※このページに書いてある内容は取材日(2020年09月29日)時点のものです
インテリアをコーディネートしたり,デザインしたりする
私は,インテリアコーディネーター,インテリアデザイナーとして仕事をしています。この2つの職業は厳密に役割が分かれているわけではありませんが,インテリアコーディネーターは「その空間にふさわしいインテリアを探して提案する仕事」。インテリアデザイナーはもっと役割の幅が広く,「何もない空間を一からデザインしたり,家具などのインテリアアイテムをデザインしたりする仕事」です。個人のお客さま以外にも,不動産会社や工務店からの依頼や,企業や病院,ホテルなどから直接,仕事の依頼をされることもあります。
インテリアコーディネーターとしては主に,住宅にたずさわっています。新築やリフォームをするときなどに,部屋の壁紙,床材,家具,照明,キッチンなど,内装から家具や設備まで一つ一つを提案し,お客さまと一緒に決めていきます。また,インテリアデザイナーとしては,住宅のほかにも店舗やオフィス,病院,ホテルなどに関わっています。主に,新規オープンやリニューアルオープンのときに,間取りやディスプレイなども含めたインテリアのご提案や,オリジナリティのあるインテリアデザインをしています。ほかにも,住宅のモデルルームや店舗のディスプレイを担当することも多くあります。特にモデルルームは,これまでに1,000件以上,担当させていただきました。
インテリアコーディネート,インテリアデザインのどちらの仕事でも,提案するインテリアの形や素材,色彩によって,便利になったり,使い心地がよくなったり,長く使えるようになったりするので,使う人のことを考えて最適なプランを提案しています。
インテリアコーディネーターの仕事の流れ
仕事の流れはお客さまによっても変わりますが,インテリアコーディネーターとしての主な仕事の流れを,住宅のリフォームの例で説明しましょう。依頼を受けた後,現地に実際に行き,どのようなイメージに仕上げたいのかのご要望をヒアリングすることからスタートします。そして,インテリアのコンセプトやレイアウトのイメージを考え,お客さまに提案します。このときに,ご要望に基づいて,リフォームにかかるおよその金額もお伝えします。インテリアは洋服などと違って,一般の方にはどのくらいの価格なのかが想像しづらいので,最初に予算のすり合わせをすることが多いです。
方向性を確認できたら,次はいよいよ具体的に壁紙や床材,家具などを決めていきます。インテリア商材のカタログやホームページなどから情報を選び,布や壁紙などはサンプルを取り寄せて実際に見ながら,再度,検討します。このとき例えば,「やわらかめの座面のソファが好み」「座り心地のよい軽い椅子がほしい」など,お客さまが特にこだわりたいアイテムについては,一緒にショールームに見に行くこともあります。また,コーディネートのおおよそのメドが立ったところで,部屋の間取りやインテリアの配置を分かりやすく描いた図面や,パース図と呼ばれる完成予想図も作成します。その後もお客さまとイメージをすり合わせて,気になるところがあれば別のプランの提案もします。
このように,さまざまな段階を経てインテリアのプランを決めていくのです。そして最後に,インテリアにかかる正式な金額の見積もりを出して,承諾していただいた後,商品を手配したり,リフォーム工事をスタートしたりします。
「和モダン」がテーマのゲストハウスをデザイン
インテリアデザイナーとして建物の内外装のトータルデザインを依頼されることも多くあり,最近では,浅草のゲストハウスのインテリアデザインを手がけました。このゲストハウスは,元は築52年の住宅でした。オーナーはこの案件の依頼主でもある工務店で,「この建物をリフォームして,外国人観光客に好まれるゲストハウスにしたい」と相談されたことから,インテリアデザインを担当することになったのです。
最初に行ったことは,浅草の街の魅力や外国人観光客が好むものについてのリサーチと,デザインのコンセプトづくりでした。実際に浅草に行って街の様子を見に行ったほか,インターネットでもたくさん調べました。このとき特に気になったのが,外国人に人気のある日本の風景である「桜」というキーワードでした。そこで,このゲストハウスにも「桜」のイメージを取り入れたいと考え,入り口に桜の写真が大きくプリントされた壁紙を貼りましょうと提案しました。
また,デザインを依頼されたときに家の外観が長方形だったため,京都の町家のイメージが浮かびました。外壁は墨色とし,内装も墨色をアクセントにし,「和モダン」のコンセプトで計画しました。1階には土間とフローリング,2階には和室をつくりました。民泊の予約サイトである「Airbnb」に掲載されていますが,スタート時から予約が入り,外国人の方々からも好評ということです。
時間をかけて選び,お客さまのご要望以上の提案を
この仕事はとにかく提案するものの数が多く,知識や経験の引き出しをたくさん持っていることが必要です。家具を一つ決めるのにも,素材や色のほかに,選ぶべき細かい仕様はたくさんあります。例えば,ベッドのマットレス一つとっても,硬さが色々あります。家具の扉に付ける「取っ手」なども,ゴールドやシルバーなど種類がたくさんあります。キッチンなどはつけられる機能もさまざまですし,新商品などもひんぱんに出ます。これらの情報をたくさん持つことで, 色々なお客さまのご要望に応えることができます。
また,お客さまのご要望には,プラスアルファの提案をすることも心がけています。例えば,使いやすいキッチンを要望された場合には,お手入れも楽で収納力もあるキッチンを提案してみたり,見た目がお洒落な床を要望された場合には,さらに機能面で滑りにくい床材を提案してみたり。それでもどの素材を使おうか,どの家具を置こうかと迷われる方は多いのですが,最後の決断はお客さまにしていただいています。ご自身で選んでいただくことで,インテリアに,より愛着を持っていただきたいからです。お客さまが選びやすいように,提案はできるだけ,3案ほどに絞るようにしています。
インテリアは,お客さまにとっては大事な買い物になります。どのようなインテリアが最もふさわしいのかを時間をかけて選び,すべてが完成したときに「こういうインテリアが好きだったんです。大満足です」と喜んでいただけると,本当にうれしく,やりがいを感じます。
スポーツと美術が好きだった子ども時代
子どものころから好奇心が旺盛で,チャレンジ精神がありました。特にスポーツが大好きで,小学校では水泳を,中学校ではバレーボール部,高校と大学ではテニス部にも所属していました。大人になってからもヨガやピラティスなどのエクササイズを行います。体を動かすと気持ちが晴れやかになるうえに,体力もつきます。現在の仕事もカタログや商材サンプルなど持ち物がとても多いですし,現場に足を運び採寸をするなど,体力が必要です。大会などに向け目標をもって練習をしたこと,負けて落ち込んでもあきらめずやり続けたことなど,スポーツを通し学んだことは多かったと思います。
体育のほかに,美術や家庭科も好きでした。美術では,創意工夫してオリジナルのものを作るのが得意でした。色や形の表現を工夫して,自分だけの個性を出したいと意識していたように思います。
家では高校生ぐらいになると,自分の部屋の家具の位置を替えてみたり,プラスチックのゴミ箱の色が気になり,包装紙を貼って,部屋の色に合わせてコーディネートをしたりもしていました。「統一感のある部屋になった」「部屋がスッキリ見えるようになった」などと,部屋の変化を楽しんでいました。今では,お客さまから「素敵なゴミ箱はありませんか」と相談されることもたびたびあります。
また小学校の低学年のころには,「将来,お花屋さんになりたい」と思っていました。家の庭に花や木があり,近所には梅や桜の大きな木があったので,春にはよく近くで眺めて絵を描いたりしていました。インテリアコーディネートでは,できるだけ植物も合わせて提案していますが,このころの環境の影響があるのだと思います。
インテリアを仕事にする道を選んだのは,大人になってから
私が初めてインテリアに興味を持ったのは,中学生のころでした。毎朝,友達の家に寄ってから一緒に学校に行っていたのですが,友達を待っている間に,いつも彼女のお母さんが読んでいたであろうインテリア雑誌を出してくれて,「読んで待っていて」といわれました。その雑誌には,部屋のインテリアの写真がたくさん載っていました。
何年もそれらの雑誌を見続けていたおかげで「インテリアって素敵だな」と思ったのが,インテリアに興味を持ったきっかけだったと思います。ただ興味は持ったものの,当時,インテリアコーディネーターやインテリアデザイナーは,一般にはあまり知られていない職業でした。これを仕事にするとは夢にも思っておらず,大学卒業後は,金融関係の会社に就職しました。
転機が訪れたのは,就職して数年ほど過ぎたときでした。就職してからは仕事中心の生活になり,人生の中で,仕事をしている時間が占める割合が大きいんだなと,あらためて自分の生き方を考えたんです。「本当に好きなことを,この先ずっと仕事にしていけたらな」という思いがふくらんで,働きながらインテリアを学びたいと考えました。この思いを仲のよい友達に伝えたところ,たまたま本屋でこんな本があったよとプレゼントされたのが,『インテリアコーディネーターになれる本』という本でした。この本を読んで,インテリアコーディネーターこそが,私が実現したい夢そのものだと思いました。そこで私は働きながら,この本の著者である町田ひろ子先生が校長を務めるインテリアスクールの夜間コースに入学することにしました。
インテリアスクールで講師を務めるほか,インテリア教室の講師やテレビ出演も
インテリアスクールを卒業した後は,念願がかなってインテリアのデザイン事務所に転職しました。この会社では,海外のホテルなど大きなプロジェクトをはじめ,病院,オフィス,モデルルーム,住宅など,大小さまざまな案件に関わることができました。図面を作成したり,現地で採寸などをしたりと,下積みともいえる多くの経験をしました。やがてインテリアコーディネーターの資格を取得して独立し,フリーランスで仕事をスタートしました。
現在はデザイン事務所の代表として,インテリアのデザイン,コーディネート,スタイリングの仕事をしながら,インテリアスクールで講師もしています。自分が生徒だったときの情熱を思い出しながら,今度はインテリア業界を目指す生徒に向けて,自分の仕事の経験も生かしながら教えています。
また,新聞社やインテリア関連企業,百貨店などが主催する,一般の方に向けたインテリアの教室やセミナーの講師をすることもあります。例えばインテリアとグリーンのセミナーでは,季節に合った植物と部屋のコーディネートのポイントを伝えました。海外のインテリアなどをテーマに,日常生活に気軽に取り入れられるノウハウをお伝えするセミナー,例えばアフタヌーンティーで有名な英国のインテリアなども好評でした。ほかにも,“ビフォー・アフター”でお部屋を改装するテレビ番組には多く出演しています。かなりお部屋が変わるので,住まわれている方からはとても喜ばれます。このようにインテリアに関する仕事は色々あります。
たくさんの「自分の好きなもの」が,未来の自分につながる
インテリアコーディネーターやインテリアデザイナーは,提案したインテリアを通じて,お客さまの未来を一緒に作っていける,素敵な職業です。近年は新しい素材がたくさん登場し,流行のサイクルも早くなってきているので,常に新しい知識を吸収し続けていく必要があります。その一方で,流行に流されず,昔からの家具を大事にすることもインテリアの特徴の一つです。物を作ることが好きな人,インテリアのテレビや本などを見ることが好きな人などには,この仕事にも興味を持っていただきたいと思います。女性だけでなく,男性も活躍している職業です。
私が小学生や中学生のころは,「お花屋さんになりたい」「物を作るのが好き」という思いがあるだけでした。けれども,こういった「自分の好きなもの」を少しずつ増やしていくことで,インテリアに興味を持つきっかけとなり,今の職業につながったのだと思います。だからみなさんも,やりたいことにはぜひチャレンジしていってください。たくさんの本を読んだり,テレビやインターネットを見たりして,興味の対象を広げていくこともおすすめです。自分の好きなことやものが仕事になると楽しいと思います。応援しています。