私わたしは株かぶ式しき会がい社しゃ大おお林ばやし組ぐみという建けん設せつ会社に所しょ属ぞくし，東京都清きよ瀬せ市しにある技ぎ術じゅつ研究所で働いています。技ぎ術じゅつ研究所では，建けん設せつに使われるコンクリートなどの材料や省エネ技ぎ術じゅつ，免めん震しん・制せい震しん・耐たい震しん技ぎ術じゅつなど，さまざまな最さい先せん端たん技ぎ術じゅつの研究・開発が行われていますが，私わたしは建けん設せつ現げん場ばでの作業の自動化や情じょう報ほう化などを進めるチームで，建けん設せつ現げん場ばで資し材ざいを運ぶ作業を機械化するための研究・開発をしています。
資し材ざいを運ぶという作業は，どんな種類の建けん設せつ現げん場ばでも必要です。今は，資し材ざいを台車にのせたり，人が持ったりして人力で運ぶことがほとんどですが，それを機械が自動運転で運んでくれるようにするのが，私わたしが担たん当とうしているプロジェクトの最終的な目標です。私わたしたちはこれを自動搬はん送そうシステム（AGV=Automated Guided Vehicle）と呼よんでいます。自動搬はん送そうシステムがあれば，現げん場ばの労力を減へらし，重いものを安全に，楽に運ぶことができます。
開発を始めたのは約５年前です。最初は，線路のように，現げん場ばに磁じ気きテープを敷しいて，その上をロボットが走るというしくみにしていました。しかし建けん設せつ現げん場ばは毎日状じょう況きょうが変化し，それに合わせてロボットのルートも変わってしまうので，この方式はあまり現げん実じつ的てきではなく，現げん在ざいはコントローラーを使って，ラジコンのように遠えん隔かく操そう作さができるしくみにしています。また，最初はいろいろな機き能のうを詰つめ込こんでいたのですが，実じっ際さいの建けん設せつ現げん場ばでのテストを繰くり返かえした結果，「ものを運ぶ」というシンプルな機き能のうに絞しぼり，サイズをどんどん小さくする方向になってきました。
研究所で何度もテストをした後，実じっ際さいの建けん設せつ現げん場ばに持っていってテストをして，問題がなければそのまま使ってもらいます。そこでわかった問題点などを改良して，また現げん場ばでテストします。現げん場ばで試ためすことを繰くり返かえしながら，実用化に向けて開発を進めています。

自動搬はん送そうシステムの開発に主しゅ担たん当とうとして取り組む以外に，ほかの人が担たん当とうしている開発プロジェクトにもいくつか関わっています。その中には，大おお林ばやし組ぐみが進めている「宇う宙ちゅうエレベーター」のプロジェクトもあります。
「宇う宙ちゅうエレベーター」とは，地上から宇う宙ちゅうまで行くことのできるエレベーターです。人工衛えい星せいは，地球の方向に引ひっ張ぱられる重力と，地球の周りを回転して飛び出そうとする遠心力とのバランスがちょうど釣つり合あったところにあり，地球に落下もせず，宇う宙ちゅう空間に飛び出すこともなく，地球の周りを回っています。宇う宙ちゅうエレベーターは，その人工衛えい星せいから伸のばした全長約9万6千kmのケーブルで地上と宇う宙ちゅうとをつなぎ，物や人を輸ゆ送そうするしくみです。現げん在ざい，宇う宙ちゅう飛行士が滞たい在ざいして実験などをしている国こく際さい宇う宙ちゅうステーション（ISS）があるのは，地上から約400kmの場所なので，それに比くらべると宇う宙ちゅうエレベーターがとても長いことがわかると思います。これが実じつ現げんすると，宇う宙ちゅう旅行や，宇う宙ちゅう探たん査さなどが身近なものになるはずです。
私わたしが関わっているのは，「クライマー」という，エレベーターの本体の部分です。人や物ぶっ資しをのせる箱をどんなふうに作り，どんなふうに動かせばよいかについて考えています。大学や他の会社と共同で研究をしていて，宇う宙ちゅうエレベーターのしくみの性せい能のうを競きそう競きょう技ぎ会かいにも参加しています。競きょう技ぎ会かいでは，気球からロープを吊つるし，小型の「クライマー」を作ってその性せい能のうを競きそいます。宇う宙ちゅうエレベーターについては，年に1回程てい度ど，プロジェクト全体で集まる会議のほか，共同研究をしている大学や会社の方と打ち合わせもしています。

新しい技ぎ術じゅつの開発にあたって，実験ではうまくいっていても，現げん場ばに持っていったとたんに失敗することもよくあります。現げん場ばに持っていく前には，細かくスケジュールを立てるのですが，それがすべて無む駄だになって引き上げなくてはいけないときは，つらいですね。
また，私わたしが手がけている自動搬はん送そうシステムは，最近はやっと外に発表できる段だん階かいになってきましたが，イメージはあるものの，実じっ際さいに形になっていない時期は苦しかったです。でも，一度形になってしまえば，あとは実験して，出てきた問題点を改良するということを繰くり返かえしていけばいいので，迷まよいはありません。
自動搬はん送そうシステムは，開発を始めたばかりのころは，タッチパネルでいろいろ設せっ定ていするしくみにしていましたが，事前の準じゅん備びが必要で，操そう作さが覚えにくくてわかりづらいのと，操そう作さするたびに軍手を外さなければならないといった理由で，現げん場ばで職しょく人にんさんにあまり触さわってもらえませんでした。もっと感覚的に使えるようにしなければいけないのだと思って，コントローラーをゲームのコントローラーのような形にするなど，試し行こう錯さく誤ごを重ねて今に至いたっています。
また，新しく取り組むテーマを提てい案あんするのも研究員の大事な仕事で，実はこれが一番大変だと思っています。とにかくたくさんアイデアを出そうという「ブレインストーミング」と呼よばれる会議のときなどは，なかなかアイデアが浮うかばなくて困こまりますね。どんなものが建けん設せつ現げん場ばにあると作業をする人たちが働きやすいのか，時には現げん場ばでお世話になった人たちに相談したりしながら，いつも新たな研究テーマを考えています。

機械製せい作さくの場合は，最初にイメージ図を描かいて，それを協力してもらっている機械の製せい作さく会社に持っていって，図面にできるかどうか検けん討とうしてもらいます。図面ができると，とりあえず形にはできるということがわかるので，あとはそれに合う部品を探さがします。例えば，現げん在ざいの自動搬はん送そうシステムでは，「メカナムホイール」という車輪を使っています。これは，車輪に斜ななめの筒つつのような形けい状じょうのものがついているため，色々な方向に進むことができ，小回りがききます。海外のメーカーが最初に特とっ許きょを持っていたのですが，その期き限げんが切れて，誰だれでも使えるようになりました。今はさまざまなロボットメーカーが利用しています。そういった部品を見つけるために，展てん示じ会かいなどに行き，情じょう報ほう収しゅう集しゅうをするのも仕事のひとつです。望みどおりのものが見つかったときには，「やった！」と思います。
思おもい描えがいていたものが形になったときはうれしいですし，作ったものを最初に現げん場ばに持っていくときには，テンションが上がりますね。先日，自動搬はん送そうシステムの開発を始めたばかりのころに描かいたスケッチを改めて見直したのですが，今，作っているものに近い絵を描かいていたんです。その当時の技ぎ術じゅつだと実じつ現げんができないということで違ちがう方法を選んでいたのですが，結局もともと考えていたものに近づいているんだなと，最初の発想は間ま違ちがっていなかったんだなと，うれしくなりました。

自動搬はん送そうシステムの開発を手がけることになったきっかけは，現げん場ばから「自動で安全に資し材ざいが運べるシステムが欲ほしい」と言われたことです。人口の減げん少しょうで人手が少なくなる中，重いものを運ぶという作業をロボットで自動化できれば，人間はほかの作業に集中できますし，危き険けんも少なくなります。自動搬はん送そうシステムは私わたしが開発の主しゅ担たん当とうをしていますが，建けん設せつ現げん場ばの職しょく人にんさんや，機械を作る会社の人，部品会社の人，社内のチームのメンバーなど，関わってくれた多くの人のアイデアが詰つまったものになっています。自分のイメージを関係先に伝えることは大事で，日々のコミュニケーションを大切にして，開発をしています。研究員というと，ずっと研究所にこもって，研究や開発をしているイメージがあるかもしれませんが，実じっ際さいは外に出て，現げん場ばに通ったり，協力会社に相談に行くことも多いですね。
また，現げん場ばから求められているものを作るのが一番大切なことなので，「何が今，現げん場ばに必要なのか」を現げん場ばの人からていねいに聞くようにしています。そうしたコミュニケーションの中に，新しい研究テーマについてのヒントもありますから。

子どものころから，理り数すう系けいの教科のほうが好きでした。中でも空や宇う宙ちゅうの話が好きで，テレビで宇う宙ちゅうの特集をしていたら見ていました。天文台や科学館に行ったりするのも好きでしたね。
大学では機械工学を専せん攻こうし，流体力学の分野で，船のエンジンに使われるようなものの研究をしていました。また，空や宇う宙ちゅうへの興きょう味みから，航こう空くう系けいの仕事に就つきたいと考えていて，就しゅう職しょく活動でも最初は航こう空くう系けいや機き械かい系けいの会社を主に受けていたんです。でも，就しゅう職しょく活動をしていく中で，大おお林ばやし組ぐみの技ぎ術じゅつ研究所で働いている方に出会い，建けん設せつ会社の大おお林ばやし組ぐみでも機き械かい系けいの仕事ができると知って志し望ぼうし，入社しました。
大おお林ばやし組ぐみでは，最初の1年目は現げん場ば監かん督とくとして，建けん設せつ現げん場ばを経けい験けんします。そのときに携たずさわったのが，今，私わたしが働いている技ぎ術じゅつ研究所の建物でした。建けん築ちく学科の出身ではないため，わからないことばかりで，簡かん単たんな建けん築ちく用語もわからず，職しょく人にんさんにあきれられたりもしました。1年目はとにかく施せ工こう管理の仕事を覚えるのに必死でしたね。私わたしは研究者として採さい用ようされて，最初の現げん場ばが終わったらすぐに研究所で働くことが決まっていたので，研究所の上司に，「現げん場ばにいる間に，自分だったらどういう開発をしたいか考えておきなさい」とアドバイスを受けていましたが，毎日が必死で，余よ裕ゆうはありませんでした。

興きょう味みのあることは，なんでもやっておくといいと思います。私わたしは大人になってから，ボルダリングやヨガなど体を動かすことにはまってしまい，今では仕事の後も，休みの日もやっています。子どものころにもっとスポーツをやっておけばよかったなと，子どもたちがボルダリングで壁かべをぴょんぴょん跳はねながら登っているのを，うらやましく眺ながめています。みなさんも学校の勉強以外にも集中できる何かを見つけると，生活にメリハリがついて，楽しく過すごせますし，勉強や仕事にも集中できるようになると思いますよ。
また，もし研けん究きゅう職しょくを目指す方がいたら，いろいろな分野の勉強をすることをおすすめします。研けん究きゅう職しょくというと，ひとつの何かに特化しているイメージがあるかもしれません。もちろんスペシャリストであることも大事なのですが，開発をしていくと，さまざまな知ち識しきが必要になってきます。また，研けん究きゅう職しょくに限かぎらず，仕事はひとりではできないので，人とのコミュニケーションも大事です。全然関係ないようなことも，後々，つながってくることがあるので，広くいろいろなことに興きょう味みを持っておくといいですね。