仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

東京都に関連のある仕事人
1969年 生まれ 出身地 東京都
内田うちだ たけし
子供の頃の夢: 学校の先生,考古学者
クラブ活動(中学校): サッカー部
仕事内容
書店員。副店長という立場なのでてん全体をとうかつしょせきたんとうジャンルは文芸書と文庫がメイン。駅前立地で流行店なので,つねじょうほうのアンテナをっている。
自己紹介
おっとりしていておだやかなせいかく。争いを好まない調整型。1日1さつの読書が最大の気分てんかんで,典型的な活字中毒者。音楽かんしょう,野球観戦,しろめぐり,神社ぶっかくなども好き。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2018年11月21日)時点のものです

本の売り場をつくる

本の売り場をつくる

わたしは,書店員です。本をはんばいすることがわたしの仕事です。副店長なので,てん全体の管理うんえいめんも見ながら,小説やノンフィクションといった文芸書と,文庫本のたなたんとうし,どんな本をどれぐらい仕入れるのかを考えたり,売り場づくりをおこなったりしています。
入社した当初はそうはいぞくされました。その後,人事や外商,マーケティングなどの仕事をてんどうになったんです。つうの書店員とはちょっとちがけいれきですね。
てんでは,ビジネス書や文芸書をたんとうしました。その後,えいぎょう本部で各てんれんけいを見たり,しゅっぱんしゃの方と打ち合わせをしたりするマーチャンダイジングの仕事を8年ほどたんとうしていました。げんざいてんには,実は数か月前にどうしてきたばかり。ひさしぶりのてんでの仕事です。てんの立地によってきゃくそうが変わるので,このてんとくちょうをつかみ様子を見ながら,売り場づくりを考えているところです。

「1日1さつ1POP」を始めた理由

「1日1冊1POP」を始めた理由

わたしが書店員になったのは,本が好きだということと,自分に一番向いていない仕事だと思ったからです。学生時代まで,人と会ったり話をしたりするのが大の苦手でした。それをこくふくするにはしゅうしょくのタイミングしかないと思ったんです。書店であれば,きらいに関わらず,人と会って話すことはけられません。だからあえてそこにもう,自分を変えてやろうという気持ちで書店にしゅうしょくしました。
本当は日本の歴史の研究者になりたかったんです。大学では日本史をせんこうしていて,卒業ろんぶんのテーマは「かまくらの都市づくりについて」でした。小学生時代から神社ぶっかくやおしろなどのせきをめぐるのがしゅでした。わたしの母は本がとても好きで,ようえんのころから母に連れられて図書館に行っていました。そこで,絵本や童話ではなく,歴史の本や,じんの伝記,「ちゅうのひみつ」などの学習まんがを読んでいたんです。それ以来,ノンフィクションばかり読んでいました。小説を読み始めたのは書店員になってからです。
しゅうしょくして10年ぐらいったころ,てんどうになり,初めて文芸書のたんとうになりました。わたしはそれまで,小説が読めなかったんです。歴史を勉強したへいがいで,「小説家の書くつくりごとなんて」という思いがあったんですよ。
それが30さい手前でどうになり,つうきん時間がおうふく4時間になりました。つうきん時間も長いし,てん自体もハードで,心が折れてしまい,仕事をめようかとも考えていた。そんなときにわたしを救ってくれたのが本だったんです。一さつは,ある書店のエピソードが書かれた本。もう一さつは,がんのとうびょうでした。特にとうびょうを読んでからは,見える景色が一変しました。わたしよりわかいがんかんじゃの方が,今日明日もあるかわからない命をけずりながら生きているのに,わたしは「仕事がつまらないな,めようかな」とごしている。そうして,「仕事をめようかな」という気持ちが,きりが晴れたように消えたんです。
それで,「わたしが書店でできることはなんだろう?」と考えました。自分自身を勇気づけてくれた本を,一人でも多くの人に伝えたい。そのためにできることは,自分が読んで良いと思った本をきちんとメッセージをえて売っていくことだと目覚めたんです。以来「1日1さつ1POP」を始めて,げんざいも続けています。1日1さつは本を読み,POPを1まい以上書くということです。本によって人生を救われたから,本へのおんがえしをしていきたいんです。

POPは,本との出会いをつくる道しるべ

POPは,本との出会いをつくる道しるべ

わたしは必ず本を読んでからPOPを書きます。気になるフレーズや良いシーンがあると本に何かをはさみながら,読み進めていく。そういうなかで,色合いはこうだな,形は丸いほうがいいなといった,なんとなくのイメージがかんでくるしゅうせいになりました。
いまは,小学校や中学校でPOP作りのじゅぎょうもしています。子どもたちに少しでも本を好きになってほしいし,「いまの小中学生は何を読んでいるのかな?」とわたし自身きょうがある。何より,子どもたちはすごく新しい発想でPOPを書いてくるんですね。だからわたし自身もヒントをたくさんもらっています。
子どもたちには,「POPは道しるべ」という話をします。いま,「何から読んでいいかわからない」という読者が多いんです。本を選べなかったり,さがせなくなっていたりする時代なので,本のりょくをお客さまに気づかせるのがPOPです。
だからまず,気になるところをチェックしながら本を読む。そこからイメージをふくらませて,自分のコメントも入れて,色画用紙を切ってってデザインして,POPを作っていきます。

「あ行」と「は行」がPOPのポイント

「あ行」と「は行」がPOPのポイント

POPは,「あ行」と「は行」,つまり「あいうえお」と「はひふへほ」をしきするとうまく書けるようになるんです。「あっ」とおどろかせる。「いっ」しょうけんめい書く。「うっ」とうならせる,「えっ」「おっ」とおどろかせる。「はっ」とさせる,人の気持ちに「ヒット」させる,「ふっ」と笑わせる。「へーっ」なるほどねと思ってもらう,「ほっ」とさせる。
こんなふうに,あ行とは行でPOPはできていて,でも一番大事なのは最初の2文字。「あい(=愛)」が一番大切なんです。上手下手ではなく,気持ちがこもっているかどうかなんですね。POPはパソコンでも作れますが,わたしが手書きにこだわるのも,そのほうが気持ちが伝わりやすいと思うからです。
いいPOPはゆうべんです。その小さなへんのなかの手書き文字が語りかけてくる,書いた人の肉声が聞こえてくる。本を読んでがった,ほとばしる気持ちを伝えたいから,1まいのPOPを5~10分でどんどん書いていきます。ライブ感が大事なんです。

生きることのど真ん中に本がある

生きることのど真ん中に本がある

1日の仕事は,朝の開店じゅんから始まります。本がたくさんとどいているのでそれをたなならべて整え,開店する。本の注文を出したり整理をしたりしながら,レジにも入ります。午後になると,また本がとどくので,その品出しをしたり,商談をしたり。そうこうしているうちにあっという間に1日がぎていきます。
POPはほんてきに家で書いています。しょだと電話や来客があり,落ち着いて書く時間がなかなかとれないんです。だからたく後,本にはいんでイメージをふくらませ,いろえんぴつやフェルトペン,色画用紙などの道具を広げて,4~5まいを一気に書きます。今いた紙のはしを,こっちのPOPにも使おう……とか考えていると,おもしろいんですよね。それがわたしのストレスかいしょうでもあるのです。
本も1日1さつ以上は必ず読んでいますが,仕事のためというよりもむしろ,読みたくてしかたないんです。かつて小説が読めなかったけいけんがあるからこそ,本の良さがなおにわかる。小説を読めなかったけいけんが,いま,になっているのかもしれません。本がわたしの生きることのど真ん中にある。わたしから本を取ったら,いったい何が残るんだろうと思います。
一方で,いろいろなお客さまがいらっしゃるので,伝わらないことも多いです。それはつらいことでもありますが,そこをえて自分の売りたい本の良さを伝えられたときには,喜びに変わります。自分がきたえられる仕事だなと思います。
わたしは,書店には「書店員」と「書店人」がいると思っています。書店員は「本を売るはんばいいん」であり,書店人はそこにこころざしてつがくを持っている人です。わたししょうがい「書店人」であり続けたいと考えているのです。

※内田さんは,げんざいはフリーランスでPOPこうしゅうかいなどをかいさいされています。(2020年4月時点)

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取材・原稿作成:雪 朱里(取材)/竹内 信平(撮影)