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名人の仕事

  • 海・川の名人
  • しらす漁師

“海の白米”を獲る漁師。

  • 左:岩﨑晃次さん 右:茂さん

  • いわさき こう(神奈川県横須賀市)

    生年月日 昭和20年10月26日
    年齢 64歳
    職業 しらす漁師
    経歴 5人兄弟の次男として生まれる。代としては三代目。中学卒業とともにしらす漁を始め48年。今は息子の茂さんと一緒にしらす漁をしている。
  • 井 萌恵(筑波大学附属坂戸高等学校二年)

第8回(2009年)参加作品

佐島生まれ佐島育ち。

俺の名前は岩﨑晃次。今、64歳になる。代としてはおじいさんの前からやってて俺で三代目になるわけ。しらす漁師は16歳のころからやってるから、48年かな。出身はここ佐島になる。ここで生まれたから漁師をやらなきゃしょうがないってことでね。しらす漁を親父と一緒にやりはじめて、今は息子の茂と一緒にやっている。別に漁師以外の職業はやりたいとは思わなかったな。

しらすは“海の白米”

  • とれたてのしらす

しらすは海の白米なんだよ。いろんな魚のえさになるからね。海の米がなくなっちゃうとみんな生きていけなくなっちゃう。アジとかカマスだよね。まぁしらすがいなくなっちゃうんじゃないかって思ったこともあったけれども、海の米だからね、なくなることはないだろうと。それに我々がとらなきゃ魚がいっぱい食うでしょ。

・しらすの種類
しらすっていうのは半透明でこけら(うろこ)がないのをしらすって言うんだよ。マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの稚魚のことをしらすっていう。日本全国俺らがとってるのはカタクチイワシが多いんだよ、99%くらい。カタクチイワシのことを別名年に4回も産卵するからシコイワシっていうんだよ。
産卵してからとれる3cmまでの大きさになるまで1ヶ月くらいかな。例えば春のしらすっていうのは1月から2月の半ば頃に産卵したものが泳ぐようになり1ヶ月半くらいでとれる。沖合で産卵したものが、黒潮に乗って沿岸の方に、春の気配を感じながら漂ってくる。ここ佐島でとれた大きさが人気があるんだ。長さは3cmで、色は黒っぽい。昔は好まれなかったけど、今は自然派志向で漂白してないからいいっていう人が多いね。

・しらすのえさ
しらすが食べるのはプランクトンでね。動物性プランクトンのコペポーダを好んで食べるんだよね。その繁殖したコペポーダを食べようとしてしらすが泳いで沖合から近づいてくる。そのためにはさ、その真水が大事なんだ。山から川へそして海に出る。コペポーダは真水と塩水の境に大繁殖するから。それが、川から出た水によって沖合へ流されていくわけだよ。それを感知して、ぴろぴろと岸の方にたどり着くのさ。川の水をほしがって登ってくるしらすを一網打尽にする。

48年間の漁

  • 網を上げる岩崎さん

  • 荒手網

中学卒業してそのまま漁師になったんだ。親父が引退してからは一人でやってた。それで息子の茂が20歳のときに二人でやり始めて今は茂とやってるよ。

・方法
魚群探知機で魚の群れを見つけて、茂に「網入れろ?」といってやってる。タイミングはもう意気投合で。やれよっていうときは言わなくてもやってるよ。
魚群がいたら浮きを投げて、左のロープ→荒手網→中心の袋網→右の荒手網→ロープとしらすの群れを囲むように円形に網を落とすんだよ。そしたら投げた浮きを引き合わせて引っ張ると丸くなる。左右のロープと荒手網が狭くなった時点で左右の巻き上げ機械で巻き上げていくわけ。網の中に入ったしらすは体温が高くて、熱を持ってるから素早く氷水で冷やす。ざるで水を切ったら、再度氷をいれて持って帰るんだ。

・網
網の大きさは最初に引っ張るロープが100mあって、次に荒手網が100mあるわけ。網の目合の大きさは荒手網は、1mぐらいの目合だよ。群れのしらすだけが入るような仕組みなんだよね。そのあとに30mの袋網がある。丸くぬった袋網目が出っ張るってこと。袋の網目の最初は袖網っていって3cmの網目が5mくらいな。だんだん小さくなっていって最後には網の目合は0.5mmだよ。

・場所
湾内の浅瀬で穫れるのは春でその後は沖に出て行くよ。岸から1kmから2kmくらい離れたところで漁をするね。でも春の漁は沖から来るから早めにとりたいから出て行く。来ると沿岸でもってとっちゃう。春の場合は黒潮の流れ方でもって変わってくるわけだよ。

・感覚
今は魚群探知機でしらすの群れをみつけられるけど昔は勘ですよ。俺なんて親父の勘でもってこういうときにはここにいるぞって教わったね。だけどそれがなんともいえないんだよね。やっぱり体で覚えるっていうか、しらすが来るぞっていう春のにおいがするんだ。沖合から来る空気のにおいを感じ取ってじゃあ出てみようとか、ここやってみようとか。あとしらすの顔を見るんだよ。そりゃ、みんなは分からないと思うよ。けどそれで当たると何とも言えない嬉しさがあったね。漁師は勘だから。そういう魚群探知機とかないときはよ。それで仕事がきつくて結局辞めていく人が多くなってしまうんだよね。

・漁師の行動
やっぱり動くのにも漁師は無駄がないよね。無駄な動きはないよ。なにか仕事してて、無駄みたいなことやってるんだけど後でちょっと役に立つとか。次から次に先を見なきゃ次の行動が起こせないからね。船の上では手厳しいよ。いつどんなことがあるか分からないから。

加工の仕方

  • 釜揚げの最中

  • 釜揚げ後のしらす

加工は3人でやってる。うちの場合はね。衛生面も考えた上でこの機械を入れたのは5年前。ここで茂が水洗いをする。俺がゆでてベルトコンベアーに流して、せいろに取るのがうちのおかあさん。家族経営だよね。

・水洗い
水洗い1?2回してる。海水を洗い流すんだよ。海水の中にはいっぱい菌や塵があったりするからね。

・ゆでる。
2.8?3%の間の塩分濃度でゆであげる。そのくらいが一番おいしく感じるって思うんだ。まぁ作り手の感覚だね。温度は99度。塩は甘みのある天日塩。釜揚げはね、蒸気でもってゆでてんだよ。お湯がぶわぁ?って沸くわけ。タマでかき回して釜の中でほぐす。かき回して一匹一匹にするんだよ。ゆでると白い湯気が上がってきて、お湯が生きているようにみえる。それからもう一回蒸気をぱっと入れてまた沸いてくる。沸くのを見てると白く泡が盛り上がってきてもう茹で上がってるなって長年の勘で分かってくる。大体1分半で茹で上がるよ。
早くゆであげるっていうのがやっぱり鮮度を保つ、味をよくするための秘訣じゃないかなって思うんだ。

・ベルトコンベアー
茹で上がるとさ、ベルトコンベアーに落ちていくわけ。で、流れていく。まずほぐす。次に扇風機でもって冷やすわけよ。しらすの熱を取っていくわけ。なるたけ早く冷やすことが大事なんだよ。それが味につながってくる。それで、この網の上に風でおされる。風を当てて冷めやすくしてるんだよね。ここで吹き上げるわけ。おされたままだと痛んじゃうから、吹き上げてふわふわにするのが大切なんだよ。それでせいろにぽとぽと落ちる。
機械の掃除は大体15分から30分。加工が終わったら必ずやっているよ。

・冷蔵庫
ゆであげたものを冷蔵庫に入れると、雑菌が全然つかない。それは味が変わらないってことなんだよね。雑菌が売るまでの間につくと、劣化が始まるわけ。すると味が悪くなる。雑菌が付かない条件じゃないかなって思うんだよね。おいしい味が保てると。それで冷蔵庫に一晩入れて冷やすんだ。

販売

ここのしらすは直売所2店舗で売ってるよ。直売所以外はない。穫ったのは自分で加工して自分で売ると。だってよくない物を売ったってしょうがないでしょ? 二度と買いに来てくれないからさ。業者だと価格が下げられちゃうけど自分で売ってれば安定した価格で売れるだろ? それにほら、みんな業者よりもここで買った方が安いし “添加物が入ってない安心・安全なしらす”ってイメージがある。買いに来るのは地元や東京、横浜。あとは、発送もしてるから、北海道から九州まで。

・衛生面
販売していく上で衛生面を考えたわけよ。もう昔の漁師なんかはさ、雨になるとぬれたり、外に干せば蝿がたかったり。だから衛生面はやっぱり気にしてるよ。外に干すことはあまりいいことじゃない。やっぱり天日干しがいいって消費者の人はよく言うけれども、天日で干せば必ず雑菌が増えるんだよ。それに目に見えない子蝿とか、ブヨっていうのが夏場になるといっぱいたかるわけ。だから夏は天日をやらないんだ。やっても朝の涼しいときか、秋とか寒くなってきてからやってるよ。

・今昔
売れ行きの変動はありますよ。昔は売れなかった。黒くて大きなしらすは市場へ出て売れても安くとられてた。白いのがいいっていわれて漂白剤とかそういうものを入れて作ったわけだよ。でも今は、自然食品ブームが10?20年前から始まってね。黒いのはなおさらその漂白剤がはいってないから体にいいっていうんで、そう言う人が好んで買いに来る。生協さんとかが自然食品が、添加物の入ってないもので仕上げたものがおいしいっていうようになった。だから我々の所が売れるようになった。よくなってきたよ。ここの佐島地区でしらす漁師は2軒ですよ。今は相模湾全体でもって29軒かな。

環境問題

  • 船から見える佐島

砂浜が狭くて山がすぐあったから、そんなに家は多くなかったんだよね。山の上には畑とかもあった。嘘みたいだよ、今こうやって家が並んでるのがよ。

・山の開発
環境問題を感じるのは山がなくなるってことだな、海でも。山がなくなるって事はさ、やっぱり水質が、海に出る水が悪くなるわけだよ。今は下水道で改善されてきてはいるけれども、家庭から出る洗剤とかが流れて川の近くから汚染される。だめになっていく。
 ダムも海にはあんまりいい事じゃないんだ。ダムは水をせき止めるでしょ?すると水の水量が足りなくなる。それにダムに泥がたまって海に砂が少なくなってくる。埋め立ても関係してくるね。海はね、雨がふって浸透した水が必ず内陸の、例えば埼玉から来て、江戸川とかに行くでしょ?それが海に来る。あんまり洗剤を流さないでほしいな。日本全国みんな同じ海だから。やっぱり、山があって川があって海に注ぐと、そういうのが一番大事だよね。

・農薬
農業の人も農薬を使わないでほしいね。今までは農薬を使ったものでも売れる時代だったけれど、今はそうじゃない。でも昔田んぼで使ってた農薬が浸透して出てくるのに20?30年もかかってよ、今頃出てくるわけ。だからこれから徐々に出てくると思うんだよ。被害を受けるのは海なのよ。

嬉しかったよ。

みんなに美味しく作ろうと思ってたら、お客さんから「美味しかったよ」とかそういう言葉がかかるとやりがいがでる。最高の喜びになるんだよ。「日本全国あちこち行ってしらすを食べてるんだけど、この山茂さんがゆでたしらすが一番美味しい!」なんていわれたらぐーっと熱くなっちゃってよ。それが励みになっているね。

辞めたいなんて思わない。

辞めたいと思ったことはないね。漁は楽しみ。楽しく働くのが一番いいんじゃないかな。金儲けばっかしじゃない。自分がつくった物をみんなに喜んでもらえるっていう喜びがあるような働き方をしたら楽しいんじゃないかな。儲けを考えるんじゃなくて“みんなにおいしい物を届ける”漁師ってのはそういう役目なんだから、それを全うすればいいんじゃないかな。漁師は漁師。科学者は科学者。それなりに生活していける金額ってのは稼げるから欲かかなきゃいいんだよ。

時代に生きる。

昔しらすがだめだったけど、今は自分で加工して自分で価格をつけて売ってるからすごくいいわけよ。時代だからやっぱり変わってくるよね。時代時代に努力して生き抜くには工夫が必要だよ。だけど消費者の方はただ店に並んでる物を買うんじゃなくて、野菜なら農薬がかかってないものを買うとかが大切なんだと思うよ。食べ物は人間の体に全部入っていくんだから。

相模湾は銀行。

お金は稼げば貯まるわけよ。使えばなくなるんだよ。海はね、埋め立てしちゃったらなくなっちゃうんだから稼げなくなるわけ。だから自然は残しておいて稼いだ方がいいわけだよ。先は長い道のりなんだから、自分で働いて稼いでいく。うちは金はないけれどもちゃんとした銀行があると。相模湾銀行があると。なくなったら、銀行にとりに行けばいいんだと。不景気のときもあれば景気のいいときもある。ちょっと足りなくなったら一生懸命とりにいけばいいやと。必ず一生は良かったり悪かったり、波を乗り越えて、上手く世間の波を乗り越えていけたらいいんだよね。

  • 取材を終えての感想

    大きな網でたった3cmのしらすを48年間とり続けた岩﨑さん。取材して分かったことは、本当に海が好きで漁が好きで消費者想いということです。美味しい物を届けるために一生懸命で時代に合わせて工夫する。岩﨑さんの話を聞いているだけで楽しくなっていきます。本当に海が好きなんですよ。でも海を守るためには海は海、山は山と割り切って考えられないというのも感じました。私の好きな海を守るには周りの山、自然すべてを守っていくべきなのです。私の住んでいる内陸の埼玉でも海と関わっている。でも周りではそういう風に思っている人は少ないでしょう。綺麗な海を維持するためにも色んな人に今回の取材のことを話し、広めて環境保全を訴えていければいいと思いました。

名人の仕事~森・川・海の名人たち~

CONTENTS

  • 名人とは
  • 名人の仕事
  • 聞き書き高校生の感想
  • 海・川の仕事人2020
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