仕事人

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愛媛県に関連のある仕事人
1975年 生まれ 出身地 愛媛県
吉田よしだ 真一しんいち
子供の頃の夢: 漁師
クラブ活動(中学校):
仕事内容
漁船でおきに出て,魚をる。
自己紹介
大好きなりの仕事に関することなら,とてもきちょうめんで細かいです。子どもも好きです。つい先日,6人目の子どもが生まれました。漁の合間に子育てを楽しんでいます。

※このページに書いてある内容は取材日(2019年02月01日)時点のものです

高級魚をいっぽんりで

高級魚を一本釣りで

わたしは1人で漁船に乗っておきに出て,「いっぽんり」の漁をするりょうです。わたしがおもにる魚は,キハダ(マグロの仲間),クロムツ,メダイ,イサキなどです。魚によってしゅんれる時期にちがいがあり,年間を通してこの4種類の魚のりを組み合わせています。
どの魚の漁も,おきに何日もとどまることはなく日帰りのそうぎょうです。った魚は船の魚倉(とれた魚を入れる場所)に入れて冷やして持ち帰り,あいなん漁業協同組合(漁協)の魚市場にみずげします。わたしるのは,どれも「高級魚」といわれるかくてきたんの高い魚です。魚市場のセリでなかがいにんさんが買って,東京のとよ市場など,おもに都会の市場に運ばれていきます。

おもに4種類の魚をさまざまなけで

おもに4種類の魚をさまざまな仕掛けで釣る

りをする場所や時間帯,かたなどは,魚の生活スタイルによってそれぞれことなります。キハダは広い海を泳ぎ回る回遊魚で,カツオなどといっしょだんりゅうくろしおとその周辺のかいいきを泳ぎ回っています。よくれる時期は,水温が上がってくる4月末から7月ごろと,9月末からばんしゅうごろまでです。秋のほうが大きくてあぶらものってきます。キハダりはテグス糸をじかに手でにぎり,えさには生きた魚を使ってごうかいな漁です。
クロムツとメダイは,水深200~500メートルほどの,やや深い岩の海底にすみついています。船に電動リールつきの竿ざおを固定し,糸にはりを10本つけてります。えさはサバなど安く手に入る魚の切り身で,自分で作ります。クロムツとメダイは夜中にやや浅いところに上がってくるので,夜中にりに行きます。とくにメダイは1月から3月にかけてさんらんのために水深100メートルより上に上がってくるので,冬にはおもにメダイをっています。
イサキは水深60メートルくらいの浅いところにいて,夜明けから昼にかけてります。りのけは「サビキ」といって,アミエビなどのえさでイサキを集め,をつけた数本のはりげます。イサキは年間を通してれますが,あぶらがのっておいしいしゅんは夏です。

キハダりの要はいき

キハダ釣りの要は生餌

わたしがキハダをるのは,県などがせっした人工の「ぎょしょう(ブイ)」です。ブイは直径6,7メートルのえんとうけいで,ロープで海底に固定されています。小魚はかくしょを求めてブイに集まります。すると小魚を食べるマグロやカツオなどの回遊魚もってきます。それをるんです。日帰りで行けるはんにブイはいくつかありますが,わたしは高知県のあしずりみさきおきの3つのブイでおもにっています。いずれも,あいなん町の漁港から波がおだやかだとかたみちおよそ1時間半,波が高いと2時間半ほどかかる場所です。
キハダりは,いきのメヂカ(マルソウダ)りから始めるんです。夜明けにメヂカの漁場に行き,まずアミエビなどのえさをまきます。メヂカが集まってきたらせんから竿さおを3本出し,メヂカの周りを船でぐるぐる回りながらたくさんります。はりには小魚に見せかけた鳥の羽をつけ,それが水面近くを魚のように動くようせんこう板という道具も使います。
キハダをるには,いきのメヂカが元気なことが何より大事なんです。メヂカは弱ると泳ぐ力が弱くなり,皮も固く黒くなって,キハダは食いつきません。だからメヂカはていねいにあつかいます。1日のキハダりには,元気なメヂカが最低60ぴきは必要です。弱る分も入れて80ぴきほどれたら切り上げ,いよいよブイへと向かいます。

テグス糸で魚の命を感じるキハダ

テグス糸で魚の命を感じるキハダ釣り

初夏のキハダは1ぴき20キロ前後で,秋には50キロをえる大物もれるんですよ。使うのは太めのテグス糸で,ぶくろをつけた手でじかににぎります。メヂカにはりして海に放ち,100メートルぐらい,元気よく,シャーッと泳がせます。そのまま待っているととつぜん,「シャーッ」が重くて速い「ジャーッ!」になります。これがキハダの食いついた合図で,ここからがキハダとの勝負です。
手ににぎるテグスに,キハダの動きがビンビン伝わってきて,わたししんぞうもドキドキします。キハダときしつつテグスを出したりったりして,じょじょせます。キハダの姿すがたが見えたら,テグス伝いに鉄の輪をすべらせてキハダの口にはめてしまいます。こうすると海水が口から入らなくなり,キハダはきゅうができなくなって弱るんです。おとなしくなったら一気にせ,タモあみかカギのついたぼうで船に引き上げます。えんずいにとどめをし,ないぞうとエラをのぞいてから魚倉におさめてかんりょうです。
たまにちゅうで糸が切れてがしてしまうこともありますが,そうならないようキハダとのきに集中し,リスクをらすため,テグス糸は毎日新しいものを用意します。

漁のルールと仲間との助け合い

漁のルールと仲間との助け合い

りょうるのが仕事なので「数を多くってなんぼ」で,ぎわのよさが求められます。じつはブイの周辺には漁船がたくさん集まるんです。船から長い竿さおを出してカツオやマグロをる「ひきなわり(トローリング)」や,5,6人が乗り組む「カツオいっぽんり」など,漁法もさまざまです。みんなが好き勝手にると,漁具がからんだり船がしょうとつしたりしてけんです。だからルールが決められていて,漁法ごとに列を作って順番にるんです。かぎられたチャンスにたくさんるには,メヂカが元気なこと,キハダとのきではあせらず,かつモタモタしないこと,船の上や道具類をせいとんしておくことも大事です。
こうりつという点では,仲間のりょうとの助け合いも欠かせません。同じように1人で漁をする気の合うりょう4,5人で「じょうほう船」というグループを作っていて,陸ではけいたい電話,海上では無線の周波数を合わせてじょうほうこうかんをしています。キハダはいつも必ずブイにってきているわけではありません。ブイとブイの間もはなれているし,毎日様子を見に行くとねんりょうだいがかさんで大赤字です。そこで,じょうほう船の仲間が協力してじょうほうしゅうしゅうをするんです。いきのメヂカりでも,その日れる場所を教え合ったり,れないりょうに分けたりして助け合います。
たった1人で広い海に乗り出すりょうは,自由でありどくなようにも見えますが,には細かいルールがあるし,仲間との助け合いもある。その中で,自分なりにふうと努力を重ねて人よりも多くってやろうと競争するのが,りょうほんのうかもしれません。

じょうほう通信機器が漁業をささえる

情報通信機器が漁業を支える

漁のいちばんのあいぼうで,最大の漁具でもあるわたしの漁船「第五十八海栄丸」は,しんぞうから間もなく5年です。漁船のを表すそうトンすうは4.9トン。おきのブイまで安定して走れるよう,エンジンは680馬力でたのもしいです。けんぞうには4500万円かかりましたが,最新のさまざまなそうとうさいしました。
そうしつならぶモニターは,ぎょぐんたん,ソナー,レーダー,プロッターなどです。ぎょぐんたんは船の真下の地形やぎょぐんさぐり,ソナーは水平方向から海底までの広いはんで魚をさがします。レーダーには他の船がうつされ,とくに暗い時間帯の航行中は目をはなせません。いちばんよく使うのはプロッターです。GPSそくシステムでげんざいかくにんできるほか,クロムツやメダイ,大きなイサキがれたポイントを入力しておくことができます。このデータのちくせきのおかげで,漁で生計が立つといってもいいと思います。さらにプロッターは自動そうじゅうのうとも連動し,たとえば朝6時のセリに合わせて魚市場に着くようセットすると,ちょうりゅうの向きと速さ,波の高さなどをけいそくし,速度とかじを自動で調整してくれるんです。自動そうじゅうかじ切りのブレが小さいので手動よりねんもいいです。
った魚を入れて冷やしておく魚倉には,冷水機もそなえつけました。キハダをびっしりめても,魚倉の水を2℃以下の低温にたもてます。氷水だと氷がけたら水温が上がり塩分のううすくなるので,せんでは冷水機のほうがすぐれています。冷水機のおかげで,魚市場でのわたしの魚のひょうは高くなりました。

海に生かされていることにかんしゃ

海に生かされていることに感謝

小さいころからりが大好きで,今でもその気持ちは変わりません。夜中の漁が続くとそくで体はきつくなりますが,別につらいとは思いませんね。ただ,不漁がしばらく続いたり,調子が出なかったりするときは,漁港近くの海の神様にお酒をおそなえしてお参りします。かみだのみですね。
海は毎日同じように見えて,まったくちがうからおもしろいんです。季節,天候や風,しおかんまんちょうりゅうの向きや速さなどによって,同じ場所が毎日ちがひょうじょうを見せます。その日のじょうけんに合わせて漁具を調整してるポイントを考え,思い通りにれたら満足だし,そくが外れても「なんでれないんだろう」と考えるのがまたおもしろい。
こうして海に生かされていることに,いつもかんしゃしています。り終えて漁場をはなれるときや,漁港に帰り着いたときには,必ず「ありがとう」と声に出して海にお礼をいっています。海にはぜったいに物をてないし,ごみがいていたら拾うようにもしています。
今いちばん気になっているのは,わかりょうがいないことです。あいなん町では,いっぽんりのりょうではわたしがいちばんのわかです。ここの海でならいっぽんりで十分生活できます。わかい仲間がほしいので,やりたい人がいたらわたしじゅつは全部教えてもいいと思っています。

大好きなりをとことんきわめたい

大好きな釣りをとことん究めたい

わたしりょう一家の生まれです。父はイサキのいっぽんりと,り客を船に乗せる「ゆうぎょ」をいとなみ,今もげんえきです。母の実家は,り客をめる宿やどけいえいしています。わたしは3さい竿ざおにぎったそうで,小学校に上がるころにはりょうになると決めていました。生まれたかんきょうのせいだけでなく,りが好きで好きでたまらなかったんです。
小学校高学年になると,夏休みには父の漁船に乗っていっしょに漁に出ました。中学を出たらりょうになるつもりでしたが,父に「もう少し広い世界を見たほうがいい」といわれて高校のつうに進学し,卒業してすぐりょうになりました。
最初は父の船でいっしょに仕事をしていましたが,22さいのときに自分の船をしんぞうし,イサキのいっぽんりとゆうぎょけんぎょうりょうとしてどくりつしました。じょうれんきゃくがついて仕事は順調でしたが,やがて「一生,けんぎょうでいいのか?」と思うようになりました。海という大きな自然の中で自分のうでぞんぶんためしたい,りをきわめたいという気持ちがむくむくいてきたんです。そして30さいぎたころ,「38さいゆうぎょをやめてせんぎょうりょうになろう」と決意しました。
いちばんやりたかったのは,ごうかいなキハダのいっぽんりです。かくもよくて,当たれば1日に何十万円もかせげます。でもキハダは一年中れる魚ではないので,他のりもできなくては家族を養えません。そこで高級魚のクロムツとメダイをろうと,研究と練習を始めたんです。当然ですが,どの魚も最初は全然れませんでした。とくにクロムツとメダイはあいなん町にはりょうがいないんです。高知のりょうに教えてもらったり,インターネットや本で調べたりして,の研究や漁場のポイントさがしなどを地道に重ねました。そのうちに何とかれるようになったので,目標の38さいゆうぎょをすっぱりとやめて,せんぎょうりょうになりました。

水泳のじゅぎょうは海だった

水泳の授業は海だった

子どものころは,5月の連休ごろからみんな海で遊んでいました。学校にプールがなかったので,水泳のじゅぎょうは海でした。海にロープをってだいを作って,プールのようにするんです。水中がねで海の中を見ると,熱帯魚がたくさん泳いでいてきれいでした。10さいぐらいになるともぐってタコを手づかみでとったり,竿さおを持って泳ぎながら海中を見てカサゴなどをったりしていました。楽しかったですね。
わたしはファミコン世代ですが,ゲームには全然きょうがなくて,ひまさえあればりばかりしていました。そのまま大きくなって,今も漁は仕事半分,しゅ半分かもしれません。

自然から命の大切さを学んでほしい

自然から命の大切さを学んでほしい

あいなん町でも,子どもたちが海で泳ぐ姿すがたはあまり見かけなくなりました。せっかく海も山もあって自然がたっぷりなのだから,子どもたちには自然に親しんでほしいと思います。自然や海は「命の大切さ」を教えてくれます。ゲームだとスイッチひとつで死んだり生きたりするけれど,った魚は自分の手の中で死ぬ。そして生き返ることはありません。
ぼうていった魚がててあるのを見ると,悲しくなります。食べないのなら海にもどせばいいのに。ゆうぎょのお客さんにも,手がよごれるからとった魚を道具でつかむ人や,っても食べない人がいて,魚の命がまつにされているようで残念に思いました。子どものころから自然に親しんで,命のとうとさがわかる人になってほしいなと思います。

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ヘミングウェイ
タイトルに「海」がつく本など,海に関する本ばかり読んできました。この本は,中学の感想文の課題で選びました。巨大なカジキを釣るシーンにはワクワクして,自分もこんな大物を釣ってみたいと思いました。でも,せっかく釣ったカジキを船に引き上げないまま,サメにどんどん食われていくので,釣り好きの少年としては,読んでいて気が気ではなかったです。

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取材・原稿作成:大浦 佳代/協力:公益財団法人 日本財団,NPO法人 共存の森ネットワーク