※このページに書いてある内容は取材日(2020年10月01日)時点のものです
「ものづくり」に関わる機械と工具を提供する会社
私は,あらゆるジャンルの「ものづくり」のための機械や工具を製造・販売する「シーフォース株式会社」の社長です。本社は東京都台東区にあります。シーフォースは多彩な品ぞろえが自慢で,三次元データをもとに樹脂や金属で立体を作る「3Dプリンター」や,彫刻や切断,溶接などの加工ができる「レーザー機器」,材料を削ったり磨いたりできる「超音波加工機」といった機械から,ハサミやピンセットなどの作業用工具までそろえています。
これらには,社内で開発・製造している自社製品と,海外から輸入している製品との2種類があります。また,こうした機械と工具を使った加工も行っていて,お客さまからの依頼で,キャラクターのフィギュアやトロフィーのほか,ときには格闘技のチャンピオンベルトなども作っているんですよ。
お客さまの層も幅広く,最新機器を開発している企業や大学の方,プロの造形作家さん,ものづくりを学んでいる学生さん,ネイルアートやアクセサリーづくりを楽しんでいる一般の方など,実にさまざまです。
2020年1月にオープンした,店舗と工房とを兼ねた本社ビルは,最新の加工機械を展示するショールームとプロ工具ショップ,職人に直接,相談ができる加工室のほか,自社製品の開発室や,写真や映像の撮影ができるスタジオまで完備しています。
このような会社で,私は社長として開発・製造を担当するほか,「お客さまや社員とよく話し,みんなが“楽しい”と思える会社にすること」を心がけて経営の仕事もしています。
自社製品のコンセプトは,「おぉ!」と驚かれるデザインであること
自社製品には,レーザー機器,超音波機器,メッキ装置などがあります。どの製品も,「こういう機械があったらいいな」という私のアイデアから開発がスタートしました。社員も私のアイデアを面白がってくれていて,「よし,みんなで作ろう!」と,とても前向きに取り組んでくれています。
設計図も,私が描きます。このときに意識しているのは,その機械を見た人や使った人に,「おぉ!こんな機械があるのか!」といった驚きと感動を与えられるかどうか,です。もちろん,機械ですから壊れないことや信頼性は大切ですが,それ以上に,「面白い機能が付いている」「外観がユニーク」などの,他社の機械にはないオリジナリティが重要だと思っています。
特にこだわっているのは,黒を基本にした色使いです。また,「かっこいいデザイン」であることも欠かせない要素で,例えばレーザー加工機は,一見,加工機だとはわからないデザインです。まるでオーディオ機器のような外見に仕上げました。「これ,加工機だよね?このデザインは今までなかったな,素敵だな」「ほかのメーカーより高かったけれど,このデザインが気に入ったから買ったんだよ」などとお客さまから言われると,うれしくなります。
開発・製造はすべて社内で行う
自社製品は,開発から製造まで,すべて社内で行っています。最初に自社製品の開発にチャレンジしたのは,2014年です。当時は私も含めて社員全員,開発に関する知識はまったくありませんでした。普通だったら「無理なんじゃないか」とあきらめてしまうところかもしれません。でも,やって無理なことというのは,実はあまりないんですよね。「わからなくても,とにかくやってみよう」「絶対にあきらめるなよ」と,最初は本を読んで独学で勉強することから始めました。その後,開発のメンバー全員で,産業技術の研究機関が主催する勉強会に通いつめたりもしました。
どんな機械でも,機器の目的が同じであれば,基本的な仕組みはほぼ同じです。わからなければ,既存の他社製品の中身を見てみて,「こういう仕組みなのか」「この基盤はなんだろう」「わかる人に聞いてみよう」というふうに,疑問に対して素直に立ち向かっていけば,必ず道は開けます。こういったことを積み重ねることで,さまざまなオリジナル製品を社内で開発することができたのです。
また,自分たちで開発し,製造しているため,調整や修理もすべて自社内で対応できます。中でもレーザー機器は,メーカーなどのお客さまの中でも,特に最新製品の試作品を作る部署からの需要が大きい製品です。それぞれのお客さまの要望に合わせてカスタマイズして作ったり,納品後のメンテナンスで細かく調整したりできるのも,シーフォースが信頼されている理由なのではないかと感じています。
好奇心から始まった,3Dプリンターの輸入販売
輸入製品の中でも売り上げが大きいのは,3Dプリンターです。今では一般的に使われるようになった3Dプリンターですが,私が最初の1台を輸入販売したのは,2005年のことでした。
「まずは1台,売ってみよう」という好奇心から,実際に見てもいない,1,000万円ほどもする高額の機械をイタリアから仕入れたのです。当時は小規模な会社だったので資金も少なく,注文するときにとても緊張したのを覚えています。
仕入れた後は,毎日,必死で営業しました。しかし,やっとのことで売れたものの,「使い道がありません」と返品されてしまったのです。それでも,また必死に営業して何とか販売することができました。無謀にも思えるチャレンジでしたが,この経験がなければ,今の会社はありません。このとき取り引きしたメーカーの3Dプリンターは,今では多くの業界で導入されています。シーフォースでも輸入を続けていて,会社の中で大きな売り上げを占める主力商品になりました。
アクセサリーの工場見学でめばえた,機械や工具への興味
高校卒業後,私はおしゃれなレストランで料理を作るシェフに憧れて,調理師の専門学校に入学したんです。そんな私が,機械や工具を扱う仕事に就くことになったのは,祖父が経営する金物屋でアルバイトをしたことがきっかけでした。当初は工具の面白さに気付けなかったのですが,あるとき職場の人から「ジュエリーを加工する工具を扱う仕事をしてみたら?」と勧められて,アクセサリーの工場を見学することになったんです。当時,ファッションに興味があった私は,とても乗り気でした。また,見学先の職人さんたちも親切に教えてくれて,一気に興味がわきました。
その後,自分でも工具屋をやってみたくなり,親の協力を得て,2000年1月に会社を設立しました。社名は,設立したのが辰年だったので,英語でタツノオトシゴを意味する「シーホース」からさらにひねりを加えて,「海の力」という意味の「シーフォース」と名付けました。設立当時は,興味のあったジュエリー関係の機器や工具を中心に販売をしていました。輸入機器の販売は,「ジュエリーの加工に必要な超音波の洗浄機がほしい」という私の思いつきから,韓国のメーカーと提携したのが出発点です。当時の私はまだ若く,怖いものはありませんでした。一人で韓国に行き,現地のメーカーに交渉に行ったのです。
社員全員が楽しいと思って働けば,会社は大きくなる
会社を続けて20年たった今,事業が広がり,社員も50人ほどに増えました。自社製品の種類も増え,世界の15か国から製品を輸入し,取り扱う工具も1万点以上にものぼっています。また,さまざまな加工に対応するための設備や技術も整いました。これらの原動力となったのは,「思いついたら,まずはやってみる」という精神です。
売り上げをのばすことができたのは,目先の売り上げよりも,会社が社員にとって居心地のよい場所になることを優先してきたからだと思います。シーフォースには,失敗しても怒る人はいませんし,売り上げよりも笑顔でいることを,いつも大事にしています。
単に売り上げをのばすのが目的であれば,努力して営業したり,よい製品を開発したりするなど,がんばれば達成できるでしょう。でも,いちばん効果的なのは,「働く社員全員が楽しく仕事できること」だと思います。これができていれば,間違いなく売り上げはのびると,私は信じています。
そのために心がけているのは,普段から社員と同じ目線でたくさん話すことと,自分ができないことを社員に要求しないことです。例えば,難しい仕事を担当している社員には,「この目標を達成するのは難しいかもしれないね。だから,一緒にやり方を考えようよ」というように話して,ともに考えていくようにしています。
「目立って,かっこいいから」と,中学生のときにマジック部を設立
子どものころから,友達はとても多かったと思います。考えてみたら,私には嫌いな人がいないんです。嫌いな人がいないから,嫌われることもないんですね。友達みんなのことが大好きだったので,自分から率先して声をかけていました。朝は必ず「おはよう」とあいさつする,何かしてもらったら「ありがとう」と言う,誕生日には「おめでとう」と言う。たったこれだけのことですが,きちんと実行していました。
好奇心旺盛で,行動力もあったと思います。例えば,中学2年生のときには,「手品をしていると目立つし,かっこいいから」という理由で,マジック部を設立しました。当時,新しく部活を作ろうと考える人はだれもいなくて,部活の作り方すらわかりませんでした。そこで,「どうやったら部活は作れるんですか?」と,校長先生に聞きに行ったんです。その中学校では何十年かぶりに新しい部活ができたとのことで,まわりからはとてもめずらしがられていたようです。文化祭ではみんなでマジックショーをやったりして,とても楽しかったですね。
友達が大事だという気持ちは今でも変わっていません。実は,シーフォースの社員の中にも,私の中学校と高校のときの同級生がいます。卒業後,久々に会ったときに,「手伝ってよ」と声をかけたのをきっかけに,そのまま20年近く一緒に仕事をしています。
毎日笑顔で,好奇心を持って,何にでもチャレンジしてみよう
日々,私が大切にしているのは,「笑顔でいる」「友達を大切にする」「好奇心を持つ」ことで,これらは小さいころから心がけています。どれも欠かせませんが,中でも好奇心については,浅く広くでもいいと思います。
私自身も,高校卒業後は調理師と美容師に憧れ,迷った末に調理師の専門学校に通いました。しかし,結局は「ものづくり」の工具や機械に興味がわき,学んだこととまったく違う分野に進みました。一見,一貫性がないように思えるかもしれませんが,いつも,そのときに自分が笑顔になれることを選択してきました。
これは今でも変わらず,最近は,ものづくりの楽しさを伝えるためのYouTube番組の配信に興味がわきました。そこでさっそく,「とみちゃんTV」というYouTubeチャンネルを作り,会社の撮影スタジオで撮影をすることにしました。テーマはそのときによって変わりますが,先日は,27インチの大画面のノートパソコンを自作し,その制作過程を紹介しました。設計から自分で考えましたが,われながらとてもかっこよく仕上がったと思います。こういった楽しみを見つけながら,笑顔で仕事をすることが,私のモットーです。
みなさんも,いつも笑顔でいてください。そして,やりたいことがあったら,仲間と一緒にいろいろなことに挑戦してほしいと思います。