仕事人

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神奈川県に関連のある仕事人
1989年 生まれ 出身地 群馬県
田部井たべい 裕美ゆみ
子供の頃の夢: 臨床検査技師
クラブ活動(中学校): 吹奏楽部
仕事内容
とうきょうわんに出入りするせんぱくが安全かつこうりつてきわんないを航行し港内がんぺきちゃくがんすることができるよう,船にちょくせつ乗りこんでアドバイスを行う。船長に対するアドバイザーであり,とうきょうわんのプロフェッショナル。
自己紹介
のんびりしていますが,追いこまれるとだいたんな行動に出ることもあります。休日には,散歩がてらウィンドウショッピングやベーカリーめぐりを楽しんでいます。連休を取れるときには,旅行へもよく出かけています。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2019年06月14日)時点のものです

全国35の水先区でかつやくする水先人

全国35の水先区で活躍する水先人

わたしは,とうきょうわんみずさきで仕事をしているみずさきにんです。水先人は,船がう航路や港などで大型船に乗りこみ,安全な航行やがんぺきへの着岸とがんを手助けするのが仕事です。そうせんせきにんを負うのは船長ですが,一人の船長が世界中の海や港のとくちょうを知るのはのうです。そこで,べつかいいきの地形や気象などを知りつくし,そうせんじゅつも身につけている水先人が,船長に進路や速度をてきせつにアドバイスして,船が安全に運航できるようにしています。
水先人のせいは,こくさいほうや各国のほうりつで定められています。日本の場合,みずさきほうというほうりつで定められた「水先区」が,全国に35あります。水先人にアドバイスを受けるかどうかはそれぞれの船長がはんだんしますが,一定以上の大きさ(そうトンすう)のせんぱくへの水先人の乗船がほうりつづけられている「きょうせい水先区」もあります。たとえばとうきょうわんわんおおさかわんないかいかんもんかいきょうなどです。これらのかいいきでは,地形がふくざつで気象やちょうりゅうえいきょうが大きいうえ,多くの船でこんざつするためです。わたしは,きょうせい水先区のとうきょうわんで,日々,こうわんの安全を守るために働いています。

とうきょうわんの物流をささえる

東京湾の物流を支える

全国の水先人は670人ほどですが,げんそくとして水先めんきょはそれぞれの水先区ごとにげんていされています。たとえば,わたしめんきょをもつとうきょうわん水先区でしか仕事ができません。また,水先人には一級から三級の等級があり,わたしは今,三級水先人として仕事をしています。一級水先人はあらゆる船で仕事ができますが,二級と三級は,積荷の種類やそうトンすうせいげんがあります。三級水先人があつかえる船は2万そうトンまでで,原油やガスなどけんぶつを積んだ船には乗れません。
水先人は会社員ではなく,レストランのオーナーなどと同じじんぎょうぬしです。会社から給料をもらうのではなく,乗船したふながいしゃから受け取る「水先料」で生計を立てています。水先人は,会社にぞくしてはいないものの,水先法により全員「水先人会」に入会しなければならず,仕事をする上で水先人会から多くのサポートを受けています。水先人会は,船会社や代理店の乗船ようせいまどぐちをつとめ,各種の手続きをになうほか,水先人のけんしゅうどうもしています。水先料は水先人会をけいして,各水先人のこうりこまれ,そこから水先人会の会費や乗下船ボート代などのけいおさめた残りが水先人のしゅうにゅうになります。
わたししょぞくするとうきょうわん水先区の水先人は174人(2019年6月げんざい)で,全国の水先区で最多です。大消費地の物流をささえるとうきょうわんには,とうきょうこうかわさきこうよこはまこうこうさらこうよここうという大きな港があり,年間20万せき前後の船が出入りしています。わたしたち水先人は,そのうちの5万せき以上に乗船しています。

「ベイ」と「ハーバー」

「ベイ」と「ハーバー」

とうきょうわん水先区のぎょうは,大きく2つに分かれます。「ベイ」と「ハーバー」です。「ベイ」のぎょうでは,とうきょうわんの入口から港の入口まで,またはその反対のルートでのそうせんたんとうします。「ハーバー」のぎょうでは,港の入口から港内がんぺきへの着岸や,がんして港の出口までをたんとうします。この「ベイ」と「ハーバー」のぎょうを連続して一人の水先人で行うこともあり,「通しぎょう」といっています。
とうきょうわんでは,おもに,とうきょうこうよこはまこうかわさきこうこうさらこうよここうといった港に安全に船をみちびき,着岸やがんを行います。とうきょうわん水先区の仕事場は,とうきょうがわけんけんの広いはんにまたがるため,水先人会のしょよこはまこうの本部のほか,5つのさきしょがあります。
よくじつの乗船予定は,水先人会のしょから,前日の夕方までに伝えられるので,前日のうちに航行計画を立てます。当日は,本船への乗船地点に近いしょに電車などでどうし,そこからみずさきてい(水先人そうげいようの小型ボート。パイロットボートともいう)に乗って本船へと向かいます。水先人会のかくしょの近くに船着き場があり,みずさきていは仕事に合わせて水先人会が手配してくれます。
本船と海上で合流したら,パイロットラダー(水先人乗下船用のはしご)をろしてもらい,みずさきていからうつります。不安定なパイロットラダーのことも多く,風と波のある日や雨の日はドキドキしますね。乗船後,コンテナ船ならビル8階分ぐらいのかいだんをのぼって,船長がそうせんしているブリッジ(せんきょう)を目指します。船長はほとんどが外国人なので,その場合,会話は英語です。まず船長に航行計画について説明し,じょうほうこうかんを行います。航行計画が決まったら,いよいよそうせんへのアドバイスを始めます。

ベイぎょうでは,せまい航路をしんちょうに航行

ベイ業務では,狭い航路を慎重に航行

ベイぎょうの場合は,とうきょうわんの出入口のいちばんせまいところにある「うらすいどうこう」に入る手前で本船に乗りこみます。とうきょうわんを出入りする長さ50m以上の船はすべてこの航路を交通ルールにしたがって通るよう定められており,多くの船でうところです。この航路には道路のように進行方向とせいげん速度があり,長さ160m以上の大型船が入るには,かいじょうあんちょうとうきょうわんかいじょうこうつうセンターのきょが必要です。無線でかんせいかんから入航きょを受けたら,いよいよ航路に進入します。うらすいどうこうかたがわはばは約700~850mで,ちゅうくっせつしています。また,もちろん海の上には線が引かれているわけではありません。航路からはずれないよう,レーダーやECDISエクディスでんかいひょうそう,海のカーナビ)などの計器やもくかくにんしつつ,船長やかじを取る乗組員にしんして進みます。
周囲のじょうきょうへの注意も欠かせません。航路上には小型船や漁船などもい,航路を横切る船もあります。しょうとつすればだいさんになりかねません。レーダーやそうがんきょうしんちょうに周囲をかくにんするほか,時にはとうきょうわんかいじょうこうつうセンターのかんせいかんに無線でじょうほうをもらうこともあります。
ベイの仕事は,港の外の決められたていはく地点まで船をみちびくか,ハーバーの水先人にバトンタッチしたらかんりょうです。むかえに来たみずさきていで,しょもどります。通しぎょうの場合,そのまま引き続きハーバーぎょうたんとうすることになります。

タグボートとのれんけいちゃくがんする,ハーバーぎょう

タグボートとの連携で離着岸する,ハーバー業務

ハーバーぎょうでは,入港の場合,港内の交通ルールにしたがって,船を目的のがんぺきまでみちびきます。港内にも,航路やかんせい信号などの交通のルールがあります。う船に注意しながら,せまい水路を90度曲がったり,しょうがいぶつをよけて着岸させたりすることもあります。また,夜には航路やがんぺきが見えにくいので,いっそう集中力が必要になります。
着岸は,船をがんぺきしょうとつさせないよう,ピタリと指定の位置に着けなくてはなりません。船にはブレーキがないので,前進から後進にえて速度を落としたり,エンジンを切ってせいで進ませたりします。スピードが落ちると大型船はかじがきかなくなるので,がんぺきに近付くと,あとは馬力のあるタグボートすうせきで本船をしたり引いたりして着岸させます。水先人はブリッジからがんぺきかくにんしながら,タグボートに無線で本船のどの部分をどの方向にすか引くか,細かくを出していきます。本船からいかりを打って,いかりる力を利用して船の位置の調整をすることもあります。
がんさいにもタグボートがかつやくします。がんのほうが着岸より楽なことが多いのですが,気のけない作業なのは,どちらも同じです。へいきんして,着岸には1時間,がんには30分くらいの時間がかかります。
ベイぎょうでもハーバーぎょうでも通しぎょうでも,作業をかんりょうしたらしょもどり,よくじつの計画書の作成などをして,1日の仕事を終えます。とうきょうわん水先区では,2日しゅうぎょうして1日休養,3日しゅうぎょうして2日休養,というしゅうぎょうパターンです。これを4セット続けたら,7~8日間の連続きゅうとなります。船は夜にも運航しているため,水先人も24時間たいせいで,夜中の仕事の場合には,りのしょまることもあります。

風の強い日は苦労する

風の強い日は苦労する

水先人にとっていちばんのてきは,強風ですね。とくに夏場には南西の風が強い日が多く,泣かされます。風が強いと,船が流されて思うように動いてくれないんです。真っすぐ進ませたいのに風でななめに進んでしまい,どんどんがんぺきが近づいてきて,ヒヤヒヤすることもあります。
風の強い日には,ブリッジの計器で風向きと風速を見つつ,風のえいきょうを加味してしんを決めたり,タグボートにを出したりします。貨物船の種類によっても風のえいきょうの大きさがちがいます。たとえば自動車船は,風を受ける船体の面積が広いうえ,積荷がかくてき,軽いので,風に流されやすいんです。こくもつや木材チップなどを積んだバルク船もむずかしいですね。エンジンが小さくてスピードをコントロールしにくいうえ,こうはんに大きなクレーンを4本乗せている船もあって,かいがさえぎられ風のえいきょうを大きく受けます。けいけんを積みながら,毎回ちがじょうけんたいおうできるよう,日々,努力しています。

船長さんのがおが大きなやりがい

船長さんの笑顔が大きなやりがい

乗船した船の船長さんに満足してもらえて,「グッジョブ!(Good job=よくやった,の意味)」という言葉とがおをもらえると,うれしいですね。「また,あなたに来てもらいたい」と言われることもあります。
それから,事前の計画どおり,むだなくスムーズに作業できたときも,達成感があり,とても気持ちがいいものです。でもおもしろいことに,自分では満足しても,船長さんにはひょうされないこともあります。たとえば入り組んだ水路でも,わたしは通りれているから,それなりのスピードを出します。でも,初めて通る船長さんは「速すぎてあぶない」と感じることがあるようです。反対に,わたしが「今日はしんちょうすぎたかな」と思っても,船長さんに「パーフェクト!」と喜ばれることもあります。コミュニケーションの努力に加え,とうきょうわんのプロフェッショナルだというわすれず,船長さんに満足してもらえるようなアドバイスを目指していきたいです。

しんせんりょくてきに思えた「船乗り」

新鮮で魅力的に思えた「船乗り」

わたしは内陸のぐんけん出身で,海へのあこがれはあったのだと思います。海の仕事にくことまでは考えていなかったのですが,高校3年のとき,たまたま母が持ってきたこうだいがくのパンフレットを見て,「船乗り」というしょくぎょうがとてもしんせんりょくてきに思え,船乗りを養成する学部に進学することにしたんです。水先人については,大学に入学して初めて知りました。大型船をみちびく,船乗りの「プロ中のプロ」にきょうをひかれ,水先人になろうと決めました。
大学4年の春に,水先人を養成するかいしんこうセンターの養成えんせいの試験を受け,大学卒業後に,まず国家試験を受けて三級かい(航海)のめんきょを取得。その後,とうきょうかいようだいがくの大学院で2年間,水先人になる教育を受けました(今はせいが変わって,水先教育はひょうけんあしにあるかいだいがっこうの水先教育センターで行われています)。
さらにとうきょうわん水先区などでじつしゅうしゅうを積み,大学卒業からおよそ3年後に,やっと三級水先人の試験にごうかく,2015年9月,とうきょうわん水先区水先人会に入会し,晴れて水先人になりました。入会後は,1か月の陸上けんしゅう後,せんぱいの水先人との共同そうせんけいけんを積む,いわば見習い期間が9か月あり,たんどくで仕事を始めたのは,2016年7月です。長い道のりですね。それだけせきにんが重い仕事なのです。
昨年から二級水先人になるけんしゅうを受けていて,国家試験にもごうかくしました。二級になれば,けんぶつを積んだ船にも乗れますし,仕事の量もぐっとえます。期待とともに身のまる思いがします。その先は一級水先人,まだまだこれからです。

失敗をバネにしてのうりょくばす

失敗をバネにして能力を伸ばす

わたしぐんの自然ゆたかなところで育ち,は農家でした。かいこっていたおくもあります。夏は弟といっしょに虫とりにちゅうで,いいかんきょうで育ったと親にはかんしゃしています。自然の中での体験には,人をたくましくする力があると思うんです。よく「自然にはさからえない」といいますが,何があっても動じない,タフな人間を育ててくれるように思います。みなさんにも,できるだけ自然の中で植物や動物とふれ合う体験をしてほしいですね。
もちろん,勉強も大事です。勉強をしておくと,人生のせんたくが広がります。学校の受験もふくめ,進みたい道を歩めるのうせいが大きくなります。
もうひとつ,みなさんに伝えたいのは,「失敗をたくさんすること」。取り返しのつかない失敗はこまるけれど,そうでない失敗ならたくさんしたほうがいい。失敗の数だけ強くなれますから。わたしも,仕事の上でいくつか失敗をしてきました。けれど,な失敗はひとつもありません。すべてが,自分ののうりょくばす栄養になっていると信じています。

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取材・原稿作成:大浦 佳代/協力:公益財団法人 日本財団,NPO法人 共存の森ネットワーク,東京湾水先区水先人会