※このページに書いてある内容は取材日(2021年06月14日)時点のものです
足腰にトラブルを抱える人を“救済”する
私は東京都中央区にある「フィートインデザイン」という会社で社長を務めています。フィートインデザインは,人々が抱えている足腰のトラブルを軽減するために,オーダーメイドの高機能インソール「フットオーソティクス」を製造・販売したり,足や靴に関するカウンセリングを行ったりしている会社です。
足腰のトラブルを引き起こす要因となっているのは,足の骨格構造のゆがみです。8割以上の人は,足の骨格が,本来あるべきポジションからずれてしまっていると言われています。足の骨格構造が正しい状態でない場合,足腰に痛みが発生したり,スポーツをするときに踏み切ったり飛び跳ねたりするような力も,最大限に発揮することができなかったりします。そもそもなぜゆがんでしまうのかというと,人間の骨格上,もともと土踏まずが弱い構造であることが一つの大きな原因です。さらに,機能性が低いシューズを選んでしまったり,自分の足のサイズに合っていない靴を選んでしまったり,間違った履き方をしてしまったりすることで,ゆがみがどんどん悪化していってしまうのです。
私たちが製造・販売しているフットオーソティクスは,生体力学(生物の構造や運動機能を探究して応用する学問)に基づいて設計された「足の補正健康用具」で,靴の底に入れて使用することで,足の骨格構造を本来あるべきポジションに補正する機能を持っています。その機能をきちんと発揮させるために,フットオーソティクスの正しい使い方や,靴の選び方,履き方をお客さまに伝えることも,私たちの大切な仕事です。
お客さま一人一人の足に合わせたフットオーソティクスをつくる
私たちのお客さまは,足や腰に痛みを感じている人をはじめ,身体パフォーマンスを向上させたいアスリートや,片足に障がいを持っていて歩行が不安定になりやすい人などさまざまです。私たちの仕事は,まず相談に来たお客さまの足の症状や悩みを把握するところから始まります。お客さまからは,具体的に「ここが痛い」や「痛みはないけど違和感がある」といった相談を受けることが多いですね。またアスリートのお客さまから「高く跳べない」「速く走れない」というように,パフォーマンスに関して相談されることもあります。
そうした足の症状や悩みをカウンセリングシートに記入してもらった後は,「足圧三次元計測機」という機械を使用して,足の測定を行います。立っているときや歩いているときに足のどこにどう力が入っているのか,歩いているときの足の重心はどのように動いているのかなどを計測し,解析します。そして,計測したデータをグラフや図で示しながら,お客さまに足の状態を丁寧に説明します。
その後,「仕事で革靴を履き,毎日歩き回る」「週末にスポーツをする」など,お客さまのライフスタイルをヒアリングしながら,適切なフットオーソティクスを選んで提案していきます。フットオーソティクスは3週間程度で完成し,最後にお客さまに商品を渡してから,使用方法や靴の選び方,履き方をレクチャーします。
アメリカから持ってきた最先端技術
仕事で苦労することは,フットオーソティクスを多くの人に知ってもらい,広めていくことです。フットオーソティクスや足圧三次元計測機は,足の医療において世界でも最先端を行くアメリカから技術を持ってきたもので,もともと日本にはありませんでした。また私たちが製造・販売をしているフットオーソティクスは,タイプによって異なりますが,値段が2万5000円から4万円弱と高価で,実際に使用してみないとその良さをなかなか実感しにくいものです。2006年にこの事業を始めてから数年間は,とても苦しい状況が続きました。
風向きが変わるきっかけになったのは,2013年にアメリカ式の足の専門医療を取り入れたクリニックが,日本に初めて開設されたことでした。日本初ということもあってテレビで何度も取り上げられ,しばらくは予約が取れなくなるほど全国から多くの患者さんが訪れました。日本ではこれまでも,足に悩みを抱える人は多くいましたが,痛みの原因を根本から治療することはなかなか困難なことでした。しかしこのクリニックができたことで,痛みの原因を根本から治すアメリカ式の足の医療の大切さが少しずつ理解されるようになっていったのです。そこからフットオーソティクスも少しずつ広まり,今では口コミや紹介からフィートインデザインを知ってもらうことも増えてきました。しかし,今後も周知活動は積極的に行っていく必要があると思っています。
お客さまの足腰の悩みを解消して喜ばれることに,やりがいを感じる
私がこの仕事をしていてよかったと感じるのは,お客さまから感謝されるときです。例えばフットオーソティクスを使用してくれたアスリートから「タイムが伸びて大会で優勝できました。本当にありがとうございます」といった感謝の言葉をもらえたときは,とてもうれしく思いますね。またこの仕事をしていると,お客さまにつられて,もらい泣きしてしまうことも多くあります。以前,歩くことが困難だった年配の女性のお客さまがいたのですが,その方が歩けるようになったときには,まずご本人が泣き,周りにいる家族や介護者も泣いて,それにつられて私も涙を流してしまったことがありました。足腰の悩みを抱える人を救うことができてお客さまに喜んでもらえたときは,この仕事の存在意義と大きなやりがいを感じます。
目の前にいるお客さまにいかに納得してもらえるか
私は普段から,目の前にいるお客さまはもちろん,そのお客さまの周りにいる家族やお友達のことも意識しながら,カウンセリングなどを行っています。なぜなら,私たちのところに来てくれたお客さまが,フィートインデザインで得た知識やフットオーソティクスのことを,自分の言葉で家族や友達に伝えて,どんどん広げていってほしいと考えているからです。そのためには,まずは目の前にいるお客さまにいかに理解や納得をしてもらえるかが大切になってきます。そのため,計測したデータや足の模型を使いながら,わかりやすく丁寧に説明することを心がけています。
足に関する悩みを抱えている人はまだまだ大勢いるので,その人たちに少しでも早く,正しいフットオーソティクスが届いてほしいと思いながら,日々,仕事をしています。
今の仕事に関わるきっかけをくれたのは,憧れていた先輩
もともとITのシステム開発に関わる仕事をしていた私が現在の仕事を始めたのは,小学校から憧れていた地元の先輩に誘われたことがきっかけでした。その先輩は今から30年ほど前にアメリカに渡って在宅医療(訪問看護)を営む過程で足の専門医との出会いがあり,アメリカと日本の「足の医療格差」を強く感じたそうです。そこで彼が2000年ごろから始めたのが,「日本の足を救う」ための活動です。
その活動の一つが,主に糖尿病患者の足の切断回避を目的としたプロジェクトです。糖尿病患者は,血流障害を伴う場合が多いため傷が治りにくく,足にできる魚の目やタコ,ちょっとした靴ずれの傷などから感染症を引き起こして足の切断を余儀なくされるケースがあります。アメリカの足の医療は,そんな糖尿病患者を救うための,傷を治す技術やノウハウを持っていて,プロジェクトではそれらの技術やノウハウを取り入れて,日本の病院に広めていきました。先輩から声をかけられて私も手伝うことになり,切断回避プロジェクトを行う日本の約20の病院で,患者さんの足の傷の容態や治療方法,治癒率,切断回避率などのさまざまな情報を集めて,データベースの作成のお手伝いをしました。
その後,2006年に先輩がアメリカからフットオーソティクスや足圧三次元計測機の技術を持ち帰ってきたことで,活動の幅はさらに広がり,現在のフィートインデザインの事業がスタートしました。そして,先輩が経営している会社の中にあったフィートインデザインの事業部を,私が引き継いで新しい会社として立ち上げ,今に至っています。
さまざまなスポーツを経験してきた
私は子どものころからスポーツをすることが好きでした。小学生のときには父親の影響で近所の道場に通って柔道をしたり,毎日のように野球やドッジボールをしたりしていました。中高生になってからはバスケットボールに打ちこんでいましたが,なかでも中学校のバスケットボール部はとても厳しく,印象に残っています。一年生のときにはスクワット・空気イス・走りこみの3つを延々とやらされて,体育館にすら入らせてもらえないほどでしたね。しかしその経験のおかげで,精神力や忍耐力がついたのではないかと思っています。また,さまざまなスポーツを経験したことで,スポーツをするときの体の使い方が理解できたことは,アスリートのお客さまと関わる機会が多い今の仕事でも大いに生かされていると思います。
たくさんのもの・人・情報に触れながら志や夢を見つけてほしい
みなさんにはぜひ,志や夢を見つけてほしいなと思います。それを見つけるためには,興味があるかないかに関わらず,まずはとにかく「触れる」ことが大切です。さまざまなものや人,情報に触れてみることで,自分が打ちこめることや,熱を持って取り組めることが見つかるはずです。それは勉強でもスポーツでもどんなことでもいいと思います。そして,その見つけた志や夢が,将来的に仕事として何か社会の役に立つものであれば,さらにいいなと思いますね。
また,大人の足の構造へと変化していく時期のみなさんにとって,正しい靴選びや履き方が非常に大切だということも伝えたいです。自分の足にぴったり合ったサイズの靴を選び,かかとを踏んだりゆるく履いたりすることなく,正しく靴を履いてくださいね。そして,足の歪みを直すための「フットオーソティクス」というものがあるんだということも,知っておいてもらえるとうれしいです。