※このページに書いてある内容は取材日(2018年02月27日)時点のものです
お客さまから頼ってもらえる場所でありたい
私は社長として,東京都足立区にあるENEOS(エネオス)のガソリンスタンドを経営しています。ガソリンスタンドでの仕事といえば,ガソリンや軽油の給油を想像する人が多いと思いますが,実はほかにもたくさんやることがあります。洗車や車の窓ふき,車内のそうじといった車をきれいにする作業のほか,タイヤの空気圧をチェックしたり,エンジンオイルを交換したり,ボンネットのなかの機械を点検したりするのもガソリンスタンドの仕事です。車の定期点検(車検)や修理についても,知っている業者さんを紹介できますし,ガソリンスタンドは車のことならなんでも相談できる場所,と言えるかもしれませんね。車にくわしくないお客さまでも安心して相談できるような,「あそこに行けば安心」と頼っていただける場所でありたいと思っています。
従業員は私を入れて8名です。35年も勤務してくれている店長をはじめ,頼れるベテランぞろいです。うちのスタンドでは,ガソリンの仕入れや売り上げの管理なども,経験豊富な従業員に任せています。信頼できる従業員がいてくれるのは本当にありがたいですね。
楽しみながらていねいに接客をする
私はガソリンスタンドの社長といっても,やっている仕事は現場の従業員とほとんど変わりません。お客さまをお迎えして,車にガソリンを給油したり,窓をふいたり,一日のうちほとんどの時間は店頭に立って働いています。忙しい時間はひっきりなしに車が入ってくるのでてんてこまいですが,笑顔を絶やさず,お客さまの車をていねいにお世話することを心がけています。人と話をすることが大好きなので,給油や洗車を待つ間にお客さまとおしゃべりする時間は,仕事中の楽しみでもありますね。とくに,いつも利用してくれる常連のお客さまとは,話がはずみます。
一日の流れで言うと,朝は9時に出社して,だいたい18時半から19時くらいまで勤務しています。接客のほかには,社長として,売上の確認や,本社から来る営業さんとの打ち合わせなどもおこないます。また,洗車やタイヤ交換のキャンペーンが定期的にあるのですが,それらを従業員のみんなに知らせて「がんばろうね」と声をかけてまわるのも私の仕事です。
好きな仕事だから,つらさは感じない
好きでやっているので,ガソリンスタンドでの仕事を大変だと思うことは,あまりありません。外にいるので夏は暑く冬は寒い仕事ですが,もう40年も続けていますから,すっかり慣れました。お客さまのほうが気をつかって「寒いのに洗車を頼むのは気が引けるな」なんて言ってくれるんですよ。でも私はまったく気にならなくて,喜んで洗車しますから,遠慮しないでほしいですね。
社長として,従業員をまとめるのが大変だと感じるときもあります。例えば,朝からむすっとしているスタッフがいて,家で嫌なことでもあったのかな,お客さまの前では出さないでほしいな,と思ったりするときもあります。でも,さばさばしている性格なので,そういうときもばーっと注意して,言ったらあとには引きずりません。もしかしたら,それがみんなでうまく仕事をするうえでのコツなのかもしれませんね。
わざわざ遠回りして寄ってくれるお客さまも
最近はお客さまが自分で給油をする,セルフ式のガソリンスタンドも増えました。そちらのほうが価格は安いですし,便利に感じる人も多いと思います。また,よそより1円でも安く,という競争をしているお店もあります。ですが,うちは安さだけで勝負をするのではなく,お客さまにきちんと向き合うことを第一に心がけています。モットーは「人と人との触れ合いを大切に,地域のみなさんに頼ってもらえるお店であること」。それは従業員一人ひとりに常に心がけてもらっていますし,みんなきちんと理解して働いてくれています。
気持ちのよい接客を心がけているからか,「他より高いけどこっちに来ちゃうんだよね」と言ってくれるお客さまや,引っ越したのにわざわざ遠回りして寄ってくれるお客さまもいて,本当にありがたく感じています。おかげで,営業時間内にお客さまが途切れる時間はほとんどありません。廃業する同業者も多いなか,みなさんのおかげで大好きな仕事を続けていられていることに感謝しています。
お客さま,従業員,すべてに感謝
仕事するうえで大切にしているのは「すべてに感謝すること」です。来店してくれたお客さまに感謝,働いてくれる従業員のみんなに感謝,常に感謝の気持ちを持って,心と心のつながりを大事にしたいですね。お客さまから励ましやお褒めの言葉をいただいたときなどは特に,この仕事をやっていてよかったな,と感じます。
感謝の気持ちを忘れず,お客さま一人ひとりを大切にしてきた結果,2006年には全国のENEOS系列ガソリンスタンドを対象にした本社からの表彰で,“総合評価1位”を獲得することもできました。これは,売上やキャンペーンの成績だけではなく,接客態度なども含めた評価なんです。私たちが大切にしてきたことが認めてもらえて,とても嬉しかったですね。前年が2位だったので,従業員はもちろん,お客さままで「今年こそ1位を取ろう!」と協力してくださったのも,ありがたかったです。
こつこつと信頼を築き,愛されるお店に
私がここで働き始めたきっかけは,夫との結婚でした。このガソリンスタンドは,もともと,夫の両親がここで経営していたお店なんです。創業が1960年だから,もう50年以上になりますね。夫が二代目の社長で,夫が亡くなったあと,社長を私が継いだ形です。
このガソリンスタンドがみなさんに愛されているのは,夫の両親や夫をはじめ,みんなが真面目に働いてお客さまからの信頼を築き上げてきたためだと思っています。夫は,従業員に対しても威張ったり,口うるさく文句を言ったりしない人でした。夫は昨年,亡くなったのですが,従業員はみんな「社長のために」とそれまで以上にがんばって,お店を盛り立ててくれています。実の息子や娘も一緒に働いていますが,私は,ほかの従業員もみんな自分の子どもか,それ以上だと思っています。みんなが接しやすいように,私のことは社長じゃなくて「ねえさん」と呼んでもらっているんですよ。
さっぱりした気性の江戸っ子
私は東京の下町生まれです。小さいころはものすごく活発な子どもで,放課後はずっと外で遊んでいましたね。友だちの家が駄菓子屋さんだったのですが,「おばちゃん,私にもやらせて」と店番の真似ごとをするのが好きでした。もしかしたらそれが今の接客好きな自分の原点なのかもしれません。実家も漢方薬を取り扱うお店だったので,中学生のころには店の手伝いもやっていました。そう考えると,ずっと接客業に携わっている人生ですね。
学生時代は,勉強はあまり得意ではなかったのですが,クラスの人気者でした。誰にでもものごとをはっきり言う,さっぱりした性格だったからかもしれません。学級委員や劇の主役を任されることも多かったです。中学・高校と女子校だったのですが,よく後輩から花束をもらったり,「一緒に帰らせてください」なんて言われたりしていました。さっぱりした,江戸っ子っぽい性格は今でも変わっていませんね。自分で言うのは恥ずかしいですが,今でも従業員のみんなから慕ってもらったり,お客さまから引き立ててもらえるのは,こういう性格のせいかもしれません。
悩む前に行動してみよう!
みなさんはこの先,将来について悩むことがあるかもしれません。私からアドバイスするとすれば,まず行動すること。悩む前に行動してみてください。私は勉強や本を読むことは得意ではありませんが,ここまでやってこられたのは,自分で行動して経験したことを糧にしてきたからかな,と思うんです。だからみなさんもどんどん行動して,いろいろな経験を積んでほしいと思います。
あとは感謝の気持ちを忘れないこと。そうすれば必ずその気持ちは通じると,私は信じています。働くうえでも,みんながお互いへの感謝の気持ちを忘れないのが,楽しく働くコツです。うちで働いている従業員は,お客さまのことはもちろん,一緒に働く相手のこともよく考えてくれていて,私が重いものを持とうとすると「ねえさん,俺が持つよ」と代わりに持ってくれたりします。そんな小さな心づかいが,楽しく働けることにつながっています。みなさんも,周りの人への気づかいを忘れないようにしてください。