仕事人

新しいおもちゃを考えて形にするのが私(わたし)の仕事です。「こんなものがあったら面白いだろうな」と，アイデアやヒントを見つけることから始まり，「こういう形にすれば売れるのではないか」というところまでつき詰(つ)めて商品にします。自分が考えたものがお店に並(なら)び，皆(みな)に買ってもらえるようになるまで，半年から1年ぐらいもかかるんですよ。アイデアが一番大切なので，毎日ふとしたことでも，「これがいい！」と思ったことは必ず手帳に書(か)き留(と)めたり，デパートのおもちゃ売り場へ出かけて，お客さんがどのようなおもちゃの商品を求めているのかを知って情報(じょうほう)を溜(た)めるようにしています。ロボットのショーを見に行くこともあります。複雑(ふくざつ)な動作をするロボットの技術(ぎじゅつ)をおもちゃにも生かせないだろうか？と考えながら見たり，ショーを見ている観客の人々(ひとびと)が，ロボットのどんなところに感動しているのかもじっくり観察します。そうすることで，自分が考えたアイデアが「これならいける！」「こういった商品はヒットしにくいかも」と直感で判断(はんだん)できるようになるんですよ。

アイデアが浮(う)かんできたら，それが売れるアイデアなのか，今の子どもたちに遊ばせたいものなのか，会社の開発部の人や専門(せんもん)の先生と相談をしながら考えます。そして，それが一体どんな商品になりそうか，絵を描(か)きます。そうやってイメージが具体的になってくると，今度は私(わたし)達の会社の工場や専門(せんもん)の会社に頼(たの)んでおもちゃの試作品を作ってもらい，できあがった試作品を見ておもちゃの大きさや形，どのように動くかなどの機能(きのう)を確認(かくにん)します。出来上がってきた試作品をチェックし，安全性(せい)や使いやすさを再度(さいど)確認(かくにん)してOKが出たらいよいよ売り出す商品となります。でも，この試作品を完成させるまでは苦労の連続。例えば，子ども用のオマルを作ったときのことですが，どんな子どもでもゆったり座(すわ)れるようにオマルの幅(はば)をどのぐらい狭(せま)くしたらいいのか，形に丸みをもう少しつけたほうが痛(いた)くないのではないかなど，細かい調整を何度も何度も繰(く)り返(かえ)して完成させました。

モノを作り出すときは，会社の仲間とたくさん話をしてお互(たが)いに協力することが重要です。最初の自分のアイデアのレベルが１０段階(だんかい)で「３」ぐらいだとしましょう。たくさん知識(ちしき)を持っている人に相談して，新たにヒントをもらい，絵の上手な人に「こんな感じのおもちゃを描(か)いて」と頼(たの)んで形になったとき，最初の「３」が「１０」に高まります。皆(みな)に相談し，時には助けられながら商品をレベルアップすること，これはとても重要なことです。また，失敗は早いうちにした方がいいと感じています。最初の頃(ころ)に失敗をして，それがダメだと確認(かくにん)してから進むと「正解(せいかい)」に近づいていくんです。以前，おもちゃの箱の表示(ひょうじ)にふとしたミスを発見してあわてて直したことがありましたが，もし「自分は失敗していない」と失敗を認(みと)めないで進んでしまうと後で大変なことになります。私(わたし)達が作ったおもちゃは最終的に子どもたちが使うものなので，それを考えたら，失敗と真剣(しんけん)に向き合わなくてはいけない。お客さんに喜んでもらえるよう，安全で楽しい商品を作り出すということは，常(つね)に失敗と付き合っていくことだと思っています。

毎日，色々(いろいろ)な人との打ち合わせが多いです。例えば，アンパンマンなどのキャラクターの権利(けんり)を持っている会社や漫画家(まんがか)の方のところ，商品を試作してくれる会社に行って2，3時間話し合いをしたり，商品を売り出す前の宣伝(せんでん)用の撮影(さつえい)に立ち会うこともあります。キャラクターのテレビ番組もあるのでテレビ局にも行きますし，イベントの視察(しさつ)もします。商品を作ってくれる工場が中国や香港(ほんこん)にあるので海外に行くこともありますよ。毎日決まった時間に決まった仕事をするといった同じことの繰(く)り返(かえ)しではないので，そこが面白いですね。あちこち飛び回って忙(いそが)しいですが，色々(いろいろ)な人と会えることは刺激(しげき)になり，毎日とても楽しいです。

自分が考えて苦労して作ったものが，世の中に出る，そして売れていく様子を見ると。自分の仕事のやりがいのようなものを感じます。以前，新しい粘土(ねんど)を商品にしたときは，親しみやすい色でにおいのない粘土(ねんど)，楽しく粘土(ねんど)を切ったりする道具を一生懸命(いっしょうけんめい)考えたので，実際(じっさい)に子どもたちが，「面白いね」と言ってたくさん使ってくれ，すごく喜んでくれた時はとても嬉(うれ)しかったです。また，自分のやっている仕事の内容(ないよう)が一人の母親としても自分の子どもに説明しやすいことも魅力(みりょく)です。おもちゃのイベントに一緒(いっしょ)に出かけ，自分が働いている姿(すがた)を見せられますからね。たまに「こんなおもちゃあるといいね」と子どもからアイデアをもらうこともあって，それが励(はげ)みになっておもちゃ作りにも気合が入るんですよ。

この仕事に就(つ)く前は，広告代理店でカメラマンが撮(と)った色々(いろいろ)な写真の素材(そざい)を貸(か)し出(だ)して，それをカレンダーやポストカードにしてもらう仕事をしていました。当時，すごく可愛(かわい)らしい犬（クイ－ル）の写真に出会い「これを商品にしてください」と宣伝(せんでん)して売(う)り込(こ)んだところ，写真集まで作ってもらえたという経験(けいけん)があります。自分がいいと思ったモノが商品になっていくのはこんなに嬉(うれ)しいことなんだ！と感じたので，次はジグソーパズルを作りたいと思うようになりました。そして，今の会社に出会ったんです。仕事の内容(ないよう)は，おもちゃ作りが中心でジグソーパズルはありませんでしたが，面白そうな会社だなぁと思って入社することにしました。

鉄棒(てつぼう)でスカート回りや人形遊びなど，夕ご飯の時間になるまで公園で近所の子達とよく遊んでいました。中学，高校の頃(ころ)は絵を描(か)くことが大好きで，それが飛びぬけて上手だったかどうかは自分でもよく覚えていませんが，ノートの端(はし)にマンガをよく描(か)いていました。そういったこともあって，高校3年生の時にデザインをするような仕事に将来(しょうらい)就(つ)きたいと思い，美術(びじゅつ)の大学に進学しました。大学では造形(ぞうけい)科という学科に入り，粘土(ねんど)で形を作ったり，色の勉強をしたりして，今の仕事につながる基本(きほん)的な力，つまり“モノづくりをするための軸(じく)”が備(そな)わったんだと思います。

私(わたし)は強い心を持って欲(ほ)しいと思っています。私(わたし)も仕事で失敗をしたりすることはたくさんあります。タイムマシーンがあれば何度も時間を戻(もど)したいと思いました。でも，タイムマシーンは空想の世界。やっぱり，失敗した事や自分がしたことを１つ１つ受け止めるしかないのです。「失敗は成功の基(もと)！」失敗をしなければ学べないこともたくさんあります。次はがんばるぞ！と言う気持ちでがんばったら，絶対(ぜったい)強くなれると思います。そして，子どもの頃(ころ)にやってしまった失敗は，大人になった今「あんな失敗もしたな～」と言えるようになりました。これから出会う人や色々(いろいろ)な出来事で，素敵(すてき)な出来事がいっぱいあるかもしれません。今を一生懸命(いっしょうけんめい)生きよう。