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はたらきメダル

利用上の注意

十文字学園女子大学 人間生活学部
人間発達心理学科 准教授
永作 稔

ホランドコードについて

ホランドコードは不確かな答えを探求するための手がかり

「あなたの好きなことは何ですか?」
「あなたのやりたいことは何ですか?」

職業選択の自由が保障される豊かな社会になって以降,われわれ大人は子どもや若者たちにこの種の質問をくりかえし投げかけてきました。その一方で,大人になるまでに自分で生き方を選んでいかなければいけないという課題が子どもたちに突きつけられています。
人生の選択肢は膨大です。そのなかから正解のない不確かな答えを探求するという課題は,見方によっては非常にタフで難しいものだといえるでしょう。そして,変化する社会,先の見えにくい社会に子どもたちが力強く踏み出していくために,自分で決める力,自分で人生を歩む力を身につけてもらうことが重要であることは異論を待ちません。そして大人には,それを支援する義務があります。
ホランドコードは,「正解のない不確かな答えを探求していく」ための手がかりを与えてくれるものです。これはアメリカの職業心理学者であるジョン・L・ホランド博士の理論に基づいたものであり,人と職業のタイプを分類することに長けた,非常に優れた理論です。また,キャリアガイダンスにおける世界的なスタンダードとして広く普及している,実証的で実用的な理論です。アメリカでは,この理論が職業選択におけるゴールド・スタンダードとまで呼ばれています。

6つのコード(文字)で人と環境をタイプに分ける

ホランドコードにはR・I・A・S・E・Cという6種類があり,それぞれ人と環境(職業)の個性を表現しています。自分がどのタイプに分類されるのかを知ることで,同じタイプの環境や職業にはどのようなものがあるのかを知る手がかりとなり,職業世界を知るためのきっかけが生まれます。また,「はたらきメダル」は職業世界への扉が何年も先の未来に急に現れるわけではなく,子どもたちが生活する日常に豊かに存在することを知るための手がかりとなります。

タイプはゆるやかに,そしてゆっくりと時間をかけて固定されていく

「三つ子の魂,百まで」ということわざに表されるように,人の個性は幼くても如実に表れます。しかし一方で,子どもが変化成長していく潜在的なポテンシャルは,決してあなどれるものではありません。ホランドコードによって分類されるタイプもこれと同様に,年齢が若ければ若いほど,柔軟に変化していく余地を残します。その余地は,人と環境の相互作用によって次第に埋められ,確かな個性としてゆっくりと確立されていきます。
人と環境の相互作用とは,たとえば,習い事を始めること,友だちとケンカしたり仲直りしたりすること,大切な出会いを経験することなど,さまざまな体験と,そこから得た学びの蓄積のことを意味しています。ですから,「はたらきメダル」によってその時点でのタイプが特定されたとしても,それがずっと固定されていくものであるとはあまり考えすぎないほうがいいでしょう。あくまでも現時点のものであり,子どもたちが職業世界への理解を広げていくための手がかりの「価値あるひとつ」です。これが「正解」であると思い込むことは,子どもの可能性とポテンシャルをつぶしてしまうことになりかねません。子どもには,将来のために幅広い経験の機会が与えられるべきであることも,また大事な視点です。

それではR・I・A・S・E・Cの各コードについて詳しく解説していきます。

現実的興味領域(Rタイプ)

現実的興味領域に分類される職業には大工やエンジニアなどがあります。道具を使ったり,機械を操作したりするような具体的,実際的な職業のタイプであり,動植物を扱う職業もこの領域に分類されます。これらの職業は人ではなく「もの」を扱う仕事であり,その「技」を熟達させていくことに特徴があります。
このタイプに分類される人は,明確なしくみがあり、具体的でわかりやすいことを好む傾向があります。六角形でRタイプと対局に位置する社会的興味領域(Sタイプ)の場合は,「人」を相手にしますので,このタイプの職業ではその場その場の判断で柔軟に臨機応変な対応をする必要があります。しかし,Rタイプはどちらかというとそのようなあいまいさを好みません。それよりも「この仕組みではこう動かすとこうなる」といった予測が立てられるものを好みます。

研究的興味領域(Iタイプ)

研究的興味領域に分類される職業にはいわゆる研究職や宇宙飛行士など高度知的専門職,技術職にあたるような職業が含まれます。なお,研究職には自然科学や社会科学,人文科学などのさまざまな領域の研究職全般が含まれます。このことからもホランドコードが人の個性をパーソナリティという特性でとらえようとしていることが伺えます。つまり,一般に文系や理系と呼ばれるような「能力」であったり,向き不向きといわれたりするような「適性」といった観点からではなく,もう一段階深いところにある「知的探求」という活動への「好みや興味関心」によって人や環境のタイプを分類しようとしている理論であるということです。
「知的探求」には情報を集めたり分析したりすること,それらに基づいて論理的な筋道を立てることや問題解決につなげること,さらには創造的にアイデアを活かすことなどが含まれます。こうした活動を好むタイプの人はIタイプに分類されやすくなりますし,こういった活動が多く含まれる環境を積極的に選択しやすくなります。

芸術的興味領域(Aタイプ)

芸術的興味領域には写真家や作家,またインテリアデザイナーなどいわゆるアーティストやクリエイターと呼ばれるような芸術系の職業が分類されています。つまり美的感覚やアイデアを活かして創造的な活動を生業とする職業のタイプです。これらはデータや情報というよりはむしろ「感性」と「創造性」で勝負するタイプの職業であるといえるでしょう。
またこのタイプに分類される人は,きれいなものや美しいものを好み、感受性が強く感性が豊かな性格の持ち主であることが多いようです。そして、何かを作り出すことや自己表現すること、つまり創造することに興味や関心があります。その分、何かに制約を受けたり制限されたりすることが苦手であることがあるため,規則やルールよりも自由を,また集団よりも個を好む傾向があります。

社会的興味領域(Sタイプ)

社会的興味領域に分類される職業には小学校教員や介護福祉士,保育士などがあります。人を相手にする職業や人を助ける職業のタイプです。仕事の相手や仲間とのコミュニケーションによって職業的役割を果たしていくこと,またそれを支援的に行っていくことに特徴があります。
このタイプに分類される人は,誰かの役に立ったり、何かを教えたりするような活動,また仲間と協力して取り組むような活動などを好む傾向があります。そして、人と接することや互いに理解し合うことに喜びを感じます。つまり,誰かのためになるように働くということに興味や関心があるタイプであると言えるでしょう。

企業的興味領域(Eタイプ)

企業的興味領域に分類される職業には商社員や小売店主,政治家などがあります。経済的利益や組織的目標を達成するために働く職業のタイプです。そのため他者に説得的に働きかけて目標を達成したり,リーダーシップを発揮して人をまとめたりすることに職業上の特徴があります。競争的環境のなかで勝ち抜くことを求められる職業であり,また自らそれを求めていくところがあります。
このタイプに分類される人は熱意と向上心があり,人をまとめる力を発揮して人の上に立つことや経済的利益を得ること,組織的な目標達成に向かうこと,自分が社会的影響力を発揮することに喜びを感じます。また向上心が高く,エネルギッシュで野心家に見える側面もあります。

慣習的興味領域(Cタイプ)

慣習的興味領域には,一般事務員、金融窓口業務員、会計士,秘書などが分類されています。データや資料,数字を正確に扱い,繰り返し丁寧に仕事を進めるような職業のタイプです。そのため,資料を整理したり記録をつけたり,規則に沿った活動を行うことに職業的な特徴があります。六角形でAタイプと対置関係にあるCタイプは独創的な仕事というよりも,保守的で体系立った仕事が求められる職業タイプだと言えるでしょう。
このタイプに分類される人は正確さと緻密さ,また根気強さが求められる仕事に興味関心が強いため,ねばり強く,また注意深さと素直さを有しています。そして、あいまいで判断に迷うような状況よりも規則や体系だったシステムに基づいて行動でき,安心できる環境や丁寧に整えられた環境を好みます。

利用上の注意

結果の読み取りをする際の注意点

「はたらきメダル」は学校の授業時間内で有効に活用していただけるように,また,子どもたちへの負担を考慮して,項目数を厳選しています。そのため,たとえば六角形で対極にあるRとSがいずれも最も高い得点となる場合や,3つ以上のコードがすべて同得点となるなど,一見すると矛盾しているように感じられたり,不思議に感じられたりする結果になることがあるかもしれません。同じホランドの理論を背景とした,18歳以上が対象のVPI職業興味検査※1)では,160の検査項目から興味を測定し,タイプ分類をしています。したがって,「はたらきメダル」の項目数はそれよりもずっと少なくしていることから,こうした現象がより生じやすい仕様になっています。

※1)日本語版は独立行政法人日本労働政策研究・研修機構が研究・開発し,日本文化科学社が販売しています。

結果が矛盾しているように感じられる場合について

たとえばRとSといった,六角形で対極に位置するコードがいずれも最も高くなるというように,一見すると矛盾したように感じられる結果となることは,VPIを成人の方が受検した場合でもしばしば起こります。つまり,これは不自然な結果ということでは決してありませんので,どうかご安心ください。このような場合でも,今後の経験の積み重ねによって,自然と特定の領域に興味が定まっていくことが十分に予想されます。深刻に考えず,現時点で多方面に興味関心があること,それがその子の個性として現れていることの結果であるとお考えください。
また,上記以外でも,たとえば「自分の思っている自分らしさと出てきた結果が異なる」など,検査結果に疑問が生じることがあるかもしれません。その場合はむしろ,「はたらきメダル」という新たな側面からその子の個性が浮き彫りになった可能性があると考えてください。そして,「本当だろうか?」という視点をもってその可能性を吟味していただくことで,新たな自己理解や自己成長の機会としていただければと考えています。

「いろいろタイプ」に分類されることの意味について

「はたらきメダル」では3つ以上のコードが同得点となった場合,「いろいろタイプ」と分類されるようになっています。これは受検者の興味関心が現時点で未分化であると解釈するべき結果であると考えています。これも特段の心配を要することではありません。
ホランドコードによる人の類型化(タイプ診断)は,確かな理論に基づいているものではありますが,受検者の年齢が若ければ若いほど,タイプが柔軟に変化していく余地を残すものでもあります。その余地は,人と環境の相互作用によって次第に埋められ,確かな個性としてだんだんと確立されていくものです。人と環境の相互作用とは,たとえば,習い事を始めること,友だちとケンカしたり仲直りしたりすること,大切な出会いを経験することなど,さまざまな体験と,そこから得た学びの蓄積のことです。したがって,このような経験値のまだ少ない子どもたちの場合には,未分化であることがむしろ自然であるのかもしれません。「いろいろタイプ」に分類されることが,何かに劣るということでは決してないということを,子どもたちに是非くりかえし強調していただき,未来への可能性という白いキャンバスがより大きく広がっているのだと解釈していただければと考えています。

興味検査であり,適性検査ではないことへの注意

興味(好き・嫌い)と適性(向き・不向き)は基本的に別のもの

「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが,“好きなもの”と“得意なもの”には強い結びつきがあります。得意であるということは能力の高さを意味しており,その領域での適性の高さに結びつきます。このことから,強い興味がある領域について,相応の適性が見込まれることも確かです。
しかし,こうしたつながりを踏まえた上で,興味と適性をしっかりと分けて考えることが重要です。野球好きの人がみな職業としてプロ野球選手になれるわけではないことと同様に,興味関心が高いからといってその職業に適しているということになるわけでは必ずしもありません。
一般的に適性検査と呼ばれる職業検査はいろいろとありますが,「はたらきメダル」はそれらとは異なるものであり,興味検査として開発されています。適性検査はたとえば「あなたは営業職が向いている」というような結果とともに,基本的にはたくさんある選択肢のうちから特定の職業領域に選択肢を限定していく方向で使用されます。しかし興味検査は選択肢を広げる方向,つまり正反対の方向で使用するべきものです。たとえばRタイプに分類された人が,同タイプの職業にはどのような世界が広がっているかを知ること,自分の気づいていなかった職業,知らなかった職業が世の中にはあり,それが自分と同タイプに分類されていることを知ることで,新たな可能性に気づくきっかけとなるように使用されるべきものであると言えます。したがって,はたらきメダルの結果に基づいて子どもたちが将来の可能性を限定しすぎることのないようにご配慮ください。

自分のタイプと異なるタイプの職業であっても,活躍できる可能性は大いにある

6つの職業タイプの境界線は,元来,ある程度ゆるやかに規定されています。つまり,はっきり白黒つくように分類されうるものではないということです。たとえば,現実的興味(R)領域にある職業が,社会的興味領域(S)にあたるような対人的な業務を全く行わないわけではありません。自分の個性に適した特定の職業興味領域でよりよく働くことができる人が多いことは事実ですが,とても柔軟に,さまざまな領域で活躍できる人もいます。したがって,自分のタイプと異なるタイプの職業を志望している場合であっても,悲観的にならずにその可能性を追求していくことの大切さを子どもたちには是非ご指導ください。