※このページに書いてある内容は取材日(2019年01月31日)時点のものです
小学生を対象に「プログラミングとは何か」を教える
「株式会社ディー・エヌ・エー」という会社で,小学生の子どもたちに「プログラミング」を知ってもらうためにいろいろな活動を行っています。具体的には実際に小学校に行き,専用のアプリケーションやタブレットを使用しながら,子どもたちに授業を行っています。プログラミングとは楽しいもので,こんなふうに社会に役立っているんだよ,ということを知ってもらうのが大きな目的です。また,授業に使うアプリケーションも自分自身でつくっています。
「2学期に授業をしてほしい」という依頼が多いので,その時期は毎日のようにいろいろな小学校に行っています。授業では,各教科の学習内容の中で,「プログラミングがどう役立つのか」という説明は学校の先生が担当し,「実際にプログラミングをする」という専門的な内容になってから私が担当することが多いです。また,これまでは低学年向けの授業が多かったんですが,2019年に入ってからは高学年向けの授業の依頼も増えてきました。
いろいろ試しながら,使用するアプリケーションも自分で開発
授業を行っていないときは,授業で使うアプリケーションの開発や修正を行っています。実際に自分が授業を行ってみて,うまくいかなかった部分や,「こうしたら,もっとわかりやすくなるのでは」と感じた部分を直していくことが多いです。ときには,学校の先生から「こういう内容を新たに加えてほしい」という要望が出ることもあります。また,もっとプログラミングに親しんでもらえるように,最近ではアニメ作品とのコラボレーションなども行っています。
もともと私はこの会社で,「アプリゼミ」という子ども向けの通信教育用アプリケーションを開発していました。2014年ごろ,「佐賀県の武雄市で子どもたちにタブレットを配布しているのだが,その端末で学べる低学年用のプログラミングの教材を探している」という話が会社に来たんです。それで,子ども向けのアプリケーション開発の経験があることから,私が教材の開発を担当することになりました。海外にはすでに子ども向けのプログラミング教育用アプリケーションがありましたが,日本では学校によって使用しているタブレットの性能やインターネットの接続環境などが違うため,そのままどの学校でも使えるものではありませんでした。そこで,アプリケーションを一からつくることにしたんです。当時,小学校1年生だった自分の子どもに使ってみてもらい,修正してはまた試して……ということを繰り返しながらつくり上げていきました。
授業と開発の両方を同時に進めていく難しさ
授業を行うのもおもしろいんですが,私自身も自分でプログラミングをするのが何よりも好きです。授業が忙しくなるとなかなか自分でプログラミングする時間がとれない,という悩みがあります。でも,アプリケーションの問題点を修正し,より良いものにするためには,実際に授業を受けている子どもたちの反応を見ることが一番大切なんですね。子どもたちは,私が予想もしなかったような操作をすることが多くあります。だから,どのようなことを考えて,どのように操作したのかを理解しなければなりません。操作の内容は,「ログ」という情報から調べることもできるのですが,「子どもたちがどこに納得していないのか」を確かめるためには,やはり自分自身の目で見るしかないのです。
また,2020年から小学校ではプログラミング教育が必修化されます。そのため,小学校からの授業の依頼は増えています。しかし,「プログラミングを授業に取り入れたいけれども,具体的な内容や専門的なことまではわからない」という先生も多いです。また,私たちも今あるカリキュラムを紹介することはできても,すべての学校で授業をすることはできません。だから,授業をサポートする人を育てるなど,今,必要なことを考えながら動いています。
子どもたちの表情が変わる瞬間はうれしい
授業を行うと,ほとんどの子どもから「やってよかった」「面白い」という反応が返ってきます。ゲーム感覚で学習できるようにつくってあるので,子どもたちも違和感なく,集中して取り組めるんですね。こちらの想像を超えるプログラムをすぐにつくり上げてしまう子どもも中にはいます。将来が楽しみだな,と思いますね。
子どもたちには,「プログラミング」を,「コンピュータに対してお願いすること」だと教えています。パソコンやタブレット,ゲーム機だけでなく,エアコンや電子レンジ,冷蔵庫など,私たちの身近にはコンピュータが組み込まれたものがたくさんあり,そのどれも勝手に動いているのではなく,実は誰かがプログラミングした通りに動いているんだよと説明するんです。すると,目の前にあるゲームみたいなプログラミングと,社会で役立っているプログラミングとがつながって,「あぁ,そういうことなんだ」ってわかってもらえるんですね。この瞬間,子どもたちの表情がぐっと変わります。これはすごくうれしいし,やりがいを感じますね。
また,最近では私のつくったアプリケーションを海外のユーザーも使い始めているようです。先日も,ブラジルのユーザーから評価のコメントをもらいました。地球の反対側でも使ってくれているんだと思うと,とても感慨深いですね。
「プログラミングの楽しさ」をいかにわかってもらえるか
アプリケーションを開発する上では,「プログラミングの楽しさ」をいかにわかってもらえるか,ということを大切にしています。ただ「こんな機能がそろっていればいいんでしょう?」という考え方でつくっておしまいにしてしまうと,使う人が納得できないものになってしまいます。「そうか,プログラムってこうやってできるんだ」と納得してもらえるような体験を提供するためには,どのような設計が良いのか考えなければなりません。それはすごく難しいことなので,日々いろいろと考え,試していく必要があります。
今の時代,プログラムに関わるのは私たちプログラマーだけでないですよね。どんな仕事でも,コンピュータがとても身近にあって,何かしらのプログラムが仕事に関わっています。だったら「プログラミングってこういうものだよ」ということを体験しておけば,直接自分がプログラミングをすることはなくても,コンピュータと仲良しになることができるし,コンピュータに対する苦手意識みたいなものもなくなります。今やっていることは,そういう「コンピュータやプログラミングをより親しく感じてもらう」ための活動だと思っています。
初めて自分で「円」を描いたときの驚きと喜び
最初にプログラミングに興味を持ったのは,大学生のときでした。自分の書いた命令どおりにコンピュータが動くことに「これはすごい」と思ったんです。一番印象に残っているのは,2年生のときの「プログラミングでグラフィックを描く」という授業でした。その中で「円」を描く課題があったのですが,そのプログラムをつくるためには,数学の知識が必要なんです。それが高校で学んだ「三角関数」だったんですね。「三角関数をここでこうやって使うのか!」と驚きましたし,すごく感動したんです。ただの円でしたが,あのときの感情は今でもはっきりと覚えています。
そこからプログラミングに興味を持ち,コンピュータ・サイエンスを学ぶための研究室に進みました。その後,携帯電話に組み込まれているブラウザとか,アプリケーションを動かすための仕組みをつくっている会社に10年ほど勤め,今の会社に転職してからはゲームエンジンという,ゲームをつくるための仕組みづくりなどに携わりました。
「好きなこと」を仕事にしてほしい
みなさんにお伝えしたいのは,「好きなことを仕事にするのはいいよ」ということと,「世の中にはいろいろな働き方があるよ」ということでしょうか。例えば私は今,そんなに時間にしばられることもなく,自分の働く時間はある程度,自分の判断で決めることができます。また,満員電車に乗ることもそんなにないですし,スーツを着る必要もありません。高校生くらいのときは「スーツを着て,毎日,満員電車で会社に通うような社会人になるのかな」と何となく想像していましたが,実際は想像とはずいぶんと違う生活をしています。しかも今は子どもたちを相手に授業を行っていますし,これはまったく想像していなかったですね。
もちろん仕事が忙しくなることはありますが,私はプログラミングが何よりも好きなので,あまり苦にならないんです。だから,ぜひみなさんも好きなことを見つけ,それを仕事にしてください。そのためにも,まずはいろいろなことにチャレンジしてほしいなと思います。