや名所をただながめて通りすぎるのではなく,その土地ならではの自然や文化について,楽しみながら学ぶ旅のスタイルです。地元の人との交流を大切にし,旅人が自然や文化をまもしきをもつきっかけにもなります。わたしは,エコツーリズムによって,旅人も地元の人も幸せにし,自然のかんきょうもよくすることを目指しています。
わたしが案内するのは,国立公園のうちの主に周辺で,ここはわたしが生まれ育った大切なきょうでもあります。は海の自然にめぐまれ,小さな島々がかぶ,景観も美しいところです。また漁業もさかんで,海にもぐって貝やかいそうをとる海女あま漁など,どくとくな海の文化もゆたかです。

いきせいを生かしたプログラム

地域の個性を生かしたプログラム

いきせいを生かしてわたしが開発したエコツアーのプログラムは,20種以上にもなります。シーカヤックやシュノーケリング,いそ観察などの自然体験,りやようしょくワカメのしゅうかくなどの漁業体験,とうの漁村歩きやきょうしょくを食べる体験,の商店街歩き,さんがしんこうする神社をめぐるツアー,などですね。中には,りょうさんがガイドするり体験,さんとおしゃべりしながら貝を焼いて食べさせてもらう体験など,地元で漁業にたずさわる人たちとの交流を楽しめるものもあります。
お客さんは家族旅行やじん旅行,しゅうがく旅行,海外からの方などさまざまで,年間およそ5,000人をおむかえしています。わたしは4人のスタッフといっしょにフィールドに出て,シーカヤックやシュノーケリングのインストラクターもしますし,りょうまちや商店街歩きのガイドもしています。
また,エコツーリズムの輪を広げてをもっと活気づけたいと思い,観光業の仲間たち,漁業や林業の組合,市役所などに声をかけ,2010年に「エコツーリズムすいしん協議会」をせつりつしました。わたしは他の市や町などからばれて,エコツーリズムのコンサルタントの仕事をすることもあります。

の海のゆたかさのキーワードは「かいそう

鳥羽の海の豊かさのキーワードは「海藻」

は,わんの入り口にあります。わんには,川を通じて山の栄養がたっぷりながみ,外洋からはしんせんな海水と,回遊する魚などがやってきます。わんの入り口にあるは,ないわんと外洋の両方のめぐみを受け,古くから漁業がさかんです。そして,おいしいうみさちを求めて多くの人がおとずれる,観光の町でもあります。
わたしは,の海のゆたかさのキーワードは「かいそう」だと思っています。沿えんがんはリアス海岸で,波おだやかなには,まるで森のようにかいそうしげっています。かいそうしげる場所のことを「」といいますが,「海のゆりかご」ともばれるほど,海のかんきょうにとって大切なんです。光合成でさんを出してくれますし,魚などのさんらん場所にもなります。かいそうを食べる生き物も多く,その代表がアワビやサザエです。周辺では,もぐりでアワビやかいそうをとる海女あま漁がさかんで,さんの数は全国トップです。があるから漁業があり,漁のさんが海のものから身をまもしんこうなどどくとくの文化があり,おいしい食があるわけです。
ですからわたしは,エコツアーのガイドでは必ずの話をします。たとえば,シーカヤックのツアーやシュノーケリングでは,じっさいを見に行きます。さんと会うツアーでも,漁はのおかげ,という話をします。一見,とは関係のなさそうな商店街歩きでも,最初にの写真を見せて,海のかんきょうの話をします。するとお客さんは「なぜかいそうと商店街がつながるの?」と,不思議そうな顔をします。でも,町を歩きながら貝類の問屋さんやお寿さんでつまみ食いをし,ようしょくされているしんじゅほうしょくてんで話を聞くうちに,かいそうささえるうみさちあきないになっていることに,みなさん気づいてくれます。
そしてツアーを通じて,かいそうしげる美しくゆたかな海を大切だと思い,自分の生活と海がつながっていると気づいてくれたら,しめたものです。気づきのきっかけを作るのが,エコツアーのガイドのやくわりだと思っています。

自然をまもりながら,うまく利用する

自然を守りながら,うまく利用する

エコツアーのプログラム開発のさいは,観光が自然をこわさないことと,地元の人が幸せになることとを何よりもゆうせんしています。たとえば,以前,こんなことがありました。大手旅行会社がわたしいそ観察のプログラムにきょうをもって,集客はその会社のほうでするのでガイドをしてほしいとたのまれたんです。大手の会社なので,多くのお客さんが集まるはずです。しかし小さないそおおぜいんだら,どうなるでしょう。いそはやがてれて,生き物はすめなくなるでしょう。静かな漁村も,そうぞうしくおおがたバスが出入りすれば,めいわくするはずです。
でも,自然にふれる体験はかんきょうへの関心を生むし,人を遠ざければ自然をまもれるというわけでもない。わたしはそう考え,地元の人たちと相談して「1回に30人まで,1年に20日まで」というルールを決め,料金も安くはしませんでした。じん旅行のお客さんで,ガイドのかいせつをちゃんと聞き,海のかんきょうのことを考えてくれるきゃくそうを想定したんです。
また,地元の人たちに相談したことで,別のしゅうかくもありました。地元の人たちがいその自然のすばらしさに気づき,ツアーに関わるようになってくれたのです。養成こうを受けて,お客さんをガイドできるようになってくれた人たちもいました。また,民宿にきゅうけいじょもうけたり,地元の人の漁船でいそへのそうげいをしたりすることをツアーにんだので,地元にお金が落ちる仕組みもできました。自然をこわすことなく大切にし,うまく観光に生かしていきに活気をぶ。これこそ,エコツーリズムのほんりょうだと思います。

旅人がよろこび,いきの人がかがやくように

旅人が喜び,地域の人が輝くように

お客さんがツアーを通じてがおになり,「楽しかった,また来ます」とか「海の自然は大切ですね」などと言ってくれると,本当にうれしいです。でも,それと同じかそれ以上にうれしくなるのは,エコツアーを通しての人たちがかがやいてくれたときです。
わたしは,地元のりょうさんやさんに協力してもらうプログラムを作ってきました。都会のお客さんにとって,漁業や漁村のたたずまいはめずらしくてワクワクするものだし,海で生きるわざをもつりょうさんたちの生き方はりょくてきです。一方でりょうさんたちの側も,ツアーに協力すればしゅうにゅうになるほか,お客さんとの会話にげきを受け,楽しんでくれています。そしてお客さんが「海で働く姿すがたがかっこいい!」とか「この海や町は本当にすばらしい」などと感動する姿すがたから,自分の生き方やいきほこらしく思うというように,いいことがあるのです。
こんな例があります。すがしまというとうがあり,わたししゅうがく旅行で来た子たちをいそ観察などで案内していました。ある日,島の人がぽろりと「よそからる子たちは、みんなちゃんとあいさつができる。島の子らはよそへ行ったときにあいさつできるんやろか」と言ったんです。わたしはハッとしました。内気はともかく,島の子たちは島のりょくに気づくことなく,成長すると島の外に出てしまいます。そこでわたしは,子どもたちが島のいいところを自分で見つけ,観光客にガイドしたらどうかと学校にていあんし,お手伝いをしました。このていあんは「島っ子ガイド」としてじつげんしました。島の子どもたちはきょうりょくに気づき,観光客が感動する姿すがたを見て自信をつけていったのです。見知らぬ人と話すこともできるようになりました。最近,高校を出てから島にもどり,りょうになった青年もいます。こんなことがあると,つくづくエコツアーをやってきてよかったな,と思います。

ツアーでお客さんのしきを変えたい

ツアーでお客さんの意識を変えたい

わたしはエコツアーを始めてから,「お客さんのかんきょうへのしきを変えるツアーをしたい」と,思うようになりました。なぜならわたし自身,ガイドをするうちに「かんきょうまもしきがないと,ゆたかな海はこの先もずっと続くものではない」と,気づいたからです。たとえば,地球おんだんによって,海水の温度もじょうしょうしています。それもひとつのげんいんとなって,今,日本各地で,いそからかいそうが消えてしまう「いそけ」というげんしょうが起きています。他にもプラスチックごみやてなど,海のかんきょう問題はいろいろありますね。
にはさんが多く,毎日のように海にもぐってかんきょうの変化に目を配り,海をまもってきました。たとえばでは,りのためのの使用をきんしています。ぞんりょうを多くふくむので,海底でぶんかいされにくく,やがてヘドロ化し,かいそうや貝に悪いえいきょうがあるそうです。それに気づいたりょうさんたちが声を上げ,の使用をきんにしたのです。
このように,りょうさんは海をまもろうとしていますが,問題はいっぱんの人です。海のおんけいを受けていても,海の中はだん,なかなか見ることができないので,関心をもちにくいのです。そこでわたしは,「おとずれる観光客のうち1%の人に,海のかんきょうのことを学ぶエコツアーに参加してもらおう」と目標を立てました。近年では,おとずれる観光客は年間430万人ほどです。最近では,「エコツーリズムすいしん協議会」の会員になっているエコツアー会社などを利用するお客さんが,その1.5%をめるようになり,目標を達成できました。これで満足せず,次はだけでなく,ふくむ「国立公園」にまではんを広げ,およそ800~1千万人のらいほうきゃくのうち5%の人にエコツアーを体験してもらうことを目指して,がんばろうと思っています。

生き生きとしたりょうまちと自然を見せたい

生き生きとした漁師町と自然を見せたい

わたしは大学卒業後,いったんとうきょうの会社にしゅうしょくしたのですが,23さいのとき,実家の旅館がとうさんしたのがきっかけでもどりました。旅館に愛着があり,何とかさいけんしたかったんです。じん旅行にたいおうしたりインターネット予約を始めたりして何とかさいけんでき,その後は父に代わってわたしが社長になりました。げんざいも日中のガイドの仕事を終えると,夕方からは旅館の女将おかみとしてせっきゃくなどの仕事をしています。
さいけん後の3年ほどは旅館の仕事で手も頭もいっぱいでしたが,ある日,しゅうがく旅行でまった学校から「生徒にりをさせたい」という要望がありました。そこで道具を用意してガイドもしたんですが,の港周辺ではまったくれなかったんです。調べてみると,目の前のとうなられるらしい。実はわたしは島に行ったことがなかったんですが,ためしに行ってみて,すっかり感動してしまいました。りょうまちらしい活気に満ち,おいしい食があり,海の景色はきれいだし,いそには生き物があふれている。「島全体が生きている」と感じたんですね。そして「この漁村や自然をお客さんに見せたい!」と,強く思いました。
には水族館やスペイン村などの観光せつもありますが,じん旅行のお客さんは観光せつにはないりょくを求めています。自然や漁村のツアーには,そういうお客さんがきょうをもつのではと,わたしは直感しました。また自分が海外旅行で,ナイアガラのたきのしぶきを浴びるツアーや,オーストラリアの夜の動物園などのたいけんがたツアーをに味わっていて,こんなおもしろいツアーをやってみたいなと思っていたのも重なりました。
こうして,2001年にエコツアーの会社「かいとうゆうみんくらぶ」を作り,とうでのいそ観察やりの体験からツアーを始め,やがてりょうさんやさんに協力してもらう漁業や食の体験,漁村歩き,商店街歩きのツアーなどにはばを広げていきました。

家の仕事の手伝いで養った商売の感覚

家の仕事の手伝いで養った商売の感覚

わたしは子どものころから,海で遊ぶのが大好きでした。父がふなりに連れて行ってくれましたが,わたしりよりも泳ぐほうが好きでしたね。
うちは旅館をけいえいしていたので,小学生のころからよく手伝いました。2年生でしょっあらい,3年生からは料理のお手伝い。駅前のビルでお肉屋さんもけいえいしていたので,4年生からはそちらも手伝いました。人前に出るのは苦手なタイプだったんですが,お店屋さんごっこみたいで楽しくて,いつの間にかこくふくしたみたいです。
中学生になると,土日にはお肉屋さんを完全にまかせてもらって,いっぱしの商売人みたいな気分を味わっていました。おかげで商売の感覚や計算が,自然と身についたように思います。仕事をするうえでのこうりつてきな体の動かし方も,おお女将おかみの母からおしまれました。今,ガイドと女将おかみちをやれているのは,そのおかげかもしれません。

人生にぼうけんを!

人生に冒険を!

人生は,ぼうけんをするとよりおもしろくなると,わたしは思っています。だれも答えを知らないことにチャレンジするのは,ワクワクします。わたしにとって「かいとうゆうみんくらぶ」でエコツアーを始めたのは,ある意味ぼうけんみたいなものでした。当時はまだ「エコツアー」という言葉は知られていなくて,わたし自身,うちの取材に来た記者さんに「これはエコツアーですよ」と教えられて,初めてエコツーリズムというものを知ったほどです。
自分で道を切り開くと,その成果はかくじつに自分のものになります。そして,さらに前に進む力にもなると思います。小さくてもいいのです。ぜひぼうけんをしてみてください。
海のかんきょうについては,自分の目で海を見てほしいと思いますね。今はネットをふくじょうほうがあふれていますが,最初のきっかけはネットでも,その次は海に行って自分の目でたしかめてほしい。そのうえで,海のかんきょうのために何ができるか,考えてもらえるとうれしいです。わたしはエコツアーでその「気づき」のお手伝いをしていますので,機会があれば遊びに来てくださいね。

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取材・原稿作成:大浦 佳代・東京書籍株式会社/協力:公益財団法人 日本財団,NPO法人 共存の森ネットワーク